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ある晴れた日に

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607部分:アヴェ=マリアその七


アヴェ=マリアその七

「あの娘もね」
「そして他の四人も」
「言ったわよね。絆は簡単には完全に壊れない」
 またこの話になった。
「このことね」
「そうよ。そのことよ」
 また明日夢に言葉を返したのだった。
「そして壊れなかった絆はまた元に戻るわ」
「それがあの五人なのね」
「もっとも」
 ここでうっすらと笑って。一呼吸してからまた言うのだった。
「壊れてもいなかったのでしょうね」
「実際は?」
「少し戸惑っただけで」
 それだけだというのだ。
「実際はね」
「そういうものだったの」
「あの絆は壊れるものじゃないわ」
 その五人を見ての言葉だった。
「おいそれとはね」
「そうね。あれはね」
 茜も今の恵美の言葉に頷いたのだった。
「もう相当なものだから。十何年もだからね」
「あの五人は絶対に未晴を見捨てないわ」
 恵美は確信していた。
「思えばね。結局はああなることだったのよ」
「結局は、なの」
「少し立ち止まっただけだったのでしょうね」
 その五人の昨日の姿である。
「けれどまた歩き出したのよ」
「奈々瀬もなのね」
「あの娘は確かに気が弱いわ」
 三人の中でとりわけ彼女と仲がいい茜に告げた言葉である。
「それでもね。悪い娘じゃないでしょ」
「そう思ったことは一度もないわ」 
 これは茜も感じていることだった。その付き合いの中でだ。
「泣き虫だし気が弱いけれど。恩とか忘れたりとかいうのはね」
「だからよ。戻って来るものだったのよ」
「最初からなのね」
「そう、最初からね」
 まさしくそうだというのだった。
「そうなるものだったのよ」
「じゃあ心配するものじゃなかったのかしら」
 明日夢は恵美の話をここまで聞いてこんなことを思ったのだった。
「結果論だけれど」
「いえ、そうでもないわ」
「そうなの」
「気にかけるのは大事よ」 
 それは、だというのだった。
「それはね。明日夢も凛のことが気になったわよね」
「ええ、それはね」
 彼女は五人の仲では凛と一番仲がいい。その仲は時として同性愛を疑われるまでだがとにかく仲がいいのは紛れもない事実である。
「やっぱり。私凛のこと好きだから」
「そういうことよ。気になるから心配する」
「それがいいの」
「私だって心配だったわ」
 今ここではじめて自分のことも話したのだった。
「どうなるのかって」
「それでああなったけれど」
「確信していたんでしょう?」
 茜は今度はこのことを彼女に問うた。
「それは」
「確信はしていたわ」
 それは否定しなかった。
「けれどね。それでもね」
「どうなるかってのは心配だったのね」
「若しそうならなかったら動くつもりだったわ」
 今の恵美の言葉は完全に本気のものだった。
「私もね」
「そこまでするつもりだったの」
「茜も明日夢も同じでしょう?それは」
「そうよ」
「勿論よ」
 二人の言葉は何の迷いもなかった。はっきりと言い切ったものだった。
 
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