ある晴れた日に
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636部分:桜の枝を揺さぶってその十四
桜の枝を揺さぶってその十四
「二度と。あの娘は」
「ですが今ああして」
「応えられました」
「はい」
先生達のその言葉に頷くのだった。
「そうですね、未晴は本当に」
「娘さんはまた立てます」
「絶対に」
「今そのことをやっと信じられるようになりました」
それは彼女もだった。今までは完全に信じることができなかったのだ。とても。
「それも皆のおかげなんですね」
「はい、特に音橋君がです」
「彼がいなかったらもう」
先生達はこのことも告げた。
「竹林さんは絶対に」
「動けませんでした」
「応えることはとても」
「できませんでした」
「けれど」
晴海は涙が零れそうになっているその顔で。静かに言った。
「それが今本当に」
「冬の終わりが見えました」
「まだ長いでしょうけれど」
「ですがそれでも冬は」
終わりが見えてきた。それは確かだった。
「終わるものなんですね」
「冬は人が終わらせるものだったんです」
「私達もそれがはじめてわかりました」
「私もです」
晴海はここでも言った。
「そのことがやっと」
「冬の嵐は過ぎ去りましたね」
藤熊先生もここで言った。
「あの娘達は春に向かっています」
「はい、それは確かに」
「間違いなく」
このことも確かめ合っていた。まさに幸せを確かめ合っていた。
そうしてであった。その中で。晴海も先生達も前に向かって歩きだした。
「ですから私達も」
「春にですか」
「はい、行きましょう」
晴海の周りから声をかけた。
「竹林さんが入る春に」
「私達もです」
「わかりました」
晴海は先生達のその言葉にこくりと頷いた。
「それでは今から」
「春に」
「行きましょう」
こうして彼女達も春に向かうのだった。正道は確かなものを感じていた。
そしてその後で未晴を病院に戻して皆と別れた上で自分の家に戻った。するとであった。
「ねえ正道」
「何だ?」
母の言葉に応える。自分の家のその木の薄いブラウンの床を踏みながら。そのうえで台所の方から聞こえてきたその言葉に応えるのだった。
「何かあるのか?」
「御飯は?」
母が問うてきたのはそれだった。
「御飯食べるの?」
「食べる」
言いながらその言葉に応える。玄関からその廊下を進んで家の奥に入る。そうして台所の横にあるテーブルに座った。そのテーブルも木製である。
台所はステンレスだった。そこに長い髪を後ろで束ねた中年の女があれこれと動いていた。見れば何かを何枚か揚げていた。油が飛んでいる。
「今日の料理は」
「奮発したのよ」
にこりと笑って彼に応えてきた。
「カレーよ」
「では何故揚げているんだ?」
「カツカレーだからよ」
こう彼に述べている。見れば黄色いエプロンが結構カレーのルーで汚れている。
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