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ある晴れた日に

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700部分:呪わしき美貌その十二


呪わしき美貌その十二

「警察は証拠がないと動けないからね」
「まあ証拠なしに動く警察なんて」
「どれだけ怖いか」
 それこそが独裁国家の秘密警察である。ゲシュタポにしろKGBにしろである。疑わしいと思ったその時点で令状なしに捕らえて拷問し虐殺していたのである。
「それを考えたらいいけれど」
「それでも」
「だからね」
 竹山はまた話した。
「証拠さえあればいいから」
「今からあいつの部屋に来てもらうのか?」
「それで」
「それは後でいいよ」
 それはだというのである。
「今はね」
「そうだね。あいつの部屋の最寄の駅に来た時でいいね」
 恵美はここで竹山の話を理解して述べた。
「それでね」
「うん、交番に言ってお巡りさんを呼べばいいから」
 竹山は彼女のその言葉に応えて頷いた。
「それでね」
「じゃあそれで」
「行くんだな」
「すぐに行こう」
 急ぐことには変わりがなかった。
「これからね」
「よし、それなら」
「今から」
 こうしてであった。それぞれ向かう。誰もがその場所に向かおうとしていた。
 しかしである。それにあたってだ。皆息を切らして走りながら駅に向かって。その中で咲が言うのだった。
「咲お金あるわよ」
「お金?」
「金がかよ」
「だからそれでタクシーを拾って」
 走りながらこう皆に話すのである。
「それであいつのアパートに行かない?その方が速くない?」
「いや、この場合は電車の方が速いよ」
 しかしここで竹山が言ってきた。彼が一番汗をかいている。やはり運動は苦手だった。
「今はね」
「そうなの?」
「だってね。今はクリスマスじゃない」
 まずはもう言うまでもないことから話すのだった。
「車は多いし」
「確かに」
「そういえば」
 皆彼の言葉を聞いて自分達が今走っている歩道の横に広がっている車道を見る。そこの車の量は普段よりもずっと多かった。
「年末ってこともあるし」
「だからタクシーは駄目だってのかよ」
「混むからね。それに」
 隣にいて問うてきた野本に対してさらに話す。
「タクシーに乗れる人間は限られてるし」
「四人か五人が精々だよな」
「この人数だったら何台も必要だよ」
 竹山はその現実も話すのだった。
「だからね」
「タクシーは駄目か」
「トラック一台借りてそのまま行っても電車の方が速いよ」
「そうなの」
 咲は彼の話を聞いて少し残念そうだったがそれでも納得して頷いた。
「それじゃあ」
「うん、電車で行こう」
 それであった。尚プレゼントは皆病室に残った晴美に預けた。ただし正道はその背にいつも通りギターをケースに入れて背負っている。
「今からね」
「わかったぜ、電車でな」
「行きましょう」
 こう言い合ってであった。まずは駅に駆け込んだ。そうして吉見のマンションがある場所の最寄の駅にまで向かうのであった。
 その中でだ。野茂と坂上が話をしていた。電車の中で立ちながら肩で息をしている。
「前に調べておいてよかったな」
「そうだな」
「何時かとっ捕まえてやろうって思って調べておいてな」
「よかったな」
「そうだね」 
 桐生が二人のその言葉に頷く。皆ドアのところに集まって立っている。その中で話していた。
「こうした時にすぐに動けるからね」
「じゃあ行くか」
「すぐに」
「一気に」
 窓の外を見る。電車の窓から街並みが見える。しかしそれは今の彼等の目には入らなかった。
「まだか?」
「まだ着かないの?」
「あいつの場所に」
「焦るな」
 正道がまんじりともせず述べた。
「これは」
「そうね。ここは」
「本当に」
 それは誰もが同じだった。焦る顔でそれぞれそこに立っていた。
「着いたらまずは」
「交番だよな」
「そこでお巡りさんに来てもらって」
「それを最初にしよう」
 高山も額の汗をまだ拭きながら皆に言っていた。
「それでね。それから」
「未晴を助けに」
「あいつの家に」
「ただ」
 しかしここでまた言う竹山だった。
「気をつけないといけないのは」
「気をつける?」
「何を?」
「僕達が法律を犯してはいけないよ」
 彼が言うのはこのことだった。
「それはね。多分この調子だと向こうより早く辿り着けるし」
 これは彼の頭の中での読みだった。未晴のベッドはまだ温かかった。つまり連れ去られてすぐだ。しかも車椅子で電車とは連れ去るにあたって目立つ。ばれる恐れがある。それなら車を使って連れ去った筈だ。それはタクシーの件で指摘した通り思ったより時間がかかる。それならである。
「だからね」
「先回りね」
「だったら」
「行こうか」
 皆で言い合ってであった。そのうえで今駅に着いた。そこをすぐに降りて。彼等は運命の場所に向かった。クリスマスは恐ろしい一日になろうとしていた。


呪わしき美貌   完


                2010・1・28
 
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