魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第26話 六課の意義
――side響――
さて、機動六課についたわけですが。ここで問題が。
何しても震離が起きません。一応着いてから奏にそのこと伝えて案内をお願いしてるから、後は、来るのを待つだけ。
とりあえず、駐車場近くのベンチに移動して寝かせてる。なのはさん達はヴィヴィオを連れて六課へ。流は医務室に。そして、流から預かったデバイス二機は俺の手元にある。
シャーリーさんに渡してくれとシグナムさん達からの指示だ。俺にデバイスを渡す時、一瞬寂しそうな表情を浮かべてたのを見て、この二機を大事にしてるんだなと思う。
まぁ、余程の変わってる人以外は、インテリジェンスデバイスを大事にするだろうし。かくいう俺も初めてのデバイスだから、割と大切にしてる。なんやかんやでよく花霞の手入れは欠かさないし。
「おかえり響」
噂をすればなんとやら。気がつけば少し離れた場所に奏が居た。
「ただいま。呼出して悪かった。震離がもう完全に落ちててな」
「やっぱり昨日の晩、徹夜だったんだね」
ベンチで座りながら眠る震離を優しく撫でる。眠っているにも関わらず心地よさそうに顔が和らいでる。
「さて、悪いけど。部屋まで案内してくれ。不安だったら目隠ししても良いぞ?」
「冗談。お休みの子が居るかもしれないけど、ちゃんと規律を守る子が多いから問題ないよ」
震離を起こさないように、お姫様抱っこの様な体制でゆっくりと持ち上げる。完全に脱力しているからか少し重く感じる。
しかし、車から移動した時も思ったけど、案外起きないもんだな。びっくりだ。
「そしたら案内頼む」
「はい、頼まれました」
他愛もない話をしながら移動していく。やれ、今朝の朝練は皆気合はいってたとか。やれ、朝ごはんの時いろんな所から質問攻めにあったとか。そういう話。
そう言えば、と。ふと本局へ行ったあいつらのことが気になった。朝一から行ってるはずだから既に何かしらの事が言われてるはず。
こう見えても結構心配してる。今まで事務員として通されていたにも関わらず、今回こういう事態になってしまったこと。普通に心配だ。
「どうしたの?」
隣を歩いてた筈の奏がいつの間にか、俺の顔を覗き込むように見上げていた。一瞬驚いて、震離を落としそうになるけれど、なんとか持ち直す。
「いや、どうってこと無いさ。それよりもまだ?」
「そろそろだよ」
そう言われて案内されるのは女子寮の、奏と震離の部屋。いやまぁ、うん。深い意味はない。
本当に無いぞ。いやほんとマジで。
扉を開けてもらって、入った部屋は。
「……何も無いな」
「お互い様でしょう?」
苦笑いで応える奏を尻目に、とりあえずベットに震離を寝かせる。ふとんを掛けてやって、よし。
「じゃあ行こう。精神衛生上すっげぇ悪いからさっさと行こう」
「え、あ、ちょっと待って。書き置きだけ済ませて……よし、大丈夫、行きましょ」
サラサラと走り書きのようだけど、上手いもんだな。やっぱり奏の字はきれいだなー。2人で廊下へ出る。すれ違う女性職員の皆さんからはアレ、何だこいつ? 的な視線を感じるのは気の所為じゃ無いよね……。
「で、病院でなんかあったの?」
「ん? あぁ、アーチェに会ったよ」
「あぁ、元気に鉄球振り回してたのが目に浮かぶよ」
二人して乾いた笑いが溢れる。そう言えば皆にも説明しないとなー、アーチェと俺らの関係性を。
「うわわああぁぁぁーーん!」
「おや?」「あら?」
突然大きな泣き声が聞こえる。歩きながら耳を澄ませて、場所を特定。六課のロビーから声が聞こえる。この声は……。
「あれ? 小さな女の子の声だ。なんか知ってるの響?」
「ん? あぁ、昨日の女の子だよ。名前はヴィヴィオって言う女の子。なのはさんと流になついてたっけなー。でもなんで泣いてんだ?」
そんなことを話しつつ、ロビーへ到着。目に写ったのが。
「「なにこれ?」」
なのはさんの膝抱きつく様にヴィヴィオが泣いてた。それをティア達4人が宥めようとしてるけれど、一向に泣き止む気配はない。
「助けたほうが良いのか?」
「……小さい子と話した事ないし、どうしようか?」
すると、いつの間にかフェイトさんがヴィヴィオの側に寄っていく。足元に落ちてたぬいぐるみを拾って。
「こんにちわ~っ」
「ふぇっ?」
「この子は、あなたのお友達?」
うまい具合にウサギのぬいぐるみを使って、ヴィヴィオと話しかけた。しかし、手慣れてる感じが凄いな。自然に座って目線合わせて行った。
「ヴィヴィオ? こちらフェイトさん。なのはさんの大切なお友達」
「ヴィヴィオ、どうしたの?」
美味い具合にぬいぐるみを操って、関心を引いてる。それにつられて、その動きにもう釘付けになってる。
いやはや、お見事。音が出ないように小さく拍手する。すると。
(とりあえず、病院から連れて帰ってきたんだけど、なんか離れてくれないの)
なのはさんからの念話が聞こえる。広域だからかな? まぁ、わかりやすいから良いけどさ。
(懐かれちゃったのかな?)
(それで、フォワード陣に相手してもらおうと思ったんだけど)
((((……す、すみません))))
(なるほど。なら、任せて)
念話に合わせて、ガクリと項垂れる4人。それに対して優しくフェイトさんが笑う。
「ね。ヴィヴィオはなのはさんと一緒にいたいの?」
「……うん」
ぬいぐるみに釘付けとは言え、未だになのはさんの制服をガッチリ掴んでる。
「でもなのはさん、大事なご用でお出かけしなきゃいけないのに、ヴィヴィオが我が侭言うから、困っちゃってるよ? この子も、ほら?」
「……ぅぇ」
困ったポーズをしてるぬいぐるみを見て、フェイトさんの言葉を聞いて、また目に涙が溜まり始める。
(こりゃ、長期戦ですね)
(がんばれーフェイトさん)
念話を使って皆でフェイトさんを応援。ここで状況を打破できるのはフェイトさんだけだし。
その後も、フェイトさんの説得は続いて、ようやく納得させるに至った。すると、今度は誰かを探すように周囲をキョロキョロとして……。やべ、ヴィヴィオと目が合った。
トテトテと、コチラに向かって歩いてくる。完全に俺の所に来てる。流石に、見上げっぱなしも悪いから片膝ついてヴィヴィオと視線を合わせて。
「どうかした?」
「……お姉ちゃんは?」
……うん? あの人? 自然と首を傾げる。それに合わせてヴィヴィオも傾げる。視線の端に写ったなのはさんとフェイトさんも傾げてた。はて、お姉ちゃん? もしかして。
「……流の事だったりする?」
「うん!」
瞬間、スバルとティアが吹き出す。なのはさんとフェイトさんも気まずそうに視線をそらす。まじかよヴィヴィオ。アイツの事姉だと思ってんのかよ。
「あー、流……か。今ちょっとお医者さんの所にいるからさ。終わったらきっと来るよ。それまで待ってて、な?」
「……わかった」
我ながら苦しい言い訳。ダメ押しで頭を撫でとく。でも嘘じゃないし。アイツ医務室に行ってるし……あ。
いや、でも駄目か。ヴィヴィオに流を当てようかと思ったけれど、流石にまだ駄目だよね……。
ふと、目の前のヴィヴィオが不思議そうに、俺の後ろを見てる。首だけ振り返って、その視線の先を追うけれど何もない。
視線をヴィヴィオに戻すと。
「さらさらー」
「うぉ」
少しだけ引っ張られる。縛って垂らしてる髪を手に喜んでる。強く引っ張らなければ良いんだけどさ。なんかくすぐったい。
このままヴィヴィオと遊ぶのも悪くないけど……割と仕事がある。
本当は今日もギンガと捜査に出るはずだったけど、なんか色々有るから待つようにって言われたし。
それにあの4人の復活に伴って、あいつらの為に裏に手を回さないといけない。それに今日は震離もダウンしてるし、流も暫く空ける。色々やらないといけない事がある。
その割に朝暇だとか言ってたのは、働きたくなかったからだけどね。
「まぁ、良いけどね。さて、ヴィヴィオ。俺も仕事があって少し離れるけど……待っててくれる」
「……ぅ」
「俺が終わる頃には流も終わってるし。だからそれまで待っててくれる?」
「……うん」
そう言って視線をエリオとキャロに向ける。すると任せてと言わんばかりに胸を張ってる。少し微笑ましいなと思ったのは内緒だ。
フェイトさんも同じ気持ちらしく。少し顔が緩んでる。それに流が居たら任せたけれど、居ない以上、エリオとキャロの方がヴィヴィオとしても怖がる事もないだろうし。
2人に任された瞬間、ティアがホッとした顔してたのは深くは考えない。多分俺もその立場なら困ってただろうしね。
トテトテと擬音が聞こえそうな足取りで、エリオとキャロの元へ行き、そのままなのはさん達の部屋へ。普通に女性寮に行ったけど、まぁエリオなら問題ないだろう。大丈夫だよ。
さて、それじゃあ仕事に。
「あ、響。このまま私達と一緒に聖王教会へ行くみたいだよ」
なのはさんからの言葉を聞いた瞬間倒れそうになる。それなら俺あそこで待機……いや、それじゃ震離がどうしようも無いのか。
とりあえず理由聞こうとなのはさんに顔を向けると、察してくれたのか。
「これから聖王協会本部の騎士カリムの所に行くんだけど。響にも聞いてほしい事があるみたいでね」
「……はぁ。俺で良ければ。あ、そうだ奏。これシャーリーさんに」
「うん、分かった。それじゃね」
流のデバイスを奏の預けてそのまま別れる。それと一緒にティアとスバルも奏と一緒に行った。はて? なのはさんの話を聞きながら首を傾げる。そんな所に俺を連れて行って何になる?
それに騎士カリムって言えば、たしか管理局の理事官。与えられた階級も少将とか言うビックネームだが……アーチェの上司でも有るんだよな。その関係かな?
それ以前によ。
「……うーん。空曹が入ってもいい場所なのか、少し疑問がありますが……分かりました。お供します」
「うん、それじゃヘリで移動するから行こうか?」
言われるままにヘリへ搭乗。俺の隣にフェイトさん、正面にはやてさん。そして、その隣をなのはさんが座る。初めは少し距離おいて座ってたけれど、4人しか居ないんだからと、寄って来いと言われました。
……フェイトさんとは若干気まずいのよね。昨晩の件が残ってるし。
とりあえず、はやてさんから改めて説明聞く。なんでも今までの報告を兼ねて聖王教会に行くそうだ……が。
聖王教会と関係があるのは知っていたが、なんでまた? 一応騎士カリムもはやてさんのリミッターを外せる人だからかな?
今までのという点で、流の事も報告するのか、と質問したけど、それは正式には報告しないようだ。代わりの回答として、割と付き合いの長い人達らしく、外に漏らさないという条件付きで話すかどうか変わってくるらしい。
ここまで聞いて納得。恐らくこの集会。ただの集会ではないということ。だからこそ両分隊のトップ2人を引き連れて行くんだな。
だからこそ思う。俺いらないじゃないですかー。やだー。
そして、聖王教会のヘリポートへ到着。案内されるがままに室内へ入り。とある扉の前へ。静かにはやてさんが扉をノックする。
「どうぞ」
扉の向こうから女性の声が聞こえる。
「失礼致します」
はやてさんを筆頭に、なのはさん、フェイトさんと続いて、最後に俺が入る。
「高町なのは、一等空尉であります」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官です」
「緋凰響、空曹であります」
敬礼をした後、一歩後ろに下がる。あくまで俺は付添だからね。
そんな俺たちを出迎えてくれたのは、聖王教会、教会騎士団騎士、カリム・グラシア。
名前は知っていたけれど、実際に顔を拝見するのはこれが初めてだ。
騎士カリムに案内され、部屋の奥へと進む。通された部屋には大きな円卓に、囲むように椅子が置いてある。そして、そこは既に先客がいた。
クロノ・ハラオウン提督……いや、総務統括官。お噂はかねがね聞いておりますとか色々言おうと思ったけど、一空曹が話しかけられる相手ではない。
曰く、六課の三隊長を纏めて相手取れるとか。曰く、シグナムさんとヴィータさん相手に完封したとか。無限書庫の司書長と組めば、不殺最強ペアが完成するとか。色んな噂を聞いたことがある。
いやほんと、俺なんかが話しかけていい相手じゃないし、ここに俺いる理由あるんですかね?
「クロノ提督。少し、お久しぶりです」
「……ああ。フェイト執務官」
流石に兄妹と言えど、こういう場ではしっかりと弁えてるんですね。流石です。
ふと、視線をずらすと騎士カリムが笑いだしてる。
「皆さん、そう固くならないで。私達は個人的にも友人だから。いつもどおりで平気ですよ」
「と、騎士カリムが仰せだ」
突然固い雰囲気から優しい人へ、雰囲気が変わった。
まぁ、うん。良いと思うよ。どうも皆さん身内と言うか、なんというかだし。
しかし、俺の立つ瀬が無いというか、居心地悪いというか。
「じゃあ……クロノ君、お久しぶり」
「お兄ちゃん、元気だった?」
「そ、それはよせ……お互いもういい年だぞ」
あー……、そう言えば皆さん夜天の書事件と、ジュエルシード事件で関わったって何かで見たな-。というか、本当に俺空気読めない人じゃないですか、やだー。
「兄妹関係に年齢は関係ないよ、クロノ?」
フェイトさんにそう言われ、俯く統括官。いや、いつの時代も妹って強いんだね。恥ずかしそうに顔を赤くしてらっしゃる。
すると、はやてが咳払いと共に話し出す
「さて、昨日の動きについてのまとめと、改めて、機動六課設立の理由について。それから、今後の話や」
はやてさんの言葉に全員が居住まいを正し席へ座る。俺は少し離れて、扉の近くで後ろ手に組んで立つ。
ふと、席に座るフェイトさんが不思議そうな顔で、小さく手招きするのが見えるけれど、小さく首を振って断る。
不服といった顔をしてるけれど、あの、俺……いえ、自分、そんな所怖くて座れないです。昨日の件もまだあるし、何より怖いし。しかもはやてさんと統括官。ちらちらとこっち見てるけど、確実に念話してるよね。
気がつくとフェイトさんが隣の椅子を軽く引いてアピールが強くなってる。そして、なのはさん? なんで、フェイトさんの見る目が感激に包まれてるんですか?
「改めて、機動六課設立の裏表について。それから……今後の話や」
はやてさんの一言で、緩い空気に緊張が走る。その言葉に合わせて、カーテンが締り、部屋が暗くなった。
「六課設立の表向きの理由。それは、ロストロギアである、レリックの対策と、独立性の高い少数部隊の実験例。
知っての通り、六課の後見人は僕と騎士カリム、そして僕とフェイトの母親で上官、リンディ・ハラオウンだ。そして非公式ではあるが、かの三提督も設立を認め、協力の約束をしてくれている」
やはり、と言うかなんというか。いつか異動の時に見た資料の通りだ。ここまでして対策をうつんだ、もっと深い所にあるんだろう。
そして、それはこれから分かる。しかし統括官。知っての通りって事は後で俺に口外禁止にすること頭に入れてるんだろうなー。いや、それははやてさんがやることか。
ふと、視線を上に向けていると、モニターが現れ、統括官を始めとしたビックネームの方々。そして、あの三提督の関連図が現れる。
「その理由は私の能力と関係があります」
騎士カリムが立ち上がり、古布を取り出す。その古布をゆっくりとめくっていくと古ぼけた紙束が現れ、説明を初めた。
「私の能力、預言者の著書」
そう言うと、紙束が発光し、宙へ舞い、騎士カリムを中心に回り出す。
「これは最短で半年、最長で数年後の未来、それを詩文形式で書き出し、預言書の作成を行うことが出来ます。2つの月の魔力がうまく揃わないと発動できませんから、ページの作成は年に一度しかできません」
説明の最中に2枚のカードがなのはさんとフェイトさんの前へと差し出される。
「預言の中身も古代ベルカ語で、しかも解釈によって意味が変わることもある難解な文章。世界に起こる事件をランダムに書き出すだけで、解釈ミスも含めれば的中率や実用性は、割とよく当たる占い程度。あまり便利な能力ではないんですが」
2人の前のカードに文字が浮かび上がるが、古代ベルカ文字でまったく読めず、顔を見合わせ首を振っている。
「聖王教会は勿論、次元航行部隊のトップもこの預言には目を通す。信用するかどうかは別にして、有識者による予想情報の1つとしてな」
「ちなみに、地上部隊はこの預言がお嫌いや。実質のトップが、この手の希少能力とかお嫌いやからな」
統括官とはやてさんがそれぞれ説明する。けど、それはある意味で当然だと思う。予言に左右されて全てに対応なんて出来るわけないし。そして、そのトップと呼ばれるのは勿論。
「レジアス・ゲイズ中将、だね」
「そう。そして、そんな騎士カリムの預言能力に数年前から少しずつ、ある事件が書き出されている」
そう言って、騎士カリムに目配せで合図する。そして、一枚の預言書を手に取り読み上げはじめた。
「旧い結晶と無限の欲望が集い交わる地、死せる王の下、聖地よりかの翼が蘇る。かの威光に鬼神が消え、血の女王は滅す。なかつ大地の法の塔はむなしく焼け落ち、それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる」
「……それって」
「……まさか」
騎士カリムの予言の内容を聞いてなのはさんとフェイトさんの顔色が変わる。正直俺も驚いてる。だけど、どうやって?
「ロストロギアを切っ掛けに始まる、管理局地上本部の壊滅。そして……管理局システムの崩壊」
しん、と。静寂が……いや、皆一同に言葉を失っている。
「情報源が不確定と言うこともありますが、“管理局崩壊”ということ自体が、現状ではありえない話ですから」
「そもそも、地上本部がテロやクーデターにあったとして、それがきっかけで本局まで崩壊……言うんは考えづらいしな」
いや、正直そうとは言い切れないと思う。この前のクランベル元三佐がそうであったように、実は向こう側というのは入り込んでる可能性は高い。
加えて、俺たちの船の情報をアイツは多少なりとも持っていたと思う。
そして、ここ最近まで務めていたやつが抜けた以上。最近までの情報は向こうも持っているということになる。
「この事をレジアス中将は?」
フェイトさんが質問を投げかける。
「対策はとくには取らないそうだ。そもそも、地上部隊はそんなものを信じるつもりは無い、と」
「あぁ。納得」
深いため息と共に疲れた顔をする統括官、あの様子じゃきっと色々苦労されてそうだなぁ……。
「異なる組織同士が協力し合うのは難しい事です」
「協力の申請も内政干渉や強制介入という言葉に言い換えられれば、即座に諍いの種になる」
「ただでさえ、ミッド地上本部の武力や発言力の強さは問題視されてるしな」
「だから、表立っての主力投入はできない、と?」
統括官をはじめに騎士カリム、はやてさんと続き、最後にフェイトさんが回答を出す。
「すまないな。政治的な話は現場には関係なしとしたいんだが」
申し訳なさそうに、目を伏せる統括官。
「裏技気味でも、地上で自由に動ける部隊が必要やった。レリック事件だけでコトが済めば良し、大きな事態に繋がっていく様なら、最前線で事態の推移を見守って」
「地上本部が本腰を入れ始めるか、本局と教会の主力投入まで、前線で頑張ると?」
「そう。それが、六課の意義や」
なのはさんの質問に、力強く応えるはやてさん。
しかし、突然、騎士カリムの側に浮いていた一枚のカードが真っ直ぐ俺の目の前に飛んできて、止まる。
あまりにも突然過ぎて反応を取ることが出来なかった、だが、そこに書かれていた物を見て――
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
騎士カリムの声で我に返る。静かにカードが騎士カリムの元へ戻る。だけど、その頃には既に文字が消えて居た。
「……こんなこと、今まで無かったのに。ごめんなさい」
「いえ、コチラこそ。失礼致しました」
特に追求は無い。だけど、アレは、一体……? いや、やめよう。気のせいだ。古代ベルカ語だったし、きっと読み違いだ。
そんなことを考えてると、気がつけば大分時間が経っていたらしく、騎士カリムと統括官、そしてはやてさんが、なのはさんとフェイトさんに改めて協力を願い出た。勿論2人はそれに応える。
今までの付き合いからも、きっとあの2人ははやてさんを支えようと、共に行こうとするんだろう。
説明が終わった所で。
「さて、クロノ君にカリムに一つ報告が」
そう言って、はやてさんが俺に視線を向ける、それにつられてお二方もコチラを向く。
「彼の名前はさっき聞いたと思うけれど、改めて。緋凰響、以前の階級は三等空佐。そして、二年前の反聖王教会団体幹部殺害事件の容疑者に仕立てられたその人や」
「……あぁ、知っている」
ゆっくりと立ち上がる統括官と、驚愕といった表情を浮かべる騎士カリム。いや、まぁ、うん。そうですけれど、なんでまた……?
「君が……いや、君たちが。緋凰君。すまなかった」
苦々しく言ったと思えば、統括官が突然頭を下げる。それに合わせて、騎士カリムも頭を下げる。それを見て、思わず。
「や、やめて下さい! アレは、元は俺達のミスで」
「違う。彼女が関わっていたことはわからなかった。だが、君たちが嵌められた事は分かっていた。だが、それでも君たちを助ける事は出来なかった。本当にすまない」
頭をさげながら話す統括官を見て、更に慌てる。落ち着けと思っても、全然落ち着けない。こんな上の階級の人が頭を下げるなんて、しかも少将も頭を下げさせるなんて……。
「頭をあげて下さい。それに、アレは……どうしても責任を取る必要が有りました。俺達はその責任を取るために」
「リュウキ・ハザマ君の事。そして、預かっていた船を堕としてしまった事、だね?」
頭を上げた統括官が真っ直ぐコチラを見る。そして、アイツの名前を出されて一瞬怯んでしまった。
「教えてくれ。緋凰……いや、響。君たちが抱えてしまい、そして、彼女に利用されるに至った事を。僕にはそれを聞く理由がある」
「……そんな、いや、しかし。アレはもう」
「君たちの提督から言われたよ。私が離れてしまい、彼らにかぶる必要のない罪をかぶせてしまった、きっと強く責任を感じているだろう、と。最後までそう言っていた」
それを聞いて、後ずさる。統括官を見られなくなる。
「名前を聞いても教えてくれなかった。フォルモント提督。その方から遠回しに聞いていたさ」
その名前が聞こえた瞬間、膝をついて座り込んだ。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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