魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第52話 幼くなったのは体だけ?
――sideフェイト――
「ふ……くっ……ふふふ!」
お店の奥でキャディ店長が必死に笑わないように堪えて下さってるけど、あまり出来てない。
「頑張ったね響? 噛まなくてよかったよ?」
[申し訳有りません主……もっと変身魔法……ボイスチェンジャーの調整をなんとかします]
……色々言いたいことはある。花霞は悪くないし、分かってる……。
そんな声が今にも聞こえてきそうなくらい、涙目になって、口を一文字に閉じて、プルプルと震えて堪えてる。
通信自体は上手く行った。基本的に私が受け答えしてたし……それ以前に私から掛けた訳だしね。
響は聞かれた時だけ対応してたんだけど。
正直あまり声の変換が上手く行ってなかった。声変わりした男性と、声変わり所か、幼い女の子の声では天地の差があった。
花霞……いや、響自身が変身魔法を使うわけもなく、花霞もそれに合わせて、その魔法を導入してなかった関係もあって、普通の男性の声なら、響の声としてボイスチェンジャーが働くのに対し、今の響では、声が高すぎて違和感しかなかった。
所々上ずってたし、舌が回りきらなくて、所々噛みそうに成っていたしで大変そうだった。
見ていて面白かったよ。なんて言おうものなら、間違いなく怒る。
……見ていて思うのが、幼くなって感情を隠せなくなったせいで、いろんな響が見れるということだ。
ふと思い出す。響達の周辺を調べたときの事を。
地理上では、海鳴と山を挟んで隣の町の桜庭出身の7月7日生まれの18歳。
お母さんは緋凰琴歌さん。享年28歳。しかし、何処で生まれ、何処から来たかそれは記載されていなかった。
でも不思議な一致があった。コトカという名前に二振りの刀、暁の牙に、晩の爪を携えた騎士が、昔のベルカにも居たということ。
その上、響のお母さんが使っていたと言われるアームドデバイスの刀の名称はそれぞれ、暁鐘、晩鐘と名前も見た目も一致してしまった。
こんな偶然があるんだろうか? その上響には本人も分かっていない謎がある。
ホテル・アグスタの血痕。あれをこぼしたのは響ではなく、更に調査を進めていった結果、日本人の血と、ありえない発見があった。
それは古代ベルカ時代から続く血統の一つと酷似してしまったこと。
これは流石に言えなくて、調べてもらったシャマルと秘密にしているけど……正直まずい。
よりにもよってという血統で、確か少し前に教会が慌てていたのを思い出す。
幸い親交がある人が面倒を見ることに落ち着いたけど。
そういう事を含めれば……。
「花霞もおかしいってんなら、おかしいって言えよ! 色々感情ごっちゃになって、あれでこうなのに!」
[そんな事ありません! 大丈夫ですから!]
……それ所じゃなかった。
このタイミングでの自分と私の離脱に、流への辞令。しかも私達は前例があるとは言え、ちゃんと戻れるか分からない。
そして、流達もちゃんと帰ってこれるかわからない状態で送り出したという不甲斐なさ。
幼くなって感情暴走して……あ、泣く。
「ほんっ……とは、なん、か、嫌な、予……感がするから、ちゃんと……見送って。うぇぇ……」
慌てて側に行って手を握れば。ボロボロと涙を流して。
「……リュウキ、が……居なく、なったときと、同じで……嫌だ。
ほんとは、もっと、言ってあげたかった。ちゃんと帰ってこいと」
少しずつ落ち着いてきたのか、ちゃんと話せるようになってきた。
……妙だと思うのが、こんなに幼かったかな? という疑問。
女の子になったから? 幼くなったから?
いや、これは……。
「あー……恥ずかし、泣いたらスッキリした。顔洗ってきます」
すん、と鼻を鳴らしながら洗面台へと向かっていくのを見送って。
「……あんなだっけ?」
[……私もまだ付き合いは浅いので何とも。感情の振れ幅は凄いですけれど]
……ここに居ない響の親友達を思い出す。
もしかすると、今の響の状態を察してあげられるのかな?
……まだまだ分からない事多いなぁ。
――――
――side響――
小さい頃の夢を見た。まだ、あいつらに合う前の夢を。爺ちゃんが居なくなった時の夢を。
まだ幼かったからとは言え、それでも爺ちゃんが居なくなったのは幼心に効いた。
老衰で亡くなるならきっとまだ、心の用意が出来たかもしれない。だけど、爺ちゃんもまた突然亡くなった。
昨日まで居た人が居なくなった事を経験したのが初めてだったとは言え。何時も爺ちゃんの部屋に行っては探してた。母さんの後を着いてけば居るんじゃないかって追いかけては、爺ちゃんは何処?って聞いて困らせて。勝手に泣いてたなぁって。
母さんも辛かっただろうに、ただ大きな声をあげて、大粒の涙を零して、溢れる涙も拭いもしないで、ただ泣いてた。爺ちゃんが居なくなったってわかったから。もう会えないってわかったから。
そんな俺を母さんはずっと抱きしめてくれてたんだよな。
――――
「……ぅあ?」
意識が戻り、重い目を開ける前に枕元に置いてる時計に手を伸ばそうとするけれど、手が動かない。
その代わり……ではないけれど、顔に暖かくて柔らかいものが当たっているのが分かるそのまま身を委ねていると再び意識を手放しそうになるけれど。ぐっと堪える。
起きて髪縛ったり色々しないといけないし、昨日の晩から流と震離が行ったから、ここからでもなにか出来ないか考えないと……。それにどうにかして戻らないと。数日の間とは言え少し大変になる。そもそもトイレに凄く行きたい。
……だけど、そもそも何故体が動かないのか分からない。眠いのをこらえて目を開ける。けど何も見えない。
いや、正確にはうっすらと見えるけど、何かがある。顔を少し動かすと目の前にあるものが柔らかくて暖かいものだというのがよく分かる。
意識がハッキリしてきた。布団の中に居ることは分かってるけれど……何かに抱きしめられているのが分かる。背中に当たる何かと、後頭部を撫でる何か。
……? 撫でる?
状況が分からなくて、頭を少し下げて全貌を見ようとするけれど、直ぐに頭を抑えられて元いた場所に頭を戻される。
……待てよ、昨日のことを思い出せ俺。たしか俺は……そうか、昨日沢山泣いて、顔洗ってそのまま寝たんだっけ……。
その後は……、ダメだ思い出せん。でも布団の中にいるなら部屋には帰ってきてる……? いや、そもそも隊舎に戻れて無いから、俺の部屋じゃない。それどころか凄くいい匂いだし……。
……少し待て。懐かしい夢を見た事を考えてもそうだ。何であの時の夢を思い出したか?
まさか、と考えて、顔をあげて上を向くと。
「……すぅ、すぅ」
「……ぁ」
瞬間的に体が熱くなるのがわかった。多分きっと、恥ずかしさで、全身真っ赤なんだろうな……。
それを理解した瞬間、再び意識が落ちた。
――――
「まぁ、女の子の体ってあんまり長いこと保たないし。あ、ほら、仕方ないよ子供なんだし!」
「……いえ、あの。ごめんなさい」
「だって女の子初心者だしね。あんまり気にしないで? ね?」
2人揃って頭を下げる。人様のお家で粗相とか、恥とかそういう話じゃなく、全力でキャディ店長に頭を下げております。別に大丈夫と言っているし、有り難い対応なのは分かる。だけど現在の問題は。
「……まぁ、絶対に誰にも言わないから安心して、ね?」
「はい……でも、あの。元はと言えば抱きしめられて無ければ問題なかったんですけど。何で抱いて寝てたんですか……」
「……抱き心地が良くて、つい。ね?」
感極まって泣きそうになる。実際堪えてるのに目元に涙が溜まってるし。お陰でフェイトさんを直視出来ないし、色々迷惑かけてしまったし。
キャディ店長にも申し訳ない。
何を洗ってるかは察してくれると有り難い。
で、その上で、現在俺が着てるのは、このお店の、昨日来ていたメイド服に、カチューシャをつけてる。髪は面倒だからとりあえず下ろしてる。相変わらずスカートが慣れなくて足元がスースーするけど、この期間だけだからもう我慢する。
キャディ店長のお願いは出来る限り聞くようにしよう。いろんな迷惑掛けてしまったしね……。
「ねぇ響?」
「……はぁい? なんですかー?」
バサバサと洗濯し終わったシーツを頑張って……あ、駄目だ。背が足りねぇ。なんて考えてたら、後ろからフェイトさんが手を伸ばして干してくれた。
「はい、いいよ」
「……ありがとうございます。で、何でしょう?」
「この前聞けなかった、震離達と出会ったことを聞かせてほしいな?」
ニコーっとフェイトさんは笑ってるけれど……。
「え、ヤですよ」
「……えっ?」
わー……フェイトさん固まったー。でもなー。
「唯でさえ恥ずかしい状態で、これ以上恥ずかしいのは出したくないですよ。
特に、震離と出会ったときなんて、あんまり言いたくないですしねー」
色々恥ずかしい事どころか……あれは。
「……じー」
「そんな目しないで下さい。むしろこの前の休みのときの、母さんの事伝えただけで勘弁してくださいよ?」
「ぅ、それは」
「それに不公平です。俺ばっかり昔のこと話してるじゃないですかー。母さんが逝った時の事、俺らの管理局入ってからの事、それで子供の頃まで話したら、全部になっちゃうじゃないですかーやだー」
気まずそうに視線をそらしてるけど、本当にこれで勘弁願いたい。
……今日はこの追撃がすごそうだなーと。
後書き
非常に短くなってしまいました。大変申し訳ございません。
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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