魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第13話 想いを伝える。全開で
――side響――
数日明けてた関係で、何となく久しぶりな六課隊舎。
正直な所、まさか勝負しようと言われるなんて思ってなかったし。そんな言葉を聞ける日が来るとは正直思ってなかった。
はやてさん関係だろうと思ってたが、どうにも違うらしい。優夜達から話を聞けば、既に六課内には広まってると思ってたら、勘違いだったと聞いた。
加えて、人事部からの直接連絡……何か思惑があるのか、はたまた呼び出すための口実か。
基本的にあんまり本局なんて行かないからなぁ。
……さて、いい加減切り替えるか。
行きたくないなーと思う半面、行ったらしばらく動けないが、それでも遠くからでも手を差し伸べることは出来る。
それに――
「おはよう。ばーか」
朝靄の中から聞こえた声はよーく見知った声で、気配は一つ。
やっぱり奏は起きれなかったんだなぁ、なんて考えながら。
「おはよ。震離」
眼の前でぶすっとしてる■に何時ものように声を掛けた。
――sideなのは――
フェイトちゃんに頼まれて、朝一番にシミュレーターを起動してセットしておく。加えて朝早くということもあって騒音対策もしっかりしている。
既にフェイトちゃんはシミュレーターに展開されたビルの上で待機している。私もコンソールの側のベンチでそれを見守っている。
予想では……いや、間違いなく言えるのはフェイトちゃんが勝つ。それは揺るがないけれど……だけど、それは。
「何分持つと思います?」
ふわり、とした声と共にやって来たのは。
「おはよう時雨。今日は早いんだね」
「おはようございますなのはさん。えぇ、だって親友の分かれ道ですし、気にしない訳ないじゃないですか」
「うん、そうだよね」
何時も通りの雰囲気な時雨に対して、苦笑を浮かべてる優夜。何時もと違って眉間にシワが寄ってる煌に……アレ? 紗雪が居ない? ……まだこっちに来てないだけかな?
最近どうにも雰囲気が違うけど、どこか調子が悪いのかな? ……そこまで親しいかと言われればなんとも言えないけど。
「……フェイトさんが、響に付き合わずに居たら問題なく勝てるんですけどね」
「……うん、やっぱりそうなるよね」
ポツリと呟く優夜の言葉に同意する。
確かに響はまだ底を見せて無くて、加えて全力機動も何も見せてない。だけど、その片鱗は掴んでる。
響の基本は、フェイトちゃんやエリオと同じく、スピードタイプでもその本質は違う。二人が速度に振ってるのに対して響は加速と減速に振ってる。
訓練の時は出してないけど、アンノウンに一撃……一打を徹した時にそれは見て取れた。踏み込んで急停止からの一打。それをするだけで威力の桁は大きく異なる。
いつかスバルにも出来るようになってほしい技術だけど、アレ程の加速減速の俊敏性とシューティングアーツとの相性は微妙な所。
それは今後の課題としてと。
フェイトちゃんが響に付き合わなければ問題なく勝てる。
ただし、付き合ってしまえば……いくらフェイトちゃんでも取られる可能性はある。
それにしても。
「皆、やけに詳しいけど……やっぱり魔力戦に――空に戻りたい?」
空気に緊張が走ったのが分かる。
でもね、私もいろんな人をずっと……ずぅっと、見てきたから言えるんだよ。
皆、空を飛んで戦ってたよね? って。
指揮官をしたことのある人は空戦を立体的な盤面でしか捉えられないけれど、実際に空を飛んで空戦をしたことのある人は違う。
立体的に見えてる、分かることを把握してることが大きく違っててるのに、この子達はそれを知ってる。
あまり積極的に話してくれないけれど、ふとした時に空戦をしてる響達の映像を見てて、ハッキリと指摘出来るのは空を知ってるからだ。それも、教科書通りの回答ではない、その人に合わせた空戦機動を。
「さぁ? 何のことでしょ。親友が相談してきたのを答えてたら。いつの間にやら詳しくなっただけですよ」
フッと笑う優夜の言葉と共に緊張がなくなる。気がついたら、紗雪も合流して……なんだか眠そうだね。
「そういえば、奏も来るかと思ってたけど……どうしたの?」
「FWの皆で食堂で見るって言ってましたよ。震離は……まぁ多分医務室で見るんじゃないかなーと」
「そうなんだ」
で、4人はここで見るのかな? てっきり皆と見るものだと考えてたけど。
「……下手すりゃ最後の見納めになるかもしれないので、生で見ておこうと」
「……まさか。まだ続けてもらうよ。だって依頼出しちゃったもん。響のデバイスの作成を」
だから、負けてもらわないと。せっかくのデバイスが持ち手不在のままになっちゃうから。
――side奏――
「……別にティアナのせいじゃないでしょうよー」
「……でも結果的にあの時私が馬鹿しなければ、ここまで発展しなかったじゃない」
「結果論でしょ。どっちにしろ異動要請自体は来てただろうし、この勝負自体は行われてたと思うよ」
机に突っ伏したままのティアナを横目に見つつ、モニターに映るフェイトさんを見る。
誰もフェイトさんが負けるとは思ってない。むしろ、響の方を心配してる。
それは怪我とかそういう意味ではなく、本人の意思を蔑ろにするのはどうなんだろうという意味で。
特にこれにショックを受けているのは。
「……お兄ちゃん。六課から離れたいのかな?」
「……それはない。だけど、必要だからそう決めて、待ったが掛かった」
「でもそれは……残って欲しいのは僕たちのワガママなんじゃないかなって」
「それは違うよ。響も居てもらわないと困るから、フェイトさんは待ったを掛けたんだよ」
響対フェイトさんの勝負と、それに至った経緯を聞いて一番驚いて、不安定になったのはエリオとキャロの二人。
ティアナも自責の念に駆られてるけど……それも違うんだよ。
響の想いを大切にしたい反面、行ってほしくないから……あぁ駄目だ。気持ちが纏まらない。
勝ってほしい。あの人がそう決めたんだから。
負けてほしい。皆揃ったんだ。まだ一緒に在りたい。
勝ってほしい。悩んで苦しんで出した結論なのだから。
負けてほしい。そうしないとあの人は――
「……ねぇ奏」
思考の海に漂ってる所を、スバルの一声で引き戻された。
「響が、ね。この前さ。魔力量、レアスキル、それ等に恵まれなくとも弛まぬ努力でカバーできるなんて、そんなのは口先だけのことで、才能こそ必要だって。それと、硬さがない。速さがない。中距離択がないって……やっぱり何かあったの?」
……あぁ、それか。そうだねぇ……。
「……有るよ。そうだ。いい機会だから話しておこっか。
そうだよ。響ってぶっちゃけ前線に出すには脆いし、遅いし、火力も遠くの敵を攻撃する手段もない。
なんで前に出ているんだってタイプの……狂人だよ」
「……でも現に私達に勝ってるじゃない。しかも私の策に乗った上で、ひっくり返すし」
頬杖をしながらぶすっとティアナが言う。何時も悔しいって言っては、響から、なのはさんからそれぞれ指摘されてたもんね。
「……よぉく考えて。ちゃんと響が戦闘を、正面から戦ったのって……実は初めて模擬戦をした時だけだよ」
「……そう言えばそうね。基本は震離と連携か、流に合わせて裏取りが……あ」
そこまで言って、ようやく気づいたらしくティアナの目が丸くなる。
「……もしかして、響はバリアを抜く事が出来ない?」
「そ、正確にはちょっと違うけど、概ね正解」
……まぁ、模擬戦だし仲間だからって考えてるから、打撃の徹しも全力の打ち込みもしないんだけどね。
「正確には、響には非殺傷設定ってつけれないんだよ。それを発動、維持できるだけの魔力リソースが無いから。
だから、基本的には響は対人戦闘で刃を向けたりしたがらないんだよ。万が一でも怪我させたくないから。
ま、最近は皆の防御がだいぶ硬くなってるから、使ったとしても歯が立たないじゃないかなーって思ってたりするけど」
しかも、打撃の徹しも本当に痛いし、当たりどころによっては不味いことになりそうだから余計に使う気無いみたいだし。
「でもまぁ……勝ってほしいなぁ」
どちらにも。
――sideフェイト――
昨日の晩。なのはに響と勝負すると伝えた。驚いてたけど、事情を知ってて今回だけだからね許可を来れた。
響と向き合って全力でぶつかって。私達の想いを伝える。なのはが教えてくれた様に、あの子達のお兄ちゃんになってくれた人を、ちゃんと見て、私も全力でぶつかって話をしよう。
その考えを伝えたらなのはも納得してくれた。きっと響が勝っても、私が勝っても、全てを吐き出してはくれないと思う。でも、少しでも溜め込んできた想いに触れることが出来たら。
一番意外だったのがシグナムだった。響の事を否定することなく。ただ。
―――アイツらが抱えてるもの、その一握りでも掴んでこい。
ただそう言った。私とは違って、一瞬とは言えシグナムは響と本気の勝負をしたからなのか、どちらかと言うと向こう側に立っている様に思える。
なんとなく予想してたけれど。何かしらの情報をシグナムは持っているんだろう。だけど、はやてがそれを知らないということは、きっと誰が聞いても響達から話してくれるまで口を割ってはくれない。シグナムはそういう人なんだ。
そして、迎えた今日。訓練スペースを起動してもらって市街地エリアにしてもらう。その中の適当なビルの屋上でジャケットを展開して響を待つ。既に昨日の内に伝えてある、六課に付いたらまっすぐここに来てと。
あと、皆には離れて見るようにお願いした。隠すわけじゃない。だけど響自身皆に会いづらい……事は無いだろうけど、次に皆の前に響と行くときにはいつもの様子……とは言わないけど、少しでも前の様になってほしい。そう考えて今私一人でここにいる。
あの日の夜の響の態度の変わり方を皆見て、特にティアナは私達と響の間に溝を作ってしまったって気にしてた。エリオもキャロもあんなに冷たい態度を取るのは初めてで、どこか落ち込んでるように見えた。
情報があった。だけど、その時点ではまだ可能性だった……はやての夢の部隊。その設立はとても長い時間と、苦労。なにより妨害があった。
無意識に私たちは響を――あの子達を疑ってしまった。そして、その結果、皆の関係を悪くしてしまった。知らなければ今頃こうはならなかった。隠し事がある事くらい分かってあげれた。
でも。
「……来たね、響」
一つ隣のビルの屋上に響が降り立った。話した通りまっすぐ来てくれた。ジャケットを纏って、刀を腰に二本つけていつでも戦えるようになってる。
遠くに居るけどはっきりと分かる。伝わる。まっすぐこちらを見ていることを。大きく息を吸って、静かに吐く。
そこから静かにバルディッシュを構えた瞬間。熱のようなプレッシャーが来た。
ふと、昨日の言葉が頭をよぎる―――全てで私を倒すと、その言葉を。
示し合わせたわけでも、開始の合図が聞こえたわけでもない。ブリッツアクションを発動、まっすぐ響の居るであろう場所へ飛ぶ―――が、私の目の前に既に響が居た。
瞬間、バルディッシュと刀が苛烈な響きを上げて交錯。互いの武器が弾かれる。その一瞬にバルディッシュをハーケンフォームへ、その変形の一瞬の間にもう一度踏み込まれ、もう一度刀を振り下ろされる。
もう一度ブリッツアクションを使って、響の背後に回り、その勢いのままバルディッシュを横に振り抜く。だけど、一際高い金属の音が響く、背中を向けたまま刀を盾にこれを防がれた。
一旦距離を取ろうと、後ろに下がる。瞬間、背中を見せてた響の姿が揺らいだと思えば、そのまま消え、突然目の前に現れた。既に反転は済まされ二本の刀が光る。隙間がないと思う程の幾つもの斬撃。咄嗟にシールドを張ったけど、その気迫に圧倒されそうになる。
斬撃がつながり、止まらない。押して、押して、押して行く。私が少し下がればその分詰めて、止まらない。
今までの訓練の時も。刀が折れるから、優秀な前衛が居ると前に出る機会も少ない、力押しされたら敵わない、と言っていた。けれど、本当の全力の響の斬撃はシールドに阻まれながらも、脆い刀を折ることも、欠けることもなく使いこなしている。
だけど。それにも限界があるはずだ。以前デバイスの情報を観覧した時、長期戦は出来ないというのを把握している。ならば。
「……強い盾を置けばいい、と、思っているんでしょう? そんなもん分かってますよ」
そう聞こえた瞬間、再び響の姿が揺らいだと思いきや、全方位から斬撃を浴びせられる。
たまらず、空へと逃げる。咄嗟にバルディッシュが全方位のバリアで守ってくれなければ、今のは危なかった……と考えたとほぼ同時に、目の前に響の刀が一本舞い上がる。視線の端に映る響は、左手に刀は持ってるけど、もう片方の手に有るはずの刀がなく、腰にも刺さってない、なら、この刀は?
「ッ、バルディッシュ!」
[Yes, sir.]
その刀を遮るように盾を張る。それよりも先に刀が爆発した。爆風に飛ばされ道路へ堕ちる。
怪我こそ無いけれど、ダメージが有る。体制を立て直して、ビルの屋上を見ると。刀を持った響がこちらを見下ろしていた。
すぐに今の攻撃を整理する。そして、直ぐに答えへ行き着く。おそらく今のはリアクターパージ。あの刀自体がバリアジャケットの響ならではの技だ、と。
だけど、これは……この技術は武装局員としてではなく、おそらく対人を想定した技だ。もっと言えば――いや、まだだ。
「まだ、決めつけるには早い」
改めてバルディッシュを構えて思う。あの日の晩の響の言葉を。
――魔力量、レアスキル、それ等に恵まれなくとも弛まぬ努力でカバーできる。そんなのは口先だけのことだ、と。
対人に置いて凄まじい技量が有るのはわかった。響のスピードの事もわかった。だけど、結果はこれだ。響には、盾を撃ち抜く力がない。
にも関わらず、私は押されている。いつもの響を考えれば、大人しく下がって何か手を打つと思う。だけど、今の響はこちらの動きを伺っている。下がって体制を整えるわけでもなく、そのまま戦闘を継続しようとしている。
だからこそ思うよ。凄いって、そんな子が一緒に戦ってくれる、それだけで力をもらえるって!
「私も全力でいくよ。バルディッシュ、サードフォーム!」
[Zanber Form.]
バルディッシュのサードフォーム。本来なら限定解除の時にしか使えないけど、昨日の夜の内に調整をしておいた。
正直直前まで使うかどうか悩んだ、限定解除してないと魔力効率が悪くて、稼働時間が短い。
だけど、そんなことはどうでも良い。この短い打ち合いの中でもわかった。あの言葉の通り、全力なんだって! そんな人に手を抜かれた、なんて、そんなこと思われたくない。
大剣を、バルディッシュを構えて、もう一度見上げる。相変わらずこちらを見下ろしてるけれど、自然体で隙がない。気がつけば両手に刀を持っている。
響がこちらに斬り込まないのは、私より遅いからだ、正確に言えば、響の速さの秘密は、加速にある。響のトップスピードは現在のエリオより少し早い。だけど、それ以上に加速と減速が凄まじい。一瞬で最高速を出したかと思えば、いきなり停止、その緩急が凄い。響が動く時、揺らいだように見えたのがそうだ。
予備動作無しで、瞬時に最高速で視界の外へ行き、あえて目の前に現れる。スピードに自信はある。あくまでそれは最高速、平均速度といった事で、加速減速を極めているのは初めてだ。私もある程度なら出来る。
けど、予備動作無しであそこまでの事は出来ない。
なら、対応は出来る。後はそれに響が乗ってくれるかどうか。
サードフォームに切り替えてから、睨み合いが続く。屋上の攻防と違って、地上と屋上。踏み込むには遠い、かと言って下手に射撃を使えば、その瞬間突っ込んできそうだ。
仮に射撃を撃つ際、防御魔法を使っても、下手をすると間に合わない可能性もあるし、何より響には鎧通しを使った重い一撃がある。
今でこそしっかりとジャケットを来ているとは言え、重い一撃をもらうとこの後の機動に影響が出るかもしれない。
でも。
「シューター、セット!」
周囲に雷を纏った、スフィアを左右に2機づつ、背後に2機、展開。瞬間、屋上に居る響の姿が揺らぐ、同時にバルディッシュを掲げカートリッジを全てロード。それと並行して展開したスフィアが膨張する。そして――
「ッ!」
瞬時に眼前に現れた響、同時に周囲のスフィアが自壊。小規模な爆風が来る。私を見るその表情はどことなく悔しそうだ。そして、真っ直ぐこちらへ向かってくる。
「ジェット……ザンバー!」
[Jet Zamber.]
振り下ろすと同時に極光が奔る。目の前にあったビルが吹き飛び、爆風が広がる。ふぅとため息が漏れた。
――sideなのは――
「……勝負」
有り、と続けようとした瞬間。
「……あのバカ。いや……まだ、システムに委ねてるだけマシか」
煌が苦々しく呟いた。
システムに委ねてる? 何を? そこまで考えて、ふと思い出す。
――全てで倒す。
まさか……まだ、何か?
――sideティアナ――
決まった! フェイトさんの切り札の一つを引き出させて、その上で斬撃魔法を撃たせるなんて……やっぱり強い。
だけど、やはり順当にというか、こうなるという結果だった。
「……いつもの手段だ。気を抜かないで下さいフェイトさん」
苦しそうに呟く奏を見て直ぐに悟る。
まだ、終わってないと。
――sideフェイト――
――――背筋に走る、ぞわりとした感覚。反射的に身を捻り、爆煙を貫いた何かを躱す。更にもう一度風を斬る音が聞こえ、音が聞こえた方を薙ぎ払う。
爆煙で見えないが何かを弾いた手応えを感じた。薙ぎ払ったと同時に目の前の爆煙が晴れる。が、もう一度背筋に、ぞわりとした感覚が走り、振り返る勢いでバルディッシュを薙ぎ払う。
しかし、硬い何かに阻まれ、途中で止まる。振りかぶった風圧だけが残り爆煙が吹き飛ぶ。
煙が晴れ、そこに居たのは、ジャケットの右上半身が吹き飛び、震える右手で刀を持ち、左手に鞘を持ってザンバーを受け止める響の姿があった。
何より驚いたのは。
紅い目、それは私とは正反対。瞳が紅い私に対して、響の目は白目が赤く染まっている。
一瞬の膠着。先に動いたのは――いや、動かさざる得なかったのは響。煙が晴れた時点で、響の持つ鞘は既に罅が入っていた。そして、響が揺らぎ消えたと同時に、砕け落ち、バルディッシュが空を斬る。
一瞬下がったと思えば、既にこちらの左前に踏み込まれていた。それはバルディッシュが振り抜かれた後の場所。背中を見せ、腰は落とされてる。
分からない――でも、不味いのは確かだ。眼の前で響が回転し、振り向こうとした瞬間。
[Jacket Purge.]
それよりも早く。バルディッシュがオーバーコートをパージ、衝撃で響が弾き飛ぶのが見える。
助かったと思う半面、上手い……いや、それ以上に。明らかに加速した。こちらが思う最高速度を塗り替えて――違う、それよりも。
「響! 出血が……ッ!?」
再び揺らぎ消えたと思えば、背後に回り込まれる。頬に感じる動きは、響が移動した際に発生した大気の揺れ。
その揺れは早い。だが。
[Thunder Arm.]
左腕を盾の様に立てた瞬間。
「……ッ!!」
鞘で斬りかかってきた響に電撃が流れ込んだのが分かる。後はこれでバインドさえ、と考えるけど。
私の左腕を取った瞬間世界が反転。
[Sonic Move.]
投げられたと感じるよりも先に、ソニックムーブを使いこれを離脱。
次はどう攻めてくるかという事よりも、まず考えるのは。それ以上に感じる違和感。電撃を流し込んだというのに、それを無視して行動した事。何より明らかに出血して白目が赤く染まってる目。
分からない。何が起きたの?
いや、それよりも。痛みを感じてないし、私の動きを完全に見切っている?
だったら、と。
地へ降りたと同時に、再び背後から風を感じる。首だけ振り向けば、鞘を刀に見立てて背後からの横一閃を放とうとしている。
素直に上手いと思うし、こちらの動きを見きった一手。明らかに実践の剣術だけど、
「バルディッシュ」
[Yes.]
もう一度オーバーコートを展開して、そのまま背後へバックステップ。
踏み込んでの一打に合わせて、こちらは防護服に魔力を込めて盾とする。
加えてバックステップのタイミングに、ソニックムーブを使えば横一閃よりも早く行ける。
しかし、黒い髪が流れるのが見えて。もう一度離れられたのを理解した。
そこで気づく。足から出血しているらしく、ズボンが黒く滲んでいるのがわかった。
踏み込んでいたのに、それとは正反対な挙動をしたから足に負荷が掛かったんだろう。でも、痛みを感じていないように、挙動を続けている。
ここでようやく気づいた。
響は――
――sideなのは――
「……なるほど。これは……勝っても負けても、お話しないとね」
フェイトちゃんと響の攻防の間に、ジェットザンバーの直後の映像を展開して響が何をしたのかようやく理解した。
なんてことはない。
身体強化だった。
ただし、カートリッジを二発用いてなにかのシステムを展開と同時に、白目が赤く、心拍は200を超えて動いている。
加えて、激痛が走っているにも関わらず、動けているのは……痛覚を切ってるんだろう。
でも、そんなシステムは響のデバイスには入ってなかったはず。皆からデバイスを預かった時にシャーリーが気づかない筈がない。ということは……外から入れた?
いや、そんな事を気にしてる場合じゃない。
見るからに速度は鋭さを増しているのに、前より増して響はフェイトちゃんの動きを完全に見きって対応して見せてる。速度が上がれば対応する手数は減るのに、逆に上がってるということは……思考の加速も出来ていると言うこと。
ということは、響が今している身体強化は、五感と思考加速、心臓機能強化に全てを振って可動してるということになる。
確かに驚異だ。普通の隊員ならば容易く倒されてしまう。
確かに早い、後出しで対応を変えて撃破出来るんだから。
だからこそ……。
「……だから諦めたんだ」
泣けてくる。
無理無茶を通すために、これを開発したんだろう。少しでもその匙加減を間違えれば取り返しのつかなくなるのに、それをギリギリの所で押し留めている。
だけど、それでも……。
「……勝てないんだ」
おそらく思考速度でフェイトちゃんを圧倒してる。でも、フェイトちゃんは一人じゃなくて、バルディッシュと二人で戦っている。
それが勝因を分ける。
どんな思いで、アレを組み上げ、実戦に使えるようになるまでしたんだろう?
どんな思いで、そこまで突き詰める事にしたんだろう?
どんな思いで、今、戦ってるんだろう。
きっと、やればやるほど嫌になるほど痛感しているんだろう。
勝てないという事に。
――sideフェイト――
右目の端に影が映る。アレだけ見せられたんだ。もうその速度には慣れた。
瞬時に判断し、右を払いつつ、その勢いのまま反対へ切り抜くためにバルディッシュを横一線に薙ぎ払う。
早く終わらせるために、早く医務室へ連れて行くために。
振り抜く直前、背後から肉薄するために、再度踏み込んでくる。ザンバーを、バルディッシュを恐れずただ真直に。
完璧に捉えた、筈だった。だけど、当然そう来ると言わんばかりに震える右手に鞘を前に突き出し、バルディッシュをほんの僅かにずらした。
その刹那――響の目が煌めく。けど、それ以上に口元が自然と微笑んでる。
体を地面すれすれへ屈ませながら、魔力刃の下へ踏み込む。右手の鞘へ刀を収め、踏み込んだ勢いはそのまま、真直私へ向かい――
――斬られた。
そう認識した瞬間腹部に激痛が走る。ジャケットを纏っているのに、殴られたような痛みが奔った。そのダメージをこらえつつ、振り向き今一度バルディッシュを構える。
少し離れた場所に響は立っていた。右手に鞘を持ち、左手には中ほどから折れた刀を持って。静かにこちらを向いていた。
「……やはり俺……では……これが限界……か。意地を張るのは……もう……やめ……」
倒れる。そう思った瞬間、残った魔力を使い、正面から支える。既に半分意識が無いようだ。
そして、悲しげに。
「……あぁ、悔しい……もっと魔力が……あれば……もっと力が……あれば……。もっと……いろんなことが……出来る……のに……なぁ」
そこで意識を手放した。だけど、何処か憑き物が落ち、いつか見た柔らかい笑みを浮かべた響がそこに居た。
結果だけ見れば、私が勝った。だけど、私のワガママでサードフォームを出した。にも関わらず、その中身は正直勝ったといえる内容ではない。
何度も激突。その殆どの主導を取られて、1度は読み勝った。けど、もし――響に魔力があったなら、最後の激突は、おそらく私が倒れていた。腹部にある痛みがそれを証明している。
さぁ、響が起きた時、彼の内情は話してもらえたら良いけど、少しでも話ができたらいいなって。
――sideなのは――
医務室で眠る響に夕日が差す、それを見ながら、深い溜め息が漏れる。たった十数分の模擬戦。FWの皆は普段あまり見られない、フェイトちゃんの戦闘と、響の全力を見て盛り上がって……というか、ドン引きしてた。
理由は言わずもがな、あんな無茶を通そうとしてたんだから……そりゃあねぇ。
あと裏でヴァイスくんが落ち込んでいたから裏では賭けとかあったんだろうきっと。まぁ、それは置いておいて。
問題……と言うより、一つ気になることが。あの模擬戦の最後に見せた居合の一閃。形こそ違うけれど、まさしくアレは。
――御神流奥義、虎切。
鞘走りを使った、神速ともいえる踏み込み。そこから繰り出される斬撃。昔、家の道場でお兄ちゃんとお姉ちゃんが模擬戦をしている使ってた技。
まさか、こんな所で見るなんて。夢にも思わなかった。私はあまり詳しいことを聞かされていないけれど、間違いなく表に出る技術ではない。まして、たまたま習ったわけでもないだろう。
だけど、そうすると以前に煌達が言っていたことに矛盾ができちゃう。自身でも流派を把握してない、と。
細かく聞いてみたいけど、基本的に手を隠していたいタイプだから、素直に答えてくれるか……。あ、だからかな? この前の出張任務、ここなんか居ませんかって言ってたの。
あれ、お父さんやお姉ちゃんを警戒してたのかな? また戻った時にもう少し御神流ついて聞いてみよう。
それはさておき、模擬戦が終わった時、皆すごかったなー。特にシグナムさん。引きつったような、凄く楽しそうに笑ってた。そろそろ模擬戦を止めること出来そうにないなー。
ただ、ティアナだけは少し落ち込んだように見えて、少しお話を。だけど、思っていたものとは違う返事だった。
――あんなに強いのに、評価されないなんて、おかしい。と。
それは私も思う。あれ程の機動。加速減速。そして、多分揺らいで消えたように見えたのも、おそらく何かしら歩行術の応用だろう。
だけど。いつか響が言っていたことをティアナに、皆に伝える。魔力保有量故の限界。ティアナ達と違い、ある意味では響は既に「完成」されている。
これから先、技を覚えても。基本的な戦術は変わらないだろうし、下手すると今日のような全力はもう出さないかもしれない。というか出さないでほしい、見てるこっちが心配する。
間違いなく技術は最高値。だけど、見られれば見られるほど対策は出来る。
実際私はどうやって響を捕まえるか、と考えればシールドバインドや、アクセルシューターで回避に集中させて、攻撃をさせない、こちらに向かわせないという戦い方が出来る。
それ以前に、もしもあのモードになったら防御に集中して自滅を狙うのがベストだろうなぁ。
知らなかったらこんな徹底した事は考えなかった。そして、完成故にこれから先、能力が上がっても、根底にある実力は上がらない。
以前にシグナムさんと優夜が手合わせをした時、今と似たような状況があった。だけど、決定的に違うのは、優夜は受け流した。対して響はあの一瞬。完全にフェイトちゃんの攻撃を見切って虎切を叩き込んだ。今更ながら打撃の徹しも、御神流の技である徹では無いかと思う。
もしも刀がちゃんとしたものなら――。こまで考えて、試合の流れが変わったあの一手を思い出す。刀を投げ、爆発させた。刀をバリアジャケットとして使用している響ならではの一手。
そして、ザンバーを受け止めた鞘も、自身のバリアジャケット並に硬度を誇るものだ。そう考えると、あの試合の結末はなるべくしてなったと思うなきゃいけない。ちゃんとした武装なら、おそらく今とは全く違う試合展開になってただろうし。
だけど、こんなにも色んなことを考えてる。私もそれまでは興奮していたんだと自覚する。
でも、あの身体強化は頂けないというか許さない。あの後優夜たちに話を聞こうとしたら逃げられたし。
同時に思う、こんな子が、一緒に戦ってくれる。これほど心強いことはない、と。
あれから、ここに運び込まれた。フェイトちゃんはシャーリーにデバイスの変更を伝えてなかった件で怒られてた。
フェイトちゃんと一緒に医務室まで響を連れてきた奏はというと、そのうち目が覚めるでしょうし、心配はしてないですよって笑ってたけど、あのシステムの事聞いたら知りませんって目をそらされた。
ただ、ただだよ。この時私は表情に出さなかったけど、些細な変化を見逃さなかった。奏をジト目で、悔しそうな表情をしているのが見えた。
これには私も驚いた。というよりも、ただひとつ思ったのが、恋する女の子……とは言わないけど、やっとフェイトちゃんにもそういう気があるんだと、喜んじゃった。
思い出すだけでも珍しくて、なんていうか、なんていうか。可愛くて、もどかしいような、なんとも言えない気持ちになる。
「……何してるんですかなのはさん?」
「え!?」
気がつけば、起き上がってこちらを見ている響。どことなく、呆れたような顔をしてるのはなんでかな?
「いや、あの、なんか顔を押さえてウロウロしてたので、どうしたのかな、と」
「はっ……いや、なんでもないよ!」
あはは、と乾いた笑い声が出るけど、本音はあまり笑えない……、恥ずかしい所を見られた。わざとらしく、コホンと咳払いを一つ。さて。視線を響へ向けると、右肩を押さえながらぐるぐると腕を回してる。
「効いた?」
「……えぇ」
短く言葉を交わす。いろんな事を言いたい。あの日の夜の事とか。色んな話を。だけど、それは私の役目じゃない。いろいろと整理がついたんだろう。
でもね。
「……ねぇ響。あのシステム……なぁに?」
「え、あぁ……あれ……は」
バチッと私と目があって、視線が泳ぎ始める。
あぁよかった。これでなんでもないですよなんて言おうものなら、ちょっと考えが有りました。
一応、足とか怪我してると思ってたけれど……急激な血圧上昇により、色んな所から血が出てきていただけらしい。事実シャマル先生も最初は慌ててたけど、実際の怪我は少ないと言ってた。
加えて、目が赤くなってたのは血圧で目が圧迫されてたかららしく、こちらも休んでたら戻っていた。
「……身体強化というか、なのはさんなら知ってると思うんですけど。エクセリオンモードの試作システムを、ベルカ式に作り変えて無理やり魔力の供給、それで五感の強化と、心臓の負荷軽減、思考の高速化に当てた物です」
……やっぱり……って。
「エクセリオンモード!? なんで!? しかもベルカ式に当てたって……現行のエクセリオンモードはまだ対応してないでしょう?」
「へー現行のエクセリオンモードなんて有るんすね。知らなかった。
まぁ、ちょっとそれますが昔とある筋から渡されたんですよ。その試作品。もっと言えばなのはさんらに組み込まれた奴と同じシステムが」
「……え!?」
絶句。とはこういうものなんだなーって冷静に捕らえる私と、意味が分からない私が居た。
「ま、これ以上は流石にもう言えませんけど」
「駄目。ちゃんと話して」
「言えませんって、だって……まだそちら側に立てないですもん。なのはさんなら口は堅そうなのでいいましたけど、なんで流れたとかは調べないでくださいね。
戻れなくなりますよ?」
困ったように笑うけど、言葉が進むに連れてその目は笑っていない。
ふいに扉が開く音が聞こえて、視線を向けると、はやてちゃんとフェイトちゃんが入ってきた。うむむ……もう少し聞きたいことがあったけど。今はこれっきりかな。
はやてちゃんを確認と同時に、ベッドから降りようとするのをはやてちゃんが手で制する。代わりにベッドの上に座りながら敬礼をして。
「緋凰響空曹。謹慎から戻りました。以後任務へ戻ります。勝手な行動をし、申し訳ございませんでした」
言い切ると同時に、頭を下げる。
「はい、今後はこんな事無いようにしてや」
「ありがとうございます」
そこまで言って頭をあげる。いつもの顔に戻っていた。とりあえず医務室の椅子を3つベッドの側へと移動して座る。
隣のベッドには流が居たんだけど、気を使わせてしまうから、と席を外してる。
うーん、流とも話をしなきゃいけないんだけど、なんというか真面目でいい子で、あまり関わろうとしないから、なんとも接しにくい。さて、それは後に回すとして。
「さて、響」
「はい」
真剣さを帯びているはやてちゃんの言葉に、自然と皆姿勢を正す。大きく息を吸って、ふーっと息を吐く。そして。
「響。あなたはスパイか?」
空気が張り詰めるような感覚に落ちる。
「はい。俺はスパイです、ですが、情報を流すつもりはありません。六課へ来ることになったのは、俺に情報を流せと言った人とは違う思惑でここに来ました。
ですが、俺は……いいえ、俺達は不利になるような事は伝えません。申し訳ないですが、誰に、というのも言えません」
「……そうかぁ」
空気が解けていく。分かってた。このことは事前に予想していた。もし響が素直に言っても、六課には100%の情報は渡さないだろう、と。
視線が自然とフェイトちゃんを追っていた。私の視線に気づいたのか、小さく頷く。そして、目を見ると、何を伝えたいのか分かる。
――大丈夫、この人は、と。
フェイトちゃんは知らない。いつか、響と仕事をしたあの日。生まれの事を告白したことを、私達が知っていることを。フェイトちゃんはこの時には既に響を信じていた。
私達もそれを見ていたのに、それでも何処か疑う素振りを続けてしまった。
結果、仲違いになった。響が居ない間、FWの四人。特にエリオとキャロは落ち込んでいた。
響も……ううん響達ももう立派な六課の一員で、先輩を務めているんだ。やり直す……というよりも、響達との信頼を築き直そう。
さて、と
「なぁ、響? なんでそんな実力持ってるのに、そのランク帯なん?」
はやてちゃんの見えない所でズッコケそうになる。近くに居たフェイトちゃん、ベッドから見ている響の目が丸くなる。いや本当に、気にしないでください。
ちょっと、聞きたいことがあったんだけど……。いつか言ってたことだけど、はやてちゃんは知らなかったのかな?
「どうもこうもこれが適正だって、その当時の人に言われたんですよ。加えて……空を飛びたいからなんとしてでも取りたかったですし」
「……そっか。あと、シグナムと響はどこで出会ったん? それが割れたからシグナムは響を信頼したと思うし、ずっと気になってるんよ」
と、はやてちゃんの質問に対して腕を組んで考えて。ちらりと視線を横に流してから。
「……深い意味は無いですし、別にマイナスに捉えている訳ではないと理解してくださいね」
「? うん、わかったー」
よく分かってないけどはやてちゃんの返事で、軽く深呼吸して。一言。
「10年前、シグナムさんに魔力を持っていかれました。俺も夜天の書の被害者です」
瞬間、はやてちゃんが頭を下げた。
慌てて響が気にしてませんからって、何度何度も伝えてようやく頭を上げてもらって。
「そう……か。なぁ響? 響は闇の書事件の事……本当に恨んでないん? 私やヴォルケンリッターの皆を、シグナムを恨んでないん?」
伝えられた事実に動揺を隠せないままはやてちゃんは言葉を続ける。
苦しそうに俯くはやてちゃんを見て、響は……なんかすっごく気まずそうにしてる。
「顔を上げて下さい。はやてさん。言った通り気にしてません。それに夜天の魔導書はそういうものだからと言われて……あ」
瞬間空気が凍る。明らかに今不自然なことを言った。響もそれを察したのか、徐々に視線が泳いでいく。はやてちゃんも理解が追いついていないのか、微妙な顔を。
「……なぁ、響? それ、誰から聞いたん?」
「……やぁー……あのー……まぁ、調べた結果と言うか」
「……響、はっきり言うんよ?」
はやてちゃんが笑顔で響に詰め寄る。数十秒の間。そして、ため息を吐いて。
「ほんっとうに詳しく聞いてないですし、言ってたのを聞いただけなので、これ以上はわかりません。うちの母がそう言ってたんです」
「響の……お母さんが?」
これまた、不思議なことを。いやでも、響に魔法を教えた人物? になるのかな、そういうことならある程度詳しいかもしれない。だけど、響達がシグナムさんに会った時、まだ夜天の魔導書とは呼ばれてなかった……はず。
「えぇ、夜天の魔導書はいろんな魔法を記憶して、保管。研究するための本。制御するための機能がいるけど、その砲身に足る人が居ない。だけど、こうして集めてるってことはそれに会えた、そして、烈火の将があんなに穏やかだから、問題ないって。
当時は本当に、何言ってるんだろうと思ったんですよ、これ以上は本当に知らないです」
これを聞いて、唖然とする。だって、響のお母さんは、闇の書ではなく、夜天の魔導書として知っていたという事。この情報は当時のユーノ君が必死で無限書庫で探し当てた情報だ。
「で、管理局に入って、同郷の人がいるって聞いて、その事件を調べて闇の書事件を見つけたんですが、名前違うし、当時はまだ情報がそこまで細かくのって無くて、それで……流してたんです」
……多分響が知っているのはここまでだろう。だけど、ちょっと待って。
「……じゃあ響が教えてもらった魔法って」
「訓練校に入っても、俺自身魔法陣を展開することが極端に少なかったのでバレてませんが。一応系統としては古代ベルカ式になります。
母との約束……ってわけではないですが、言うと面倒と教えられて、入隊を果たしてその意味を実感したので、誤魔化してました」
頭が痛くなる。古代ベルカ式。はやてちゃんとヴォルケンリッターの皆、聖王教会のカリムさんが使う系統。使い手は稀少とされ、今では立派な希少技能>に認定されている。だからといって、劇的に強いわけでもない。
近代ベルカ式と違って、ミッド式と併用するのは難しいし、響自身あまり射撃も使わない、そもそも魔力量が少ないからあまり魔法を使えないから、今までばれなかった……のかな?
響達の疑惑がなくなったと思ったら、今度は響のお母さんが怪しくなった。
「お母さんの名前、聞いてもいい?」
一応、事情を知らない体で質問する。本人からはまだ聞いてないからね。
「えぇ、母の名前は、緋凰琴歌です。ただ、その……母は俺が10歳を迎えた日に亡くなっていますので、これ以上の情報は……」
申し訳なさそうに肩を落とす。緋凰琴歌さん……響には悪いけど、ちょっと調べてみよう。
しかし、このやり取りだけで、凄く疲れた……。と言うより、情報量が凄まじい……あ、これシャーリーにも言わなきゃ……響用のデバイス、近代ベルカ式で作ってたもん。修正しないと。
だけど、この微妙な空気というか、これをどうにかしなきゃ……何か、話題を変えれる話無いかなー。
「あ、そうだ。響のお家、和室だったし、客間があったけど、いい感じだったね」
すっごくたどたどしく話題を変えようと頑張るフェイトちゃん。
「え、まぁ、客間ですし。あんなんですよ」
「あれ? 響の履歴書にはアパートに住んでるって書いてるけど?」
「そうですよ。アパートの名称そのまま引っ張ってきただけなんで、中身は全然アパートじゃないですよ。だって、俺らの家ですし」
あぁ……俺らって言った瞬間フェイトちゃんが固まった。
「俺らって?」
「あぁ! って違う違う。そのまんまです、同郷7人で買ったお家です。1階は4部屋ぶち抜いた広いリビングルームと客間。2階3階はそれぞれ自室です。
一応自室で待機してたんですけど、外で人がウロウロしてると思って出たら、フェイトさんがいて驚きました」
あら、ホッとしたら、今度は赤くなった。なんかあったのかな? なんて考えてたら。はやてちゃんの口からフフフという笑い声が。
「なるほどなるほど、7人のシェアハウス、ちょうどええ……」
背中からゴゴゴって効果音が聞こえそうなくらい凄みのある声でいう。流石に響もちょっと引いてる。もちろん私達も引いてる。
「時雨達がFWと接点がないって嘆いてて、どないしようって思ってたんよ。響のお母さんの情報もほしい。だから! 明日は皆で響達の家にいくで!」
言われた瞬間、すっごい微妙そうな顔の響と、盛り上がるはやてちゃん。別の意味で盛り上がってるフェイトちゃんを見て、思わずため息が漏れちゃった。
「あ、でも明日本局行くんで。自分は無理ですよ」
「……そうやった」
あ、一気に落ち込んだ。最近ずっと忙しいと言うか、いろいろしてたみたいだから。やっと息が抜けるって思ってたんだろうな。
「私が勝ったんだから、ちゃんと断ってね? 所で……あの魔法はなあに?」
「……いやぁ、まぁ……はい」
……あ、フェイトちゃんもやっぱり怒ってたんだね。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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