ある晴れた日に
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724部分:清き若者来るならばその十
清き若者来るならばその十
「コスモスもいいがな」
「あれっ!?」
「コスモスだけじゃないの?」
「まさか」
「今は冬だ」
クリスマスは冬にあるものだ。これは日本ならば絶対のことだ。
「だから冬の花を見ないか」
「冬の花をなの」
「それを」
「そうだ。それを見に行かないか」
こう皆に言うのである。
「今から」
「それもそうだね」
「確かに」
皆彼のその言葉に頷いた。それぞれ納得する顔になっている。
「冬には冬の花」
「季節の花」
「それがやっぱりいいよな」
「けれどよ」
しかしここで咲が首を傾げてだ。こう言うのである。
「冬の花なんてあるの?」
「ああ、そうだよな」
「そうよね」
「冬って草木が枯れるのに」
そういう季節でもある。だから冬はかつては死の季節とされていたのである。ありとあらゆるものが凍ってしまい枯れてしまうからである。
だからだ。ここで彼等も心配な顔になった。果たしてそういうものがあるかどうか不安になってきたからである。冬の花というものがだ。
「そんな花があればいいけれど」
「何か知ってるか?」
「いや、それは」
「ちょっと」
皆口ごもってしまった。どうしてもである。
「あるのかな、そんなの」
「ないんじゃ」
「だよねえ、冬の花なんて」
「そんなのは」
「いや、ある」86
だがここで正道は言った。
「冬の花はある」
「あるの」
「冬にも花が」
「今から行こう」
そしてまた一同を誘うのだった。
「未晴にそれを見てもらおう」
「よし、わかった」
「それじゃあね」
皆彼のその言葉を受けた。それでもう言うことはなかった。
「じゃあその花な」
「未晴に見せよう」
「それで」
「冬の花か。これはまた」
「そうですね」
医者と看護婦は今の彼の言葉を聞いてだ。目をしばたかせて神妙な、それでいて驚くような。そうした顔になるのだった。
そうしてである。正道はまた皆に言ってきた。
「それじゃあ今からだ」
「そこに行くんだな」
「わかったわ」
「じゃあそこにな」
「行きましょう」
皆あらためて正道の言葉に頷いた。そのうえで彼の先導を受けてその場所に向かう。そこは秋の場所よりも涼しげだった。そこに来たのである。
そしてそこにあったのは。薔薇だった。だがそう見えたのは一瞬でよく見れば違っていた。薔薇に似た白い花がそこに咲いていたのである。
「この花って何?」
「薔薇に似てるけれど」
「これ何だ?」
「クリスマスローズだ」
正道が皆に話した。
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