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レーヴァティン

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第百十四話 長田にてその八

「そしてだ」
「そのうえで、ですね」
「彼女がよしと言えばだ」
 それでというのだ。
「俺は晴れてだ」
「ご結婚ですね」
「正室を迎えられる」
「そうなりますね」
「そうだ、だからな」
 これよりというのだ。
「文を書き終えたらな」
「すぐにですね」
「これを送ってな」
「来てもらいますか」
「この大坂にな」
 こう話しつつだ、英雄は文を書きそれを郵便で娘に送らせた。だがここで良太が英雄に対して尋ねた。
「あの、それでお名前は」
「相手のだな」
「何といいますか」
「お静という」
「お静さんですか」
「そうだ、いい名前だな」
「そうですね、確かに」
 良太も英雄のその言葉に頷いた。
「多い名前ではありますが」
「それでもな」
「そしてそのお名前にですか」
「相応しい人間の様だな」
 こう言うのだった。
「どうやらな」
「もの静かな方ですか」
「いや、賑やかで明るい」
「ではお静さんという名前には」
「常に落ち着いているからな」
 例え明るくてもというのだ。
「そうした性格だからだ」
「お静さんというお名前にもですか」
「相応しい」
 そうだというのだ。
「まことにな」
「そういうことですか」
「そうだ、そしてだ」
「もう文を送られたので」
「後は相手が来るのを待つ」
「この大坂に」
「そして会ってな」
 そうしてというのだ。
「結婚を申し出る」
「そうされますか、だが」
「だが?」
「一つ思うことは」
 それは何かというと。
「断られたならな」
「もうその時はですね」
「諦める」
「その時点で」
「俺は一度断られたら終わりだ」
「もうその相手の方にはですか」
「何もしない」
 良太にもこう言うのだった。
「一切な」
「左様ですか」
「そして人の失恋を囃すこともだ」
 そうした行為もというのだ。
「しない」
「そうですか」
「そんなことをしてもな」
 一切と言うのだった。
「恨まれるだけだ」
「確かに。失恋は傷みます」
 その心がというのだ。
「非常に。そしてそれを囃されると」
「恨まれるな」
「そうなります」
「そうだな、下手に恨まれる様なことはな」
「しないに限りますね」
「そうだ、だからだ」
 他人の失恋を囃す様なことはというのだ。 
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