ある晴れた日に
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56部分:穏やかな夜にはその五
穏やかな夜にはその五
「薬ないわね、本当に」
「カレーには漢方薬も入っていただろ?」
野茂が佐々に問うてきた。
「確かそうだったよな」
「ああ、ルーの中にな」
佐々もすぐに答える。
「入ってるぜ、ちゃんとな」
「その中に頭がよくなるのねえのか?」
やはり言うのはこのことだった。
「こいつの頭をなおせるのがねえのかよ」
「そんなのねえな」
佐々も流石にそれは知らない。
「けれど食ったら頭がよくなるのは入ってるぜ」
「葱か」
「他にも色々とな」
カレールーを指差して言う。
「入ってることは入ってるぜ」
「俺葱大好きなんだけれどよ」
野本本人も主張する。
「すき焼きでも鴨なんばうどんでも何でもな。葱はいけるぜ」
「葱食っても馬鹿は馬鹿なのかよ」
坂上もまた呆れていた。
「どうしようもねえんだな」
「あのな、御前まで言うのかよ」
「だって実際に馬鹿じゃねえか」
「それは俺も否定しないな」
佐々まで参戦してきた。
「お互い中学からの付き合いだけれどな」
「御前中学から馬鹿だったじゃねえか」
しかも坂上はまた言う。
「だから言うんだよ」
「ちっ」
「まあ馬鹿はなおらねえからな」
完全に突き放している佐々だった。
「何食ってもどんな薬でもな」
「俺は不治の病持ちかよ」
「馬鹿が病気っつうんならそうだろ」
春華がここでまた容赦なく言い捨てる。
「ったくよお。鋏みたいに使いようだけれどな」
「いい加減そこまで言われると腹が立ってきたぞ」
「まあこれ食べて」
顔を不平不満で歪める野本に未晴がそっと言ってきた。
「いえ、飲んでかしら」
「んっ、竹林か」
ここで未晴に気付く野本だった。
「何だよ、それ」
「紅茶よ」
その未晴が淹れた紅茶である。
「ミルクも入れておいたから。飲んで」
「ミルクティーかよ。いいねえ」
「ロイヤルミルクティーよ」
だが未晴はここで言い替えてきた。
「この紅茶は。ロイヤルミルクティーなの」
「ロイヤルミルクティー!?」
そう言われてもわかる野本ではなかった。紅茶を受け取りながらも目をしばたかせ首を捻っている。カレーを食べる手も止めている。
「何だそりゃ」
「ホットミルクを紅茶に入れたものだよ」
そんな彼に竹山が横から言う。
「凄く美味しいから」
「へえ、そうなのか」
「うん。普通のミルクティーとはまた違った味でね」
「面白そうだな」
それを聞いてまた言う野本だった。
「ロイヤルっていうと王室だったよな」
「流石にそれはわかるんだな」
「奇跡だよな」
野茂と坪本が言う。
「英語もクラスで最低点だってのにな」
「赤点だったよな、御前」
「追試はちゃんと通ったぜ」
返答にならない返答であった。
「三回目でな」
「やっぱりそんなところかよ」
「たまには勉強しろよ。先生も頭抱えるだろうがよ」
「勉強なんて進級できればいいんだよ」
今度の二人の突込みにも開き直る野本であった。
「そんなもんはよ」
「いや、あんたその進級すらどう見てもやばいし」
「三回目の追試でって」
今度の突っ込み役は茜と静華である。完全に呆れた顔になっている。しかし三回も追試をするとは随分と根気のある学校である。
「留年どころじゃないじゃない」
「普通一回で終わりよ」
「通ったからいいじゃねえかよ」
今回も完全に開き直っている。
「それはそれでよ」
「それで野本君」
四面楚歌な彼にも優しく声をかけてきた未晴であった。
「どう?ロイヤルミルクティー」
「美味いな」
片手にカップを持って啜りながら答える野本であった。もう片方の手にはスプーンを突っ込んだままのカレーがある。見ればもう殆ど食べてしまっている。
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