ある晴れた日に
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638部分:桜の枝を揺さぶってその十六
桜の枝を揺さぶってその十六
「もうね」
「帰って来ているのか」
「お父さんの分の食器とかも出してね」
「わかった」
それに応えてまた席を立つ。そうしてそれをすぐに父の席の前に置く。彼と母が向かい合い父は彼から見て左の席である。四角いテーブルの右が空く形になっていてそこに色々なものが置かれている。
そうしたものを置いてから。また母に告げた。
「置いた」
「有り難う」
母はすぐに礼を述べてきた。丁度今全部のカツを揚げ終わったところであった。狐色のその奇麗な衣が彼の場所からもよく見える。
「じゃあお父さんがお風呂からあがってきたらね」
「食べるのか」
「御飯も入れておいて」
母はここでまた彼に告げてきた。
「それも御願いね」
「わかった。それじゃあな」
「あんたも御飯食べ終わったらね」
「食べ終わったら?」
「お風呂にしなさい」
こう言ってきたのである。
「今お父さんがお風呂に入ってるから」
「親父帰ってたのか」
「あれっ、言わなかったかしら」
「初耳だ」
憮然とした声だがこれもいつも通りである。
「そうだったのか」
「お父さんの分も出しておいてね」
「ああ」
今の母の問いにはすぐに応える彼だった。
「わかった。それじゃあな」
「それで後は」
さらに言う母だった。
「ポテトサラダも出してね」
「これだな」
「そうよ、これよ」
大きなボールの中に入れられている白いものをさしての言葉である。見ればその白いポテトの山の中に胡瓜やソーセージまで入れられている。
「これを出しておいてね」
「それも出して」
「カレー皿に御飯も入れておいてね」
そのことも言ってきたのだった。
「御願いね」
「三人分だな」
「あんたも食べるでしょ」
ここで父を優先させる言葉を言う母だった。
「だからよ。わかったわね」
「わかった。じゃあな」
「さてと、お父さんが出て来たら本当にいよいよ」
「カレーか」
「あとは」
母の言葉はさらに続く。部屋にあるそのテレビにも顔を向けて。そのうえでまた正道に対して言ってきたのである。今度言った言葉は。
「テレビもつけて」
「それもか」
「何か面白い番組あるでしょ」
「そうかもな」
「クイズなり何なり」
彼女は言うのだった。
「何かしらね」
「ドラマはないのか」
「ドラマはもっと遅いんじゃないの?」
「いや、もうすぐだ」
ここで壁にかけられている時計を見る。するともう七時前である。
「何かドラマは」
「七時からじゃないでしょ。せめて八時からよ」
「そうだったか」
「そうよ。もうちょっと後よ」
母はこう正道に告げた。
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