魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第27話 失意と希望を
――side響――
フォルモント提督。いや、シェイア・フォルモント艦長。初めて会ったのは、俺たちが訓練校に入って9ヶ月経とうとした時だった。
当時の俺達は別に調子に乗ったとかそういうことは一切していない。そんな暇なく、魔導の勉強に、それに応じた戦術を覚えることが大変でそんな暇は無かった。
だけど、やはり異世界人ということもあって風当たりは凄かった。
そして、俺と同室……ペアを組んでいたのがリュウキ・ハザマ。
こいつだけは俺たちを差別せずに普通に、対等に接してくれた。俺達が知らないこと。
カートリッジシステムの事や、聖王……ベルカの歴史も教えてくれたし、その途中で彼が孤児で、いつか聖王教会の孤児施設に恩を返したい。だけど、魔道士じゃなくて騎士になりたいって常々言っていたのが懐かしい。
ある時、10人男女混合チームを組んでの模擬戦が行われることになった。だけど、当時の訓練校に居たのは俺たちを含めて78人。どうやっても8人だけのチームが……俺達だけのチームが出来上がった。
皆集まって、勝ちは無くとも見返してやろうという気概で戦闘を開始した。当時の優夜を筆頭に、煌とリュウキを俺が指揮、後衛の奏と紗雪、震離を時雨が指揮という具合で動いた。
人数差があったけれど、なんとか5勝3敗という結果にこぎつけた。
だけど、その日を境に更に風当たりが強まった。大抵の嫌がらせなら受けたんじゃないかってくらいのことをやられたもんだ。
何か問題が起きれば、俺達のせいだとか色んな事を。だけど、まだ堪えられた。女性が多いというところもあって、きっと奏達の方がもっと酷い嫌がらせを受けてるっていうのを知ってたから。
勿論やめるように、俺に……いや、俺達に向かうようにしたけれど、それでも攻撃は続いた。
そして、ある日。いや、俺達の道が決まる日に。それは起きた。
訓練を終えた俺たちの元へ、時雨が泣きながら走ってきた。ゆっくり落ち着かせながら事情を聞いて、絶句。
当時の震離の髪を無理やり切った、と。伝えられた。
今と違って、震離の髪は目元を隠してたし、髪先がくるくるとした癖っ毛を長く伸ばしてて、皆可愛いって言ってた。
奏なんて特に好きで良く髪を梳いてたし、時雨や紗雪も一緒にお風呂入った時には髪をよく洗ってたらしいし。
だからこそ、全員怒って、その場で殴り込んだ。当時家柄だけで周りからチヤホヤされていたやつ……つまり、震離の髪を切れって命じた本人は既に叩きのめされてた。奏と紗雪の手によって。
そして、そいつの取り巻きと喧嘩。そこから当時の同期を巻き込む大喧嘩に発展した。
だけど、皆が敵というわけでもない。無理やりに……従わないと虐めると脅迫されていた奴らも俺たちに味方してくれて、中身だけ見れば6対4くらいまで戦力は増えていた。それまでは8対2くらいだったから。
やつらを叩きのめして、騒ぎの中心になり、責任を被ることに。だってそうしないと手を貸してくれた子達が不味いことになると分かっていた。が、俺たちは、訓練校の教師よりとある提案……いや、最悪な事を言われた。
お前ら8人が謝罪するか、やめるかという二択。
勿論後者を選択すると宣言しようとした時にその人はおばあちゃん見たいなその方は現れた。どう見てもいじめをしてたあの子達が悪いでしょうと。
この世界に来て初めてだった。こうして味方してくれる人は。
今なら分かるけれど、当時入ってた訓練校はどちらかと言うと全然駄目な学校だった。
実際、六課に異動するまで、当時敵対した同期にあったことは一度もない。それは優夜の所や、煌の所も同じだ。武装隊にも、事務方にもそれらしい奴らは居なかった。つまりはそういうことだった。
そして、シェイアさんは提案してくれた。
このまま訓練校に居るよりも、私と一緒に来ないか? 勿論実際中途で引き抜くわけだから、それ相応の結果が必要になるけれど、ハードルは高い。
だけど、君たちの戦い方を見てると今のミッドには居ないタイプ。だから私の元へ来ないか?
そう言われて、俺達は全員で着いていくことを選びました。そして、途中で引き抜かれて、まずは3ヶ月で色々教わり。半年掛けて色々絞られたり、階級を上げるために様々なことをしました。
そして、それらが終わった後に言われました。最近調子が悪いから、クルーの中から誰か艦長を引き継いでほしい、と。最初、俺達には関係ないこと、そう考え船に居たサブチーフ達と話をしていました。
そして、結果が言われた時、何故か俺が指名されました。勿論理由を聞きました。サブチーフや、俺より先輩が受けるべきだと。
だけど、皆さんそれに従いましたが、俺たちはあくまでシェイアさんに着いて来た以上、俺たちを認めさせてみろ、と。
それからは、暫くはしんどいのが続きました。
上から来る命令をこなすにしろ、圧倒的に人が足りない。当時の操舵手の人も近くまでは操舵しても、作戦開始のときには離れて自動操縦にしたり、管制も居ないから震離を代理に置いて、俺が船から指示を出すスタイルを取っていました。
前線は、時雨と奏の2人で指揮を取ることにして、ギリギリでやっていきました。
そして、皆さんが認めてくれた件。とある組織を襲撃した後、ようやく皆さんに認めてもらいました。
もっと早くに実行できていれば、もっと迅速に対応できていればと、まだまだ力不足だと言ったんですが。あんな癖のある奴らを纏めてるくせに力不足とか言うな、と。人を纏め上げる器なんだと、言ってくださいました。
それに押されて、正式になりました。第13艦隊GuardianWingsの艦長補佐として。
それからもシェイアさんの後を次ぐため様々な任務をこなしました。特殊部隊として表に出せない案件や、ロストロギアの回収。様々なことを。その間もシェイアさんは顔を出しては……まだ甘いなと苦言を言って帰っていきましたが。
そして、ある日。アイツは来ました。地上から来たというアヤ・アースライト・クランベルが来たのは。当時の階級は二等陸尉だったかな。だけど、特に何かをするわけでもなく、普通に仕事をしていました。
アイツが来てから数日たった時。本局のシェイアさんからメッセージが来ました。2人で会いに来てほしい、と。
そして、俺と奏はそこへ向かいました。
タイミングが被ったのか、震離は何か違う案件の調査のため船から降りて、優夜は三度目の執務官試験を受けに、時雨もそれに付き添って執務官補佐試験を。煌と紗雪は教導隊の説明会へ。
そして、リュウキが代わりに船に残ってくれました。その日は特に案件もなく。オフとしていて、加えてオーバーホールの準備も兼ねていました。
一応何かあったら直ぐに動けるようにだけして、皆さんは本局内部の街で休んでもらっていました。
今思えば、全部うまく行き過ぎてた。
指定された場所へ行き、シェイアさんからの連絡を待っていると、管理局の捜査官が突然部屋へ現れこう告げました。
反聖王教会団体幹部殺害の容疑で拘束する、と。
勿論身に覚えがないし、それは間違いだと訴えても既に時遅し。二人して拘置所に入れられました。
同じ頃、優夜達も俺が捕まったことにより、拘束された。表向きはつながりなんて無かったはずなのに、皆の居場所を的確に押さえ拘束した。幸い震離だけは行き先を告げなかった関係で押さえられませんでしたが。
そして、取り調べが行われても俺と奏はそんなこと知るわけはありません。だが、見せつけられた映像には俺と奏が反聖王教会団体の施設に潜入。
そして、彼らを惨殺したことになっていました。だけど、何度言っても誰も信用しませんでした。
証拠がそこにある以上、そうなると分かっていても、違うと言うことしか出来なかった。。
そんなことが二日ほど続いたある時。突然開放されました。
突然違う証拠が上がり、それに伴って犯人を追い詰めるも体に仕込んでいた対人爆弾で何も残さず死亡したと言うことが伝えられました。直ぐに表へ出て、こちらでも調べた結果、そもそも俺達が容疑者になってることすら書いておらず、その映像も証拠として上がっていなかった。
それに気づいて俺たちを拘束した人達を追ったけれど、既に死亡。何者かによって殺害。
そんな中、俺達が拘束されて動けない間に、船の方にも異変が起きていました。何者かの手によりシステムクラック。船の動力がオーバーロード。唯一中にいたリュウキの手により、なんとか本局のドッグから強制出港。そして、リュウキはそのまま……。
そういう嫌疑に失態が続き、更には以前の任務を取り上げられ、その世界の住人を救えなかったと、俺達の降格が決まりました。
元々裏で生きてたような物なので階級は飾りだと思い切ってましたが、それにともなって、優夜と時雨の受験は無効。震離の捜査権限の剥奪が何よりも痛かった。
それだけでも辛かった。問題がこの後で。アヤ・アースライト・クランベルが俺たちの前に現れこう言いました。
言う事を聞かなければ、あなた達の元部下の人達がどうなっても知らないよと。
そう言って取り調べで見せた映像の他に、当時多発していた管理局員殺害にも関わったような偽造された証拠を持っていました。
そして、悟りました。こいつが船を落として、リュウキを殺して、優夜の目指す先を壊して、震離の資格を奪うように仕向けたんだと。
恐らくアイツはもっと上の階級のやつにも取り入っていたんでしょう。
アイツが言った通り、本局上層部が俺と奏の魔力を封印しようとしました。それを受けようとしている間に。
俺達の知らない場所で煌達がそれに待ったを掛け、言いました。
――あの2人ではなく、俺達にしてくれ。
俺たちの中でも実力も上から数えたほうが早い人材。自身がリミッターを解除出来る術を持てば、操る事が出来ると考えたのか、それを許諾。4人の魔力が封印されました。
正直、死ぬほど申し訳なかった。俺のせいであいつらに余計な事をさせてしまったと。俺なんかよりも強く、空を飛ぶのが楽しいと言っていたあいつらが。
その後は三手に別れました。俺達は最前線と言われる場所へ。優夜と時雨は辺境の部隊の事務員として。煌と紗雪も無人世界の観測員兼事務員として。それぞれ別れました。
割と今はともかくとして、最初の半年は本当に死んだように生きてました。だけど、せめて側にいる奏と震離だけは守らなければと思い、必死になって守りました。危険な任務があれば俺が率先して前に出て。何としてでも守らないと、そう思って生きてました。
ある日、船に乗っていた人達と偶然会って話をしました。すると、船が沈んで、俺達の降格が決まったあの日に、管理局から追い出されて居たと。その理由は結局わからないと。
それを聞いて俺は、彼らに仕事を奪ってしまったことに謝罪をしました。
――だけど、こう言われました。アナタのせいではないと。だから大丈夫。
情けなかった。悔しかった。いっその事お前のせいだと、罵倒してくれたら、仕事を奪ったと殴り倒してくれれば、いくらか救われたのに。あの人達はそれをしなかった。あまつさえ、誰も気にしていないとさえ言ってきた。
辛かった。俺に、俺達に様々なことを教えてくれた皆さんが、どうして理不尽に辞めさせなければならない? 第13艦隊に居ることが誇りとさえ言っていた皆さんなのに、どうして?
そして、もう一つ話を聞いて今度こそ俺の心は折れました。
シェイアさんが亡くなられた事を。
その日はもう覚えていません。気がつけば部屋に居ました。代わりに手には握りしめられた手紙が一つ。それを開いて見て、涙が溢れました。
――誰も響のせいだとは思っていません。GuardianWings乗組員一同。
ただただ静かに涙を流して、シェイアさんがもう居ない事。リュウキが居なくなってしまった事、大切にされていた、艦長の宝だと言っていた船を無くしてしまった事。
それを考えて、頭の中を駆け巡っていると。自然に自分の首を斬ろうとしました。刀の刃を以て、切っ先を喉へ向けて。
ただ真直。自分の喉元へ突き刺そうとしました。
だけど、それは防がれました。震離の手によって。視線をずらすと首元のわずか部分に小さな盾が。そして、刀を止めるようにバインドがつけられていました。
部屋の扉に視線を向けると、震離がそこに居て、俺の元へと駆け寄って。全力で殴り倒されました。
その時の言葉はずっと覚えています。
――私を救ったお前が、なんで死のうとするんだ。死ぬならお前が救った人を殺してから死ね。せめて……私を殺してから死ぬなら死ねよ!
倒れた俺に馬乗りになって、右は拳で左は張り手で。ひたすら殴られました。だけど死のう。そう考えてた俺には何も感じなかった。思わなかった。
そしたら、俺の肩持って、全力で魔力放電をしてきた。突然の雷撃に痛みを。何度も何度も。繰り返し放電を。
ある程度したら、もう力が入らないからか、また両手で殴ってきました。そして、もう一度。
――琴さんが居なくなって……響まで居なくなったら残った私たちはどうするの?
力なく振るわれる両手を見ると、右手の拳は切れて血まみれに。左手は俺の歯が当たったのか切れてコチラも血まみれに。
それを聞いて、思い出しました。彼らとした約束を。管理局に来る前に交わした約束を。
ゆっくりと起き上がって震離に御礼を告げて。その日は終わりました。
奏に伝えたらあの子も泣いてしまった。だけど死のうとした話は4人は知りません。言う必要はないと思っています。
それからは、ティレットさんの部隊に行くまで、皆と連絡を交わしつつ生きることを選びました。
すると部隊を飛ばされる度に監視の目がゆるくなっていったことに気づき、俺達は少しずつ情報を集めました。
そして、六課へ来て、アイツが裏切った時にようやく掴みました。反聖王教会の事件も、管理局員殺害事件もアイツの差し金だと。もっと裏に何かがあるんだ、と。
だから、ヘリを落とされた時、あそこで止めなかったのは俺の責任で、結果流が怪我をして、ヘリも落とされました。結局、俺は皆さんを信じてなかったんです。
――sideフェイト――
響の話を聞いて、言葉が出ない。自然と涙が出て来る。
いつも私達と話す響の姿は、皆に安心を与える人。私達と一緒に戦ってる人は強い人だと思っていた。
なのはの事だけじゃなく。ティアナの悩みや、私とエリオの体の事も受け入れてくれた。だけど、話を聞いてこれほどとは思わなかった。
5年。たったの5年でこれほどまでに振り回されているなんて。
今でこそ普通にしているけれど。この人は……。
ふと、私と目が合う。途端に青くなる響を見て思わず首を傾げる。
「え゛!? あ、いや、あの。まぁどうしても、3年で佐官なんてどうしても分不相応というか。なんというか。やはり自分ではまだ早かった。それに尽きます」
たははと笑う響を見て、更に涙が溢れる。いけない。止まらない。
「苦しい事を思い出させてすまない。だが、これで彼女を追い込むための手筈が整えられそうだ」
「……いえ、統括官殿。敵対した以上やることは一つです。捕まえてしまえば問題はありません」
お互いに顔を見合わせてニヤリと笑ってる。なんというか、はやてと違った意味でなんか怖い。
「あとは……そうだな、響。僕のことは名前でいい」
一瞬驚いた表情をして、小さくため息。
「えぇ、分かりましたクロノさん、よろしくお願いします」
くしゃっと笑って名前を呼ぶ。なんというか、男の子だなーと思う。二人共警戒してないとは言え、こんなに直ぐに仲良く……と言うより名前を呼び合える様になるなんて、ちょっと羨ましい。
「よろしくした所で。一つご質問を。宜しいでしょうか?」
「あぁ。かまわないよ」
思わず私達3人顔を見合わせる。カリムさんもなんだろうと興味を持ったみたい。
「特殊鎮圧部隊。この部隊の情報を何かご存知でないでしょうか?」
空気が固まる。いや、正確にはクロノとカリムさんが驚いている。だけど、特殊鎮圧部隊って……。
「噂話。自分が船に居た時も所詮噂だと思っていました。ですが、明らかなイレギュラー。経歴が合わない人物が今六課に居ます。その子自身はとてもいい子ですが、彼の経歴と実力はどうしても釣り合わないんです。その上で何か知らないでしょうか?」
再びしん、とする室内。はやても何処か苦しそうだ。
「すまない。力になりたいが、僕達も本当に実在しているのか分かっていない。だが、その話は本当なのかい?」
「……えぇ。15歳でAAA。そして、ミッドとベルカのハイブリット。しかも状況に応じて切り離して同時展開。手助けがあったとは言え、推定Sの砲撃を防ぎきるだけの事が出来る人間が表に居た。そんな人材を見逃しておくとは思えません」
確かに響の言うとおり。流の経歴は本当におかしい。だけど……。
「それに、わざわざ疑ってくれと言う子を送って来たんです。きっとその人達も味方になってくれるんじゃないかと、個人的に考えてます。
そうでなければそもそも寄越さないと思いますし。自分たちの異動と被ったのは本当に偶然だと思いますけどね」
肩を竦めて言う響。多分……ううん。流の事を本当に信用してるんだと思う。だけど、その話だと……。
「なら、本人に直接。というのは駄目なのかい?」
「彼がどう考えてるかはまだわかりません。だけど話してくれるのならば重畳。
だけどあくまで隠すというのなら、それ以上の追求は辞めます。今回質問したのはあくまで、知っていたらコンタクトを取れないかなと考えたからです。当人が嫌がるようなら、それは行いません」
ほう。とクロノの口から漏れる。恐らくこれは、クロノとカリムさんに対しての牽制……いや、どちらかと言うと流を疑っていないかと、カマをかけたんだと思う。多分響は情報の有無は重視していない。
こうしてみると、流石一つの船を任されていた人材。さり気なく交渉をしているように思える。だけど、どちらかと言うとこれは響の素かなと思うけどね。
「なるほど。わかった。もし何か掴んだら直ぐに連絡を入れるよ。だけど……その彼が嫌がったのなら逆に僕に連絡を入れてくれ。その時はやめるよ」
「感謝します」
扉の側で深く頭を下げる。クロノがそこまでしなくていいと言っても。響からは無茶なことを言ったから、と普通に仲良く話をしてる。
うーん、せっかくいい感じになってるんだから、こっちに来て座って話をしたらいいのに。
……いや、まだ私は謝ってないんだよね。
コホンと小さくカリムさんが咳払いを一つ。私やなのは、はやて。そして響の顔を見渡して
「改めて、聖王教会・教会騎士団騎士カリム・グラシアがお願い致します。華々しくもなく、危険も伴う任務ですが、協力をしていただけますか?」
「非才の身ですが、全力にて」
「承ります」
しっかりと傾いて応える。これから起こるかもしれないことに全力で。その後はそれぞれ情報交換。特に響は今回の案件。口外させないので話してもいいかと質問。はやてもカリムさんも、クロノもそれぞれ許可が出る。そして、話は少しそれて……。
「そう言えばこの前の出張任務はどうだった?」
「うん。久しぶりに戻れて良かったよ。キャロがなー、封印処理をしてみたいって言ってくれて、この子達は伸びるって思ったなー」
はやてはカリムさんと、この前の出張の報告。そして、私たちは。
「アリサや、すずかは元気だったかい?」
「うん。クロノもたまには帰らないといけないよ」
「ははは、中々帰れなくてね。この前帰った時にカレルとリエラのいらっしゃいと言われた時には、少し、ね」
乾いた笑い声が悲しく響いてる……。でも、アルフも言ってたなー。あんまりクロノ帰ってきてないよって。エイミィも忙しいのは分かるけど、少しだけ寂しがっていたし。
「それはそうと、一つ聞きたいことがあって……この写真なんだが、エイミィから送られてきてね、誰なんだろうと気になって」
そう言って私達の前にモニターが現れて、写真が現れる。
瞬間、響は吹き出して、笑い出すのを必死にこらえる。対して私となのはは頭を抑えた。
写真に映るのは膝下くらいまでのダークブラウンのブーツに赤と黒のチェック柄のレイヤードスカート。そして、白いブラウスに赤いネクタイをつけた、可愛らしい女の子の様な……そう、流の写真だ。
「あら、可愛らしい子ね」
「うん……フッ!」
コチラに気づいたカリムさんと、写真を見た瞬間、笑い出しそうになるのをこらえるはやて。そう言えばはやて見たこと無いはずだけど……。
「クロノ。その子が例の特殊鎮圧部隊だと思われてる子」
「……な!?」
あれ? なんか思ってた反応と違う。なんでだろう?
「そうすると不味いな。これを見たロッサが気に入ってしまってね。このデータだけ譲ってしまった」
瞬間、響以外の空気が凍る。あのはやてでさえ止まった。
クロノが言うロッサ、いや、ヴェロッサ・アコース査察官に流の写真(女装)が渡ってしまった。つまり下手をすると。
「いや、ロッサなら、大丈夫……。そんなことで調べるとは思わない……だが」
「「「「だが?」」」」
自然と私達3人とカリムさんの声が重なる。
「他にもこの子の写真は無いのかと凄く聞かれたな。と言うより。最近は会う度に聞かれる。あれから進展はあったのかって」
空気が重くなる。流石に響も気づいたのか。若干引いてる。カリムさんは頭を抱えている。だけど、一瞬考えてからコチラに顔を向けて。
「いえ、女の子なら問題は無いはず。そうですよね?」
写真を見ながら、それこそ藁にもすがる勢いで話すカリムさん。だけど。
「カリム。彼は男の子や。とっても残念やけど……でもロッサ……そうか」
カリムさんの肩にぽんと手をおいて、何処か遠くを見ながら淡々と告げる。それを聞いてガクリと肩を落とす。
「で、でも。写真だけだったらクロノが消したら、ほらはやても持ってないだろうし……」
「そ、そうだな。これで聞かれてもデータを見せれば納得するはず」
慌ててクロノに告げると、直ぐに貰ったであろう写真を全て消してくれた。後は……。
「……メイド服着て顔が紅くなって涙目の流。可愛かったんや」
「はやて!!」「はやてちゃん!?」「はやてさん!?」
遠くを見ながらモニターに流の写真を展開。確かに可愛いけれど! あ、この写真凄く可愛い……じゃなくて!
「いややー! なんとか仲良くなって写真取らせて貰うようになるんやー。それまではー!」
「いやいや、流石に着ないでしょうよ」
なんとか3人で説得を始める。クロノと騎士カリムはアコース査察官について話あってる。
そして……。
「うぅ、私のコレクションがー」
「もうだめだよー、はやてちゃん」
自分の手では消せないということでなのはがデータを削除した。でも、ちょっぴり勿体無いと思う。キャロとは違う意味で可愛い。なんというかゴシックというか、キャロとは違った意味で大人しい子だから色々着せると映える……って、違う違う!
この後項垂れるはやてを連れて六課へと戻る。ただ、帰る間際のクロノとカリムさんが、なんとかしてみると言ってくれたものの、その時目を合わせてくれなかったなー。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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