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ある晴れた日に

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534部分:柳の歌その一


柳の歌その一

                      柳の歌
 翌日。彼等は学校に来るとすぐに職員室に向かった。そうして江夏先生のところに来て問うのだった。
 先生は最初何もわからなかった。彼等の顔が普段と違うのも気付かなかった。
「田淵先生元気だったわよね」
「先生」
「田淵先生のことはわかりましたけれど」
 彼等はすぐに暗い顔で江夏先生に問うた。先生を半円に囲んでまるで問い詰める様だった。
「あの、あいつですけれど」
「何時からなんですか」
「・・・・・・そうなの」
 これだけで充分だった。先生は彼等の言葉を聞いてまずは唇を噛んだ。
 そうしてだった。それから静かに、周りの先生達に悟られないようにして告げるのだった。
「夏休みの終わりの方からよ」
「じゃあ」
「あの時連絡取れなかったのはやっぱり」
「それで」
 五人がそれを聞いてまず言い合った。
「それであの時」
「それから風邪になったって」
「御免なさい」
 先生も彼等に謝罪した。
「隠していて」
「いえ、それは」
「いいですけれど」
 皆隠さざるを得ない話なのはわかっていたので先生のその謝罪はいいとした。
「けれど。あいつは」
「あのままって」
「・・・・・・・・・」
 先生は俯いて目を閉じた。そのうえで首を横に振るのだった。
「わかってるわよね。話は」
「ええ」
「それじゃあ」
「音橋君には会ってないわ」 
 ここでこう言うのだった。
「病院ではね」
「あえて会わないようにしてるんですか?」
「ひょっとして」
「ええ、そうよ」 
 その通りだと彼等に答えた。
「そうよ。やっぱり、彼が一番辛いだろうから。御家族以外には」
「じゃあ知ってたんですか」
「あの二人のことを」
「知らないわけないでしょ」
 知っているということをこう表現した先生だった。
「貴方達の担任よ。知らない筈ないじゃない」
「そうですか。それでなんですか」
「あの二人のことは」
「彼には一番知って欲しくなかったわ」
 先生は顔をあげた。目も再び開いている。しかし表情は暗いままでありその顔でふう、と溜息をつくのだった。つかざるを得なかった。
「当然貴方達にも。とりわけ」
「私達ですか」
「やっぱり」
「そうよ」 
 五人を見ての言葉である。それと共に五人の顔もここで見るのだった。
「昨日はあまりよく眠れなかったみたいね、五人共」
「それはその」
「その通りですけれど」
「皆もなのね」
 先生は次は五人の顔を見た。見れば誰も疲れてそれで顔色がよくなかった。瞼にも疲れが浮かんでいた。目だけが赤くなっている。
「お酒で無理に寝たのね」
「まあそれは」
「言わないってことね」
「いいわ。この町はそういう町だから」
 酒に関しては寛容である。だから先生もそれはいいとしたのだった。
 
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