ある晴れた日に
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76部分:優しい魂よその十一
優しい魂よその十一
「どう?」
「ああ、悪いな」
「サンキュ」
皆それを受け取る。彼女は花火を右手に、それとその飴を舐めながら正道に対してまた言う。
「何か変なリズムで。何て曲よ」
「あれか?コミックソングだよ」
「何、それ」
思わず正道に問い返す。
「はじめて聞いたジャンルだけれど」
「あれだよ。ほら、チェッカーズとかな」
「古いね、また」
竹山がすぐに今のグループ名に突っ込みを入れた。
「確かに凄いグループだったけれど」
「チェッカーズのよさがわかってるのならいいさ。それでだよ」
「うん」
「それで?」
「チェッカーズのな、ダチョウがどうしたって歌あっただろ?」
「うわ、凄い懐かしいっていうか」
「うち等生まれてねえじゃねえかよ、その時」
明日夢と春華がすぐに言ってきた。
「まあな。とにかく」
「とにかく?」
「どうしたんだよ」
「それだよ」
また二人に対して言ってきたのだった。
「それなんだよ」
「コミックソングだってこと?」
「そう、それだよ」
「あんな感じの歌なの」
「それでいいよな」
あらためて今度は二人だけではなく全員に対して向ける。
「そういう曲で。どうなんだよ」
「ああ、いいぜ」
「じゃあそれでな」
そしてその問いにこう応える皆だった。
「頼むな」
「期待はしてないけれどね」
「期待してねえのかよ」
彼にとってはいささか以上に不愉快なことであった。
「そこで期待してるって言えよ。お世辞でもよ」
「じゃあ期待してるぜ」
「凄くね」
実にわざとらしくかつ気の抜けた返事であった。
「これでいいよな」
「満足した?」
「それで満足する奴がいると思ってるのかよ」
皆に対してまた言葉を返す。
「っていうか全然感情もこもってねえじゃねえかよ」
「けれど言ったぜ」
「これでいいのよね」
皆のつれない返事が続く。
「期待しているってな」
「だったらいいじゃない」
「ちぇっ、じゃあもういいさ」
いい加減正道も諦めることにした。勿論クラスメイト同士だからできるやり取りだった。その証拠に正道はギターを構えていた。
「じゃあ行くぜ」
「ああ。それじゃあな」
「御願いするわ」
こうして正道のギターがはじまった。軽快かつ明るい音楽が場を覆っていく。その中でまた花火を楽しむ。終わった時にはもういい時間だった。
「じゃあ後はね」
「はい」
「花火をバケツの中に入れて」
先生達が皆に言っていた。
「あとこの場全体にお水も撒いてね」
「お水もですか」
「そうよ。念の為よ」
田淵先生が皆に話していた。
「火事になったら大変でしょ」
「確かに」
「そうしたらキャンプどころじゃないし」
言うまでもない自明の理であった。
「だからなんですか」
「水は」
「そうよ。わかったわね」
「はい、それじゃあ」
「花火は全部バケツの中に入れて」
一旦決まってしまえば話の展開は早いものだった。
「お水撒いてね、お水」
「懐中電灯何処だよ」
落ちている花火を探すのに懐中電灯まで出された。
「ああ、それだよそれ」
「もっとないか?」
それぞれ活発に動きだしていた。
「懐中電灯。何個かあるだろ」
「ホースもあるよな」
「ああ、こっちな」
「バケツも持って来たわよ」
一年G組の面々も実に動きがいい。見てみると加藤と千佳が的確に皆に指示を出していた。どうやらそのおかげであるらしい。
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