デート・ア・ライブ~Hakenkreuz~
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第二十話「囁き」
「答えて、貴方は精霊?」
天宮市のとある商店街。その裏路地に位置する場所で彼女は俗に言う壁ドンをされていた。
尤も、女性があこがれるであろう壁ドンではなく同じ年頃の女性に睨まれた状態という逃げ場を無くすための壁ドンであった。
その対象になっている彼女は目の前の女性の行動に困惑と恐怖を感じている、様に見せかけて頭の中でこの状況の打開案を考えていた。
しかし、彼女が知る通りなら逃げる事は不可能に近くなおかつ精霊の力を使わない限り今この場を切り抜ける事は不可能に近かった。
何故、こうなってしまったのか?
彼女は目の前の女性、鳶一折紙を見ながら内心そう思うのだった。
彼女が全てを思い出して早二日が経過した。その間彼女は誘宵美亜として過ごしていた。理由としては二つあり一つ目は誘宵美九が精霊であるため今雲隠れしたら追いかけてくる可能性があるためである。この二日間の間で分かった事だが美九の彼女に対する執着はかなり強くそれまで美九のお気に入りだったであろう少女たちとの戯れを全て彼女に回すほどだった。
故に今彼女が美九の前から姿を消したら彼女は天使を使って探す可能性があった。そうなれば余計な混乱が発生し目的から遠のく可能性がある。
これ以上のロスは好ましくない。彼女はそう考え美九のお気に入りで暫くはいる事にした。
とは言え四六時中引っ付かれても困るため様々な方法で自由に使える時間を勝ち取っていた。しかし、その代償としてそれ以外の時間は美九が隣にいて迂闊な行動が出来ないようになってしまっていたが。
そして二つ目の理由は学校に通うと言う行動に対する憧れだった。それは彼女の生い立ちのせいであるが彼女は全くそれに気づいていなかった。
そんな彼女は今天宮市の商店街に来ていた。理由は特になく美九から離れるために来ていた。しかし、今回はその行動が不味かった。
「っ!貴方は…!」
偶然彼女の目の前に見知った顔があった。珍しい白髪の女性、鳶一折紙は彼女の姿を見て固まった。既に屋上の時の傷は癒えている様で見た限りでは傷跡は無かった。
「こっちに来て」
「え?」
どうしたものかと一瞬の思考の後に彼女の体は引っ張られる。右手は折紙の左手ががっちりと握っており決して逃がさないと言う意志を感じさせた。そうしている内に彼女は商店街の裏路地に引きづり込まれ壁を背に壁ドンをされてしまう。
「答えて、貴方は精霊?」
折紙の口調は疑問形だが瞳には否定は許さないと言う意志が浮かんでいた。しかし、彼女はASTであり精霊を狩る者だ。もし彼女がここでイエスと言えば即座に殲滅対象として攻撃を受ける事になるだろう。
「えっと、何の事ですか?」
「誤魔化さないで」
取り合えず彼女は誤魔化してみるが折紙はばっさりと一考もせずに切り捨てる。この事から彼女は完全に自分の正体を知ったうえで接触していると考える。そして目の前の折紙にばれないように周囲の気配を探る。
「(…周囲に仲間と思われる人物はいない。となると偶然会っただけか)…精霊ってなんのことか分からないけどいい加減どいてもらえますか?」
「嘘をつかないで。貴方は約一週間前来禅高校の屋上で暴れた。それにその二日前にはナイトメアを殺した現場を遠くから見ていた」
彼女は再び知らないふりをする。しかし、そんな事ないとばかりに彼女に関する情報を喋る。その様子は何処かストーカーの如き様相を見せていたが彼女はよく見ているな、と内心感心していた。
「やっぱり何の事か分かりませんね。これ以上は警察を呼びますよ?」
「…」
流石に商店街の裏路地とは言え暴れる訳に行かないようで折紙は彼女の強気な行動に悔しそうな顔をしながら手を壁から離し彼女を開放する。彼女は折紙を一瞥だけすると表通りへと歩いていく。折紙は後ろをついてくる様子はなくただ彼女の背を見るのみだった。
「(間違いない。彼女は【SS】…!)」
折紙は自身に背を向けて歩いていく女性、【SS】を睨みつける。今回は偶然出会ったためCR-ユニットは持っておらず本部に連絡する前に行動していた。その為彼女を追い込むには圧倒的に決め手に欠け彼女に自分が疑われている、と言う情報を与える結果に終わってしまった。
「(…次こそは必ず…!)」
折紙は精霊への憎しみを募らせながら心の中で決意を新たにしていた。
「…その願い、叶えてあげましょうか?」
瞬間、折紙は前方に大きく飛ぶように前に出た。咄嗟の事であり狭い路地裏で大きく動いたため折紙は裏路地の壁に体を大きくぶつけてしまう。
「おやおや、大丈夫ですか?ここは狭いですしあまり激しい行動はお勧めしませんよ?」
折紙の目の前にはスーツを着込みネクタイをきっちりと閉めたサラリーマン風の男が立っていた。男の物腰は柔らかであるが折紙はその年に似合わない戦闘経験から目の前の男がただ者ではないと感じていた。故に折紙は何時でも行動できるように背を丸め、
「精霊を簡単に殺せる方法、私知っていますよ」
男から発せられた言葉に体は硬直した。精霊を殺す。CR-ユニットと言った奇跡の力をもってしても殺すどころか傷すらつけられない精霊。その精霊を簡単に殺せると言う言葉は折紙にとって天からのメッセージの如きであった。
「無論、説明はしますし命に危険はありません。ただ、それは特殊な方法と言うだけですので」
男は折紙に近づき彼女の耳のそばに顔を持っちくと口角を上げ囁いた。
「どうです?話だけでも聞きませんか?」
男の言葉に折紙はただ頷くのみだった。
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