ある晴れた日に
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561部分:もう道化師じゃないその十二
もう道化師じゃないその十二
「ねえ、今からいいかしら」
「そうだな」
野本が何時になく真面目な顔で彼女の言葉に頷いた。
「いいと思うぜ、俺はな」
「俺も」
「私もよ」
そしてそれは皆も同じ意見であった。
「ここはな」
「皆で歌えば」
それぞれ言い合うのだった。それが彼等の今の気持ちだった。
「未晴の心にも届くし」
「それじゃあ」
「無理はするなよ」
正道は背を向けたままだった。しかしそれでも言うのである。
「それはいいな」
「御前が言うな」
「そうよ」
皆今の彼の言葉にはつい笑ってしまった。そして告げるのだった。
「毎日十時まで残ってるんだろ」
「それで無理してないなんて言わせないわよ」
「俺は無理をしていると思ったことはない」
しかし彼はこう返すのだった。
「別にな」
「言うな、本当に」
「口が減らないわね」
「そう言うなんて」
こうは言ってもだった。皆の顔は微笑んでいた。正道の心は確かに受け取りわかったからだ。だからである。
「まあいいさ。無理はしないぜ」
「そうか」
野本の今の言葉も背中で受ける正道だった。
「そうさせてもらうから。いいな」
「だから言った」
背中を向けたままなのは変わらない。
「思うようにすればいい」
「じゃあ」
「皆で」
皆それぞれまた顔を見合わせ合う。そうしてからだった。
歌を歌いはじめた。正道のギターに合わせて。そうして何曲も何曲も歌った。病院の中であることを考慮して小声であったが。正道は何曲か歌った後でその皆に言ってきた。
「別に声は大きくてもいい」
「えっ、けれど」
「それはよ」
流石に皆病院の中なのはわかっていた。だから気を使っていた。しかしであった。
「ここの病棟は防音ができている」
「あっ、そうだったのかよ」
「そうなの」
皆それを聞いて少し呆気に取られた。
「防音ができていたの」
「ここは」
「多少は外に出るがそれ程気にしなくていいものだ」
そうだというのである。
「声はかなり出してもいい」
「だからあんたもギターを奏でられるのね」
「そういうことだったのか」
「その通りだ。俺はこのまま奏でる」
また言う正道だった。
「こいつがまた動くまでな。いや」
「いや?」
「動いてからもだ」
それからもだというのだ。
「ギターを奏でる。そして歌う」
「そうなの」
奈々瀬が今の彼の言葉を聞いて俯きながらも応えた。
「これからもな」
「じゃあ私達も」
「ずっとな」
「いるわよ」
五人の言葉だった。
「だって。未晴だから」
「友達だから」
「それがいいわ」
明日夢がその五人に対して告げた。
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