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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica48とても長い1日の終わり~Prevention of a Rebellion~

 
前書き
明けましておめでとうございます!
今年もどうぞよろしくお願いします! 

 
最後の大隊レッツト・バタリオン、そして新生ベルカ騎士団ノイエ・ベルカン・リッターオルデンの主要人物たるキュンナ・フリーディッヒローゼンバッハ、そしてグレゴール・ベッケンバウワーは、転送装置が使えなくなってしまっていることで本拠地内を徒歩で移動し、今はほとんど使われていない、外界へと繋がる搬入口を目指していた。

「また、このような逃走劇を行うことになるなんて・・・!」

キュンナは唇を強く噛み締めて悔しさを滲ませていた。キュンナは、かつてのイリュリアの女王テウタのクローンだ。そして記憶転写型もあるため、テウタの人生の追体験も済ませている。テウタも対イリュリア連合に敗れた後、地下通路で逃避行した。しかしそこで、兄バルデュリスの手によって殺害された。

「ええ、まったくですな!」

緊張感を見せずに笑いながらそう返すグレゴール。地下でテウタの遺体からリンカーコアと遺伝情報を抜き出したのは他ならぬ彼だ。共に逃げ遂せていたイリュリアの技術者に預け、プライソンの手によって誕生し、人知れず鍛えていた。

「同志ヴィスタはどうなりましょうか?」

「あの者の話では、勝算は五分五分と言っておりました。魔神オーディンと比べれば魔力出力や使用できるスキルに違いがあるものの、ドーピングを行うことでその差を埋めている、と。あの者自身もまた、魔力タンクとして自分のクローンを同志ミミル(メル)に造らせていましたからな。我としては、よくて相討ちで済ませてもらいたいものです」

大隊も新生ベルカ騎士団もすでに壊滅状態。そしてフィヨルツェンの目的が、ルシリオンの命であることは承知していることで、グレゴールは彼女がたとえ勝ったとしても組織から抜けると考えていた。それゆえに勝敗にはあまり興味を持っていなかった。

「そうですね。ルシリオン・セインテストが死亡するだけでも、今後の私たちの活動が楽になりそうです」

地下から地上へと向かう巨大リフトに乗り、今後の計画を軽く話し合うキュンナとグレゴール。当初の計画では、ベルカに誘き寄せたルシリオンに魔力を限界以上使わせ、交戦したフィヨルツェンの魔力と共にテラフォーミングに利用するつもりだった。
そして今、フィヨルツェンはルシリオンをベルカに連れ出し、死闘を繰り広げているだろう。万が一に自分が敗れた場合は、自分の魔力でイリュリアをテラフォーミングを行うと言っていたフィヨルツェンの言葉を思い返す。

「ただ、いずれ居なくなるからと言って、同志ヴィスタを蔑ろにするわけにはいきません。もしあの方が敗れたのなら、あの方がベルカを、イリュリアを再生してくれるのです。後の歴史にあの方の名を残すべきです」

ルシリオンに勝利したフィヨルツェンと合流できればイリュリアへ移動し、もしどこかでルシリオンの生存を確認したとしても、フィヨルツェンが代わりにテラフォーミングを行っているだろうからイリュリアへ行けばいい。そんなわけで今はただ、逃げて身を隠すことを優先する、という話になってくる。

「ではまずは、ミッド東部はバース地区の隠れ家へ向かい、そこの転送装置より第2無人世界セラタプラの兵器実験施設へ向かいましょう、陛下」

グレゴールがそう提案した直後、地下から地上へと向けて2人の間を強大な魔力が通り過ぎていった。敵意も害意もなく、ただの魔力流だった。

「陛下~、総長~!」

語尾を伸ばす特徴的な話し方でキュンナとグレゴールを呼んだのは、ミミル・テオフラストゥス・アグリッパ。真の名を、パイモン・エグリゴリ。コードネームはメル。ルシリオンとシェフィリスの生み出した“戦天使ヴァルキリー”が、ヴァナヘイムに洗脳されたことで生まれた第1世代の“堕天使エグリゴリ”の協力の下、イリュリア技術部が開発した第2世代の“エグリゴリ”の1機だ。

「連絡が取れなんだから、エグリゴリとして破壊されたのかと思ったぞ、パイモン」

「はい、破壊されずには済みましたわ~。陛下と総長もご無事なようで何よりです~」

2人の乗るリフトにミミルと、そんな彼女の使い魔であり、ミミルの造りだした第3世代の“エグリゴリ”でもある、ウサギ耳とモコモコの丸い尻尾を生やしたフラメルとルルスが降り立った。
残るまともな戦力はグレゴールと合わせて2人だけと諦めていたキュンナは、ミミルという戦力が無事だったことにホッと安堵した。

「まあよい。パイモン、フラメル、ルルス。我らはこれより東部へと逃れる。我と共に陛下を護衛するぞ」

「お願いしますね」

ようやくリフトが地上へと到達し、両側にスライドして開く仕組みの巨大な鉄扉の前に立つ。グレゴールが空間コンソールを展開して、鉄扉を開くためのコードを打ち込み、大きな音と共に鉄扉が左右にスライドし始めたそのとき・・・

「ぐおう!?」

グレゴールが前のめりに倒れこんだ。その様子にキュンナが目を見開き、グレゴールが倒れた原因へと目をやった。ミミルの手には、槍のように長い柄の先端に三日月状の剣身を持つグレイブ――神器・魔造兵装番外位“勝殺槍コスクラハ”が握られていた。

「パイモン・・・!? これは一体どういうこと!?」

「傷が再生しないのですね~。ルシリオン君に何かされました~?」

たった今自分が繰り出した斬撃で絶ち斬られた甲冑の隙間から覗くグレゴールの背中を見て、ミミルはそう尋ねた。不死性を有していたころであれば、致命傷を受けようとも瞬時に再生してみせたグレゴールだったが、今はもう再生する気配がない。

「パイモン・・・! おぬし、なんの・・・!?」

片膝立ちでミミルに向き直るグレゴールが、自分へ攻撃した理由を問い質した。

「申し訳ありません、総長~。リアンシェルト様が、もうあなた達のことは用済みになったので処分しておいてください、と仰っていたのですよ~。私はエグリゴリのパイモンなんです~。リアンシェルト様の命令は絶対なので、陛下と総長にはここで果ててもらいますね~」

イリュリアの人間によって造り出されたミミルだが、従う相手は同じ“エグリゴリ”だけと決めていた。これまで命令という形で指示を出していたグレゴールの言葉を、命令ではなくお願いとして聞いてきていた。従うかどうかの選択権はミミルの気分次第。これまではただ運が良かっただけに過ぎなかったのだ。

「用済みとはどういうことです・・・!?」

「ヴィヴィオとフォルセティの将来にとって害となるそうだから、だそうです~。前回のプライソン戦役、そして今回の一件で受けた苦難からの自尊心、2人の事情を知る得がたい友人、そういったものを与えるのがそもそもの目的だそうで~。目的を果たした今、陛下と総長は邪魔だそうです~」

イリュリアの人間であるキュンナとグレゴールは、始めからリアンシェルトの手の平の上で踊られていたことを知る。イリュリアと初めて接触したのも、“エグリゴリ”の技術を提供したのも、イリュリア戦争後にグレゴール達を匿っていたのも、最後の大隊のメンバーとなった魔導犯罪者たちの潜伏先などを教えたのも、すべてリアンシェルトだ。

「お覚悟を、総長、陛下」

紅碧色の魔力を全身より噴き上げさせ、“コスクラハ”をグレゴールに向けたミミル。その様子にキュンナは「ならば!」と、大鎌型デバイス・“ペンドラゴン”を起動した。対峙するキュンナとミミル。ミミルの使い魔であるフラメルとルルスは、黙って主人であるミミルを見守っている。

「陛下、総長閣下!」

――幻惑の乱景――

とそんな時、第三者の声が。それと同時にミミルとフラメルとルルスは「っ!」自身の目に映る光景に身構えた。先ほどまでは殺風景極まりない鉄だけの搬入口だったが、3機には広大な花畑に見えていた。

「ここはわたくしめにお任せを!」

きょろきょろと周囲を見回しているミミル達と、キュンナとグレゴールの間に割って入ったのは幻惑の融合騎エルフテだった。ルシリオンによって行動不能に陥っていたが、技術者たちがすぐさま修復していたのだ。

「・・・お願い出来る、エルフテ?」

「もちろんでございます、陛下。私は陛下と総長に忠誠を誓った身。身命を賭しましょう!」

いつもは二足歩行の燕尾服姿のエルフテだが、今は猫らしく何も身に着けずに四足歩行だ。グレゴールはそんなエルフテに「礼を言う、我が素晴らしき配下」と賞賛を送り、キュンナと共に出口を潜り、そして鉄扉を閉めてロックした。

「我が母にして同志メルよ! 事情は知らないが、私の武勇伝のためにここで死んでもらおう!」

そうしてエルフテは、その鋭い牙と爪を閃かせてミミルに突進した。

†††Sideなのは†††

アクアベール海での対艦戦闘を終えた私たちチーム海鳴は、事後処理を後続の応援部隊に任せて、付近の陸士隊舎で休ませてもらうことになった。仮眠室を2部屋も借りて、私、アリサちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃんで一部屋、はやてちゃんたち八神家がもう一部屋を使用中。

「でも本当に無事で良かったよ、アリシア」

「アリサちゃんも良かった、本当に・・・」

ベッドに入って眠ろうかと思ったんだけどなかなか寝付けない。そんな時、私と同じように寝付けないのかフェイトちゃんが、拉致されていたアリシアちゃんの無事に改めて安堵すると、すずかちゃんも続いた。

「無事って言っても、拉致された瞬間からルシルのステガノグラフィアに救出されるまでの間、ずっと眠らされてたんだし」

「クローンが即座に活動してたところを見ると、あたしやアリシア、他のオリジナルはずっと前から遺伝子とかの材料を盗られてたんでしょうね。だから眠らされてる間はたぶん、なんにもされてないと思うわよ?」

「そうかもしれないけど・・・」

「自分の体のことだもん。自分が一番判ってるよ。それに、さっき医療班の診察を受けたけど正常だって言われたし」

戦闘を終えた私たちも念のための診察を受けたときに、その結果を一緒に聞いてた。後々に発動するような洗脳も催眠もされてないってことだった。

「あたし達のことはもういいじゃない。シャル達のことは何か聞いてないの?」

「私たちの無事と艦隊撃破の知らせはしたんでしょ?」

ここ陸士隊舎に来る途中、はやてちゃんが代表して教会騎士団に連絡を入れてたけど、まだ戦闘中なのか繋がることはなかった。でも、アリサちゃんとアリシアちゃんの診断中に連絡が繋がった。

「うん。最初は繋がらなかったけど、時間を置いたら騎士パーシヴァルと連絡が取れたんだ。それでなんだけど、最後の大隊の本拠地はルシル君とアイリでほぼ壊滅して、騎士団内の裏切り者の制圧を終えたみたい。ただ、シャルちゃん達オランジェ・ロドデンドロンが、シスター・プラダマンテとの戦いで全滅したって・・・」

「「はあ!?」」

アリシアちゃんとアリサちゃんがベッドから跳ね起きた。その知らせを騎士パーシヴァルから聞いた時の私たちと同じくらい驚きようだった。

「シャルの隊って、ルミナ、セレス、トリシュ、クラリス、アンジェっていうSクラス揃いじゃん! それがたったひとり相手に全滅!? シスター・プラダマンテって確か、20年以上も最強の剣騎士っていう・・・。でもだから負けるなんてありえなくない!?」

「それほど強かったんだと思う。シスターはオランジェ・ロドデンドロンを返り討ちにした後、シャルちゃんとの一騎討ちで重傷を負うも、シャルちゃんを戦闘不能にしたって。そして騎士団の反乱を企てた主導者の実兄リナルド・トラバント騎士団長を殺害。その後、自害を図ったところでミヤビ陸曹が止めて、そのまま逮捕されたみたい」

「そういうわけでザンクト・オルフェンでの戦闘も終了したって」

最後の大隊が壊滅したことで、もうヴィヴィオ達が狙われなくなるねって、フェイトちゃん達と話をしてた。冬休みももう終わるし、休みが開けたら学院までの道中と授業中すべて、ルシル君が護衛してくれることになってたけど、それはそれで申し訳ないな~って思ってた。だから休みが開けるまでに決着がついて本当に良かった。

「この事件の事後処理が片付いたら、チーム海鳴とヴィヴィオのお友達とで旅行に行きたいね」

「ホテルアルピーノで合宿旅行もいいかも♪」

「ここのところチーム海鳴内での模擬戦やってないし」

「湖で遊ぶのもいいし、温泉でゆっくりするのもいいよね♪」

「トレーニング用のアスレチックも、前回からかなり進化したって話をルーテシアがしてたよね」

ヴィヴィオ達の成長も見てみたいし、強くなるための手伝いもしてあげたい。そして何よりみんなとの力比べも楽しみだったりする。そんな楽しみイベントのためにも、私たちに出来ることをきちんとやり遂げて、休暇のスケジュールも合わせないと。

†††Sideなのは⇒イリス†††

「ぅ・・・ん・・・?」

薄っすらとまぶたを開けて、ベッドの上に寝かされていることに気付いてバッと上半身を起こすと、「いっつ・・・!」全身から痛みが奔って蹲る。見れば今のわたしは入院患者用の病衣に着替えさせられてた。

「あ、そっか。プラダマンテに負わされた傷・・・」

一気に思い出されるプラダマンテとの戦いの顛末。元団長リナルドは、妹のプラダマンテの手によって殺害されて、プラダマンテ自身も自害しようとしたところで、ミヤビに止められた。それで安心して、そのまま意識を手放したんだっけ・・・。

「お、やっと起きた」

隣から声を掛けられて振り向いてみれば、同じように病衣姿の「ルミナ」がベッドの上で胡坐をかいてた。よく見ればわたしの居る病室には、ルミナの他にもトリシュ、アンジェ、クラリス、セレスと、ミヤビを除くあの場に居たみんなが病衣姿で揃ってた。

「みんな・・・! 無事で良かった!」

みんな所々に包帯やらガーゼやらで体を覆ってるけど、血色も良くてすぐにでも任務に入れそうな感じ。って、「あの後どうなったの!? というか今何時!?」わたしはみんなに聞いたんだけど「しぃー!」って怒られちゃった。

「ここ病院ですから大声は厳禁です!」

「ご、ごめん、アンジェ・・・」

「イリスのそんな疑問には私が教えてあげよう」

アンジェに謝ってるところにルミナがそう言って、わたしが気を失ってからの話をしてくれることになった。

「まず、今の時刻は午前0時ちょっとすぎ。で、今回のクーデターはもう鎮圧された。さっきまでミヤビが外との連絡係をしてくれていてね。プラダマンテの逮捕と、トラバント団長の死は憶えてる? あの後、あなたが呼んでいてくれたヘルブラウ・ヒビスクスの医療班がすぐに駆けつけてくれて、治療を施してくれたの」

その時には完全に意識を失ってたわ。リナルドの死亡は確定されて、プラダマンテは応援に来てくれた他の騎士隊の手によって逮捕されて、今は本部内の牢に入れられてるとのこと。

「イリス。アクアベール海での対艦戦の結果も判明してます。全艦を無事に撃沈できたというはやてから連絡が入ったと、先ほど報告を受けました」

「おお! そっか! 良かった、うん、良かった!」

そっちの方も気になってたから、みんなが無事で心底安心できた。胸を撫で下ろしてたわたしに、「ルシルからも連絡があったと、ミヤビから伺ってます」トリシュがそう言った。

「ホント!?」

「はい。北海ノーサンヴァラント海はオークニー諸島・ナウンティス島に存在していた大隊の本拠地での戦闘は終結。今現在、手の空いている騎士隊が管理局と共に、拉致されていた方々の保護、そして大隊メンバーの逮捕と連行、施設内の調査を行っています」

「あと、エグリゴリのフィヨルツェンの破壊も成し遂げたみたい。ただ・・・」

わたしにとっても嬉しい知らせを伝えてくれたセレスが言い淀んだ。みんなも俯き加減だったから、わたしは「ルシルかアイリに何かあったの!?」大声にならないように気を付けて問い質した。

「あ、2人は全然平気みたい。仮眠を取った後に調査のために本拠地に戻ったって、ミヤビが言ってたし」

「それならいいんだけど・・・。じゃあ何か他に問題が?」

「・・・大隊、そして新生ベルカ騎士団の中核メンバーと思われる、キュンナと・・・」

ルミナがモニターを展開して、キュンナともう1人、スキンヘッドの男の老人の画像を表示させた。老人についてはアインハルトの記憶の中で見た。だから「うそ・・・」絶句した。

「ええ。元イリュリア国騎士団総長、グレゴール・ベッケンバウワーです」

「本当に生きてたんだ、コイツ」

イリュリアのグレゴールが生きてる。この話は聖王教会内では有名な話だ。で、そんなグレゴールがどうかしたのかって話で。視線で話の先を促すと、キュンナとグレゴールが逃亡して完全に姿を晦ませたという内容だった。

「あちゃあ・・・」

「他のメンバーはほぼ逮捕して、騎士団と局の両方に連行した」

さっきもアンジェが言ってたけど、「局と協力してるの?」ってことは、騎士団の独立の話も解消に進んでるってことでいいのかな?って首を傾げる。

「マリアンネ聖下と本局の上層部が、少し前に通信で会談を行ったという話も、ミヤビから伺っていますが、詳細は不明です」

「でもさ。いくら反乱を企てたトラバント元団長のやった事だとしても、騎士団が独立をしたのは事実で、それをすぐに撤回することって出来るの?」

クラリスが割と核心を突くことを言ってきた。そうなのだ。管理局上層部内に大隊が用意した幹部クラスのクローンが居て、騎士団独立を後押ししたとはいえ、一度は騎士団の独立を許した。真実がどうであれ、好き勝手に独立や加盟をしていいわけじゃない。

「この日のために頑張ってきたけど、いざとなると気が重くなる・・・」

わたしが溜息を吐くとみんなが「同感」って同じように溜息を吐いた。

「だけどそれを叶えるのが、残された私たちの役目だと思う」

「うん。現パラディン勢が壊滅したから、教会や騎士団が落ち着いたら昇格試験を臨時で開いて、次のパラディンを決めないと」

「ま、ここに居るみんなでパラディンになるとは思うけど」

クラリスの言うように、この場に居るみんなは10年以上とA級1位だから、試験を開けばきっと頂点に立てると思う。トリシュもクラリスもアンジェも、そしてわたしも、パラディンを目指して鍛えてきた。最大の問題は、当時のパラディンが強すぎたってこと。プラダマンテを始めとした強すぎた騎士は全員居なくなったから、まずパラディンになれる。

「イリスはどうするの? 銀薔薇騎士隊(ズィルバーン・ローゼ)の隊長、つまりシュベーアトパラディンは騎士団の象徴でもあるから、局と騎士団の二足の草鞋は通用しないけど・・・」

「うん・・・。そうだよね・・・」

これもまた、いざなれるとなって尻込みする話だった。ずっと目標で夢だった、シュベーアトパラディン。その称号をたぶんだけど手に出来るというのにわたしの胸に去来するのは、どうしよう、っていう困惑だ。理由はセレスが言ったこと。所属部署は違えどなのは達、それにルシルと一緒に局員として働き続けたいからって頼み込んだ、20代のうちは局員として働きたい、っていう母様と父様との約束。

「反乱に加わった騎士の全員を懲戒免職することにはならないと思うけど、それでも著しく弱体化するのは間違いない。イリスが騎士団に戻ってくれると助かる・・・とは思う」

「まぁイリスが納得できる判断をすればいいよ」

「ありがとう、ルミナ」

わたしはベッドにうつ伏せで横になって、枕を抱きしめて顔を埋める。決断は早い方がいい。我儘を押し通すか、局を辞めるか・・・。頭の中で選択肢がグルグル回って、気が付けば眠りに付いていた。 
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