ヘルウェルティア魔術学院物語
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第五話「実験準備」
「ルナミスさん、少し聞きたいことがあるんだけど…」
「は、はい!」
説明を終え今日の分が終わった後俺はルナミスさんに話しかけた。内容は勿論呪いについてだ。
「実は、呪いについて聞きたくてさ」
「っ!そ、それは…」
話を振られた話題についてルナミスさんは言いづらそうに顔を歪める。
「…いや、やっぱり大丈夫。ごめんね、あまり話したくはないよね」
俺はそう言って頭を下げる。公国では「貴族が簡単に頭を下げるな!」と怒鳴られていたけどもう実家とは関係ないし大丈夫、だよな…?
「…いえ、大丈夫ですよ。少し、驚いただけですので…」
ルナミスさんはそう言って儚げに笑う。それをみた一部の男子生徒が顔を赤らめていた。因みにその中に俺も入っている。
「それで…呪いの何を知りたいのですか?」
「あ、えっと…。ル、ルナミスさんのスキル無効化の呪い?について聞きたくてさ」
「…それは、その名の通りです。私はこの呪いのせいで今までスキルの恩恵を受けた事がないのです。呪いの効果は私と触れている者のスキルを無効化すると言うものです」
スキルの恩恵を受けられないのか…。基本スキルは持っているだけで効果を得られるものだ。肉体を強化したり毒等の有害な物に耐性を持ったり無効化する物もある。しかし、スキルを無効化、それも自分だけでなく触れている者にも、か…。
「ですが、聞いた中には魔力封印の呪いや体が動かなる呪いもあるのでそれに比べれば呪いなんてへっちゃらです!」
ルナミスさんは俺が同情していると思ったのか語気を少し強くして言うが俺はそれよりもルナミスさんの言った言葉が気になっていた。
「…ルナミスさん、少し手伝ってほしいことがあるのだけど…」
「?なんですか?」
ルナミスさんは少し小首をかしげる。…うん。可愛い。
☆★☆★☆
「俺の持つスキルの中に魔力抵抗Lv10というスキルがあるんだ」
そうルナミスさんに説明する俺は今校舎の隣にある校庭に来ている。ここは基本的にスポーツをするための場所だが端の方には的がありそこで魔術の訓練が出来るようになっている。ただし出来るのは下級魔術のみでそれ以上の魔術を使用したいときは別の場所にある専門の施設にいかなければならない。しかし、そこは授業以外での使用時には予約制であり今のところ予約は一月先まで埋まっていた。今日から受付のはずだったがこのシステムを知っている上級生が朝一で予約をしていったらしく気付いた時には既に手遅れだった。
「このスキルはその名の通り魔力を俺の体に通しづらくするスキルでレベル10の今なら大抵の魔術の攻撃を無傷で防ぐ事が出来る」
とは言え今の俺は下級魔術以外は使う予定はないのでここで十分だった。周りには数名の生徒がおり中には上級生と思われる人がちらほらといる。因みに学年を判別する方法は簡単だ。ネクタイの色で分かる。一年生が赤、二年生が青、三年生が黄色だ。
「ただし魔力を通さないから自分から魔術を撃とうとしても魔力抵抗のせいで失敗する。だから俺は魔術を使用する時は魔力を多く使用している。そうしないと魔術の発動が出来ないからな」
「それで水晶に魔力を通す時にあれだけの魔力を…」
「そうだ。魔力を魔道具に流すのにも抵抗されて上手く注げないからな。恐らく俺がGクラスなのはこれのせいだな。自慢じゃないがステータスを見た限り一クラス上でも十分通用すると思うからな」
「そうだったのですか…」
「ああ、俺が魔術学院に来たのもこのスキルを消したいと言う理由があったからな。勿論最強の魔術師たる賢者の称号も狙っているけどな」
さて、そろそろ本題に入るか。本来なら寮に荷物を運ばないといけないのにその時間を使ってルナミスさんに手伝ってもらっているのだからな。
「そこでルナミスさんの呪いを少し借りようと思ってな」
「成程、私の呪いであるスキル無効化で」
「そう、この魔力抵抗Lv10のスキルを一時的に無効化する。そうすれば俺も普通に魔術が使えるようになると言う訳さ」
無論これは理論上の話でしかなく確実にそうなると決まった訳ではない。そもそもスキル無効化の呪いが何処まで効き目があるかだ。最悪この呪いを魔力と認識して抵抗されて効かないと言う可能性もある。流石にそんな事は無いと思うがこの世に絶対という言葉はないからな。
「ごめんね、ルナミスさんにはあまりメリットがない事だと分かっているけどどうしても試して見たくてさ」
「…いえ、私もこの呪いが人の役にたつのなら、その、喜んで…」
途中からルナミスさんは顔を赤くして呟くように言うがどうしたのだろうか?呪いに何かおかしな点があったのか?聞いただけだと呪いは…ああ、そう言う事か。
呪いの発動条件は他者と触れている事。つまりルナミス若しくは俺がルナミスさんに接触する事で呪いが発動する。ルナミスさんが何を想像したのかは分からないけど恐らく恥ずかしいと言う気持ちが出てきたのだろう。これはもう少し気持ちを確認しておくか。
「本当にいいのか?言い出しっぺがいう言葉じゃないと思うけど呪いを発動させると言う事は、その…」
やばい、すごく恥ずかしくなってきた。ここまで異性と会話した事なんて無かったから少し緊張するな。公国ではあまり異性と話す機会はなかった、というより話させてくれなかったからな。
「…私の呪いを恐れる人は今までいました。だけど、私の呪いを恐れず役に立つと言ってくれたのは初めての経験です。だから、私はそう言ってくれたエルナンさんのお役に立ちたいんです。たとえそれが私にとっては全く関係のない事であろうとも」
ルナミスさんは俺を見て答える。その瞳には確かな強い意志が宿っており俺の心にすっ、と入って来た。
「…分かった。なら早速お願いできるか?」
「…はいっ!」
俺はそう言って手をルナミスさんに伸ばす。それをルナミスさんは笑顔で掴んでくれた。
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