| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ある晴れた日に

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

627部分:桜の枝を揺さぶってその五


桜の枝を揺さぶってその五

「っていうかお花はどれも好きなのよね」
「そうよね。お花なら何でも」
「エーデルワイスだけじゃなくて」
 静華と奈々瀬も言ってきた。
「けれど。こんな奇麗なエーデルワイスって」
「滅多にないし。未晴もきっと」
「やるじゃねえかよ、音無」
 春華はここで正道を褒めた。
「こんな場所に連れて来てな、未晴をな」
「花を嫌いな人間はいない」
 正道はそれを確信していたのだ。
「だからだ」
「そうだよな。花が嫌いな奴なんてな」
「やっぱりいないからな」
 野茂と佐々がそれに頷く。
「それ考えたら今日ここに来たのは」
「正解だよな」
「それでだけれどな」
「次は何処に行くんだ?」
 坂上と坪本が先頭に立って未晴の車を押す正道に対して尋ねた。
「高原の次は」
「何処にするんだ?」
「夏の場所に行く」 
 そこだというのである。
「そこでひまわりを見てもらう」
「ひまわりね」
 茜はそれを聞いて何やら思うような顔になった。そうして言うのだった。
「そういえばひまわりは見てなかったわよね」
「だったな。御前等もそうだったんだな」
「そうだ」
 茜と野本に言葉を返した。その間も車を押していて正面を見続けている。彼は花よりも未晴を見て彼女を守ることに専念していた。
「それはなかったからな」
「いいんじゃねえか?」
 野本は彼のその考えに頷いてみせた。
「それもな」
「いいのか」
「見たことなかったらそれを見せるのもいいんじゃねえか?」
 だからだというのである。
「それもな」
「それなら余計にだ」
 彼はそのまま夏の場所に向かった。そこは一面見渡すばかりのひまわりだった。黄金のフ花々が眩い光の中に輝き咲き誇っていた。
「うわ、これは」
「ここだけ本当に」
「夏じゃない」
 皆そこに入るとこう言って驚きの声をあげた。
「外は秋だっていうのに」
「しかも暑いし」
「夏そのもの」
 まさに地中海、南フランスのひまわりだった。ゴッホの世界である。
「奇麗・・・・・・」
「だよね」
「これは」
 未晴をその中に連れて行く。そのきらびやかな中にだ。
 ふとここで竹山が。こんなことを言うのだった。
「ねえ皆」
「んっ!?」
「どうしたの?」
「ひまわりはね」
 そのひまわりの花を見ながらの言葉である。
「花びらは落ちないけれど」
「ああ」
「それがどうしたのよ」
「種は落ちるんだ」
 このことを言うのである。
「種はね」
「それじゃあその種を」
「どうするっていうの?」
「種を竹林さんにあげよう」
 こう言うのである。
「竹林さんにね」
「未晴に」
「種をあげるの」
「うん、そうだよ」
 まさにそうしてはというのである。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧