魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第12話 話をしよう。全力で
――side響――
例の一件以来、訓練は更に厳しさを増した。けれどその中で一番ティアナが輝いてた。理由は言うまでもなく悩みと凡人発言が無くなったからだ。元々潜在能力は高い方だった、周りの成長に焦ってただけで、本来はこれぐらい出来る子だし。
加えて、指揮官適正。更には実戦で指揮を取れる実績、まだまだ伸びると思うと舌を巻く。そして、間違いなく同世代の中でも上の方に居ると思う。実戦経験の差がでかい、らしい。
特に変わったと思うのが、なのはさんだ。最近はよく皆と話すようになったと。更には自身の戦術の細かい説明、何より隊長と部下ではなく、一人の先輩として話すようになった。これは本当に良い変化だと思う。友達ってわけじゃないけど、こういう付き合いも大事だと思う。色んな事を知っていると、次に出来ることが増えていくから。
で、あれから2日でこの変化を連絡で聞いた。その中で俺はと言うと。
「暇だな」
滅多に帰らない。それどころ数年ぶりに戻ってきたミッドチルダの家で謹慎というか待機してます。機動六課……もとい、本局から辞令連絡が来るのを待ちながら暇を持て余してる。
まぁいいんだけど、隊長陣の顔見なくて済むし……だけど、帰ってこないかもというのは、流石に気が引けて、謹慎で暫く空けるってエリオとキャロに伝えたら凄く悲しそうさせてしまった事。ちょっとそれが気になる。
しかし、よくよく考えると現場凄いよなと思う。俺が自宅待機、流が負傷により待機。2つも穴が空いてる。こんな時に出動が……やめよう。縁起でもない。
さて、やること無い。寝……るのはやめよう。だったらやることは一つ。部屋に置いてある鞘付きの木刀を二本持って、家の外へと出る。
周りが林……と言うより、森に囲まれてるここは、ザンクト・ヒルデ魔法学院から少し離れた山にある小さな旧孤児院、もといアパート。実言うとここには俺以外にも6人。あいつらが各部屋に住んでいる。ただ、ここ最近は俺と奏、震離は帰っていなかった。
まぁ、それはさておき、水の入ったペットボトルを何本か持って表へ出ていく、出る間に両腰に一本づつ木刀を差して、適当な場所で止まり。水の入ったボトルを少し離れた場所へ置き、その中の一本を頭上に持って思いっきり投げる。もちろん中身は入ったままだ。投げたボトルが頂点につき、落ちて来るまでに腰を落として、刀に手を当て、居合の構えを取る。
そして――
――sideヴィータ――
初めて響を見た時、筋がいい。いい感じの指揮が出来るけど、ちょっと弱そうだと思ってた。他の部隊から援軍要請が出た時にFWの奴らが戦ってる所を見たって言ってるのを聞いて、実際に戦ってる所を見ると素直にすげぇと思った。もっと言っちまえば、シグナムとバトったって聞いた時、あそこまで動けて戦えるやつなんだとも認識が変わった。
同時に思ってた以上に馬鹿だったっていうのも出来たけど。
それ以前にだ。
響達がスパイかも知れない、と。情報を提供してくれたアヤ三佐にはあまり会ったこと無い。だけど、六課の隊舎を提供してくれた人。陰ながらはやてを支援してくれてる人。その人からの情報で、皆固まった。だけど、その中でシグナムだけは。
――実際そうかもしれない、だが、まだ様子を見ましょう。
そう言ってた。どこかで会った事がある筈とか言ってたせいか、かなり信用してたみたいだ。それでも一応警戒しないと、とか思っていたら。今度はエリオとキャロに懐かれて、それに嫉妬したフェイトにボコられてた。その後はガタガタしながら六課まで戻ってきて、普通に報告書作成してて、根性があんなと思った。
次の日になると、はやてから響達に対する新しい情報。だけど、事務にいるあの4人の事も入れて考えると、怪しいと言えば怪しい、でもそうでもないと言えばそうでもない。実際響達はまだ来て日が浅いし。その日はそれで終わった。
訓練の時。いつもエリオやキャロのフォローに入るし、分隊同士の模擬戦では、わざとティアナの作戦に乗っかって迎撃したり、アイツなりにFWを鍛えるための手伝いをしてる。事務作業も、まだ慣れねぇライトニングの2人の仕事をやってみせたりしてるみたいで、良い教育係になってる。スターズと違って、ライトニングはフェイトがよく別件で外行くし、シグナムも外回りで忙しいからな。良い感じだ。なのはが響にFWの評価を聞いたのって、この辺りだった筈。
そして、驚くほどよく見てるってすげぇ喜んで、その後なんかブチ切れてて怖かった……。
で、それからは暫くあたしも外回り。戻ってきたときにはシグナムが凄く喜んでて、少し引いた。あのおっぱい魔人がわかりやすく喜んでるとか本当に怖い。後ではやてやシャマルに聞いたら、事務組の中に骨のあるやつが居たんだと聞いて、ちょっと興味を持った。
あのおっぱい魔人ほどじゃないけど、そこまで喜ぶってことはかなり強いんだろう。今度あたしもやってみよう。
あたしもここまで見てて、あいつらがスパイかもってことは完全に忘れてた。それほどまで貢献してたし、変な動きも見せてなかったから。
変な動きというか、響が報告に上がったアンノウンと戦闘した事は知っている。そいつが流を墜として、重症を負わせた。そして、その後は響が割り込んで、撤退していった――が、響からの報告だ。だけど、アイツはすぐに報告を返すことはしなかった。ある程度時間を置いてから合流。
言いたくないけど、正直これで疑惑は深まった。不明戦力と会話をしてたみたいだけど、それが何なのかわからない。
加えて、シグナムに文句垂れて、割と騒ぎになってしばらく懲罰房入りに。
そこまでする必要は無いと思った。でも、既に本局の中では、機動六課がギリギリ勝利したという情報が流れているらしい。
表向きは上層部の奴らが、それを捻じ曲げてたのにそれが伝わっているということは……誰かが情報を流したということ。
そして、それをした可能性が高いのは響だったということ。
早計かもしれない、でも……アタシもわからないのが。最初に行ったっきりの地下駐車場の不自然な出血痕。それも決して軽くない程の出血量で、そのDNAは響だったということ。
下手をすれば、何らかの手段で戦闘中に響が何かを地下で行ったという可能性がある。
おかしい、という点しか無いんだ。
この時から、ティアナの様子が変なことに気づいてなかったといえば嘘になる。だけど、それはなのはがなんとかするだろうと思ってた。話し合いも、訓練も全力全開なアイツなら、問題ねぇって。絶対なのはの気持ちはあいつらに伝わってるんだって。
でも、起きちまった。あの模擬戦が。目の前で無茶してなのはに墜とされて、初めはこう思った。ちゃんと言うこと聞いとけばこうはならなったのにって。あの2人の模擬戦を見てる時、響が呟いたことがずっと頭に残ってる。
――違う。そうじゃないでしょう、なのはさん。
模擬戦が進むに連れて、どんどん顔が青くなってた。ティアナが落とされた直後には、落下地点に行って直ぐに連れてった。ティアナを医務室へ連れて行く時、なのはに向けた目が忘れられない。あれは失望した目だった。あたしはすぐになのはの所へ、FW組はティアナの元へそれぞれ向かった。
落ち込んでるなのはに、あたしは間違ってない。ティアナが無茶しすぎた、とありきたりの事しか言えなかった。
そして、夜になった時、警報がなって、出動が決まった。ヘリポートへ向かいながら、メンバーを相談、そして、決まったのがあたしとフェイト、なのは。そして……目の離せない響と奏の5人。おそらく今回ガジェットは、新しい機能の確認か、もしくはあたしらの戦力確認だと予想して決めた。
屋上につく頃には、FW陣が全員揃う。ティアナもそこに居たから心配がなくなった、やっぱりなのはの加減は上手いとさえ、思ってしまった。その場に全員がいることを確認した後は、移動してる間に決めたメンバーをなのはが発表。そして、ティアナに休めと伝えた。
伝えた瞬間、響が前に出てきて、なのはをヘリの影に連れて行った。止めようと声を掛けるけど、聞こえてなかったみたいだ。二、三言葉を交わしたと思ったら突然。
――役立たずって捉えられるって考えなかったか……ッ!?
はっきり聞こえた、違うと否定しようとなのはの側へ行こうとするけど、なのはと響の言い争いは続いてる。すると慌ててなのはがティアナの側へと駆け寄った。
そして、ティアナの独白を聞いた。こんなに思い詰めてたんだと、気がつくのが遅かった。だけど、今更なんて声を掛ければいいのか分からくて、ただ見てることしか出来なかった。すると突然。響が震離にデバイスを投げ渡したかと思ったら、代わりに行けといいだした。
何言ってんだこいつ、そんなの作戦の通りに動けって言おうと思ったらはっきり反論されて、止まった。確かに響をそばに置くのは疑っているから側にというのがあった。だけど、目立って縛ってたわけじゃない。警戒はしてるかもしれないが、まだ気づかれてないと思ってた。
だけど、そんな事分かってたと言わんばかりに納得しちまった。いや、させちまった。あたしにはそれを否定する材料はない、疑ってるわけじゃないって言えなかった。フェイトが何か言いたそうに響の側へ行ったけど、背を向けられた。早く行って下さいとまで言われた。
その後は、5人でヘリに乗り込んだけど、最悪な空気だった。でも不自然な程に、奏と震離は何時も通りにデバイスの確認と作戦の概要を確認してた。なのはも座ってる間、ずっと拳を握って俯いてた。その中でフェイトだけが小さな声で。
――違うんだ。響はそんなことしない、絶対にしないんだ
って、苦しそうに呟いてた。なんでそこまで信用してるのかは、あたしはわからない。だけど、それに答えるように、小さくなのはが頷いたのが見えた。そのまま現場へ着いて、ガジェットを墜とした後も、ヘリの空気は重苦しく。到着する直前にアルト達から、ロビーで皆集まってると聞いて、屋上へ着陸した瞬間、真っ先になのはが走っていった。それを追いかけて、ロビーに着いたときには、シグナムと響以外、全員俯いてた。
そして、静かにティアナの告白を聞く。経歴は知ってた。アイツの兄がなくなって、地上の奴らは無能だって叩いたって。だから、教えてもらった魔法で戦うんだって。ティアナの想いを聞いた。正直そこまでの思い入れがあったことに今更ながら気づいた事。
それが嫌になる。あたしはこいつらの事を上辺でしか判断してなかったんだって。
次になのはの告白が始まった。ティアナのことを、能力だけで、ティアナ自身を見てなかったって。あたしは、いや、はやてやフェイト、皆がよく知ってる。なのはがどんな思い出あいつらを鍛えよう、育てようとしてたかなんて。だけど、思ってるだけじゃ駄目なんだ。それをしっかり伝えないと、結局伝わらないし、危ない道へ送ってしまう。
やっと、なのはとティアナが分かり合えた、そう思ったときには既に響と奏、震離。後はシグナムがその場から居なくなってた。探しに行くかどうか悩んで、でも今後の事を考えて、そのままなのはの講習会参加して、FW全員の今後を簡単に説明してた。あたしもそれに付き合った。で、次の日の朝一番。はやてに呼び出された響は、命令無視と越権行為、上官侮辱で、自宅謹慎が言い渡された。
ただ、変だなと思ったのが、朝食の時に、響達なら大丈夫っておっぱい魔人がはやてに伝えてたこと。あいつらの事何かわかったのか? でもいつ分かったんだ?
だけど、訓練開始してから思うのが、全体的に空気が死んでる。そりゃそうだ。でもやってる内に、どんどん集中し始めて、最終的にはいつも通りのあいつらになった。
特にティアナの顔が、昨日とは比べもんにならねーくらい、イキイキしてる。それにつられてスバルの調子もどんどん上がってていい感じだ。やっぱり、昨日話しを聞いて良かった。目指すべき先を見据えるっていうが大事なんだと、あたしも実感した。
まぁ、訓練終わったらまた空気が死んだのは、不味いと思ったけどな。あ、フェイトが追いかけてった。
――sideフェイト――
あああ、せっかく訓練中にいい感じだったのに、終わって反省会が済んだら、また皆の雰囲気がなんとも言えない感じに。
でも、分からない訳じゃない。私も昨日の事を考えたら正直思うところがある。奏も震離も普通にしてたけど、何も思わないわけは無いと思う。だけど、少なくとも今は……。
あ、そうだ。なのはは言わなかったけど、あのことを聞いてみようかな。
「ねぇ、皆。技術が優れてて、華麗で優秀に戦える魔導師をエースって呼ぶでしょ? その他にも、優秀な魔導師を表す呼び名があるって知ってる?」
私は隊舎に向かう途中で、そんな問題を皆に出してみた。奏と震離はすぐにわかったみたいで、お互いに口に人差し指を当てて黙っててくれるみたい。私とも目が合って笑ってくれた。
「え、うーーん?」
4人が顔を見合わせている。答えが出てこないみたいだね。このあたりで答えを出そうかな。皆の前に出て、一人一人の顔を見る。
「正解はね。その人がいれば、困難な状況を打破できる。どんな厳しい状況でも突破できる。そういう信頼をもって呼ばれる名前――ストライカー」
答えを見ると皆が、あって顔をする。やっぱり聞いたことあるみたいだね。エースは象徴的な意味合いを持つけど、ストライカーはもっと現実的な感じかな? それにあまりエースって呼ばれることよりも二つ名とかで呼ばれることも多いかな。
「なのはは、訓練を始めてすぐの頃から言ってた。うちの4人は……ううん、最近はずっと言ってた。全員、一流のストライカーになれる筈だって」
ここ最近の――ううん、少し前のなのはを思い返す。響達が来てから、良い影響を与えあってる。皆もっと伸びるって、目を輝かせてそう言ってきたなのは。凄く嬉しそうに話していた。
「だから、うんと厳しく、だけど大切に、丁寧に育てるんだって」
みんな真剣に耳を傾けている。4人の後ろに居る奏と震離も小さく頷いてる……けど、最近どうも元気がないようにも見えるけど?
「なのはさん、本当にアタシ達の事を思ってくれてるんだね」
ティアナの言葉に、スバル、エリオ、キャロが頷いている。良かった……しっかりと伝わった。なのはの想いが。いろいろあったけど、最後には分かってくれたんだ。だけど、それは昨日響が話し合いまで持っていってくれたおかげだ。
あとから聞いて、凄く驚いた。私達と同じくらい、皆の事を大切に思ってたことを。だからこそ、響の底にあるコンプレックスが何か分かった。
けど、今は置いておこう。
「じゃあ、私たちはストライカーズだね!」
満面の笑みでスバルがそう言う。うん、凄くいい。皆で助け合って、勇気を持って進む機動六課のフォワードにピッタリだ。皆も嬉しそうに笑ってる。
「よし!じゃあご飯食べに行こう!」
いいのかなそれ? コケそうになるのをこらえてると、スバルが先頭を切って走り出す。
「「「おう!」」」
ティアナ達も遅れまいとそれに続いた。後ろにいた2人は私に向かって小さく頭を下げた後、4人を追いかけてった。うん。元気いっぱいだ。でも…。ううん、だけど、その前に誤解をとかないと。
少し前、私は響に自分の生まれの事を言った。そして、その返事は間違いなく本気の返事だった。だからなんだろう。昨日のあの目は。響自身気づいてないかもしれないし、私の見間違いかもしれない。
ヘリポートで私を見た時。気にしないで、と。言ってるように見えた。
あの一件で、私達に対する響の態度は180度変わった。優しそうな顔で、今まで下の名前で呼んでいたのが突然名字に変わった。シャーリーでさえも、名字で呼ばれるようになって少し落ち込んでた。
私達に対しては――ううん、特に私にはわかりやすい拒絶、いや距離を取った。多分響はこう考えた、私のあの告白は自分をスパイかどうか試したんだと。
今朝、はやてから自宅待機にすると言われて真っ先に反論した。必要はないと。だけど、命令無視に越権行為、事情が事情だけど、適当には済ませられないと言われた。もっと言えば、その報告自体を響自身がはやてに伝えていた。逃げ場を自分から断っていたんだ。
そうして謹慎が決まって、響が外へ行く時、見送りに行ったんだけど、目も合わせてくれなかった。静かに私に頭をさげた後、六課を出ていちゃったんだ……。
――sideなのは――
「で、皆は響が謹慎なのに。どうして普通にしていられるの?」
目の前で食事を取る事務の日本人4人を見て、ため息が漏れる。特に深い意味は無い。一番近くの席に座ってる優夜が、
「普通……と言われましても、アイツがやったことですし、どうしようも出来ないですし。煌、醤油くれ」
「ほれ、で、間違ってんなら怒鳴り込みますけど、命令違反、越権行為と来たら、ザマーとしか思わないです。時雨、ティッシュ一枚頂戴」
「はい、どうぞー。珍しく響も熱くなったみたいですし、いいんじゃないですか? 紗雪、ちゃんと食べて。あと醤油は使う?」
「……んーん、いらない」
……あれ? 紗雪ってこんなにぽやっとしてたっけ……? もう少ししっかりしてたような……?
朝食セット和食A、ご飯に、お味噌汁。おかずには目玉焼きとウィンナー、サラダのセットと。日本出身の人に取っては馴染みの深いご飯だ。一つ隣のテーブルではスバルとエリオの山盛りパスタが見えるけど、今となってはもう慣れた……。
で、今日は珍しく事務組4人のご飯を食べてる。ヴィータちゃんは、はやてちゃん達と食べてて、奏と震離の2人は医務室に食事を持っていきながら、向こうで食べるみたい。そして、フェイトちゃんは朝から外回りともう一つ要件があって先に行った。
ううん、これは、あれかな。自分たちも疑われてる、そう考えてるからこういう態度なのかな? 響と違って拒絶じゃない分、付き合いやすいけど。これは……どことなく冷たい気がするのは、気のせいじゃないよね……でも、そうだよね。疑われてるって分かって普通にしていられるなんて、そうそう出来ないよね……。
「あ、そうだなのはさん。いつかのデバイスの件。一人分ならなんとか絞り出せそうですよ」
「え、本当!」
思わず伏せてた顔を上げて、煌の顔を見る。
「えぇ、だって、あれからシャーリーさんが、時間空く度にデバイスがー、だの。色々考えたかったのにー、だの。呪詛の様に言ってたので、なんとか予算を詰めて詰めて、なんとか一人分なら作れんじゃね? って位絞りました。褒めて下さい!」
イエーイと、両腕を上げて、ガッツポーズを取る煌を見て思わず小さく拍手を送る。多分ここにいる4人で本当に頑張ったんだろうな。でも、その割にシャーリーは変わりないように見えたけど……。
「ちなみにまだシャーリーさんには言ってないです。誰の分を作成するのかまだ決まってないでしょうし、とりあえずなのはさんに報告しとこうと」
「なるほど、皆は誰に必要だと思う?」
「「「さぁ?」」」
間髪入れずに、と言うより考える時間すら無かったと思うんだけど……。
コホン、咳払いを一つ。
「さぁ……って、何か理由ってある?」
「個人の戦力の底上げって言っても、六課は基本的に金銭面は結構カツカツなので、使わず置いておくのがベストかと」
煌が応えると、皆頷いた。
なるほど……個人的には、ここに居ない響用にデバイスを組む相談をしたかったんだけどなぁ。隠しても仕方ないからハッキリ聞こうかな。
「い、一応聞くけど、響のデバイスを作るとして、刀に何かこだわりあったりする?」
ふと思ったことを口に出したんだけど、その瞬間皆の食事の手が止まり、視線をずらしたり、口元に手を持っていったりして、考え込んだ。何か変なこと言ったかな?
「……有る無しでいうと、間違いなくあります。ただ」
すっごい気まずそうに優夜が言う。ただ……なんだろう?
「だから、アイツの刀はアレでいいって流れになったかと。それに……まぁ、うん」
そう優夜が言うと、煌が小さくそうだったって言いながら項垂れた。そんなに不味いことかな? だけど、よくよく考えるとたしかにこれは面倒な事になる。響のデバイス……正確にはバリアジャケットと一部の武装を内蔵したストレージデバイス。
カスタムはされているけれど、別に大きなカスタムではない些細な物。だけどその機能で一番驚いたのが、響の武装には刀が無い。
正確にはそれに近い武装はあるけど、刀と呼ばれるものはなかった。これには私もシャーリーも驚いた。どこに刀が入っているんだろうと調べた結果、バリアジャケットの一部として登録されていた。
更に詳しく調べると、一応刀の形をしているけれど、機能としてはそのままバリアジャケットだった。
一応ジャケット生成される時に使われる金属パーツを使って刀身が形作られてるけど、攻撃力はかなり低い。
だけど、調べていてわかったのが、必要に応じて刀身をリアクターパージすれば自然と攻撃力も上がるし、何より、刀をバリアジャケットにすれば魔力保有量の低い響でも再生し何度でも刀を使える。
紛失してもバリアジャケットだから消す事もできる。そして、一番不思議だったのが、響のジャケットで一番防御力があるのが鞘当たる部分だった。こればっかりはいくら考えてもわからない。
多分何か理由があっての事なんだけど、体に纏い、守ってもらう物よりも、武装に比重を置いてるのはどうにも変だ。別にそういう人も割と居るけれど、響の様なタイプは初めて。でも、それはデバイスを作れば解決できるかもしれない問題だから一旦置いとく。
「そう言えば、優夜以外の皆は何か武道してたりするの?」
空気を変えようと、露骨な話題変更、苦しいなぁと思うけれど、同時に気になってることでも有る。すると皆、顔を見合わせて、まずは紗雪が小さく手を上げて。
「皆何かやってたみたいですけど、私は特にー」
あら、目論見が最初っから外れちゃった。それに気づいたのか、苦笑を浮かべちゃった、ごめんね紗雪。次に時雨が手を上げて。
「私は実家が弓道……と言うより、弓術の家系だったので、弓をしてました。と言っても本家からは遠いので術と呼ぶには遠すぎますけど」
あはは、と笑いながら言うけど、普段の皆を見てるせいかどうしても何か出来そうと思ってしまう。今度時間ある時お願いして見せてもらおう。最後に……
「俺は優夜の家の流派、槍術と震離の実家の剣術をベースに我流ですね。つってもまだまだ足元にも届かないですけど」
ほうほう、我流……なるほど……って。
「えっ、震離の家も剣術やってるの? あまり剣として戦ってる所は見ないけど」
「えぇ。ただ震離は基礎は知ってても剣術としては全然ですよ。それこそ護身用位です」
……納得は出来ないけど、何となく分かる。私自身も実家の剣術全然駄目だしね……ちょっとだけ、震離に親近感湧いちゃった。あれ? ということは。
「奏は何もしてないの?」
「奏は……あぁ、唯一響の母さんから直接指導受けてたなー、羨ましかったー」
「羨ましかったって、なんで?」
煌がいいなぁって呟きながら頬杖してる。でも、なんで?
「そのまんまですよ。どういうわけか、奏が二丁拳銃使うって分かってた様に、直接教えてたんですよ。俺らには体術しか教えてくれなかったのに」
「門外不出的なことじゃなくて?」
「そういう事なんですかね……? 一応オープンで教えてくれたんですけど。結局響の流派というか名前すらも分かってないですし、そもそもアイツもわからんって言ってるし。一番謎な流派です。体術以外にも暗器とかも使用してますしね」
謎って……でも、そうなると響と奏は同じ流派になるってことは、奏も接近戦ができるかな? 今度試してみよう。後は響だね。響が技を色々見せてくれたらありがたいけど……。今のままじゃ絶対に頼んでも断られるなぁ……。
なんとかしないと。
「さて、なのはさん。ここらで俺らは失礼しますねー。デバイスの件は、震離か奏に回したほうがいいですよ」
ガタガタと、椅子から立ち上がって食器トレイを片し始める。もうそんな時間だと思って片付けようと思ったら、時雨が私のトレイも集めて片してくれた。そして、そのまま事務の方面へ。
さて、今回の話せたことで色々情報が入ったのと、デバイス作成の目処が出来たこと。だけど、暫くは武装よりジャケットの作成を先行させよう。刀は響との問題が解決した時に改めて話し合って決めていこう。暫くは関係を元に戻さないと、話はそれからだ。
でも、響さ。あなたが思い出させてくれたんだよ。ちゃんと向き合って話し合うって、それが一番なんだって。
――sideフェイト――
今日で謹慎3日目。六課の中では気まずい雰囲気も、徐々に薄くなってきた。はやてもどうしようかと考えてるけど、きっと皆変わらず受け入れてくれると思う。
だけど、響自身、私達に壁を――いや、拒絶しているかもしれない。大げさかもしれないけれど、響からしたら、私たちは信じていないと言われたような事だ。もちろんそんなつもりはない。でも実際そうなってしまった。
私はあの日の告白で響が悪い人……っていうのも変だな。スパイのような事をする人ではないと信じてる。
逆に私はその情報を提供してくれたアヤ三佐が怪しく見える。あまりにもピンポイントだったから、一応はやてには伏せて動いている。六課の隊舎を提供してくれて、色々サポートしてくれている方だもの。それを調べると言えば良い気はしない。
だけど、少し調べてただけど、変な感じだ。あまりにも何もない。アヤさんには何もなさすぎる。だけど、一つ気になる点が、アヤ三佐の旦那さんが亡くなった時から、突然上がり始めたし、上がるタイミングで、管理局員関連の事件が不自然に起きている。だから、もう少し調べてみよう。
車の中でその資料のデータを見た後、一つ深呼吸。よし。
今、私がいる場所は。ミッドから少し離れた場所、少し行った先にはザンクト・ヒルデ魔法学院がある、近くに車を停めて、車を出る。目の前に広がるのは小さな孤児院のような建物。
そう、響が住んでるっていう家に私は来ました。
だけど、一つ問題が、響の住所とお部屋の番号はもらったけれど、肝心の番号が建物に振られてないのと、アパートような建物なのに、各部屋の玄関に一つもインターホンが付いてない。201号室だというのはわかってるけれど、2階のお部屋の前に行ってもどこにも番号が振られてない。インターホンもない。どうしよう。一旦下に降りて響に連絡入れようかな? でも、そうしたら拒否されないかな? なんて考えてると、突然目の前の扉が空いて
「……何してるんですか? フェイトさん」
「ひゃい!」
部屋着っぽい和服を着た響がいた。私を見た後、ため息を吐いて。
「ここ、あんまり使わない出入り口なので、下に回って下さい。大きな扉があるので、あっちが玄関なので」
「う、うん」
そう言って扉を締めて、鍵をかける音が聞こえた。あんまりにも突然のことだったからびっくりした。そして、言われた場所へ行くと、たしかに外から明かりも見えるし、玄関のようにも見える。……緊張してたんだね、私。
「どうぞ、入って下さい」
「……お邪魔します」
いそいそと中へ入る。洋風な建物とは打って変わって部屋の中は座敷の匂い。なんというか、旅館のような匂いがした。
玄関で靴を脱いだ後、部屋へと入る。そのまま客間のようなお部屋に通してもらい机を挟んで座布団が二枚。机の上にはミカンと急須と湯呑みが置いてあった。奥の方へどうぞと言われて、奥の座布団に正座で座る。響も私が座ったのを見てから正座で座った。
そのまま湯呑みにお茶を注いでもらう。お茶の入った湯呑みをもらって、一口飲む。久しぶりに日本のお茶を飲むけど、やっぱりホッとする味で美味しい。さて、と。
「で、どうしたんですか、こんな所まで?」
エリオやキャロに見せるいつものような顔に、ちょっとホッとする。
「響。聞いて、私たちは別に」
「知ってますよ。ただまぁ……現状どうしたって俺は真っ黒な方の灰色。何かしら証拠が出てきた時点でアウトですし」
たはは、と苦笑を浮かべる。でも……!
「……正直参ったなと思ったのがホテル・アグスタの……地下に落ちてた血。その一点がどうしても足を引っ張る。
アレが原因で、何かしら言われても……回避ができない。なぜなら、俺はそこに行ったという証拠になり得るんですから」
「……それは、もしかしたら響の――」
「どうでしょうね。俺なんかの血を用いた所でたかが知れていますしね」
私の言葉に被せるように、左右に首を振りながら響は言う。
嫌な沈黙が続く。謹慎解除がどれだけなのかわからないし、どうしていいのか分からない。でも、何か言葉を――
「……しかし、まさかフェイトさんだけ来るとは思いませんでした。もう六課に広まってるんですね」
「……へ?」
何が? と声を掛ける前に。
「本局から転属要請があったんですよ。人手の足りない無人世界の軌道拘置所に転属しないか、と。
あ、これその辞令書です」
「……は?」
どうぞと、データが渡された映し出されるのは、転属要請を告げる書類データ。
何……これ? 待って、既にはやてはそこまで手を回した? どうして?
「で、丁度いいというか。まぁいいかなと。元々武装隊に居た頃から、後ろに――あぁ、後方支援か、事務方に回ったほうがいいとは言われてましたしね。
遅かれ早かれ……まぁ、いいかなと。明後日に返事というか本局に来いと言われてるんで、その時に返事――」
「待って」
伝えないといけない。
「……響。シグナムに言ったあの言葉は嘘だよね? だって、報告書に書いてあった。事細かく、あの量のガジェットを抑えられていたのはシグナムとザフィーラのお陰で、その結果ヴィータをティアナ達の元に送り出せて、ミスショットによる負傷を防げたんだろうって」
「……」
困ったように苦笑を浮かべてる。でも、続ける。
「……なのはに止められたあの晩。シグナムと何を話して、どうしてそうなったの? 私にはそれが分からない。
少なくとも、そんな理由で……剣を交える二人じゃない、でしょう?」
「……」
困ったような目で私を見る。
「買い被りすぎですよ。どう転んでも暴言を吐いたのは俺ですし。何か思うところはありましたし」
……駄目だ。言葉が足りない……! どう止めていいのか……もしかして奏達は既に知ってる?
不味い、今日は教会で会合の日だから……そんなに長くは居れない。はやてに確認を取っても、今の時点で話をつけれない以上……。
いや待った。明後日返事をするってことは……まだ、まだ時間はある。なら!
「響。私と勝負しよう。明日の朝一番に。もちろんタダでとは言わない」
「……え!?」
丁度お茶を啜ろうとしてたタイミングだったらしく、持ったまま固まっちゃった。
「響が勝ったら、好きなようにしていい。必要なことや、調べるものがあったら私に頼ってくれて構わない。というより、拘置所関係ならそれくらいしか私には出来ないし。
でも、私が勝ったら……その話待って。その上で話をしよう。今度こそ、心から話を」
そこまで言って、静かに目を閉じる。そして、大きく深呼吸。もう一度目を開け。
「じゃあ、響。今日はこれで失礼するね」
そう言って席を立つ。言い逃げのようだけど……一旦止まってくれたら。その間に響は目を閉じた。そして、机をまわって、客間の扉に手をかけようとした時。
「フェイトさん……俺を置くメリット、デメリットをちゃんと理解していますか? ま、自分が勝った後なんてどうでもいい。ですが、明日あいつらにも見せたことのない、俺の全てで貴女を倒します。
そうすれば、今後六課で何か不都合な事が起きても、俺が残したと言い張れば……ほら、丁度いいカードになりますし」
顔は見えない。でも、拒絶でも何でもない、いつものように優しい声で呼んでくれた。
「私も負けないよ。それに……そんな切り方を私達は望まないよ。
流の負傷が隠された時、誰よりも怒ったのははやてだもの。それじゃ、また明日ね」
そのまま扉を空けて、靴を履いて外へ。最後は見送ってくれなかった、だけど、今はそれでいい。明日本気でぶつかり合う。なのはみたいに上手く行くとは思わない、だけど、私も全力でぶつかって、話をしよう。今までのことや、これからの事を。沢山――。
――sideはやて――
……やっぱりや。やっぱり、誰かが情報を漏らしてる。そして、それは響達やない。
思いたくなかったけど、やっぱりロングアーチの誰かということになる。
けど、誰が、何の目的で情報を流しとる? そして何を……調べてるんや?
なんて考えてると眼の前に通信ウィンドウが開いて、出てきたのは――
『はやて。ちょっと話があるんだけど?』
「ど、どないしたん? フェ……テスタロッサ・ハラオウン執務官?」
何時になく真剣な……いや、これは何かに……私に怒っとる? 何かあったんかと思い名前ではなく役職呼びに。
『どうもこうもない。響の件だよ』
「へ? あぁ。平気やよー?」
正直聞いた上で返事すればよかったと思った。私の言葉を聞いた瞬間、カッと目を見開いて。
『あくまで謹慎だと聞いてたし、異動の相談は私の――ライトニング小隊の隊長、副隊長の一報入れてくれないと困るし、出来ない様にしてたよね?
なんで……まだ、確定しても居ないのに、響を飛ばそうとするの?』
……は?
「……何の事?」
『……とぼけないで。響に本局から異動要請が下って、響もそれを受けようとしてる。
今は待ってほしいってお願いしたから留まってくれたと思うけど』
……異動要請……? 響に? は? はぁ!?
「何やそれ知らへん!? 私に何の連絡も……なんでや!?」
『え? はやては知って……本局関係だから直接行った? いや、でもそれを出来るのは佐官以上の権限を持つ人……でも誰が?』
「……分からへん。フェイトちゃん。いま近くに誰も居らへんよね?」
『うん。私の車の中で、教会から戻る所』
「……そう。なら、ちょっとわかったことがあるんやけど――」
―――
『……それは本当?』
「うん。ホテル・アグスタの私達の警備分布流出から始まり。表に出してない筈のシグナムと響の件。あの時の報告書には、口論した結果侮辱という風に纏めていたはずやのに。
既に上の何名かはデバイスの不正使用に、私闘という情報を得てるらしいんよ。
この事実を知ってるんは、ごく限られて、情報も公開していないのに」
ロッサからその情報を聞いたときには心臓が飛び出るかと思ったわ……それくらい驚いたし。
『……でも、既に時間も経ってるし。それは』
「まだ断定は出来へん。でもな? 響がなのはちゃんをヘリの影に連れてった時。何もしてない筈やろ?
なのはちゃんを指して、怪我はしてませんか? と連絡が来よった。まるでそれを見ていた誰かから聞いたように」
ここまで聞いてフェイトちゃんの目が大きく見開かれる。
『……はやて。大丈夫?』
この言葉の意味を直ぐに察して
「平気……とは言えへん。でもな、居るとは考えてた。私をよう思ってない人は多いし」
気丈に笑ってみせる。予想と違ったけれど、それでもある程度絞れ始めているというのは事実や。なら行ける。
でもその前に。
「響の件。こっちからも本局に確認をとってみるけど、要請やからなぁ……本人の希望が優先される以上、難しいんよね」
『……うん。だから待ってほしいって伝えた』
「……ほんまゴメンなぁ。ちなみにどうやって止める予定なん?」
……おや? フェイトちゃんが露骨に目を逸したよ? どうしたん?
『……怒らないでね?』
「怒るわけ無いやん。むしろ待ったを掛けてもらって感謝するくらいや」
『……模擬戦して私が勝ったら待ってって言った』
……一瞬間を置きまして。深呼吸してから。
「ら、ランク差考えーや! フェイトちゃん制限あるけど、それでもS+、2.5ランク落としてもAA!あっちはA-やよ!? しょ、勝負になるわけ……あ、だからか」
自分で言って納得。なんや、そういうことならフェイトちゃんも人が悪いなー。
『……や、その場の勢いで』
……ちょっとぉ!?
――sideなのは――
「……はやてちゃん?」
「ちゃうよちゃうよ! 異動要請や、私より上の……人事部からの直接の! 私やってフェイトちゃんから聞いて初めて知ったんよ」
……目の前で深くため息を吐いてるはやてちゃんを横目に、ズキズキと頭が痛くなってくる。
逆になるほどと納得できる自分もいて、嫌になってくる。
だから事務の子達は響関係の話はあまりしないで、奏達もどことなく距離を取っているんだと。響が居なくなる……いや、前向きに検討してるのを知ってたんだね。
「……それで明日の朝一番にフェイトちゃん対響っていうカードが組まれたんだね? しかも響が勝ったら異動っていうルールで」
「せや。多分フェイトちゃんが勝つと思うけど。実際の所危なげなく勝てそうなん?」
……うーん。
「分からない。フェイトちゃんも強い。だけど、響も底を見せてないもん。
それに観察しててよーく考えてたんだけど。響は現時点でA相当の動きは見せてないんだよ」
「へ? そうなん? ……ゴメンななのはちゃん。いまいちA-……というより、それ相応の動きっていうんが分からへん」
んー……そうだよねぇ。私達がランク取得した時よりも状況は変わってるし。
「具体的には、Aランクって、その気になれば単独で一小隊を制圧ないし、高々度高速飛行出来るか否かという問題なんだけど……正直響にそれが出来るかと言われれば……魔力的に難しいんだよね」
「へ? 出来るからそうなんちゃうん?」
「ううん。極端に言えば飛行だけなら出来るBランクの子たちは多いよ。でも、空間把握や、飛ぶために常時展開する各種安全装置に、それを維持するための魔力とかいろいろ必要なんだけど。
響の場合は、後者が出来てない。というより、出来ないんだ」
はやてちゃんの目が丸くなるのを見てちょっぴり苦笑。そのまま話を続行。
「……空間把握は凄いよ。でも、本来必要な安全装置に回す魔力リソースは無いし、身体強化の派生で空を飛んでる。
底を見せてないっていうのもあるけど……保有魔力量から察すると、私は出来ないって判断を下すよ」
響たちの育成計画を立てて、改めてデータを取った時に驚いたなぁ。なんでこの魔力量で空を飛んでいられるんだろうっていう。
魔力保有量はギリギリCに掛かる程度で、保有容量はSランクっていうアンバランスなリンカーコア。
その上身体強化に魔力を回している関係で、あまり射撃戦も、身を護る盾も展開し辛い……ううん。ほぼ出来ないと言っても過言ではない。
だから奏や震離よりも先にデバイスを優先して回そうと思ってたけど。
なるほど、これは……頭が痛い。
でもなぁ……。
「だからって模擬戦と言うか、実質決闘じゃない。
……これ皆にどう説明するの?」
「それなぁ……FWメンバーには伝えててもらってもええ?」
うーん……。
「わかった。なんとか話しとくけど……これ。勝てなかったら、不味いよ?」
「……ぅん」
ズーンと黒い影を纏うはやてちゃんの頭を撫でる。
部隊運用に、この前の件で一番しんどいだろうに……。
――side震離――
――試合するって聞いたけど?
ベットに入りながら響に向けてチャットを飛ばす。
今、響からデバイスを預かったまま返してない関係と、それに応じてもしかするとなんて考えて。
――する。だけど、勝ちに行く。だからお願い。外してたシステムと、簡易カートリッジを用意してくれると嬉しい。
ズキリと、胸が痛む。スバルやティアナ達にも知らされた時に、フェイトさんが勝つから大丈夫だと言っていたが……。
響は本気で勝ちに行くつもりだ。
正直言うと、行ってほしくないから、お願いは聞きたくない。でも……それがあの人の望みならば。
――わかった。バカ。
――ゴメンな。
――おやすみ。バカ。
――うん、おやすみなさい。
響との連絡を切って、部屋の設置されてる机の小電気をつけて、響と私のデバイスの内部データを展開。加えて、いざという時用に持ってる簡易カートリッジシステムを使うための、二発装填出来るのデリンジャーにカートリッジを入れる。
その作業をしていると少しずつ目の前が歪んできて。
「……そんなに辛いなら、組込まなきゃいいじゃない。私だって……行ってほしくないし」
後ろから奏の声が聞こえて、目元を拭って。
「……お願いされたら奏もやるでしょ」
「……うん」
振り返らずに話しをする。その間に作業は続ける。
時雨から響に届いた要請依頼を聞いた時、もう駄目だったかと諦めた。もうそこまで疑いの目を向けられては、部隊にとってもよろしくないのは誰の目から見ても明らかだ。
特に実働部隊に居ては、と。
分かってる。だけど、頭じゃ理解してても……心は追いつかなくて。少し距離を取ってた。
分かってる……ここで響が事実上の左遷を受ければ、響を不穏分子として処理という実績。糸を引いてる人は出せないけど、機動六課に何かあっても押し付けることが出来る上に、在籍して情報を流したとか言えば一時的にでもヘイトを集められる。
でも……。
「……頼る事はしても、お願いは滅多にしない人がしてきたんだもん。負けてほしいけど、勝ってもほしい……難しいよね」
「……うん。でも、ティアナに言ってた手前で、これだよ?」
奏の懸念も最もだ。だけど……。
「むちゃするとこうなるよーっていう……加えて、スバルもやるんだったら被弾上等じゃなくてこれくらいやってみせろっていうか……まぁ、無理無茶は良くないって分かると思うよ」
私のデバイスに逃して、分散させてたプログラムを組み上げて。響のデバイスに入力して……と。
「……出来た」
「……手は抜いた?」
「……まさか」
「……そっか。あぁ……勝ってほしいなぁフェイトさんに」
振り返って、寂しそうにつぶやく奏を見て。
「大丈夫だよ。何があっても響は――」
きっと、大丈夫だと。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
ページ上へ戻る