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ある晴れた日に

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656部分:悪魔その十七


悪魔その十七

「俺も払うぞ」
「えっ!?」
「それなら俺も支払う」
 こう言うのである。
「俺もな。それでいいな」
「また何でなんだい?」
「何でって当たり前だろう?」
 佐々はそれを当然というのだった。
「竹林の為でもあるんだよな」
「まあそうなるね」
 桐生もそれはその通りだと述べた。
「それはね」
「じゃあ当たり前だ」
 それを当然だといったのだった。
「あいつの為だったらな。俺も出させてもらいたいさ」
「だからなんだ」
「ああ、絶対にな」
「さて、これでこの話はこれでいいな」
 佐々はここで話を終わらせたのだった。
「それじゃあな」
「そうだね。後は」
「飲もうぜ」
 微笑んで皆に話した。
「そして食おうぜ。それを再開しような」
「よし、じゃあな」
「再開したら余計によ」
 皆考えをそこに切り替えた。そうしてだった。
 また串カツを食べてビールを飲みだす。ここで明日夢が言った。
「そういえば串カツって」
「何?」
「ソースに二度漬けは駄目だったよね」
 アルミの箱にあるその黒いソースに串カツを入れながらの言葉だった。
「確か」
「ああ、そうだよ」
 春華の彼女への言葉は何を今更といったものだった。
 そしてその言葉で。明日夢にさらに言うのだった。
「って少年、おめえひょっとして前にそれやったのか?」
「やってないわよ」
 そのソースに漬けた串カツを食べながらの言葉である。
「口をつけたの入れるのって不衛生だからね」
「わかってるのならいいさ」
 春華もそれを聞いてまずはいいとした。
「それやったら絶対に許さねえからな」
「それがね。うちのお店でやるお客さんいるのよ」
 明日夢は今度はキャベツを食べている。付け合せのをだ。
「時たまね」
「外道がいるな」
 野茂はそれを聞いて思わず言った。
「人間としてそれやったら終わりだろ」
「っていうかランク的にはよ」
 坂上もそれに続く。
「味噌汁飲んだ後の味噌汁茶碗に痰吐くレベルだな、それって」
「おい」
 野本の顔がそれを聞いて顔色を一変させた。
「それは人間としてやっちゃいけねえことだろ」
「ああ、いたわ」
「そうだな」
 明日夢と佐々がここで顔を顰めさせた。
「四十位のおっさんでね。白鯨でいてお父さんが速攻で切れたのよ」
「あれっ、そのおっさんか?」
 佐々は明日夢の今の言葉に目を丸くさせて突っ込んだ。
「そのおっさんってぼーーーってした顔した禿げたおっさんだろ」
「そうよ、ずる剥けの禿げでね」
「やっぱりそのおっさんかよ」
 佐々はそれを聞いてさらに言うのだった。
「そのおっさんはな」
「このお店にも来たの」
「来たよ」
 佐々はここまで話して顔を余計に顰めさせた。それが何よりの証拠だった。
「それでうちも親父が切れて追い出したんだよ」
「そうなのよ。上で大騒ぎになって」
 スタープラチナと白鯨は同じビルにある。スタープラチナのカウンターがある階のすぐ上が白鯨の階になっているのである。そうした構造なのだ。
「何かって思ったらお父さんがそのお客さんを追い出していたのよ」
「うちと同じだな」
「それでもう二度と来るなってなって」
「だよな。それはな」
「普通しないわよね」 
 明日夢はビールを飲みながら話した。
「そんなことは」
「まあ普通はな」
 佐々も言う。
「だから今でも覚えてるんだよ、はっきりと」
「全くどういう育ち方したのかしら」
「生き方もな」
 二人共目に見えてはっきりと怒っていた。
「そんなことしないって」
「絶対にな」
「何か凄いお客さんがいるのね」
 茜もそれを聞いて述べた。
「話を聞いてるだけだと」
「世の中ってそうなのかもね」
 咲がここで言った。
「結局のところ色々ととんでもない人がいるのよ」
「そういうものなのかしら」
 茜は彼女のその言葉に応えたのだった。
「あいつだけじゃなくて」
「そうかもね。残念だけれどね」
 静華はこう茜に言った。
「本当にそれはね」
「ほら、気を取り直してな」
 佐々が音頭を取ってきた。
「いいな。それじゃあ」
「ああ、それだったら」
「どんどん飲んで食って」
「また明日」
 こんな話をしてからまた飲み食いに移る。彼等も決意を確かなものにしていた。


悪魔   完


                 2010・1・2
 
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