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戦国異伝供書

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第五十四話 上洛その六

「今宵のことは朝倉殿に深くお礼を言いましょう」
「それは忘れてはなりませんな」
 宇佐美のその通りだと答えた。
「礼として」
「はい、ですから」
「朝倉殿へのお礼も」
「明日の朝にわたくしが文を書きます」
 朝倉家への礼のそれをというのだ。
「朝倉殿へのお礼として」
「そうされますか」
「これだけのおもてなしを受けたのですから」
「そうですか」
「はい、そして」
 政虎はさらに言った、その間は飲んでいない。杯は手にしているがそれでも口に付けてはいない。
「そのうえで」
「さらに進まれますな」
「そうします、しかしこの魚は」
 その刺身についても言及した。
「鯛ですね」
「左様です」
「越前の鯛です」
「これは」
「実に美味いです」
 こう言うのだった。
「まことに」
「どうも宗滴殿がです」
「我等にですか」
「是非よい鯛をと」
 その様にというのだ。
「朝倉殿に頼まれたとか」
「そうでしたか」
「あの方は朝倉家の長老でもあられます」
 そして武を司る者だ、家の主ではないが主を後見する立場でもありその発言力は絶大なものがあるのだ。
 だからだ、宗滴が言えばなのだ。
「ですから」
「この鯛も」
「我等が口にしています」
「それも何匹もありますね」
「はい、多くの鯛を獲り」
 越前の海でそうしてというのだ。
「この宿に馬を走らせて届け」
「すぐに捌いたのですね」
「多くの鯛からあえて選び」
 その鯛をというのだ。
「そうしたものです」
「宗滴殿のお気遣いですね」
「まさに、そして」
「我等はですね」
「そのご好意を受けましょう、そしてお礼も」
 政虎はここで律儀さを出してこうも言った。
「しましょう」
「それでは」
「宗滴殿は茶の道も嗜んでおられるとか」
 このことでも評判になっている、上方やそれに近い地域では茶が武士の間で広まろうとしているのだ。
「何でも」
「駿河の雪斎殿もでしたね」
 兼続が彼の話も出した。
「確か」
「よい茶器を持たれていて」
「茶の道に親しまれていて」
「今川殿ともですね」
「共に楽しまれているとか」
「あの方ならばそうでしょう」
 駿河一の学識と教養の持ち主である雪斎ならというのだ。
「茶の道にもです」
「親しまれていて」
「よい茶器を持たれていましょう、ではです」
「宗滴殿には」
「お礼としてです」
「茶器をですか」
「近江か都で買い」
 そうしてというのだ。 
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