魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第34話 砂漠の逃げ水
――side流?――
ありえない。ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない!
目の前のアイツは、私に攻撃を当てた。それ自体に意味はない。この体はその程度なら効かないはずなのだから!
だが、実際は本来の核は無く、挙句の果てには内部回路もボロボロなこの体。ありえない! 攻撃をする度に体がブレる。言うことを聞かない。そもそも魔力を体に満たしている筈なのに、上手く伝達出来ない。何故!?
そして、そもそも目の前で自壊しそうなアイツはなんだ?!
黒を纏った衝撃を当てた後、この身を引き寄せた。否、当てた場所を引き寄せた! その前に、私の攻撃を盾で防いだ時に、射撃を伝って凍らせた。やつの身から感じるのは雷の力。それなのに、氷も使える。凄まじい。だが、それ以上に僅かに冷気が触れただけで……いや、先程まで気づかなかったが、この冷気に……藍色に触れて痛覚を切られた。だが、掠ったことが幸いしたのか緑の後にそれは切れたがな。
そして、引き寄せられた後。風を圧縮してこの身に当てて、弾き飛ばされた時に気づく。この風、否。緑が司るものは触覚もっと細かく言えば深部感覚を奪いおった。
そのせいで、私は海面に入ってることに気づかなかった。この体が何処を飛んでいるのか。目寸でしか測れないのが災いになった。
極めつけは水色。水を使った攻撃で体から奪った感覚は聴覚。アイツが何かを話すことはないだろう。だが、これでは呪文を使った攻撃は行えない……っ!
いやはや、驚いた。驚いたぞ!
「■■■■■■■■!!!!」
耳が聴こえないが、せっかく得たこの体をそう安々と手放してなるものかっ! それに、何が残っていようがいまいが、関係ない。
見たところ、近距離攻撃でしか、それは発動できないだろう! 現代においては知らないが、ベルカの時代においてもそれを使える人間は居なかった。なぜならそれは――
――五感を奪うということは悪魔の術式なのだから!
闇の書にもない、奪うことは叶わなかったオリジナルは確かに凄まじかった。7つの魔法陣から放たれる極光。僅かに掠っただけでも完全に奪う事が出来る力。だが、それは人ごときが扱えるものではない!
それはアイツとて同じことだ。事実、拳に付与、僅かな距離でしか放てない遠隔魔法とは言えない魔法。オリジナルを知ってか知らずかは分からない。だが、その程度で私を攻略できるのものか!
加えてやつは、近代式でも、ベルカ式にも属さない魔法を無理やり制御している。その結果がその様だ! デバイスを使っての制御だろうが、それが反射して負荷を与えていて、今にも壊れそうならば。私は大人しく逃げればいい、戦い合わなければいい。
さぁ、さぁ、さぁさぁさぁさぁさぁっ!
「■■■■!!」
私に見せてみろ。壊れる様を!!!!
――side震離――
「■■■■!!」
聴覚を奪われたせいで、自分の声を把握できず言葉にならない叫びが響き、こちらを見定めるようにした後、持ってた刀を鞘に納めた。
つまり、これは――。
「っぅ……逃がさない!」
頭が痛い。鼻水かなにかが止まらないし、目の前が赤くて見えづらい。痛みで、不快感で、見えづらさで、思考がブレそうになるのを必死に抑えて、処理を継続させる。瞬時に右手の水色を白へと変え、左を、藍を前にして踏み込んだ。
が、僅かな所で当たらない。それどころか、私の動きを読んだ上で回避を組み立てている。
不味いなぁ。こちらの自滅を待たれてしまっては意味がない。
本当ならば、水色を叩き込んだ時に、仕留めるために追撃を、白を叩き込むのが定石なんだろう。だけど流の体を奪った正体不明の相手だ。最大の警戒を払わないといけない――筈だった。
けど、実際は。アイツはこちらのデメリットも看破し、この効果も把握してしまっている頃だろう。完全に裏目に出てしまったなぁ。
だからどうした?
届かないなら、もう一歩踏み込めばいい。あくまでこれは完成品に近い試作品。多少の無理を通して行うこのスタイル。ならば、無理を通すのがいいでしょう。単純な結論だ。当たらないなら当てればいい。そうだよ。
瞬間的に、リンカーコアに魔力を溜めて留める。わずか1秒にも満たない瞬間に魔力を圧縮。そして、解放――爆発させ、この体を弾丸にする。つまる所カートリッジシステムの疑似応用だ。
ただし、カートリッジの様に外部から魔力を打ち込むのではなくて、自分の魔力を僅かに溜めて、内部爆発させて加速。デメリットは勿論ある。内部爆発させる度に、体が痛む。軋む。血が溢れ、鉄の味がする。
対価は払った。故に、一瞬の速度を高速化させ、機動力をあげ、もう一度踏み込む。
右に、左に、上下からの攻撃を。拳を叩き込む。
だが。
「なん……でっ!?」
呆然と、いや、自然と言葉が漏れた。
血が舞い散る。高速移動と攻撃の連続、目で追えない程の突撃速度。だが、拳が当たる直前に鞘で弾き流される。
加速と挙動を利用したフェイントを織り交ぜようと。拳を突けば、その先には鞘が待ち受けている。
背後を取ったとしても、その全てを読んでいたかのように、鞘で容易く受け止められ、鈍い音と共に拳から鮮血が舞う。
ふと視線をアイツへ向けると、ニヤニヤと笑っている。
――おかしい。
同時にエラーが起きる。背後の魔法陣を始めに、両手に展開している魔法陣が一瞬揺らぐが。直ぐに修正・再展開。
だが、何故動きが読まれる? 読まれたとしても、これは分かってなければ対応出来ない筈だ。今この一瞬ならば、フェイトさんよりも早いという自負すらある。もっと言えばこの瞬間、私と同等の速度を出せる者など居ないと考える。
(分からないようなら教えてやろうか?)
「ッ、何を!」
突然の念話に自然と足が止まる。だが、足を止めて分かったのは、呼吸をしているだけで、激痛が奔る。口元を腕で拭うと血が出ている。なるほど、無理した結果がこれか。
(いやいや、近代式でこんなものを開発する者が居るとは。恐れ入った……。惜しむべきは……君の魔力資質が雷系だと言うことだ。秒速800m程度かな? 間違いなく君は今、この次元世界の中で最も早いだろう。だが、所詮は雷化をしていない。あまつさえ……無理をして、生身の限界を超えている)
呼吸を整える。だが、痛みで咳き込んでしまう。再びエラーが発生。それを修正、維持。同時に、藍色の効果を私に適用する。
(何度空気の壁を突破している? 身体強化だけで、盾を付与した程度で。それを超えればダメージは自然と積み重なる。だが、それはこの際どうでもいい。恐らく君はこう考えている。なぜ、攻撃を読まれるのか)
痛みが消える。いや、痛覚を断ち切る。そして、時間は……まだ、3分しか……否。3分も経ってしまった。残り時間は大凡、6分と3分。さっきまでの私を消してしまいたい。素敵なんて言ってた自分が滑稽に見える。
(答えは単純。君が雷の魔力資質だと言うことだ)
次はどうする。もっと速度をあげるか。だが、これ以上は……いや、やらないと。今、30分の内の……あれ。今何分経った? いけない。前が霞む。だが!
コチラに話しかけている内に、もう一度踏み込む!
(技の初めで止めればいい。だが、君は気づいていないだろうが。君が現れる位置。もっと言えば――君が拳を振るう時、私の体に近づいた時、ご丁寧に先駆放電で、位置が分かる上に、先行放電によって)
背後を取った。今なら!
(こうなるんだよ)
「き、ゃあああああああ!!!!!」
伸ばした右の拳を鞘で止められ、今までとは違い、体ごと弾き飛ばされてしまった。
――体制制御。違う、受け身を。否、術式の展開にエラーが、再展開を。ううん、まずは、まずは……。あれ?
訓練スペースの上に叩きつけられた。だけど、そう理解するまで時間がかかってしまった。
いけない、頭が白くなる。
駄目、術式が消えてしまう。
不味い。体の魔力が制御出来ない。
駄目、駄目駄目駄目駄目駄目駄目、まだ。まだ、倒れたら。痛みは切断した。ならば、私は。まだ!
そう思っても、そう考えても、震えるだけの体を起き上がらせることが出来ない。
ふと、アイツがコチラに切っ先を向けて、スフィアを展開、そして――
「■■■■!!」
何かを叫ぶと共に、スフィアが更に大きく膨らんだ。
――side?――
やっと機動六課についた。魔力を消して、気配も薄めてきたせいかな。いやー、参った。数年ぶりにこうして飛んだり跳ねたりしたもんだから。すこし疲れた。歳……ってわけじゃないけど、ここ数年は落ち着いた暮らしをしてたからかな。すっかりお婆ちゃんになった気分だよ。
アタッシュケースも持つのが途中面倒になって、適当な紐で背中に背負い込むようにして運んでる。空を跳んだり跳ねたりする時に余計なもの持ってると嫌だしね。
それにしても、良い景色。その上海沿いは良い風が吹くから心地よい。
「きれいな場所ね」
「……あの人達の地元に似てるらしく、皆さん気に入ってる見たいですよ」
少し前に合流したメイドさん――通称Sさんが横で言う。
なんというか、ちょっと不思議な縁だ。
初めて出会った時は、私も彼も……不明戦力として警戒して、私と戦ったというのにね。
「……所で、その仮面って暑くないの? しかも頭巾までつけて。なんでまた?」
「……まあ、顔も髪も見られたくないですし」
チラリと視線を向ければ、顔を覆う黒い狐の仮面を被ってる。お面って言うのが正しいのかな?
あまりそちらの都合には踏み込まない様にしては居るけど。
さて、改めて辺りを見渡せば本当に良いところだ。
まぁ、そこに二重で結界張ってなければ尚良かったんだけど……。そもそも、張ってなかったら来ないか。
湖の騎士が張った結界は既に解析した。いつでも入れる……問題は、その中は解析進めてた、とは言え類似してるものが無さ過ぎて、移動中にも調べてたけど、もう少しってところかな?
外で人が結界を囲っているところを見ると、恐らくあの結界の中で、流君の体を奪った奴が立てこもってるんだろう。そして、完全に取り込まれる前に結界を破壊して相対しようとしてる。
って言うのが、先程までの予想だったけど、近くにいくに連れて、どんどん焦りが見え始めた。何故? まだ、そんな時間は経過していない。しっかり割って、しっかり対応するのがベストだと思うんだけど。
『Analyse abgeschlossen.』
「……お、解析完了っと。どれどれ?」
胸に掛けたロザリオ……エクスピアシオンからのデータを受け取って展開。
そして、それを目に通し、把握した瞬間。直ぐ様、短距離瞬間移動で湖の騎士の結界の中へ突入。同時に。
「エクス。展開」
『Jawohl.』
バリアジャケットを展開。右手に白い巨大な十字架型の武装を出現させて、大盾を持つように右腕に装備。制限解除と同時にカートリッジを3発使用。瞬時に魔力が体に染みていく感覚に包まれる。同時に黒い結界へ向けて、軽く空へと跳んで。
「加減はなし。エクス!」
一瞬キラリと光ったのを確認して、更に加速。十字架の先に魔力が集まり。
「トール・ハンマー!!!!!」
真直に打ち込む。だが、これだけでは足りないのは分かってる。次は。左腕に魔力を集めて。オーバーロードさせる。左腕がはちきれんばかりの力を結集させて。
「見晒せ。ヤルン……グレイプ!!」
ありったけを持って叩き込む。同時に左腕が弾け飛んだ。
そして――
「■■!!」
閃光で一瞬前が見えなかった。だが、先程の湖の騎士の張った結界の中よりも薄暗い場所へ入る。離れた場所の。いや、海上に作られた建造物の上で、血まみれの女の子と、あの人の体を乗っ取ったであろう奴が、今にも女の子に向かって攻撃しようと、そこに居た。
ちらりと背後を見ると、既に穴は塞がっている。なるほど、自動修復機能つきなのね。
そして、突然動いたにもかかわらず、Sさんも着いてきてて、気がつけば白い騎士甲冑を纏ってて感心した。
さて。
「■■■■■!! ■■■■■■■■!!!」
言葉になっていない叫び声が聞こえるけど、無視だ無視。そんなことよりも不味いのはあの女の子だ。
一目見ただけで分かってしまった。何をどうしたらああなる? 既に内部から体は死に始めてる。直ぐに助けなければ不味い。
体の……いや、内部の損傷も激しい。だが、主に損傷が凄まじいのは脳だ。短時間で酷使されたせいか、様々な場所に負荷が現れている。いつ廃人になってもおかしくない。
だから、まず私が成すべき事は。
「……助けた後に、封印処理。15分程度で決着つけなきゃね……!」
さぁ、始めようか!
――side響――
一瞬だった。何かが転移して入ってきた所までは、全員気づいた。ロングアーチに居る皆も。地上でバリアを破るのを見守る俺たちも。この結界を維持しているシャマル先生も全員が。
だが、その後は視えなかった。
転移の場所を振り返って見た時点で、対象は既に俺の後方に。見た場所には空薬莢が3つ宙を舞い、地面へ転がった。
同時に背後から高出力の魔力が溢れているのが分かった。振り向いてその姿を確認した時には、稲妻が奔ったのを見ながら、右腕に巨大な逆十字を持って、結界の前で拳を振りかぶるように構えているシスターの姿と、それを追いかける黒い狐の面を着けた女性。
そして。トールハンマーと叫ぶと同時に、結界へ逆十字を叩き込んだ。激しい閃光と溢れ出る稲妻で切っ先は見えない。だが。打ち込む直前に逆十字が可変し、人の拳大程のピアスが現れたのは視えた。
だが、それでも割れない。いや、正確には、なのはさん達3人の同時攻撃よりかは打ち抜けそう。でも、後一手足りない。
しかし、今度は叩き込んでる右腕をそのままに、左腕を握り込み稲妻が拳に集まる。だが、その出力はどう見ても許容オーバーだ。あのままでは腕が持たない。
やめろ、と叫ぶよりも先に。
ヤルングレイプ。そう言って左腕を叩き込み、結界に人一人分通れそうな穴が空き、中へと吸い込まれていった。
激しい閃光と共に現れ、消えていったシスターと狐の面の人。後に残ったのは肉が焼け焦げた様な匂い。つまり、あの女性は結界を破る為に腕を犠牲にしたという事。閃光で詳しくは視えなかった。だが、間違いなくダメージが残ったはずだ。
正直エリオとキャロと離れてて正解だと思った。突然の強襲に、結界破り。腕一本捨てての攻撃。いやいや。本当に。
――何だあれ?
いやいやいやいや、おかしいだろう。こちとら、今フェイトさんのリミット外す準備と、地上三点。上空一点集中の攻撃用意してる最中に、突然現れたと思ったら、一瞬でやりすぎだろうが。そして、一瞬見えたあのシスターの顔は……。
『響! 今そこになんか居なかった!?』
「え、あぁ。ライトニング5より各員へ。ロストロギアを持ち出したであろうシスターが、デカイ十字架担いで、結界殴って穴開けて、内部へ侵入した。以上」
一瞬の間。そして、俺の周りを囲うようにモニターが展開し。
『真面目に言え!!!』
色んな方々から怒鳴られた。
ただ、唯一紗雪だけは、驚いたように目を丸くしてるのが気になるが、
「……一瞬だった。入ってきたのを確認した時にはもう、結界の前まで踏み込まれてた。情けないが動きがどうじゃない。疾くて分からなかった。時雨、それより内部はどうなった?」
『……その人が入る少し前に、震離が訓練スペースに叩きつけられてから映像は途切れて、今再接続中。ただ、震離のバイタルはレッドゾーンだけど、まだ生きてる。それは本当』
「……そうか」
こんな時に安心してしまう。今でも中ではアイツが死にかけてるのに、俺達は外で見てることしか出来ない。いや、だが……。
『そして、もう一つ。今の人? その人の攻撃で障壁のレベルが大体わかった。推定でSS。仮にフェイトさんを外しても……破壊に時間がかかってしまう』
「……そうか」
ふと視線を結界の上へ。なのはさん達がいる場所へ向ける。ここからは見えないが……。
「上空は?」
『なのはさんがリミッターを外す様に要求してる。だけど……』
「……あぁこれははやてさんが正しい。今ここでなのはさんまで外してしまえば、後が無くなってしまう。この判断は正しいよ」
深いため息が漏れる。分かってる。正しい判断だと。それはなのはさんも理解してるだろう。だけど。
なんとかすれば手が届くかも知れない。手が届く筈の距離にいるのに。遠いんだ。そして、そこで死にかけてる。映像を見ている限りでは、圧倒的な機動力と突破力を用いて……アイツ本当にAなのかと言わんばかりの動きを見せていたし。間違いなくあの一時は誰よりも疾かったし、無理をしているのも分かった。なのに。
――一切届いてない。
それどころか。一手毎にその精度は上がっていた。そして最後には完全に合わせられた。何よりも最後の一撃すら読まれて……。
『響。内部の映像の再取得なんだけど、もう少しで出来そうだよ』
「ありがとう。なら俺はエリオとキャロの元へ行くよ」
『了解』
未だにノイズが激しいモニターの映像を見ながら歩きだす。
あぁ、悔しい。何も出来ないことがこんなにも……っ!
――side震離――
「……助けた後に、封印処理。15分程度で決着つけなきゃね……!」
とおくでこえがきこえる。だめ。いみはわかる。だけど、きゅうそくにあたまがまわらなくなる。しろくなる。
(直ぐにそこへ行くよ。助けます。落ち着いて、生命維持に全力を注いで)
じょせい……? でも、わたしはとりかえさないと。
(大丈夫。あの人の――ヴァレンの後継者を。流君を助けるから)
ゔぁれん……? こうけいしゃ……? それがあのときのあいつ……?
(うん。私が助けます。だけど、貴女も助けないといけない。そのままでは死んでしまう)
わたしよりも、あのこを……わたしなんかいいから……。
(……なるほど。貴女か。なるほどなるほど。その感情は恋かな?)
こい……。
うん?
恋!?
「違っ…‥つぅ!」
(ほらほら無理しない。無茶な駆動してたんだから痛いのは当然でしょう?)
あー、危ない。本気で今死にかけてた。いや、でも恋って……恋って!
瞬間的に体が熱くなる。特に顔が熱い。顔を覆いたいのに、痛くて動けない……ヤダもー。
けど、見てるだけしか出来なくて、悔しいけど。ここはあの人に任せよう。あ、でも待って。あの人って……誰?
(フフフ。通りすがりのシスターですよ? すぐそちらへ行きますのでお待ちを)
……というか心読まれてるー。こわーい。
――side?――
さて、とりあえず、だ。
「救出優先。メギンギョルド起動。行くぞ」
『Jawohl.』
武装を収めて体を軽くする。威力、破壊力なら生半可なデバイスに負けない自負はある。だけど、個人的にはあまりいいものとは思えないんだよね。
ふと、スフィアをコチラへ向けて、解せない顔をしているアイツの姿が目に入る。
そんな顔をしていることがわからないて、少し考えてから把握。そういう事か。
「フフ、あれは剣で、籠手で、盾で、銃なの。必要ならば使うけど……今はいらないから片付けた」
そう言うと、眉間にシワを寄せたと同時に、チャージしていたスフィアから砲撃。
あらやだ、気に触っちゃったかな?
流石、あの女の子にとどめを刺す為に溜めていただけあって、良い収束率と、スピードが出てる。中々良いね。
一歩踏み出して。
「大丈夫……って、これは……ヤバイね」
目の前で血塗れになってる女の子の様子を確認して、ちょっと絶句。
「……え?」
不思議そうにする女の子を尻目に、急いで治癒の用意を進める。
「■■■■!!」
背後から怒号が聞こえる。それにともなって魔力がまた上がったのが分かる。
「エクス。あと、お狐さん、防いどいて」
「了解」
そう言うと、背後から迫る魔力が途切れ始めた。まぁ、見なくても分かるから良いけどね。
「で、お嬢さんや。お名前は?」
「え、あ、シンリ。カナミ・シンリ……です」
「そっか、シンリさんか。よろしく。で、早速なんだけど」
血濡れでキョトンとするシンリさんの顔に両手を伸ばして。両方のほっぺを摘んで。
ぐいーっと。
「いひゃ、いひゃいいひゃい!」
「あのねー人間? 内部で魔力を爆発して加速度的に強化を得る、その考えは間違ってないけど。しっかり確立させて、安全に出来るようにしてからやりなさい! 貴女見た目以上に中身ボロボロよ?! 中から死んでるって下手な拷問よりも辛いことをしてるんだよ? 分かる?」
「いふぁい、だっへぇ、こんくらいしにゃいひょ、じはんは!」
グニグニと頬を引っ張る。涙が溢れると同時に、血涙となって流れ落ちてく。よしよし、そのままどんどん流して-。
「時間? あぁ、取り込まれるって話? それなら私がなんとかするよ。その為にわざわざ物持ってきたんだから。まぁ、貴女の治癒と、調整で時間取るけど」
ポロポロと血が混じってた涙がいつの間にか普通の涙へ、そして、目に入ってた血もある程度流れたのを確認して。
「よし、これではっきり目が見えるようになったでしょ?」
パッと手を離して、ムニムニと両頬を優しく揉む。いやー若い子はいいねぇ。体の色んな所がやわかいもの。
やわかい事は良いことだ、うん。
「……あの、そのなんで、こんな?」
「ん? いや、深い意味は無いよ。無いけど、正義も悪もなく、必死になって助けようとしている人が居た。だから私は手を出した。それだけだよ。取るか取らないかは貴女次第」
「……」
腑に落ちてないけど、納得と言うか理解してもらえたかな。少し硬かった頬がもっと柔らかくなった。さて。術式展開の準備を開始して、と。
「シンリさん? あなたが良いと言うなら、私は魔力にモノを言わせた治癒魔法を掛けます。怪我は治るし傷も残らないと思う。ただし、数日は激痛に襲われるけど?」
「よろしくお願いします」
「即決かー。早いね。分かった」
「だけど、その前に一つ。名前を……聞かせてください」
そう言われて、自然と顎に手を添えて、考え込む。いやー、今の名前を教えてもいいけどもう偽名ってもうバレてるだろうしなぁ。うーん。
「名乗る程の者じゃないよ」
「……響のお母さんに似てて、それで……」
ピタリと、手が止まった。この子が響君と知り合いなのは知ってたけど、そうか、この子もあの子に……。なるほどね。
「……気まぐれで教えてあげよう。ただし、対価は貰うし、この事を口外しちゃ駄目だよ?」
「……はい」
あら、一瞬目を逸したと思ったら、ニコッと笑ってくれた。フフフ。試されたのかな、私は?
「ならば、名乗りましょう。今使ってる名前はマリ・プマーフ。そして、本名は――」
――side?――
あそこで治療を開始しようとする女2人に様々な射撃で攻撃する。砲撃、乱射、散弾、弾幕として様々なものを織り交ぜる。
だが、一発足りとも届かない、それどころかコチラを見ることすらしない。
強いシールドが張られている……かもしれない。だが、それ以上に。
あの十字架と、黒い狐が邪魔だ!!!
防いどいて、と言われた時にシスターの背後に現れ、十字の左右のアームが分離。3つに分解されたと思えば、それぞれが大きな盾を展開し、浮遊し始めた。
その程度なら破れると、様々な砲撃を行うが全て防がれた上に、コチラから突っ込んでも傷一つ付けることが出来ない。
その上、護りに徹している狐も雑魚ではないと分かる。斬り込んで来ないというのが気にかかるが……。
いや、そもそも。勝負にすらなっていないと悟る。
最初に撃った砲撃。捉えてはいないと思っていた。だが、シスターは私を抜き去り、倒れてる奴の側へと気がついたら居た。視えなかったとは言え、特に何かをした訳ではないだろう。故に分かってしまう。それが出来るということ人物だと。
逃げなければ、そう考えた瞬間。目の前に光の柱が立ち上がった。
見れば倒れた奴を中心に光は立ち上がり、シスターはその様子を見守っている。光が収まると……。
「痛ったああああああいいいいぃいい!!!!」
耳をつんざくような声が響き、倒れてた奴は自分の体を抱きしめるようにしながら、のたうち回っていた。そして、瞬時に背筋が凍った。
視線をシスターへ向けると、コチラを向いていないのに、照準をコチラへ向け終わったかのように、ゆっくりと立ち上がり、振り向いた。まだ遠いのに、まだ構えてすら居ないのに。
そして。
「さぁ、時間は与えた。死ね」
遠くに居たはずのそのシスターが、目の前で微笑んだのを最後に意識が切れた。
――sideマリ――
少し心苦しいなーとか考えつつ、意識を落とした流君の体をバインドで縛り、三角形の盾を正四角錐に設置、この中に横にして、と。
「よし、拘束完了。まぁ、ここまでする必要は無いけど、起きられたら面倒だからね」
眠るように意識を失ってるのを見て、自然と懐かしい気分になる。
そう言えば。気がついたらのたうち回ってる筈のシンリさんの声が聞こえないなーと思い、振り向くと。
「……うわぉおぉおお、痛覚切ってんのに、なんでこんなに痛いのぉぉぉおお」
ガタガタと震える体を抑えてた。まぁ、あんだけ無理したら……って。
「痛覚って……。そんな術式、近代ベルカ式にも、ミッド式にも無いでしょ? なんで使えるのさ?」
「……独自開発で憶えた口ですよ。それができる子なんです」
……あらやだ凄い。なんで知ってるの? とかそういう突っ込みは置いときまして。
痛覚と言うより、五感を切るという術式は遥か昔に途絶えたはずだ。五感強化もさじ加減を間違えれば廃人になる可能性を孕んでるし。
凄い辛そうな表情で、私を見て、少し考えてから……。
「バレてるってことは置いといて……五感強化で戦ってる人を知ってますし、何より魔力で、ブースト出来るのなら、その逆も然りじゃないですか?」
「……あー、そういう。なるほど……。なんで脳に負荷が掛かってるのかわかった……貴女それ、デバイス抜きで自分で演算して制御したんでしょ?」
思わず頭を抱えてしまった。恐らくシンリさんは戦闘中にそれを駆使して戦ったんだろう。恐らく無傷で捕らえる為に。いや、でも待った。
「……管理局員ならストレージでもデバイスあるでしょ? それは?」
スッと指差す方向に視線を向ける。そこには一本の杖が魔法陣を展開しながらも直立していた。
「……万が一デカイものを打たれても良いように対策打ってたんですけど、そもそも私の方が攻略……というか、放置にあってそれどころじゃなかったんです」
隣で説明を聞きながら、ふと思う。なんだあの杖? ミッドとベルカの魔法陣が重なってるけど……。
「……私の説明は以上です。あの、なんであんなに疾く動けたんですか?」
「え、普通に……っては思わないよね……アハハ」
じとー見られては下手な言い訳も思いつかないし、そもそもこの子ならわかりそうなもんだけどねー。
「アナタの術式の完成版。ただし過程も何もかも全然違う。結果だけが類似してるもの」
「……!」
ふと目が見開いたと思ったら、何やら納得した表情に。
「完全雷化。それは目指したい境地ですけど……まさか存在してるとは」
「フフフ、年の功っていうのと、大昔の知恵ですよ。さて、と」
背中に背負っていたアタッシュケースを取り出して『相異の鏡』を中心に魔法陣を展開して、と。
縛られている流君の体から黒いモヤが現れ、鏡へどんどん吸収されていく。
そして、吸収され終わった時には、鏡から禍々しい魔力を感じて、再度封印しまして、と。結界が急速に弱まっていくのが分かる。もう少し持つかと思ったけど……これは駄目だね。
「終わった、と……さて、シンリさん?」
「なんですか?」
「約束、守ってくださいね? それと、これ」
首につけていた小さなロザリオのついたネックレスを取り外して、シンリさんに手渡す。不思議そうに首を傾げた後。
「お守りです。そして、回復させた時の説明は忘れないで下さいね?」
久しぶりに見た。こんな子を、なんというか初めて会った頃のあの子たちを思い出す。大事だと思った者に全力を捧げる子を……いや、違う。私はこの子に――
「……はい、ありがとうございます」
空を見上げる。すると結界に大きな罅が入ったのが分かった。ここまでか。そう考えると同時に、流君が眠る場所を中心に小型ランス型のスフィアを多数展開する。
突然の事に身構えるシンリさんを尻目に。エクスを取り出して、剣の部分を向ける。だけど。
(あくまでポーズです。そして、アナタの行動は……わかりますね?)
(……申し訳ないです)
殺意を向けながらも念話では凄く申し訳なさそうに声を聞かせてくれた。ますます良いね。この子大層な演技派だ。
(気にしないで。いつかまたお話をしましょう)
(感謝します)
ふ、と頬が緩むのが分かった。それと同時に、結界が割れた――。
――side響――
映像はいつまで経っても復旧する様子はない。だが。
『ロングアーチより各員へ。結界が急速に弱まったのを確認。今ならば!』
「了解。エリオ、キャロ。割れたら様子見、その後突入。わかってるとは思うけど、無理は禁物。良いね?」
「うん!」「はい!」
少し前から弱まった事を聞いていたけど、ここに来て一気に弱まった。つまり今なら。
「コチラ、ライトニング! 準備完了!」
『こちら、スターズ! 準備完了しました!』
『コチラ、スターズ1、いつでも!』
後ははやてさんの合図を待つだけ。そして。
『撃て!』
瞬間上空を閃光が奔った、魔力が周囲に漏れる。今までは撃ってもなんの反応もなかったけど、今回は放った砲撃が徐々に結界に食い込み、罅が入り、そして、あっけないほど容易く、パリンと乾いた音と共に割れた。
一瞬の閃光と共に、結界が割れた風圧で一瞬怯む。それをこらえつつ内部を観察。そして。
『ッ! え、なにコレ……なんで!?』
? 時雨が信じられない者を見た様に狼狽えてる。通信の向こう側では僅かに優夜や煌の声も聞こえる。その声は総じて一つ。
――誰か居るのに見えない、と。
まさか? そう思って身を乗り出して、最後に震離の姿が見えた訓練スペースに視線を向けると。
確かに4人……流はバインドで縛られシールドで作られた檻の中に、ご丁寧に射撃魔法で囲んでまで居る。震離は黒髪の癖っ毛のシスターに十字架を剣の様に持ち、その切っ先を向けられている。怪我が治ってるとかそういうのは後回しにしても。あの状況は、不味い。
加えてフリーな状態の黒いお面の奴も、コチラがいつ動いてもいいように対応出来る姿勢だ。
そもそもだ。アイツが持ってるあの刀って……いや、そんな馬鹿な。
ふと、シスターがぐるりと、俺達を確認した後、上空に居るなのはさん達の方に顔を向けて。
『あー、あー、テステス。聞こえるかな?』
震離が俺達の前に通信用のモニターを展開した。だが、それを使うのはあそこに居るシスターだ。顔を見せる気はないんだろう。モニターに映るのは緊張した様子の震離だけが映る。
『……聞こえます。貴女は一体?』
シスターの問いかけに、なのはさんが対応する。その間に。
(震離? 聞こえるか?)
(うん、聞こえるよ。大丈夫)
色々聞きたいことはあるけど……今は。
(離脱は出来そうか?)
(無理。こっちも脅されてる。内容は――)
『これを処理致します。なので私達が離脱するまで何もしないこと。それが条件です』
見覚えのあるアタッシュケースを片手で持ち上げて、皆に見えるように晒す。一瞬震離が動いた瞬間――
『動くな、そういった筈よ』
震離の足元にスフィアが突き刺さる。ただ、ここでもそうだ。スフィアが動いた瞬間が視えなかった。
『改めて、私にも都合があります。このロストロギアに用がある。だけど、こんな事態になってるとは思わなくてねー。それで助けた、それだけ……後は、そうだなぁ』
何か考えるように視線を外す。正直動く度に緊張が走る。間違いなくあそこに居るシスターは只のシスターではない。なんというか、実力の底が伺えない。その気になればここに居る全員を倒せるほどだろうし。
『……それを、はいそうですか、といえると思いますか?』
なのはさんが、構えると共に、皆に緊張が走るのが分かる。
『フフフ、面白いことをいいますね。ここで――私に勝てると思ってるの?』
熱風のようなプレッシャーを感じる、肌が粟立ち、冷や汗が流れる。これが殺気を向けられていると否が応でも分かってしまう。ふと、プレッシャーが止まり、苦笑いを浮かべながら。
『冗談です。幸いにも対応が疾かったお陰でいくらでも隠しようがあります。今はそれを優先するべきだと思うけどな』
ふと、はやてさんがすぐそこまで来ていたのに気づく。
「……どういうことや。なんでモニターには映らへんのや、あの人は?」
「それは……どういう?」
「言葉のままや。大きな反応があるのは分かる、なのに映らない。だから今ここに来たんや」
それが本当なら……なんだあの人は?
「で、どうしますか部隊長?」
「……カリムから連絡が合った。この件は聖王教会で片付ける、と。教会騎士から奪われてる以上。身内であっても、や」
聖王教会が問題をすべて引き受けるというのなら問題はない。だが、次の問題は……いや、これこそが本命だ。
「大丈夫や。今日のこれは結界魔術師をどう攻略するか? そういう演習やろ?」
なるほど、そういう事か。そういうことにするんですね。苦々しく笑うはやてさんを見て、小さく頷く。
「……了解です。全力でお付き合いしましょう」
「うん。高町一尉。後は私が代わります」
モニターを展開してなのはさんに伝え、ここからあのシスターを見つめる。その視線に気づいたのか、シスターもコチラを見つけ、小さく会釈した。
「さて、確認を。ここから逃げてもいずれ捕まる可能性の方が高いと思いますが、それについては?」
『……フフフ、それはないかな。で、どうするの? ここで時間を稼がれると面倒だから……分かるね?』
「……わかりました。あなた達が離脱するまで。コチラから手を出すことはしません。これで宜しいか?」
悔しさで、拳が震えている。ここに居る誰だってあの人を逃したくない。だが、流と震離を人質に取られている以上。下手なことは出来ない。そして、今後この問題は聖王教会と、俺達だけの問題になる。表に出ることはまず無いが……それでも、目の前で逃がすことを認めたことに変わりは無い。
『……安心して、とはいいません。預言者の著書であったでしょう? あの予言を覆す為でもありますしね』
「ッ! それは!」
おいおいマジかよ。確かに予言の内容自体は公表されてるとは言え、ここでそれを言うか。
『既に予言は現実となりつつあります。鬼神と呼ばれた人も今は動けません。それに』
「シスターマリ!」
聞き覚えのある声が響くと共に、皆の視線がそこに集まる。
「……アーチェ、ギンガ!」
焦るアーチェの側に、落ち着いた様子のギンガ。
なんで2人が? とか思う所は有るけれど。
「響、状況は?」
「……端的にロストロギアに宿ってた人格が流に取り付き暴走、それを震離が食い止めて、あそこのシスターマリと、黒いお面が暴走止めた」
ギンガの質問に、我ながら端折りすぎる説明を返して自嘲する。
「……何故、それを持ち出して……ここに居るんですか?」
『元気そうねアーチェ。その様子だとシャッハは動揺して口止めでもした?』
取り乱しているアーチェに対し、煽る様に、だけどどことなく寂しそうなシスターマリ。
「今なら……まだ、言い訳が立ちます。だから!」
『……ごめんね。私にもやることがあるんだ。遠い昔の大切な約束。
貴女も騎士だと言うのなら、きちんと備えなさい。彼の翼は既に抑えられている』
「そんなの……!」
予言にも出ていた彼の翼……ということは、物というのは確定したわけだが……やはり兵器か?
『それにね』
そう言うと、あの人を中心に光が集まり、眩く光った。光が収まったと思えば、修道服に多数の赤いベルトが拘束衣の様に巻きつけられ、先程までの黒髪癖っ毛ではなく、肩まで伸びる赤みがかった金髪。そして、特徴的な赤い瞳。それを見て思い出した。
昔、家に来たことがある人だと。
『私だってこんな所で終わるのを見たいとは思えませんしね。また会いましょう』
ニコリと、笑みを浮かべて、両手で修道服の裾をつまみ、軽く持ち上げた。同時に魔力が吹き荒れ、稲妻が奔る。一際大きな稲妻が走った瞬間、何も無かったかのように消えていた。
同時に、流を縛るバインドと、囲っていた盾、スフィアも消えていた。
――――
あの後は2人を医務室へ連れていき、検査を受け直す。流の体は相変わらず戻っていないが、震離があのシスターから聞いた話によると二、三日で戻る……らしい。
で、現在はと言うと。
「だからって震離が無理すること無かったでしょう!!!!」
「だから、30分で取り込まれるっつってんのに、悠長なこと出来なかったって言ってるでしょうが!!!!」
奏と震離の言い争いInブリーフィングルーム。いやーあっはっはっはっはっは……はぁ。
かれこれ10分位こんな感じ。震離の術式がいかに無茶だったのかわかったこともあって、奏に火がついたらしく、無理する場面ではなかったと言ってるのに対して、震離は30分以内で全員揃ったとは限らないから、無茶でもなんでもして時間を稼ぐ必要があったと、対立してる。
ちなみにアーチェは、はやてさんに情報提供しに行って、ギンガはこっちに来ている。
この言い合いに対して、ティアとギンガは理由はわからんでもないと言わんばなりに苦笑いを浮かべているが、スバルやエリオ、キャロはずっと慌ててる。ちなみになのはさんと、フェイトさんはちょっと席を外してる。多分、今後の打ち合わせと言うか口裏合わせだろうな。
震離曰く、怪我した用に見えたのは、幻術だったらしく、実際は特にダメージを負っていない……らしいが、本当の所は分からない。シャマル先生も映像と今の怪我の完治具合が合わないから、幻術だったかもと曖昧な回答だしね。
まぁ、鼻血は吹いて、血涙流したのは事実らしいけどな。デバイス無しで演算したらしくその負荷で血管切れたとの事。で、使った術式を聞いて卒倒しそうになった。
震離曰く、空中機動から、術式の処理演算から、術式展開維持、果ては時間差で発動とか色々してたら色々出たと。
そんなことありえるのかなとシャマル先生に聞いたら、負荷がかかりすぎた結果、血管切れて血が出てしまったと、頭を抱えながら言ってた。今までそんな症状聞いたこと無いと。強いて言えば廃人手前まで処理演算したらありえるって言ってた、裏を返せばそこまで追い込まれていたんだということ。
しかも、震離が今回使ったのは、対象を引き寄せたり、手動で属性変更を行なったりした挙句、限定的な短距離瞬間移動の連続使用もしたせいらしい。短距離瞬間移動の演算処理に集中させる為に杖を置いて居たからキツイって言うけど……。
実際の所本当かどうかわからん。時雨達も今訓練スペースのログを洗い出してるけど、ほとんどデータが破損してたらしく、それでもなんとか復元しようと躍起になってる。映像を出せたのも本当に偶然だったらしく、保存したデータを呼出してもノイズが激しく何もわからなかった。
だから、実際震離が何をしようとしていたのかわからないし、あのシスターと取引をしたかもしれないし、本当の所は何も分からない。震離も脅されてたから分からないと言っているが……どう見てもあの人を気に入ってるようにも見える。
てか、本当に白熱してるなー。
「なら、流が流じゃなくなっても良かったっていうの?!」
「だから、もう少し私達を信じても良かったって言ってるでしょう!」
いやほんと、どっちの言い分も間違っては居ない。それにちょうどいいタイミングかな。さっきから同じこと繰り返してるし。
「ストップだ、二人共。どちらにも立つ瀬はあったと判断できる。これ以上は不毛だからやめとけ」
「「でも!!」」
2人から睨みつけられて、一瞬億しそうになるのをぐっと堪えて。
「でもじゃねーよ。それに冷たいこと言うけど。外組はあの結界破れなかったし、震離はアイツを30分で仕留められたという自信はあったか?」
「「……」」
結果的に結界を破壊することは出来たが、あれは中でシスターが流を抑えてくれた結果だし、震離もあの人が助けなければ危なかったしな。
「……本来なら……六課の面子だけではどっちも死んだかもしれない最悪な展開もあり得た。終わりよければって訳じゃない。だけど分かるだろう? どっちもさ」
そう言うと、気まずそうに顔を見合わせて。
「……ごめん」
「……私こそごめん。無茶したの分かってたけど、それでも届かなくて悔しかった」
まぁ、いい加減止めとかないと、キャロがかなり責任感じそうだしなー。未だに私が封印ミスったせいでって思ってそうだし。つーか、さっきから気になってたんだけど。
「奏さんや?」
「……え?」
ものっすごく、顔が青白いけど……。あ、口抑えた。あ、震離が慌てて連れてった。なんだかんだで鎮火したと判断出来るかなー?
「で、あのシスターさんともう1人が入ったのを見たのは響だけなんだけど、どうだった?」
ティアの質問と共に皆の視線が俺に集まる。まぁ、俺だけだもんな直に見たのは。
「入ってきたのは皆気付いたろ?」
「えぇ、凄い反応だったから」
「で、俺の背後に現れたんだけど、振り返った時点で既に結界の前まで寄られてた。その人が現れたであろう地点にはカートリッジの薬莢3つが宙を舞ってたよ」
そう言うと皆一瞬考え込んで、理解した瞬間青くなる。早い話が。
「……あの人が俺ごと殺すつもりだったら俺死んでた。それほどまでに実力差はあった」
それに気の所為でなければ、あの人は確かに腕が吹き飛んだにも関わらず、なのはさんとはやてさんと話をしている時、腕が戻ってた……。再生能力かもしれないけど、いくらなんでもやばすぎだろ。その上、三人がかりでも罅すら入れられなかったあの結界をあの人は単騎で、しかも穴まで開けやがった……。
しかも内部に入ってからは、震離に掛けられてた幻術を解いて、何の苦もなく、流に憑いてたやつを再封印って……。考えれば考えるほど、なんだあれ? ってなる。
つか、駄目だな。これは。なんかもう雰囲気がもー。よし。
「腹減ったし飯食べよ」
「「早!?」」
「おいおいおいおい、スバルにエリオ? 大体うちで一番二番で食べるやつに言われたかねーよ」
「「いやいや」」
全力で首振る2人をみて、腹立つわー。
「……まぁ、丁度いいのかもね。ほら皆行きましょ。なのはさん達には響が言うでしょうし」
「……わぁお」
これが言い出しっぺの法則かぁ。悲しいわぁ。とりあえず、司令室にいる時雨達4人にも食事取ろうと連絡して。なのはさん達はきっと部隊長室に居るだろうし……。部屋から出ていく4人を見送って、と。
ふと思い出す。凄く色々あったけど、まだクロノさん達と出会ってまだ一日しか経ってないんだよなぁ。
思わずため息が漏れる。正直昨日今日で何度目かわからないけど、間違いなく3桁位いってるんじゃないかと真面目に思う。同時にもう一つ気がかりになってることがある。
預言者の著書
あの場に居た時、一枚だけ俺の目の前に飛んできた物があった。書かれてた内容はこうだ。
――近いうちに逢いに行きます。
一言書かれていた。正直なんのことだろうと頭のスミに入れていたけど……。これはもしかして、今日来たあのシスターの事を指してるんじゃないかと思う。
根拠はない。だが、昨日の今日でこんな事が起きてしまった。偶然にしては出来すぎてるとさえ思えるし。それに、見間違いでなければあの人、昔家に来たことあるんだよなぁ。
それにそもそも歳取って無くない? 何か、昔見たまんまだったし。目の色は忘れてたけどさ。
これは本格的に一度実家に帰るかなー。でもなー……でもなぁ。母さんの部屋を漁るような真似したくないんだけどなぁ。
ダメだ、辞めた辞めた。考え方が全部後ろ向きだし、さっさとフェイトさん達の所に行って、伝えて飯食べよう。
……あ、その前にだ。
「ギンガ」
「? なあに響?」
ギンガに声を掛けて歩く歩幅を合わせて、
「ありがとな。アーチェと一緒に居てくれて」
そこまで言って気づいた。あれ? 俺らの関係っていうか、なんでアーチェがそんな態度をとか、説明したっけ?
ギンガの目が丸くなって、微笑を一つ。
「どういたしまして。アーチェもいっぱいいっぱいだったからね。手助けになったなら嬉しいよ」
……意外というか、なんというか。仲良いんだなーと。
「それよりも、皆強いんだね」
ギンガの言う皆というのは、おそらく震離も含めた皆の事だろう。
だけど。
「あぁ、皆強いよ。自慢の幼馴染だよ」
俺の意図が通じたらしく、困ったように眉を潜めて。
「本当にもう……あ、サボってた分、調査任務ちゃんと手伝ってね?」
「はいはい」
そんな軽口が今はとても楽だなって。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
ページ上へ戻る