ある晴れた日に
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542部分:柳の歌その九
柳の歌その九
「それも」
「はい、そうです」
「そうですけれど駄目ですか?」
「いいですよ」
いいと答えたのだった。
「私から届けてくれます」
「御願いできるんですね」
「この差し入れをあいつに」
「はい」
今度は快諾してみせてきたのだった。
「わかりました。それではですね」
「はい、それでは」
「それで御願いします」
応えた二人であった。こうしてその差し入れは正道の下に届けられることになった。食べ終わった後のコップや鍋は翌日二人が受け取りに郁子とで話は整った。
話を終えてから二人は病院を出た。病院を出たところで佐々は恵美に声をかけてきたのだった。
「なあ」
「どうしたの?」
「御前あれで絶対に上手くいくって思ってたんだな」
「ええ、そうよ」
まさにそうだと答える恵美であった。
「看護士さんにお話したらね」
「それでわかるんだな」
「そういうことよ。わかっていたわ」
恵美はまた答えたのだった。
「おかげで話は簡単に収まったわね」
「そうだな。俺一人だったらまじで隔離病棟に入っていたな」
「けれど病室には入られないわよ」
「ああ」
このことはよくわかっていた。項垂れた顔になって頷いたのが何よりの証拠だった。
「それはな」
「それでだけれど」
「何だ?」
恵美の言葉にその項垂れた顔を向けたのだった。
「こうして時々差し入れしていきましょう」
「そうだな。そうしていくか」
「私達全員でね」
二人だけではないというのだ。
「皆でしていきましょう」
「そうだな。持ち回りでやってくか」
「さぼったり逃げたりする人はいないし」
それはもうわかっていた。彼等の中にはそうした人間はいない。このことはよくわかっていた。まだ半年程度の付き合いだがそれはわかってきていたのである。
「それでいいわね」
「そうだよな。そうしてくか」
「ええ、明日は」
「誰だろうな」
「あの五人かしら」
言わずと知れた咲達である。未晴と最も絆の深い彼女達である。
「出て来るのは」
「今日は中森が出て来たけれどな」
「けれどあの五人と未晴の絆は特別だから」
恵美はその絆のことを話した。五人と未晴はずっと一緒にいた。そのことはクラスの中ではもう誰もよく知っていることであるのだ。
「だからね」
「出て来るっていうんだな」
「多分お菓子ね」
恵美は彼女達が差し入れるものも読んだのだった。
「何を持って行くかはわからないけれど」
「饅頭か?それともカステラか?」
「音橋って好きなお菓子何だったかしら」
「何だって食べるぞ」
そうなのだった。彼は好き嫌いが特にないのだ。
「けれどまあ。美味そうに食べてたのはな」
「何だったの?」
「羊羹だったな」
それだったというのである。
「あれが好きみたいだな」
「そうなの。羊羹なの」
「他にもカステラもだったか」
次に話に出したのはこれだった。
「あれも好きだったな」
「カステラもなのね」
「山月堂カステラも作ってたよな」
「ええ、確か」
佐々の問いにすぐに答える恵美だった。
「洋菓子も作ってたし。ケーキも」
「同じ様なものか」
佐々は頭の中にそのカステラとケーキを思い出して述べた。思い浮かべてみるとそのスポンジが確かに似ていることに気付いたのである。
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