【完結】Fate/stay night -錬鉄の絆-
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第034話 6日目・2月05日『夢、そしてイリヤの現状』
前書き
更新します。
夢を…夢を見ている………。
まだ魔術もろくに使えなくて姉さんを助けに行くことができずに歯がゆい思いをしていた頃の夢を。
『お父さん………私、姉さんを助けに一緒に行くことができるかな………?』
『志郎………』
それでお父さんは少し困った表情になりながら、
『そんなに焦らなくていいんだ。志郎………』
『でもっ! お父さんは、お父さんの体は今も………』
そう、お父さんの話を聞いて知ってしまった事。
聖杯に呪われてしまい今も顔には出さないが苦痛を味わっているのを。
しかしお父さんはそんな顔など表には………少なくとも私の前では一切出さずにただ笑っていた。
その表情が余計私の焦りを生んだ。
それで一時期無茶をして行き過ぎた魔術の行使をやってしまい熱を出して寝込んでしまった事があった。
お父さんはそんな私を怒りもせずにいつも通りに看病してくれた。
それで私は情けなくなって涙を流してしまった。
『ごめんなさい、お父さん………力になれなくてごめんなさい………』
ただただ謝る私の頭にお父さんは手を置いて、
『志郎はまず冷静に自身の腕を上げていくことを目指した方がいいと思う。
なに、僕はそう簡単にはくたばらないさ。
イリヤを助けに行く機会はいくらでもある。
だから………無茶をしてはいけないよ?』
『………うん。わかった』
それから私は無茶な魔術行使をすることは無くなった。
代わりに精神鍛錬や使えないけど魔導書を読む機会が増えた。
同時に魔術を使わない銃火器などの訓練や体術などもお父さんに教え込まれた。
いつか姉さんを助けにいく機会が巡ってくるかもしれない。
でも焦らずに、少しずつ、でも確実に力を着けていく。
私は必ず姉さんを救う事を志して………。
そんな事をやっていく内に実力がついてきたのだろう、身になっているという実感を感じて来た頃。
それが分かったのかお父さんは私に言った。
『志郎………僕は今度、イリヤを助けに行こうと思う』
『! それじゃ………!』
お父さんはすぐに行きたかったのだろう、それを我慢して私を鍛えてくれた。
そのお父さんが助けに行くと言ったという事は、すなわち私の事を認めてくれたという事だろう。
『それじゃ私も行くわ!』
『でも………もしなにかあったら』
『大丈夫よ! 私も強くなった実感が沸いてきているから』
『………わかった。でも“あれ”は僕がいいというまで決して使っちゃだめだよ? あれは僕と同じで志郎のとっておきで数も限られているから。約束できるかい?』
『うん!』
『よし! それなら一緒に一緒にいこうか。イリヤを助けに』
それで私とお父さんは姉さんを助けにドイツへと出国した。
そしてアインツベルンの敷地へと入っていき、いざとなれば結界も突破しようとしたけど、だけどお父さんはやっぱり無理をしていたのだろう、もう結界を突破するどころかその結界の繋ぎ目すら発見できないまでに力が衰えていたのだ。
私の解析の魔術をして解析しきれない強固な結界………それで途方に暮れる時間すらあちらは与えてくれなかった。
なにかの気配がしたと思えばそこには普通の獣ではありえない形をした異形がたくさん現れて私とお父さんはアインツベルンまであと少しという所で撤退を余儀なくされた。
なんとか異形の獣から逃げおおせたのだろう私は荒い息を吐くお父さんの背中を擦りながら、
『お父さん、大丈夫………?』
『ああ、平気さ。でも志郎の切り札を一回だけ使っちゃったね』
『………ごめんなさい。あの時あと少し遅かったらお父さんが殺されると思って禁忌を破っちゃった』
あれは本当の意味で切り札なのだ。
なのに私は一回使ってしまった。
お父さんとの約束を破ってしまった。
それで酷く落ち込んでいた私にお父さんは笑いながら、
『そう落ち込まないで志郎。大丈夫だよ。志郎の行動は決してマイナスにはなっていない。どころか僕を助けてくれたんだからプラスになっているさ』
『本当………?』
『そうだとも。でなければもう僕はここにはいないさ』
そう言ってお父さんは軽く笑って私の落ち込んだ気持ちを吹き飛ばしてくれた。
それからお父さんが『今回は帰ろうか………』と言って私の手を握って雪が降る中で一緒に来た時のように密航して家へと帰った。
そしてまた私は鍛えてお父さんの体がまだ持つであろう間に何回もアインツベルンへと挑んでいったが悉く返り討ちにあった。
それでお父さんは死に体の体に余計に負担をかけまくったせいでとうとうろくに動けなくなってしまい私に願いを託して逝った………。
お父さんが逝ってからというもの、私は一人ではお父さんのようにうまく密航もできないし伝手もないからただただ毎日準備だけは欠かさずに今は耐える事だけをしていった。
……………
…………
………
時は飛んで聖杯戦争が始まり私は今までの準備期間を一気に解放するために、そしてこの聖杯戦争という魔術儀式を終わらすために行動を開始した。
御三家の一つである凛さんとも協力者になったし、もう一つの御三家である間桐臓硯も桜を救う過程で倒すことができた。
後は姉さんとも和解できればどうにかなるかもしれない………。
そんな矢先に知ってしまったアーチャーの真実………。
兄さん………。
私はどうすれば兄さんと素直に話し合えるのかな………?
私が悩んでいる時に姉さんが話しかけてくれた。
それで話をしていく過程で和解もできてその時だけは兄さんという悩みも吹き飛んでいた。
ただ………。
これは本当に悪夢であってほしい………。
姉さんが………死んでしまうなんて嘘だ。
嘘に決まっている。
こんな現実など許容できない。
それじゃ今まで私がしてきた事はすべて無駄になってしまう。
これじゃ私の出発地点である『大事な、大切な人達を護れる正義の味方』という理想すら掲げられない。
だから誰でもいい、嘘だと言って………ッ!!
志郎は夢の中でさえ大きな叫びを上げるのであった。
………志郎が気絶してから夜中の事であった。
突如として志郎の『いやああああーーーーーッッ!!』という叫び声で居間で待機していた一同は一斉に志郎の部屋へと向かった。
扉を開くとそこには錯乱をしているのであろう涙を大量に流す志郎をセイバーが必死に抱き留めて落ち着かせているという悲しい光景があった。
そんな志郎の姿を見たのが初めてだったのだろう桜が、
「先輩………」
と言って涙を流した。
「シロ、どうか落ち着いてください!」
「姉さん! 姉さんが!!」
「大丈夫です! シロ、イリヤスフィールは生きています!」
「えっ………? 生き、てる………?」
やっとセイバーの言葉が受け入れてもらえたのだろう志郎の瞳に光が戻ってきた。
「はい。イリヤスフィールはなんとか一命を取り留めました。今はキャスターが治療を行っているところです」
「………会いたい。姉さんに会いたい」
志郎がそう言って静かに涙を流す。
「わかりました。シロ、キャスターの部屋へと参りましょう」
「うん………」
それでセイバーに支えられながらも志郎は少しずつ歩を進めだした。
それを見守る事しかできないでいたアーチャーは、
「すまない志郎………」
「アーチャーが謝ることは無いわ。イリヤスフィールの事をあんたの提案で救えたんだからよかったじゃない?」
「そうですよ、アーチャーさん。そうじゃなかったら今頃先輩はどうなっていたか想像もしたくありません」
「そうだな………。衛宮はいつも冷静沈着だったからな。姉が死ぬかもしれない瀬戸際までいったんだ。ああなるのも無理はない」
アーチャーの言葉に凛に桜、慎二は気に病むことは無いという感じに話をした。
だがなぜ凛はともかく桜と慎二が話に着いていけてるのかというと志郎が気絶した後に桜と慎二もいろいろ訳あってアーチャーの正体を知った口なのだ。
それはもう驚かれた事だろう。
それから志郎はセイバーに連れられながらもキャスターの工房へと入っていく。
「キャスター………いる?」
「志郎様? はい、大丈夫ですわ」
キャスターは志郎を部屋の中へと招き入れる。
するとすぐに目についたのがなにかの培養液のような液体が入っている入れ物の中に沈まされているイリヤの姿があった。
「姉さん………」
それで志郎は培養槽に触れて確かにイリヤが生きているという実感が沸いたのか再び涙を流していた。しかし今度のは嬉し涙ともいう。
そこにキャスターの説明が入る。
「志郎様。今のこの子の説明を致しますね」
「うん………」
「この子は今現在、小聖杯をアサシンによって抜き取られたために生命の灯が著しく低下しています。
だから当分の間はこの培養液の中で体を癒さない限りは目を覚まさないでしょう」
「そんな………」
「ですがご安心ください。少しの間だけです。一週間くらいの時間をかければこの子も息を吹き返すでしょう。その間、私はこの子の体の異常をすべて取り除くことにいたします」
「体の異常………?」
「はい。志郎様がご存知の通り、この子は小聖杯として生まれてからずっと調整や強化などをされていたのでしょう。成長も止まってしかも私が調べた限りでは一年も保たないかくらいの寿命しかありませんでした」
「それじゃ!?」
「落ち着いてください。まだ続きがあります。よって私はこの子が志郎様と同じくらいのごく普通な一生を過ごせるくらいには体組織と魂を弄らせていただきます。ですからご安心ください。治療が終わる頃には止まっていた成長もまた再開することでしょう」
「………」
それで志郎は無言でキャスターに抱き着いた後にしきりに「………ありがとう、キャスターありがとう………」と言っていた。
それでキャスターも満更ではなく頬を染めながらも志郎にある事を告げた。
「ですから恐らく明日が聖杯戦争の終焉だと思います。御覧の通りで私はこの子の治療で手を離せません。ですから………」
キャスターがそこまで言って志郎は理解したのだろう、やっといつも通りの強気の笑みを浮かべて、
「わかった。キャスターが安心して姉さんを癒している間に明日すべてを終わらせて来るね」
「よかった………。もういつも通りの志郎様ですわね」
「その件ですがシロ。話し合いがありますのでよろしいですか?」
「うん」
それで話し合われる。
志郎が気絶している間に起こった事を。
大聖杯の場で待つというギルガメッシュを倒しに行くことを。
そして明日の夜までは鋭気を養ってから大聖杯のある場所まで向かい挑むことが決定したのだった。
後書き
志郎の過去を少し書きました。
そしてイリヤの現状はこんな感じです。
ページ上へ戻る