魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第33話 大好きな6色、嫌いな1色
――side震離――
話を聞いた時。凄く楽しみだった。だって、地球へ戻った時の姿が凄く可愛くて、普段表情を表に出さない子があんなに慌ててたのを見ていいなぁと思ったから。
記憶を失ったと聞いて、悲しくなった。だけど、ある意味であの子の素を見れるんじゃないかと、期待もした。酷い奴だと思われるかもしれないけれど。
だから――、目を合わせて笑いかけたくれたあの顔は、私にとっては忘れられない顔だった。
無邪気を装って、何かを腹に抱えたそんな顔。瞳の奥に見えた。見えてしまった。
あの目を私は知っている。小さい頃に嫌というほど見たから。
恐らく記憶が無いのも嘘だろう。そして、流の姿を被ったこいつが何をしようとしているのか分からなくて。調べようと思っても、今の私では調べられない。だから、昨日封印した場所……訓練スペースのデータログを展開した。
そして、見つける。キャロが封印処理を行なった時、ほんの僅か、ロストロギア自体が魔力を……いや、何かを照射したことを。その対象が流に向かったことを。
ほんの一瞬の、ほんの僅かな照射。周囲に魔力が溢れてたあの状態ならば気づく人は居なかった。私自身、響が言っていた鏡がどうとかそういう話を聞いてなければ、こんな事考えなかった。恐らくこの時に何かが侵入したか、乗り移ったか。それはまだ分からない。
だが、まだ情報が足りなさすぎる。今のままではまだ、私の思い違いの可能性のほうが高いと判断される。事実このログだって、誤差だと言われれば、まだ反論できない。
なんて考えたら、ご飯食べようと連絡が入る。食堂で食べるかどうしようかと悩んでたら、響が二人分を持って行くのが見えて、そっちについていくことに。スバルやティアが食べようと言ってくれたけど、今の流と一緒に食べる気はしなかった。
そして、響達とご飯を食べて、食事トレイを下げに行った時、はっきり見えた。いつの間にかヴィヴィオちゃんと仲良くなった流が一瞬見せた、あの顔を。
普段からは到底考えられないような歪んだ笑みを。
直ぐに跡を追った。そして、訓練スペースの近くに行った時に、それは分かった。明らかな悪意を。気持ちの悪い魔力を。未だに気づいていないヴィヴィオに手を伸ばした時、直ぐにザフィーラさんが動いて、ヴィヴィオちゃんを保護。
確保に失敗したと判断するや、見たこと無いベルカ式の術で、結界を張った。張ったとほぼ同時に内部へ突入する。並行してザフィーラさんがヴィヴィオの服の襟を加えて全力で後退した。
そして。
「……震離お姉さん? 何故ここに?」
「勘」
相対した。
――side響――
デバイスルームを飛び出して、外へ通ずる非常口を目指す。こんな近距離で、巨大な魔力反応。しかも既に結界まで張られたとある。
『ロングアーチより、ザフィーラさんから連絡がありました。流がヴィヴィオに手を出そうとした所を阻止、同時にヴィヴィオの保護に成功。隊舎内に退避したとあり!』
各員のデバイスよりロングアーチ……いや、時雨の声が聞こえる。そう言えば今日は居ないって言ってたな。ということはあの4人が管制を担当するということ。本来の面子が帰ってくるまでは戦力としては頼れないな、クソ。
「内部の情報は?」
『黒い結界故に内部観測不可能。そして、推定Sクラスの障壁と判断されます!』
それを聞いて自然と舌打ちする。一緒に向かってるなのはさんやフェイトさんも同じ気持ちらしく、苦々しい表情をしている。
しかも一瞬でそんな障壁を張れる。相当不味い事になっているということだ。力を溜めて真っ直ぐ逃げられたりする可能性もある。リミットを外す選択肢もあるだろう。だが、それを発動するにはデメリットがある。
一つ。こちらの封印ミスと取られた上に、隊舎襲撃とも取られるこの行動。危機管理不足と言われるが、これは相手がロストロギアということを考慮すれば、まだなんとかなる。
そして、これが一番の問題だ。リミッターを外せばもう六課としては後が無くなることになる。先日のヘリ撃墜の際に既になのはさんのリミットの解除はされてしまっている。この短期間でもう一度外すわけには行かない。それはフェイトさんも同じ。外せばきっと結界を破壊することは可能だろう。だが、今後の戦いを考えれば、得策ではない。
更には、増援を呼べば、六課の意義が無くなるようなものだ。ただでさえ戦力過多とも言える程の力を持った部隊が、増援を呼ぶ。それはつまり自分たちでは解決出来なかったと証明するような物だ。
ただでさえ実験部隊なこの部隊。常にギリギリで運用されてる上に地上部隊ということを考えれば、即時解体もあり得る。
この場合は、俺達の手で結界を破壊すること。勿論リミットを外しての事だ。はやてさんを含めた隊長陣の5人の承認は降りないだろうし、その手札は切れない。だが、奏達のリミット解除には関係ない。多少の制限はあるだろう。だが、その権限ははやてさんではなく。各隊長が所持している。
(奏? こんな時にすまん)
(……大丈夫。鎮痛剤とか打ってもらったら直ぐに行くよ。それより震離は?)
(わからん。さっきから連絡がつかない。それじゃすまない。待ってる)
(……うん)
念話で奏と話をする。それだけで奏の不調が伝わってくる。本当は出したくないだけど、優夜達は物理的に動かせない、そして、震離にもつながらないとなると。頼れるのは奏だけだった。
「なのはさん、フェイトさん。奏と震離のリミットの解除を申請したいんですが」
「「……」」
非常口の扉の前で2人にそれを告げる。恐らく2人も理解しているだろう。そして。
「分かった。だけど結界破壊は皆で行うよ。いいね?」
「勿論ですよ」
扉を開けて、直ぐにジャケットを展開し空へ飛ぶ。その時になって気づいた。花霞以外の俺が使っているストレージデバイスが無いことに。
――side震離――
周囲を見渡す。訓練スペースの一部分を飲み込んだこの結界。構成されてる結界が真っ暗なせいで、朝なのに薄暗い。そして、訓練スペースと、六課の堤防の一部分しか飲み込んでない関係で、足場が殆ど無い。
私の現在地は、堤防の上に立っていて、アイツはその先の海上の上を僅かに浮遊していた。この結界、風すら通さないらしく、波がどんどん静かになっていくのが分かる。
クスクスと、無邪気な笑い声が聞こえて、視線をアイツへ戻す。するとニヤリと三日月のような笑みを浮かべた後。
「まさか、そんなもんでばれるとは。完璧に演じてた、と思ったんだがなぁ」
「……」
「さて、じゃあ相談だ。これと同等の良い器があったが、それは諦めよう。だから見逃せ」
ニコニコと愛想の良さそうな顔でほざく。だけど、その間に外部と連絡が繋がるかを試す。だが、念話も固定回線も全て駄目だった。恐らく外からも色々試しているんだろうけど。
ふと、わずかに飲まれた訓練スペースに目をやる。無理やりデバイスを引っ付けて、外部と連絡を取れるんじゃないか? と考えたけど、現実問題それは不可能だ。目の前のこいつを抑えないといけないのに、デバイスを手放すのは自殺行為。
そして、恐らく、こいつは流のデバイスのギルではなく、響のストレージデバイスを使っているんじゃないかと予想を立てる。
現に外部との連絡が断ち切られた以上。響の掛けた和服のバリアジャケットは未だに着いたまま。確か、花霞とストレージデバイスをリンクして、どちらも使えるように設定してたはず。
事実、和服で隠れて見えないけど、いつの間にか流のバリアジャケットではなく、支給されてるインナーを纏っているようにも見える。同時にギルも異常事態に気づいているのか、機能を停止させている、あるいは強制的に機能を封じられているか、まぁどちらではあるよね。
「……外へ連絡しようとしてますか?」
視線をもう一度アイツへ向ける。
「……」
「……だんまりですか、まぁ、いいですけどね」
やれやれと言ったモーションを取りながら、深くため息。
「30分。それだけあれば、この体を完全に物に出来る。あぁ、加えて言うが魔力は元々私が所持してたもの。この体の魔力ではない。そして、この体は本来のあの鏡の能力である『相異の鏡』の効果だ。昔とある奴らに封印されてなぁ。いつか良い体と出会ったら出ようと決めてたんだ」
「……」
なるほど。響が言ってた通り、鏡に見えたってのは、効果が発動した時の事か。
さて、もう一度整理しよう。私の勝利条件を。その最前提を。
「……つまらないやつだ。まぁ、後30分あるし。少し慣らしたい所だったしな。遊ぼうか?」
アイツが、自分の腰に刀を出現させ、それを抜いて構える。相変わらず薄ら笑いを浮かべている……けど。
「……30分もある。それまでに結界が割れるまで耐ればいい」
「それが出来ると? お前にこの子を攻撃できると?」
デバイスを、杖を展開し、私の後方で浮遊させ、身体強化を瞳に魔力を送り込むと同時に目の前で火花が弾ける。
「お前はこの子に二度も助けられてるな。訓練の時も特にパッとしない。そんなお前が勝てると?」
呼吸を整える。思考を分ける。こんな術式を展開できる奴だ、間違いなく生半可な攻撃では通せない、通らない。そもそも勝負にならない。
アイツの言う30分なんて何のあてにもならない。だが。この状況は利用させてもらおう。幸い外から見えないのなら、色々使える。AAランクの私にまでリミッターをつけられて、初めは驚いた。出力の出なさに。だけど、それももう慣れた。
アイツの出力はまだ安定していない。だけど、それでも私よりも出力は上だというのは、直ぐに分かる。そして、何よりもあの魔力は流の魔力の延長だ。不純物が混ざってるとは言え、根本は流と同じならば対策はある。
私にしか出来ない方法で。
でもあくまでこれは奥の手だ。だが、どうする? 奥の手を使うにしても、まずはアイツを追い込まなければならない。そして、デカイ一撃を打たせなければならない。
だけどまぁ。見えないこの状況なら。対人魔法も視野に入れて行こうか。
「……ねぇ、聞いてる?」
さぁ。やろうか。
覚悟を決めて、私の背後に手の平大程のミッド式の魔法陣を5つ。くすんだ黄色を中心に、赤色。藍色。緑に水色が周囲を廻る。そして、右手の甲に白、左手の甲に黒のベルカ式の魔法陣を2つ。それぞれを展開させる。
「……貴様」
静かに深呼吸を一つ。体を半身に、腰を落として、両足を開き、右手の平を前に。左手を引きながら握り、弓を射るように構え全身に魔力を行き渡らせ、体のあちこちから火花が落ちる。
「最初で最後の警告。通す為の拳は私も使える。その上でこの術式、受けきれる覚悟はある?」
「ハッ! 何を言って――」
瞬間、踏み込む。脚にその魔力を爆発させ、辺りに電流が溢れる。真っ直ぐアイツの元へ。まずは左の――
「引き抜け。黒!」
届くよりも先に、黒い盾に阻まれる。当然だ、が。
「……ぅぐ!?」
盾を置いたにも関わらず衝撃でアイツが吹き飛ぶ。だが、打点がずれたらしく、右肩を抑えつつ空で体制を整えながら。
「奔れ!」
アイツが持つ右の刀の切っ先から収束砲が放たれる。だが。
「な?! ずれっ……?! だが!」
僅かにずれる砲撃を連射してくるのを、右の白で受けずらす。まだアイツに当てていない以上、ただの固い魔法陣だ。今は。それに当たらないのなら無理にどかさなくていい。私が成すことは、射線をほんの僅かにずらせばいい。
一瞬にして、質より量の連続砲撃……いや、射撃をずらし、距離を詰める。その間に左の黒《シュバルツ》の用意を進めて。
――あと少し!
そう思うよりも先に。僅かにアイツの顔に歪んだ笑みを見た。
「弾けろ!」
瞬間、切っ先から放たれた射撃が弾けるように拡散。だけどね。
「視線へ、藍色!」
瞬時に背後に出現していた、藍色の魔法陣が目の前に現れ盾となる。同時に、左の甲の魔法陣が藍色に変わり――
「そのまま砕け、藍色!」
盾に罅が入りながらも、魔法陣が輝くと同時に、アイツの右の刀の刀身が凍らせる、が。瞬時に手放し、爆発、そのまま爆煙に紛れつつ、私から離れようとする。だが、藍色も僅かに掠ったのは確認済みだ。形はどうあれ、これで二発目だ。
爆煙の中で僅かに光が見えた。だけど、それはね!
「寄せろ、黒!」
右手に移した黒の魔法陣が鈍く輝く。煙の中から光は既に消えて、そのかわりに煙を突き破る様に、右肩を中心にアイツが引っ張られてきた。その顔が驚愕に染まっているのを無視して、すかさず左手の魔法陣を緑に変えて。
「撫でなさい。緑!」
魔力で風を圧縮し、その塊を左の掌打と共に腹部へ叩き込み、弾いた様に飛んでいく、が海面すれすれでアイツは踏み留まる。これでやっと一撃。だけど、黒は再装填が必要。藍色の効果も直に終わる。
それに――
「……貴様。これはどういう事だ?」
ガクガクと震える左手で腹部を抑えながら、こちらを睨みつける。やはり――いや、予定調和だ。その上で私は次の作戦をねらないといけない。
最低でも、もう一度藍色を、そして水色。可能ならば白を打ち込まないと。きっちり入れたんだ。後10分。いや約9分。それまでに、二撃入れなければ、それがリミットだ。
警戒されている以上。もう一度初めからやり直しなんて不可能だ。黒色の内容は間違いなくバレた。恐らく展開した時点で警戒されるだろう。
だが、それよりも、だ。
「……フフフッ」
「貴様……何が可笑しい?!」
おっと、あんまりにも情けなくて、笑ってしまったよ。だって、本来ならば、これらはこんな風に叩き付ける物じゃないんだ。
あぁ、いけない。せっかく上手く行っているのに。両手の魔法陣が消え入りそうに霞む。集中が少し乱れた。
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良し、上手く行った。いや、待てよ? 黄はどうせ使わない。あくまで見せ札として置いておこう。ならば。
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指示は上手く行けたね。現在両手にセットしている。黒と緑が鮮やかに輝き出す。この様子だと背後の4色も輝いただろう。それに合わせて、アイツの表情が曇りだす。
ふと、視野が狭まったのが分かった。アイツ? 流? その姿しか見えない。
ほらほら、せっかく可愛くしてもらってるのに、どうしてそんな顔してるのさ? ほらほらさっきみたいに笑って見せてよ?
やだ、鼻から鼻水みたいな物が流れてきたわ。まぁ、こんだけ忙しいんだ。出るものもあるよね? よって無視。
不意に目の前の光景が赤く変色し始める。見えるのは流の形をした電流の流れだけ。ただあくまで遠目では、だ。
あぁ、あぁ。せっかくの美人さんが分からなくなった。だけど、そこに居るのが分かる。近くに行けば顔は分かる。
吐く息が、呼吸が煩い。心臓の鼓動が早いリズムを刻みだした。煩いけど、まだ無視出来る範疇。さぁ、約8分。二撃を与えに行こうか!
まだまだ足りないんだ、こんな物じゃ。
刹那の一瞬。その時に踏み込む。同時に流も私から離れようと下がる。
でも良いの? 下は海面。貴方は半分脚を浸けているのよ? そこはこの子の得意分野なのよ?
両の魔法陣を、緑を藍色へ、黒を水色へ変えて。右手の平を開いて突き出す。距離はまだある、だが水はそこにある!
「水屑となれ、水色!」
宙を掴む様に手を握る。流の方面から水が爆発したかの様な音が聞こえる。その僅かに、何かが勢い良く抜ける音が聞こえたと同時に。
「■■■?! ■■■■■■■■!!!」
あぁあぁ、せっかくの可愛い顔が台無しになるくらいの怒号が聞こえる。だけど、これで二撃。まだ7分半もある! 前のも含めて、10分と7分! なんて素敵なの! こうも単純に当たってくれるなんて、本当に感動。凄いわ!
遠くで何かを叫んでいるけど。でもバカね。暴れて、取り乱すから、せっかくの冷静さを自分から捨てている。そんなに怒らないの。
さぁ、さぁ。後は白を、何人足りとも穢せることのない純白を叩き込めばいい!
――sideギンガ――
もう少しで機動六課に着くという所で、突然の大きな魔力反応を感じた。
ただ、その瞬間。
「……終わった」
「まだ終わってないよ。ほら、ちゃんとして? ね!?」
完全に意気消沈しているアーチェ。何時も割と元気な子なのに、本当に元気が無い。
……それにしても。偶然起きたにしてはタイミングが良すぎる。
昨日の封印処理、私も立ち会えばまだ何か分かったかもしれないのに……しまったなぁ。
「……これ、多分教会関係だよねぇ……うぅぅんん、最悪ぬぅぅうう!」
「お、落ち着いて、ね?」
中々凄いことになってきた。と言うより……。
「きっと、はやてさん達ならちゃんと分かってくれるよ。ちゃんと私も言うから――」
「……んなことより、響達に合わせる顔がない。あの人達は、ちゃんと約束を果たしてくれた。なのに、こっちのせいで、上から目をつけられる。
はやてさん達とは違った意味で、響達の立ち位置は危うく、とても脆いのに……!」
「……え?」
……あの日、響達の正体を聞いた。元々裏の部隊出身だということ。
だけど、それで立ち位置が危ういっていうのは。
「……裏に居たって事は、管理局が知らないこと、もしくは公にしていない情報も、響達は知っている可能性がある。
もし、今回のこれが大事に発展した場合。機動六課は間違いなく危うい立場になる。
だけど、そうなった場合トカゲの尻尾切りをするように、響達を切れば……」
「そんなこと……! はやてさん達は!」
「しない。だけどね、響達は自分たちから動くだろうよ。特に響が動けば皆が呼応して、それに合わせて動く。
そういう人達なんだよ。昔から……ずっと」
目元に涙を溜めてアーチェは言う。
……そう言えばまだ聞いてなかった。あの日からまだ会っている所を見てないから分からない。でも、こうして話すということは、心から信頼しているんだろう。
それじゃあ尚の事さ。
「私達も現場に行って、手伝おうよ。少しでも負担を減らして、少しでも手助けできるように、ね?」
「……焼け石に水じゃない?」
「さぁ、それはやってみないとわからないよ?」
「……そう、だね。まぁ……できるだけ足掻いてみるかぬぅ……」
少しはいつもの様子に戻ったのを確認して、ホッと一撫で。
さぁ、もう少しで機動六課だ。
――side?――
アタッシュケースを片手に、街の中を――いや、屋上を伝って奔る。
教会で掃除し終わっても気になって、もしやと思い、アタッシュケースを開けてみたらなんとまぁ。昔懐かしい綺麗な『相異の鏡』になっていた。
相異の鏡――その効果は、これを鏡と認識出来た人物。もっと細かく言えば波長の合う人物の性別を切り替える。ただ、それ自体はどうでもいい。問題は私達が最後に見た時、既に何かが封印されているのを確認していた。
ただ、これはもう何百年も前のお話だ。まさか、こんな時にまた会うとは……。ただ、ちょうど良いタイミングだったのかもしれないね。教会に務め始めて、わずか十数年だけど……早かったなぁ。久しぶりの教会生活は楽しかったのに。
それにしても、オリヴィエ様をモデルにした女の子が居て、それが表へ出た。それが意味するのは、もう時間が無くなったという事。私の余生が終わりを迎えようとしているということ。
ただね、今一分からない。彼が消えるのは予定調和。歴史通りだと言っていた。だけど、それは私も同じだと彼は言った。
正直意味がわからない。一番可能性があって、現時点で引き継がせても良い人物は確かに居るけれど。きっとあの子は受け取らないだろうし、人であることを望むだろう。力を欲しているけど、全てを救えるなんて思い上がっていないだろうし。
何より、よく真っ直ぐ、いい男になった。昔訪ねた時はあんなに小さかったのになぁ。そんな人に継がせようとは思わない。
だけど、そうなると、彼以外に私の力を継がせる人は……それに足る人とは誰だろう?
まぁ、考えても意味が無いか。その時が来るまでは分からないしね。って……。
「あら、反応が消えた?」
適当なビルの屋上に止まって、機動六課のある方向に意識を向ける。先ほどまであった反応が消え去っている。
いやこれは違うな。消えたんじゃなくて、これは上から更に違う結界を張って隠したんだ。そして、これを張ったのは……。
「なるほど。湖の騎士か。流石。わずか数分でこれとは。いいね」
再び屋上から飛び立ち、奔る。
本来ならばもう着いてるはずだったんだけど、そもそも機動六課の場所を知らなくて問題が起きる前に動いたら方向が全然違うのと。行ったことのない場所なもんで、転移も使えないし、そもそもミッドで使おうとは思わなかった。
加えて、封印処理等などをやり直してた関係で時間が掛かった。それでもまだ調整出来ていないし。一応、同時に入って数分稼ぐとメイドさんから連絡受けたが、何処まで持たせられるのかも分からない。
到着と同時に
ま、着いてから考えましょうか。それにしても、情けない限りです。さぁ、このままだとまだ数分は掛かる。もう少しだよ。
――side響――
「中に震離が入ってる?! なんで!?」
黒い結界から少し離れた地点で、ロングアーチからの報告を受けて反射的に怒鳴ってしまう。モニターの向こうで顔を顰める時雨。
やっちまったなんて思いつつ、視線を周囲に向けると、ティア達もなんとも言えない表情をしている。
『知らんがな。訓練スペースの付近のログ漁ったら、ザッフィーさんと入れ違いで入ったっていうのを確認したけど、それ以上はまだわからないよ』
「……まじかよ。中の様子は?」
『そうだねー。スペースの一部を結界が入ってるから……今紗雪と優夜がなんとか内部観測を……え?』
話している途中にも顔を横に向けた。なんだろうと考えていると。突然に空が薄暗くなった。
自然に首が上を向き、空を見上げる形になる。すると、結界の更に上空にシャマル先生の姿が見えた。なるほど、こうして隠せば言い訳が立つ訳だ。
空で待機していたなのはさんとフェイトさんが、シャマル先生の元へ集まった。恐らくこの後の対応について検討してるんだろう。
『ロングアーチより各員へ。内部の映像の獲得に成功、直ぐに出します。ただし、音声までは獲得出来ませんでした申し訳ない』
「了解。映像くれ」
そう言うと直ぐに内部の映像が映し出さ、ノイズで画面が乱れつつも、徐々に落ち着いて、そして…‥。
『「は?」』
誰が言ったのか分からない、通信の向こうからかも知れないし、自分の声かもしれない。だけど、それでも言えるのが。
モニターの向こうに映る震離の姿に衝撃を受けた。
顔の至る所から血を流して、真っ直ぐ流を抑えようと相対する震離の姿を。
ノイズが混じって映像はブレているけれど、目からは血涙が流れ、瞳は紅く染まり。鼻血もずっと流れているようにも見える。両手の甲には違う色の魔法陣を。濃い青と薄い青の魔法陣。そして、背中には今にも消え入りそうな黄色を中心に、赤、緑、白、黒の4色の魔法陣が回っている。しかも白と黒の魔法陣はベルカ式で、他の5色はミッド式ということもあって、とても歪に見える。
対して流の方は。何かを叫んでるように見えたかと思えば、突然腹部を抑え、痛そうにしている。そして、再び震離を睨みつけながら何かを叫んでいた。
「時雨。これより前の映像は取れるか?」
『……試してるけど。無いと思って。それで? あれは何?』
「……すまない。俺も分からない。そもそも震離が素手で戦うことに違和感しか無いんだ」
実際、あり得ない……ということは無いが、震離が素手で戦おうとしていることに驚きしか無い。杖を使った射撃戦。杖に魔力刃を取り付け斬り合うことはあっても、今のような素手で戦おうなんて今までしなかった。なのに何故、今になって?
そもそも今震離の身に何が起きてるのか、それすらわからない。そもそもあの震離の血は流にやられた物かどうかすらわからないし。俺のデバイス持っていったの流なのかよとか、色々な情報のせいで整理が追いつかない。
「……あんた大丈夫?」
「……え、おう。大丈夫よティア。そんな顔してるだろ?」
「いや、全然大丈夫そうじゃないわよ。顔白いし」
何か凄い心配そうな顔でティアが声を掛けてくるけど……。
「大丈夫だって、だってよ」
『そこのバカ野郎。どう見ても冷静さもクソもないって言われてんだ。認めろ』
「……ぐ」
小さくモニターが開き、呆れたような顔をした煌に言われる。そして、背後に人の気配を感じて、振り向くと。
「絶不調な私よりも顔色悪いなんて、らしくないよ」
医務室で見たときよりも顔色が良くなった奏がそこに居た。
「……悪い」
「いいよ。で、ティア? 私宛の指令とか聞いてない?」
「なのはさんからの連絡。空へ上がって、説明を聞いてって。私達5人は地上の包囲。私とスバル。そして、残ったライトニングの3人でそれぞれ結界が破れたら直ぐに包囲出来るようにって」
「了解、それじゃあ行ってくる」
目の前でティアと奏のやり取りを見ながら、少し頭を冷やす。奏がデバイスを展開する前に、真上を見上げて、深呼吸。
良し。落ち着いた。
そう思って目の前を見ると。ちょうど奏が空へと上がっていく所だった。
「さて、それじゃあ……ティアの所は大丈夫だろう?」
「勿論。あんたこそ、エリオ達の足引っ張らないのよ?」
「どうだろ。弱いからね俺は」
ニッと笑い合う。そして。
「これより各員、配置へ向かいます!」
「了解!」
そして、それぞれが配置へ向かった。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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