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ある晴れた日に

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77部分:優しい魂よその十二


優しい魂よその十二

「あっ中森さんそれはそっち」
「佐々君バケツ頼むね」
「わかったわ」
「あいよ」
 言われた凛と佐々がすぐに応える。二人の動きもわかったものだった。
「こっちね」
「もう一個持って来たぜ、バケツ」
「あっ、有り難う」
「これは御前が持つんだよな」
 佐々は二つ持って来たバケツの一個を加藤に差し出しつつ尋ねた。
「そう思って持って来たんだけれどよ」
「うん、そのつもり」
 加藤の方でも頷いてそれを認める。
「そうなんだよ。よくわかったね」
わかるさ、こんなのすぐによ」
 にやりと笑って返す佐々だった。
「流れってやつでな」
「流れでなんだ」
「御前もうそんなに持ってるじゃねえか」
 加藤が手に持っているその花火の束を指差して言ってきた。
「花火な。だったらって思ってな」
「成程ね」
「ドンピシャだろ」
 あらためて加藤に言ってきた。
「そこんところどうなんだ?」
「その通りだよ」
 そして加藤の方でもそれを認めて頷くのだった。
「だから。是非共ね」
「ああ、ほら」
 佐々は彼の前にそのバケツを置いた。暗がりの中で青いバケツの中に冷たい水が入っているのがわかる。地面に置かれた時に水の音が聞こえた。
「使いなよ」
「有り難う」
「それでだ」
 加藤にバケツを渡し終えた佐々はあらためて周囲を見回した。そのうえで言った。
「おい音橋」
「何だよ」
 正道に声をかけると彼の方からも返事が返って来た。
「やることはやってるつもりだぜ」
「そういやそうだな」
「そうだなって何だよ」
 佐々が意外といった言葉を出してきたのでまた返す正道だった。
「まるで俺が何もしねえみたいだな、それだと」
「そう見えるけれどな」
 身も蓋もない言葉であった。
「実際な」
「何でそう見えるんだよ」
「自分の背中見てみろ」
 正道の背中を指差して言ってきた。
「それで言えるか?」
「あん!?」
「御前の背中のギターだよ」
 またそのことを言うのであった。
「そんなの背負ってよ。できるのかよ」
「できるかどうかって言われるとな」
「普通はできないって思うよな」
 佐々の言いたいことはこのことだったのだ。
「それでも一応はやってるからな」
「やることはやらないとな」
 正道自身の言葉も一応は真面目なものであった。
「駄目だろ、やっぱり」
「まあそうだけれどな」
「野本とか柳本だって真面目にやってるしよ」
「おい、また俺かよ」
「咲こういうのは真面目にやる主義だけれど」
 その野本と咲が正道の言葉に不満そうに顔をあげてきた。見れば二人は丁寧に花火を拾っていた。咲の言葉通り意外と真面目である。
「俺だって掃除位真面目にやるぞ」
「これしないとやっぱり駄目でしょ」
「この連中がこう言う方がかなり意外じゃねえのか?正直」
「まあ特に柳本はな」
「何で特に咲なのよ」
「だっておめえお嬢様じゃねえか」
 佐々が言うのはそこであった。
「お嬢様って掃除とかそういうの自分ではあまりしねえだろ」
「ああ、そういえばそうよね」
 佐々のその言葉に頷いたのは茜だった。
「咲っていいところのお嬢様なのにね」
「何でさっきの食器洗いといい今の掃除といい真面目なんだよ」
「それも結構丁寧だし」
「パパとママにいつも言われてたから」
 ここで両親のことを話に出す咲だった。
 
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