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ある晴れた日に

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601部分:アヴェ=マリアその一


アヴェ=マリアその一

                   アヴェ=マリア
「雨かよ」
「全く」
 街は何時しか雨が降ってきていた。誰もが突然のその雨に閉口する。
 ある者は傘をさしある者は駆ける。そうして誰もが雨を避けようとしていた。
 しかし奈々瀬だけは違っていた。一人夜の街の中を彷徨い歩いていた。俯いて歩く彼女に時折人がぶつかるが彼女はそれも心に届かないようだった。
「何だあの娘この雨の中を傘もささないで」
「何があったんだ?」
 通行人達はそんな彼女を見ていぶかしむ。しかし彼女はただ一人歩くだけだった。
 その頃ブルーライオンでは明日夢と茜がいた。カウンターに座りそこで紅茶を飲んでいた。
 話すことは昼の続きだった。まだ心に残っていたのだ。
「ねえ」
 言葉を最初に出したのは茜だった。彼女はホットミルクを飲んでいた。
「今日お見舞いに来たメンバーだけれど」
「今日のね」
「あれだけだったね」
 寂しげに言うのだった。
「本当にね」
「そうね。このままにならなかったらいいけれど」
 明日夢もそれを不安に思っていた。ココアを飲むその手を止めてしまっていた。
「本当にね」
「どうなのかな」
 茜はまた言った。
「今日来なかったメンバーこのままなのかな」
「特に奈々瀬ね」
 明日夢は彼女のことを心から心配していた。だからこそ言うのだった。
「今頃何処にいるのかな」
「携帯はちゃんと届いてるわ」
 茜はその携帯を取り出してみせて話した。
「それはちゃんとね」
「ええ。私のも」
 明日夢も自分の携帯を出して話す。
「メールは届いてるから変な場所には行ってないみたいだけれど」
「連れ込まれたりとかね」
 その危険も感じている茜だった。
「そういうのはないからね」
「そうね。それはね」
「けれど」
 それでもだった。茜の声は暗かった。その暗鬱な声での溜息だった。
「明日学校に来なかったらやばいわよ」
「そうね。それはかなりね」
「折角」
 茜は話を変えてきた。
「未晴がお外にも出られるようになったのにね」
「ええ、そうね」
 そのことに頷く明日夢だった。
「車椅子でだけれど」
「あいつそういうのも考えてたのね」
 正道のことも話されるのだった。
「何がいいのかっていうのも」
「確かに外に出すのもいいのよね」
「そうね。それは確かね」
「けれど。自分で未晴を持って自分で乗せて」
 車椅子に乗せてというのだ。
「そうして自分で動かしてって」
「本当に未晴のこと思ってるのね」
 そのことを強く感じたのだった。
「音橋はね」
「立派よ」
 素直に賞賛の言葉を述べた茜だった。
「あそこまでいくとね」
「ええ。前から凄いって思っていたけれど」
 明日夢も賞賛の言葉を言うのだった。
「今まで以上にね。凄いわよ」
「未晴にもその心届いてるわよね」
「届いていない筈がないわ」
 これまで二人の話を聞くだけだった。恵美がこここではじめて言った。それまでは夜の暗くなってきた店の中で窓の激しい雨を見ているだけだったがここで言ったのだった。
「心はね。届くものだから」
「だからなのね」
「それあいつの心も未晴に」
「なるわ」
 恵美はそれを強く信じていた。まさに確信だった。
「絶対にね」
「あいつ、凄いね」
 茜はその顔を俯けさせて表情を消して述べた。
 
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