ある晴れた日に
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599部分:誰も寝てはならぬその十七
誰も寝てはならぬその十七
「わかったな。そういうことだ」
「わかったわ。それじゃあ」
「克己するのだ」
あくまで求道的な言葉だった。これはそれが果たせている者が言えば強いものとなる。しかしそれではない輩が言っても空虚になるだけのものだ。
そして今の父の言葉は。空虚ではなかった。
「いいな」
「わかったわ。じゃあ」
「風呂に入り食事を採れ」
次にはこのことを告げたのだった。
「わかったな」
「ええ。じゃあ」
こうして己の進むべき道を見出した静華だった。彼女もまた迷いを断ち切った。
凛は周りをあてもなく歩き回っていた。夜だがそれでもだった。
本屋に行ったりゲームセンターに行ったりだ。そうしながら彷徨っていた。
その中であるゲームセンターに入った。するとそこは。
「ねえ、撮ろうよ」
「そうね。撮りましょう」
「それじゃあ」
プリクラの話をしているのが聞こえた。見れば他の学校の制服の女の子達が楽しくはしゃぎながらそのうえでプリクラを撮ろうとしていた。
「どれがいいかしら」
「これがいいんじゃない?」
「そうよね」
「あの制服は」
彼女達の制服を見た。それは。
「八条学園ね」
それだった。その学校の制服だった。
「あそこなんだ」
「一緒に撮ろうよ」
「それじゃあ三人全員?」
「そうする?」
話を続ける。そうして全員でプリクラに入っていた。
それを見ていて凛はふと自分の鞄を開いた。そして中のプリクラ帳を見た。
そこに映っているのは凛だけではなかった。皆がいた。
咲や春華達だけではなかった。高校に入ってから親しくなった明日夢達もいる。彼女達と一緒のそのプリクラを見てそれぞれ撮影した時を思い出すのだった。
「スタープラチナでだったわね」
そのうちの一枚を見る。そこでは六人一緒だった。
未晴を囲んでだ。五人が笑っている。未晴をお母さんとまで書いている。
「お母さんか」
その未晴を見ての言葉だった。
「そうだったわね。お母さんね」
未晴との思い出が思い出される。それは一つではなかった。
それこそ幼稚園の頃からだった。小学校に中学校、それに今もだ。それまでのことを思い出してだった。そうしてあらためて言うのだった。
「未晴・・・・・・」
未晴のことを思い出しながら見続ける。そのうえで止まっていた。
だが無意識のうちにそのプリクラ帳を収めていた。そのまま踵を返して家に戻った。彼女もまたそこに自分の進むべきものを見出したのだ。
咲は自宅にいた。リビングのソファーに座りアルバムをじっと見ていた。今まで何冊も作ってきたそのアルバムを一冊また一冊と読んでいく。
そこには彼女の今までの思い出があった。当然静華や凛もいるし奈々瀬も春華もいる。高校から知り合った面々も一緒にいる。男女問わずだ。
そして未晴も。彼女の写真が一番多かった。幼稚園の頃からの彼女がいた。
「どうしたの、咲」
その彼女に母親が声をかけてきた。
「ずっとアルバム見て」
「何でもないわ」
「何でもなくないでしょ」
しかし母はこう言うのだった。
「それは」
「何でそう言えるの?」
「あんたの母親よ」
彼女が言うのはこのことだった。向かい側のソファーに座ってそのうえで言うのだった。
「母親だったら知ってて当たり前じゃない」
「だからなの」
「そうよ。それでどうしたのよ」
あらためて娘に言ってきたのだった。
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