魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第29話 距離を詰めて、預かり物の封印を
――side響――
「えー……その二択なら、三択目の流を選びますー」
「あ、あはは」
部隊長室で資料作成のお手伝い中にそれは起きた。その前に少し補足を。
今回俺達7人の経歴を改めて六課の後見人の皆さんにある程度報告するということで、今回俺が呼ばれて資料作成のお手伝いをすることに。
後は単純に艦長補佐してたんなら、大体分かるでしょう? と涙目で頼まれたから、仕方なく引き受けました……。
本当なら今頃FW陣は訓練中だけど、事情説明したら許可が降りたので、午前中はこっちの対応に。
さて、何の話かと言うと。今回煌達4人を事務兼武装隊員として配備するにあたって、ミッドからの家通勤を辞めて、六課の寮へ引っ越すことになった。
それに伴って、部屋割の話になって、煌と優夜、同じ部屋になるならどっちがいい? と聞かれたわけで。
女性陣はそのままで、時雨と紗雪が同部屋になる話で片がつくけど……。男性陣は少し違う。と言うより、あの2人どっちにしてもうるさいから嫌だ。
「まぁ、流が了承してくれたら。の話ですけどね」
「せやなー。そうや、あと一つ連絡なんやけどー」
ちらりと横目で見ると、凄く申し訳無さそうな表情……、誰かが何かをやらかしたかな……?
「流がほぼ完治だから復帰したいっていい出してるんやけど。どう思う?」
「……ぁー」
作業中の手が止まる。砲撃の直撃を受けてからまだ数日。それなのに、流は既にある程度動けてるし、最近は凄い微妙な冗談……というより自虐を言うようになった。怪我の治りが早い事を。
――さぁ、人じゃないからじゃないですか。はははー
死んだ魚の様な目で、真顔で笑う様になりました。ただ、流石にまだ不味いということもあって、相変わらず医務室通いだけど……。
「……うーん。どうでしょう。確かに今朝も医務室に寄った時、震離に話を聞いたんですけど、ほぼ完治してるとは言ってましたけどね」
最近、何処か流とよそよそしい様子の震離。流も病院で目覚めた時そばに居てくれて嬉しかった。的な事を言っていた。
だけど、当の本人が流の面倒を見ているけれど、流を避ける様な、意図的に離れるような小難しい行動をとっているせいで、流も御礼が言えないと言っていた。
代わりに、最近はティアと話すようになってきたらしい。なのはさんとも話すけれど、どっちかって言うとヴィヴィオが流に会いに行くからそれで話すって感じだ。
「ならば、復帰に許可出しても良いと思いますよ。幸い今日は昼から軽い訓練した後ロストロギアの封印作業に入るわけですし。それに何かあればフォローしますよ」
「わかった。なら許可しようか」
直ぐに通信をシャマル先生や、グリフィスさんに繋いで、流の復帰の手続きを取り始める。
そして、最後のなのはさんにそれを告げて、無事復帰へ。
ただ、なのはさんは凄く微妙な表情をしていたし、シャーリーさんは流のデバイスはまだギルしか完治していない事を告げられた。
もう一つのデバイスであるアークは、完全にオーバーホールを施さないと行けないと報告を受けていた。
元々破損していたのを応急処置して直したのに、また破損だからなぁ……。
「やっぱり、焦ってるんですかね。流は」
作業の手を再開し、一つ思い当たる事を聞いてみる。はやてさんの表情は見えないけれど、一瞬手が止まり直ぐに再開へ。
「どう、やろうね。やけど、流は六課へ来てから医務室のお世話になる回数が今の所ダントツやからね。それもあるんやろうね」
「気にしなくていいって口ではいえますけれど、ティアの件も伝えたときには凄く落ち込んだように見えましたね」
きっとアイツの中では、そんな大事な時に医務室にいたって、変に捉えてるかもしれないな。
それが切っ掛けで俺は隊長陣と仲違いをしてたし、最悪な場合。まだ六課に馴染めてない……とさえ、考えてるのかもしれない。
「響から見て、流はどう見える? あ、魔道士、じゃなくて個人として、な?」
「難しいですね。あの子がどういった人生を歩んでいるのかわかりません。人と関わることに臆病で、だけど守りたいって考えられて……多分、本当は凄く人が好きな子だと思います。
訓練の時も、さり気なくエリオやキャロのフォローをしていましたし、スバルとティアへの支援も惜しんでいなかった。
加えて震離を助けた時も、ヘリを守った時も、あの子は自分の身を投げる事に躊躇が無かった。それが今後の課題点かと」
最近は特に、ヴィヴィオと話している時、戸惑いながらもちゃんと笑ってるし。けど、俺たちと話す時もよくよく見れば何処か探るようで、何処か怖がって話をしているようにも見える。
「私も同じ意見。重い過去を持っているし、まだ傷を抱えてる。だけど、六課にいる間に、少しでもそれを癒やすことが出来たらええんやけど、ね」
「はい」
流石はやてさん。いや、部隊長。良いことを言うなぁ。
「……そして、あわよくば写真を」
「なんでやねん」
「冗談や、冗談……フフフ」
……冗談ということにしておこう。うん。あ、そう言えば。
「そういや今日引っ越して来る予定なんですか? 朝見えてませんでしたけど」
「その予定やよー。後はギンガの荷物も来るなー」
「あぁ、調査任務の傍ら向こうから来たほうが楽だって言ってましたもんね。そうすると女子寮騒がしそうですねぇ」
「せや、うちも大所帯になったもんやねー」
「フフフ、そうですね」
他愛も無い会話を続けながら、作業を続ける。さ、昼までには終わらせないとー。
――――――――
「というわけで、同じ部屋にならないかと思って、その誘いに来た」
「……はぁ」
少し早めのお昼ご飯。はやてさんのお手伝いも無事完了して、ちょうど良い感じでお腹も空いたし、時間もちょうどよく訓練が終わる少し前だ。
昼から参加するとは伝えてあるし、許可も頂いてるけれど。なんか気まずくて先にご飯を食べようとしていたら、多分同じこと考えたであろう人物を見つけて一緒に食べてる。
そして、事の顛末を伝えて、終わったところだ。
ちなみにエリオも候補に入ってたけれど、グリフィスさんと同室らしく、良い関係を築いてるらしい。まぁ、俺が来る前に決まってたんだし、仕方ない。
で、肝心の流は少し考えるように視線を外してる。
まぁ、嫌だったらいいんだけどね。突然の話だから。断られてもしゃーないよなー。
「いいですよ。私で良ければ」
フワッと一瞬笑顔で答えてくれた。あんまりにも自然に一瞬の笑顔だったから、つい見とれた。
って、あかん。
「そっか。よろしくな。手続きはこっちで済ませるよ。荷物とか纏めておいてな?」
紙ナプキンで口を拭きながらなんとか冷静を保つ。いや、別に? 私冷静ですし?
「元々荷物は少ないので大丈夫です。それではよろしくお願いしますね」
「あ、アァ。そうダァ。ベッド上下どっチィ?」
「? 開いてる方で構いませんよ」
コテンと、首を傾げて不思議そうな顔をしてる。
やべぇ、なんだこの感情は?! しかも、声が裏返った。落ち着け、落ち着くんだ、俺!
少し視線をずらして、深呼吸。よし。
「なら、上段になるけど。大丈夫?」
「えぇ、問題ありませんよ」
よし、落ち着いた。はて、なーんで大人しいってだけのこの子にこんな揺らされるんだ、俺は?
可愛いだけなら、いや、普通に綺麗なのは……。
「あれ、もうお昼食べ終わってる。一緒に食べようと思ったのに」
「?!?!」
瞬間空いてる席の方に盛大にお茶を吹き出しました。いや、あの。いくらなんでもタイミング良すぎでしょうよ……。
「……何してるの?」
「……なんでもない。つか、奏さんや? 訓練はもう終わったの?」
石鹸のいい匂いと共に、食事を持った奏がいつの間にか隣の席に座ってました。
辺りをくるりと見渡すと、やはり震離だけが居ない。多分、流を避けたんだろうな、これは。そんな事を考えながら視線を流に戻すと、何処か寂しそうな顔をしているように見えた。
「うん。皆もそろそろ来るんじゃないかな? 私は先に席取りに来ただけだし」
「あー了解。そしたら、ぼちぼち行くかね」
「? 行くって……あぁ、そういう事。気がついたら居なくなってたから何処にいったか検討つかないよ」
うーん……。ほしいと思ってた情報を得られず。ちょっと悲しい。まぁ、いいけどさ。やることあるし。
「ありがと。そしたらまた昼になー」
「はい。一つ連絡、昼はロストロギアの片方の封印するってさ。その後は皆書類作業。最近溜まってたみたいだしねー」
「……なんか今日は一日デスクワークだなぁ。まぁいいや。また後で」
「……ぁ」
食事トレイを持って立ち上がる。ついでに流のも持つ。
「気にすんな。ついでだ」
「……ありがとうございます。緋凰さん」
「おう」
そのままトレイ置き場で片付けて、寮の方へ向かう。本当は寮の部屋替え申請出すつもりだったけれど、午後もほとんど書類作業ならば、合間を縫って出すことは出来る。
それに、部屋も綺麗にしておかないと。帰って眠るだけの部屋だけど、偶に煌や優夜が突撃してくるし、エリオとダベったりするし、なんやかんやで物が多い。
そして、ベットの上段も簡単に荷物置いてるからすぐには使えない。
正直な所、プライベートであんまり絡みのない流が了承してくれるとは思わなかった。誘っといてなんだけどね。
しっかし、なーんで流の顔見て反応するんだろうな、俺。男好きなつもりはないけどなー。エリオ見てもなんとも思わんし、弟ーって感じで可愛がれるし。
流の場合、単純に大人しいし、表情をあんまり出さないから、儚く見えてんのかね。まぁ、今は背が小さいけれど成長したら絶対イケメンだしなぁ。ああいう子って。
エリオも背が伸びたら……やばいな。身長……抜かれそう。キャロももう少し背が伸びるだろうし、成長期が楽しみだ。
そう言えば、午後やるっつったロストロギアの再封印、どっちやるんだろうか? あの鏡見たいな奴先にしてほしいなーと、少しだけ思う。
まぁ、どっちもしなきゃいけないけれど、なんかあの鏡は嫌な感じがしたんだよなー。
「あ、響だ-」
「……げ」
寮に向かう道中に、ティア達4人と、なのはさんとヴィヴィオ御一行と遭遇。思わず、げって言っちまったよ。
「あーひどーい。ご飯は食べたの?」
聞き逃さなかったスバルがサラリと流してくれた。
「んー、うん。少し早めに終わったから食べたよ。悪いな」
「「えー」」
「はは、悪い悪い」
俺とスバルの話を聞いてたエリオとキャロが不満そうに言う。ワシャワシャと頭を撫でて誤魔化す。
「どーせ、訓練してないから気まずいとか思ったんでしょう」
「ち、違うわ! っていうのは冗談で、今から簡単に部屋片付けるんだよ」
「本当かしら?」
ニヤリと笑いながらいうティア……いやほんとこいつ、こういう所は鋭いよなー。いや本当に。
「事務4人が寮に入るってんで、部屋空ける為に、流と相部屋になったんだよ。それで簡単に掃除しに行くんだ」
「「「「あー」」」」
「……何処かに行くの?」
なのはさんと手を繋いでるヴィヴィオが不安そうにコチラを見上げてる。あー、なんか勘違いさせたか。
ヴィヴィオの視線に合わせるために、膝ついて、頭に手を伸ばして撫でる。
「引っ越さないよ。流も、俺も暇出来たら遊びに来てもいいし」
「「え、いいの?」」
ヴィヴィオと一緒にキャロも反応。そういやキャロって一度も来たことなかったね。スバルもなんか期待してるけど、別に特に面白いもんも無いし。エリオは事情知ってるからかなんか微妙な顔してる。すると
「ヴィヴィオが行くなら私も行こうかな?」
冗談っぽくなのはさんが言う。自然とスバルがお供します! って言わんばかりに手を上げた。と言うかティアも興味あるわねとか言ってるし。
「特に面白いものもありませんが、そのうちどうぞ。多分その頃には優夜も煌も居るでしょうし」
「そのうち行くよ。ね、ヴィヴィオ?」
「うん!」
元気一杯になのはさんの言葉に応える。いやー、なんというか失礼かもしれないけれど、良いお母さんになってるなー。
さて。
「それじゃ、また昼訓練で」
「うん! またねー!」
ヴィヴィオに手を振って、皆が食堂に行くのを見送る。ヴィヴィオにつられてエリオとキャロも手を振ってくれた、そちらにも手を振る。
さ、部屋掃除に行くかね。
――――
あれから部屋を片して、ベッドメイクも終わらせて。気が付いたら、中々いい時間でした。そのあとは訓練スペースにて、改めて封印処理の説明を受ける。
出張の時に行ったような封印術式をデバイスに宿して、撃ち込む方法の他に、設置魔法の様に対象をその地点に移動して封印する方法等など。いろいろ為になりました。
あと、変わった事といえば……。
「やぁー。久しぶりに訓練スペースに全員揃ったねー」
「そうねー」
スバルと奏がしみじみとつぶやく。そうだよなー、なんだかんだで、俺が謹慎でいなかったり、流も医務室に缶詰かと思ったら撃たれて、復帰はまだまだかと思ったら、もう復活してるしなー。
「まぁ、この後書類仕なんだけどねー……」
震離の一言で全員……正確には流以外の全員の空気が重くなる。俺はまだ整理終わってない部分もあるし、エリオとキャロはまだまだ苦手な仕事。
奏がフォローしているけれど、それでもまだある事には変わりはないし。スバルは出来るはずなのに溜め込んでるし、ティアナはそんなスバルのフォローに回るだろうしな。書類仕事ってホント面倒だー。
「さ、皆切り替えて。で、これが今回再封印するロストロギア……なんだけど」
聖王教会より渡された内の一つ。名称不明の鏡……だったと思うんだけど、よく見れば、何てことない黒い額縁に、鏡ではなくて黒い板の上にガラス? を付けた板の様に見える。というか、これ板だな。
資料データを展開しながら説明するけど、これまた微妙な表情をするなのはさん。
「正確な効果は不明。さらに名前も不明なんだけど、見ての通り半分封印されてるにも関わらず魔力を放出してるの。以前封印が解けたけれどその時には特に影響はなかったみたい。
だけど、解放したときに魔力がなくなり、封印が不完全とはいえ施されたにもかかわらず、また魔力を集めている事から、ロストロギアの判定が下された物。さて、ここまでで質問は?」
周りを見渡すと誰も言わない。ティアだけは納得いかないけどって顔してる。誰もいないなら……。
「じゃあ……、自動で魔力を集めるからなんかこんな禍々しいというか、いやな魔力に感じるんですか?」
「んー。人によって印象は変わるからね……。幸い、外部スキャンしたときには、危険性は薄いと判断されてるよ」
「うーん……でも、ロストロギアなんですよね……?」
「……うん」
なのはさん? 高町隊長? あの、目を見て話してくださいよ。これ本当に大丈夫ですよね? 破壊しなくていいですよね?
「……ほら一応教会から預かってる物だし。再封印したら返さないといけないし」
ということはやっぱり破壊もありじゃないですか、やだー……はぁ。
「了解です。再度確認ですけど、危険はない。ですよね?」
「それは大丈夫。教会に来る前にも何度かあったけれど、その時も特に被害はないと記録されてるよ」
よかった、今度はちゃんと目を合わせてくれた。まぁ、この一連の流れは冗談だってわかってるけれど。やっぱり心臓に悪いです……。さて。
「で、誰が封印するんです、これ?」
言っててなんだけど、俺魔力量少なすぎて封印作業は出来ない。正確には封印術式を誰かに付与された状態ならば、俺でも封印できる。
だけど、あくまで仮封印。対象のロストロギアの活動を止める事しかできない。時間がたてばまた動くし、破られるし。
「そしたら、私が!」
元気よくキャロが手を挙げる。あれ、そういやキャロって……。
「出張の時にもしてたね、そういや」
「うん! あの時は教えてもらいながらだったんだけど、あの時の手順の通り。しっかり物にしたくて」
「そっか、しっかりやんなよ」
「うん!」
やる気に満ち溢れてるキャロの頭を撫でる。うんうん。向上心のあるのはいい事だよ。
そういって、背中をゆっくりと押し出す。なのはさんの前まで行き、ロストロギアを受け取ってる。でもまぁ、キャロなら問題ないだろうし。
「では、始めます。ケリュケイオン!」
『All right.』
そういって封印を外すために周囲に魔力が溢れ始める。おーおー、魔力が溢れるに合わせてどんどんあの板浮いてやがる……。
瞬間、板を通してはっきりと皆の姿が見えた。先ほどまで黒しか見えなかったはずなのに、今ではしっかり鏡としての機能を取り戻してる。
だけど、俺から見えるのはわずかに傾いた鏡。ではこの鏡は、誰を正面に捉えているか? それを確認するよりも先に。
『Sealing.』
一瞬の閃光とともに、溢れた魔力が止まる。気が付けば鏡は元の黒い板に戻っており、キャロの腕の中にあった。
「うん、流石キャロ。満点!」
「ありがとうございます!」
向こうでキャロとなのはさんが話をしている間に、こちら側の面子に変わりがないか確認を……。
「兄さん。どうしたの?」
「え、いや。皆あの鏡見てどう思った?」
心配そうにエリオが声を掛けてくる。頭を撫でながら皆に質問をするけれど、帰ってきた反応は。
「え、いや。浮いたなーとは思ったけど……」
「ずっと、板のままだったわよ」
スバルとティアの言葉に同意するように、奏も震離も頷く。えー、いや……えー……。
「ガラスの部分が反射して鏡の様に見えたんじゃない?」
「いや、でも……。かなぁ?」
何言ってんだこいつ、と言わんばかりの震離の言葉にいまいち納得できない。
でもなー、確かに見えたんだよなぁ……。
「うん? どうしたの?」
そんなことをしている間に、なのはさんとキャロがこちらに来た。だけど、なのはさんも、一番近くにいたキャロも何も言わないってことは、やっぱり見間違えたかな……? 下手に心配させてもあれだしなぁ……。
「いえ、変な反応とかは、なかったんですよね?」
「? うん。いつでもフォロー出来るように用意はしてたけど、特に変わった事はなかったよ」
うーん……ということは、俺の気にしすぎか? うーん……。まぁ、大丈夫ならいいか。
「さ、皆。事務仕事をやっつけようー」
「あ、了解です……あ、そうだ。震離?」
「ん?」
なんか一足先に行こうとする奴を止める。すげぇ機嫌悪そうだけど……。
「なのはさん。俺と震離で訓練場の最終確認やりますよ」
「……え゛」
「……わかった。じゃあお願いしちゃおうかな。よろしくね」
そんな震離の様子が見えたらしく。苦笑を浮かべつつ許可してくれた。奏も察してくれたらしく、手伝おうとしてくれたエリオとキャロを連れて行ってくれたし、流にも目くばせで行くようにお願いする。
小さく頷いた後、なのはさん達と一緒に行った。
「さて、やるか」
「……はーい」
不服さ全開な震離と一緒に点検を始める。いつもなら待機状態で済ませる時もあるけど、今日は完全オフ。午後に封印を回した関係で点けていたけれど、殆どの機能はオフのままだ。
二人で変な事になっていないか確認して最後に電源も落として確認作業を終える。
終わったと同時に行こうとする震離を横目に。
「で、なんで流を避けてんのさ?」
「……」
ぴくりと、体が震えた。普通なら無視して行きそうなもんなのに、この子は立ち止まってくれた。やっぱり、昔から変わらんね。
くるっとこちらに振り向いて。
「……やっぱわかる?」
「バレバレだ、ばーか」
顔を見合わせて、笑いあう。ほんと変わらんね。
――――
「で、距離をとった理由は?」
隊舎のそばのベンチに座りながら隣の震離に話しかける。ピシッときれいな姿勢で座る姿は中々かっこいい。普段からこれくらいしてくれたらいいんだけどね。
「……誰にも言わないでね?」
「約束する」
ホッとする吐息が聞こえた。
「流が盾になった時。はっきり聞こえたんだ。私には盾になるしか出来ないからって」
顔は見えない。だけど、まだ声は震えてない。
「そんなことないって否定する間もなく。砲撃が飛んできて、そのまま直撃。抱き抱えた時一発で分かった。危ないって、命が無くなるようなそんな感じが」
徐々に震え始める。だけど、まだ口は挟まない。
「慌てて離脱して、治癒魔法掛けたけれど……動揺を抑えきれなくて、うまくいかなくて。
だけど、その後さ、シャマル先生と合流して治癒を施してもらって。病院にいた時には大分治ってた。だけど、だけど」
声が震えてる。
「……そんなに早く治る怪我ではなかった。そして、すぐに起き上がれるような状態でもなかった。そうだね?」
「……うん」
隣に座ってるから顔は見えない。
「……それを見て怖くなった?」
「……ち……がう゛。よがったって。死な……なくて、良かったって」
「だけど、自分を犠牲にしようとした流を許せなかった。そうだな?」
「……う゛ん」
一生懸命に声を隠して、震える声を抑えようとしてる。立ち上がって震離の前へ立つ。顔を抑え、泣いてるのを見えないようにしている。その頭を優しく撫でる。
昔とは立場も性格も何もかも変わった。子供の頃。一番手がかかったのもある意味では震離が一番だった。同時に誰よりも付き合いが長い。だからこそよくわかる。この子がどうしていいのか迷っていることを。だから、俺がすべき事は。
「なら、流にちゃんと伝えな。今あの子も迷ってるんだ」
「……っ、……ぅぅ」
「大丈夫。俺を引き戻したんだ。出来るよ。だからさ、胸を張って前を見て、ちゃんと思いを伝えて、流を止める」
「……う゛ん」
周囲に見えないように、ゆっくりと頭を抱き抱えるように包む。昔から泣き虫だったから、よくこうしてたな。最近は奏が見ていてくれたけど。いいんだよ、吐き出したいときには吐き出さないと。潰れちゃうし。
――――
「あ゛ー、すっきりした!」
「おーおー、元気があってよろしいようで」
どれくらい経ったかわからないけれど、ようやく震離が落ち着いて、完全にいつもの様子に戻った。
まぁ、まだ目元が腫れてるけどそれは必要経費だ。仕方ない。周りから何か言われそうだけど、それはもう仕方ないと割り切ろう。
「ねぇ、響?」
「ん?」
「皆が応援してのはわかる。だけど、私は響の思うがままを望んでるよ。だから、ちゃんと応えてよ?」
瞬間、冷汗が背中を伝う。詰まる所この子が何を言いたいのか察したけど……。
「……あぁ、分ってるよ」
「じゃ、そういうことで。仕事戻るよー!」
「え、ちょっとー?!」
全力で走ってく震離の背中を見送る事しかできなかった。ポツンと一人ベンチに残されたわけですけれど。
「……はぁ」
ため息が漏れる。震離が何を言いたいのか分かった。だけど……それならあんな回りくどい言い方しなくていいと思うんだが。それにあの子は……。
あー、駄目だ駄目だ。俺じゃダメなんだよ……。
『響ーあかんわ、助けてー』
「うわっ?! あ、なんだはやてさんだ。どうしました?」
『うわってなんや? うわって? 申し訳ないんやけど、もうちっと手伝ってー。震離も戻ってきたみたいやし、なのはちゃんと、フェイトちゃんからの許可は貰ったからー』
「うわ、逃げ場ふさがれた……。了解です。すぐに行きますよー」
『待っとるでー』
そういって通信を切られる。アブねーいろいろアブねー。つーかあいつ早いな。ここからデスクまで大分距離あったと思ったのにもう着いてたのか。
さ、もう一仕事済ませるかー。
部隊長室へ着いたら、なんで震離泣いてたん? と質問攻めにあいました。くそう。
ついでに流の部屋替え申請書を提出と、煌達4人は今日まで引越し準備で休むと連絡を受けて。
で。
「これで全部かー?」
「はい、これで最後です」
久しぶりに定時で終わったし、さっそく流の引越しの手伝い。といってもそこまで荷物はない。替えの訓練着に、制服と以前出張で買った服。殆ど私物はない。
「緋凰さん?」
「ん? あぁ、悪い。行こうか」
ホントに少ない。段ボール4個だけって……。しかも1つ冷たいし。冷蔵かな? 俺もそんなに物持ってないつもりだったけど、それでも8個くらいあったし。
とりあえず、それを全部運んで、それぞれ部屋に片づける。旧流の部屋の鍵は明日にでも返してくれたらいいと言われてるし。
さて、と。
「とりあえず、以上かな」
「えぇ、ありがとうございます」
片づけ終わって、それぞれ椅子に向かい合う。いや、やっぱ誰かいるのっていいね。
「これから宜しくお願いします」
「此方こそ」
互いに頭を下げる。こういう事ってしっかりしないといけないし。顔を見上げた時に、心なしか嬉しそうに見えたのは間違いではないと思う。
「じゃあ、ご飯でも食べに行くか」
「あ、いえ。せっかくなので作りましょうか? 日本食」
上着を持って外へ行こうとする体が止まる。今なんて? 日本? 日本食?
「……マジで?」
「えぇ、材料は食堂の方からちゃんと購入していますので。ただお口に合うかどうか、それが問題ですけれど」
「……お願いします!」
「わかりました、豚汁を作るのですが、ご飯とおうどん。どちらで食べますか?」
なん……だと……? さも当然の様に、二択を出しやがる……。やばい。話聞いただけでお腹空いてきた。
「……見てから決めても?」
「良いですよ。そうですね……一時間……かからないとは思いますが、お暇だと思うので何か時間を潰しててください」
そういって、今まで使われたことのない簡易キッチンへ向かい、冷たい段ボールから食材を取り出す。
なるほど、だからキッチンの方に段ボール二つも置いてたのか。そうすると、もう一つはお皿とか包丁とか入ってる箱か。道理で重いわーと思った訳だ。
しかもよく見ると、ビンにソースが入ってる。あれ、手作りかな?
なんて考えてると、いつの間にか今日使うであろう食材を並べ、包丁を取り出し、心地よい音と共に野菜を刻み、肉を刻み、まずは野菜を鍋へと投入。箱からボトルを取り出して、それも鍋へと入れる。
水の代わりかな? と考えたがふわりと薫るにおいでそれが昆布を使った出汁だというのが分かった。
火を点け、煮つくまでに蓋を閉じる。今度は箱から土鍋を一つ取り出して、空いたコンロの上に置いた。
そして、台所へ戻り、米をとぎ始める。リズムよく一定の間隔で。研ぎ終えた米を土鍋へいれ、水を入れて火をつけ、中火程度にしたのを確認してから蓋を閉じる。
そうすると豚汁の方がちょうどよく沸騰を始めた。そこにまだ入れてなかった食材を投入し、火が通るまで均等にかき混ぜる。
少し離れているここにまで良い香りがする。
って、違う!
ご飯作ってもらってるのに、何もしないとか最悪やんけ!
慌てて隅に立て掛けてある丸テーブルを取り出し、部屋の中央に設置。クローゼットの中にある座布団を対角線になるように設置。アルコール入りのウェットティッシュを使ってテーブルを拭いて、完成!
そんなに経っていないと思いきや、割と掛かっていたらしく、気が付けば味噌と、ご飯のいい香りがする。
「~~♪」
気が付くと、楽しそうに鼻歌を歌ってる。そういえば、作る前に流が言っていた言葉を思い出して。
「あー……流? ちょっといい?」
「~~♪ あ、ごめんなさい。もう少しで出来るのでお待ちくださいね?」
普段と打って変わって。どこか明るい表情で応えてくれる。いや、本当。いいね。
「あ、うん。今日さ、その。うどんはいいや。また今度お願いしていい?」
「えぇ、構いませんよ」
そういって、豚汁へ目を戻す。それに釣られて俺も豚汁が入った鍋へ目が映る。
くるり、くるりとかき回せば鍋の中で具材が舞う。
時折見える豚肉は美味しそうで、豚汁の香りは何も入ってないお腹を刺激する。
邪魔しちゃいけないと、備え付けの椅子に座ってその様子を見る。気が付けば、台所上に食器が置かれている。
すると突然こちらを見て。
「ごめんなさい。今日小鉢を用意できなかったので、ご飯と豚汁だけになってしまいますが……」
「全然OK大丈夫。全然問題ない大丈夫だ」
「ありがとうございます。足りなかったら残ったスープにうどんを入れますので」
「全然OK大丈夫、問題ないぜ」
語彙力が下がってるけれど、それでも大丈夫だということを伝える。いやだって、ここまで良い匂いがするんだ、あれでおいしく無いって嘘だろ。
土鍋の蓋を開け、中を確認。問題なかったらしく。土鍋の火を止め。両手にミトンをつけて土鍋をこちらに持ってきた。それに合わせて丸テーブルの上に読んでいない雑誌を置いて、その上に土鍋を置く。
「ありがとうございます」
「いいよ、気にするな」
テーブルに置かれたご飯を見る。しっかり米が立っており、これだけでも全然おいしそうだ。
豚汁の方も出来上がったらしく、火を止めて、少し大きなどんぶりに注ぎ始めていた。注ぎ終えて両手にどんぶりをもってやってくる。
「ありがと、一つ持つよ」
「ありがとうございます。この大きな方が緋凰さんです」
そういって渡されたどんぶりを見て、またお腹が空く。もう見た時点でわかる。絶対美味しい。
テーブルに置いて、ご飯茶碗に炊き立てのご飯を盛って。
「「いただきます」」
息を吹きかけて少し冷まして。少し啜る。わずかな時間で作られたとは思えないほど、いい味付けだ。しつこくないし、体も温まる。何よりホッと出来る。
美味い店は沢山あるけど、美味い店って飽きやすいんだよね。だけど、ホッとする味付けを出来る所は本当に少ない。
「うん。美味しい」
「良かったです」
――――
「いや、ホント。ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
食後の緑茶をいただきながら一息つく。
いやほんと、本当に美味かった。やっぱ豚汁って正義だわ。これだけでご飯食べれるし。
何よりも。久しぶりに米食ったわー。しかもちゃんとした美味い米。炊きたては正義。はっきり分かんだね。
「料理作るの趣味なの?」
「趣味というか、なんというか。レーションがあまり美味しくなくて。それで」
レーション、ね。普通中々食べれるもんじゃないと思うんだけどな。
「そっか、ホント美味しかったよ。皆にも作って……は、駄目か」
「……ナカジマさんと、モンディアルさんの食事量を見ていると、賄えるかどうか」
そうだよなー。一番の鬼門があいつらなんだよなー。一度の食事量が凄まじすぎて……でもな。
「名前で呼んでやんなよ」
そう言うと、一瞬で顔が赤くなり、湯呑みで顔を隠そうとする。なんでいちいちこの子は女子力高いんだろう? その女子力震離に分けてあげて欲しいわ。
「……今更呼ぶのは、どうかと」
「ヴィヴィオの前だといい感じなのにな」
「……言わないで下さい」
でもホントこいつ女子力たっかいわー。それにしても目の前でこんな初初しいリアクション取られたら、震離やはやてさん達の気持ちがよく分かる。
こりゃ写真取るわ。加えて、女装させて撮ったって事は、更に取られる。はやてさんのコレクションも別に消さなくてよかったかもしれんけど、その知り合いに熱が入った時点でなぁ、もうヤバイんだよなぁ。
何より、クロノさんが持ってたってことは知らない所で広がってそうだ。それ以前に下手すりゃ六課の中でも広がってそうだなー。今度カマかけながら調べるか。
ふと、壁掛け時計が目に入る。ちょうどいい時間だし……さて、シャワーでも浴びに行くかね。その前に。
「食器片付けるよ」
「あ、台所に置いてて下さい。洗いますので」
「え、いや。ごちそうしてもらってんのに……」
「構いませんよ。代わりに食材頂いたらいつでも作りますので」
「……マジかよ。なんか買ったらそん時お願いな?」
「喜んで」
カチャカチャと台所に置いて水につけておく。こうしておくと楽だしね。
「そしたらよろしくね。ちょっと出てくよ」
「えぇ、いってらっしゃい」
やっべー、この子甲斐甲斐しいぜおい。廊下に出て、誰も居ないことを確認して。
「普通だと思うんだけどな-、俺」
盛大にため息吐いて、深呼吸。うん、ちょっと雑念消してこよう。そうしよう。
――――
ここで悲報が一つ。今部屋の前で一人膝と手を廊下についております。なんでかというと。
FW陣……正確にはティア達4人既に寝ておりました。そうだよなー、最近あいつら寝るの早いもんなー。花霞に頼んで各員のデバイスに連絡入れたら、皆寝てんだもんなー。
今日はそれほど動いてなかったかもしれないけど、普段がキツイからなー、最近セカンドモード主体でやってるからか、まだ体が慣れてないみたいだしよー。そのせいで早く休んでしまったし。
あー、ご飯だったら一緒に食べれたかな……。いや、でも、せっかく作ってくれるって言ってくれたのに断るのもなー……。ま、明日なんか言われたら謝ろう。うん、そうだそうだ、そうしよう。さて、部屋の扉を開けてっと。
「ただいま」
『……おかえりなさい緋凰様』
「よう、ギル」
流の机の部分にギルが置かれてる。でも部屋の電気はつけっぱなしということは……。
「寝たか」
『えぇ』
台所も綺麗になってるし、使った包丁もしっかりと手入れされてる。凄いな本当に。ベッドの上段を覗くと静かに眠っているのが分かる。
……うん、俺も寝るかね。とりあえず花霞と支給デバイスを机に置いて、寝間着に着替えて……。
『ギル様。私に色々ご指南して頂けないでしょうか?』
『それならば、デバイス達のネットワークへ参りましょう。今ならば皆さん揃ってるでしょうし』
なんか机の上で凄い会話が聞こえる。まじかよ。デバイス同士で連絡取り合ってんのかよ……。まぁ、聞いた所でわからないし、デバイスにも人格があるんだ。あまり触れない様にしておこう……。
電気を消して、戸締まりされてるの確認して。
「じゃあ、花霞、ギル。おやすみなさい」
『『おやすみ下さいませ』』
ベッドに入って布団被って、目を閉じる。そして、今日合ったことを思い出す。はやてさんの手伝いして、流と昼食べて、ヴィヴィオ達と少し話しして、その後ロストロギアの封印をして……。
だけど、少し気になる。あの一瞬確かに鏡のように見えた。やっぱり俺の考えすぎかな? 特に変わった様子も無かったし、誰かの様子がおかしいとは思わなかった。
まぁ今日は完全に皆とあんまり関われてないからな。これも明日だな……。
それにしても……震離も素直に……流と……話……すれば……いい……のに……。
――――
目が覚めると懐が暖かかった。いや、そんな筈はない。
上には流が居る…‥筈だし、誰かがこの部屋に侵入するとは思えない。
昨日の夜。間違いなく戸締まりした。何時もの通りに。偶に暑い日があるけど、今日は少なくとも違う。少し手足を動かせば独特の冷たさがある。
なのに、なんで? と考えて気がついた。
布団の中に誰か居る。
じゃあ、誰が? 考えを必死に巡らせる。だけど、どれも違う。うちの男どもがこんなキモい事するとは思えないし、そもそも居ないし。かと言って震離がわざわざここまで来て、鍵開けて入るとは思えない。
その時、布団がモゾモゾと蠢き、再び寝息をたてる。
考えても仕方ない。
腹を括って、布団をめくり、中を覗いた。
まず目に入ったのは、長い髪の毛。それもかなり長い茶色の髪。手に当たる髪はサラサラとしてて、触ってると心地よい。大きさは横になっているからわからないけれど、そこまで大きくない。
フルフルと寒そうに体を震わせて、あくびを一つ。ぱちくりと目を開けると右目の瞳が赤く、左目の瞳が青い……。そして、その体は、何よりも女性特有の柔らかさをもっている。
寝ぼけ眼でコチラを見る少女。見る見ると覚醒して……。
「君……誰?」「……どちら様でしょう?」
全く違う言葉だけど、意見は同じだった。
だけど、俺はこの顔を……よく知ってる。だって、この顔は……。
「な……がれ……?」
瞬間、念話で緊急連絡した――
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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