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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第8話 告白。そこから動くもの


――side時雨――

 はぁい。有象無象の一人こと、事務員時雨でっす☆
 うん? ☆はいらない? ウザい? 細かいことは気にしないでくださいな。
 さて、突然ですが。私は――いや、正確には私達事務員4人はスパイです。加えて言うなら、響達3人もスパイです。何故。どこから――と言われても、今はまだ言えないこと。

 言った所で……どうしようも無い所。

 楽観的な見解だけど。おそらくまだはやてさんにはバレてない、と思う。一応六課が始まる時から居る先輩の枠として居るからか、ある程度の信頼はされていると思う。まぁ、同郷の人が4人も同時に来たということもあって、何かしら疑いの目は向けられたんだろうけど。本当の所は割と違う。
 私と優夜が六課に来たのは単に新規募集していて、新しい場所。もっと言えばミッドにあるお家に帰れるようになりたいからというのが本当の所。実際、応募して所属が変わるって同じ事務をしてる煌と紗雪に伝えたら、2人も同じくここを受けていたことがわかった。流石に、4人同時に受かるわけない――と思っていたら4人同時採用。これには驚いた。久しぶりに4人同じ職場だから。そして、凄く喜んだ。

 でも喜びも束の間で、とある奴より、機動六課の事を調べて連絡を入れろ。即ちスパイしてこいって言われた。断れない理由があるとは言えストレートに言ってくる辺り腹が立つ。まぁ新設の部隊、裏じゃいろんなことが絡みに絡んで明らかに何かあるこの部隊。選んでおいていうのも何だけど、確実に問題案件。まぁ、今に越したことじゃないけど。

 話が少しずれた所で、本題に戻ろう。一応不祥事(・・・)を報告ということで、新設部隊あるあるの問題、それも大きそうで実はそうでもない問題を片っ端から報告。
 そしたら、向こうから暫くいらないと来た。ざまーみなさい。
 でも、実際六課に移った最初の方はキツかった。だって、事務専任で来たら私達が一番の先輩ってことになるんだもん。びっくりしたよ、本当……うん、本当に。
 グリフィスさんや、シャーリーさんも居るけど、前者はロングアーチの副官も兼ねてるし、後者はデバイス関係で忙しいし。結果的に席を外す事が多い二人に変わって、私達が実質指揮を取ることになった。

 そして、同時に気づいたのが新設部隊とはいえ、地上で部隊を作るとなるとこうなるって改めて実感。。新人が多い割には人数が少なく女の子が多い。男と女の比率がおかしいんじゃないかと何度も思った、しかもただの事務専と思いきや、経理などの雑用も全て任された。新人の皆は経験不足な上、いきなり大きな仕事を任されてうろたえている。経験ある技術職の人達ももそれなりに忙しいらしくあまりフォローできないらしい。まぁ、しゃーないしゃーない。

 さすがに初日からプルプル震えてる新人を放置するのは良くないから、まず最重要の仕事を私と優夜、紗雪で片している間。煌による新人教育セミナーを展開。と言っても、まず仕事の全体像の説明して、初歩から教える。この点はわかってる子から反感を買ったみたいだけど、それは無視。次に煌と紗雪がふた手に別れてそれぞれに割り振られるであろう仕事を、実際にやってみせる。とりあえず初日はこれでなんとか終了……するはずが、定時になり、新人ズを帰した後。面倒な費用計算が出てきて皆でガッカリ。私達の見落としなんだけど、言い訳しても意味ないからすぐに取り掛かる。7時になる頃にはタイムカードを切って、皆で残業。辛かった。

 4人で片したから、割と早く済んだ。けど、既に夜10時を回ってた。帰ってもろくに休めそうにないし、割と慣れっこだし。こっそり持ってきてた寝袋とお泊りセットを取り出して、この日は泊まる事に。幼馴染だけど、流石に男の子と一緒に寝るのは周りから何か言われそうだから、私達2人が事務室の中で、優夜達2人がロビーのソファーで休むことになった。
 いやぁ、慣れてるとは言え初日からこれは社畜コースだよねぇと。あっはっはっは……はぁ。 

 まぁ、初日にこんな事があったせいか。新人ズの皆が頑張ってくれて、今ではすっかり隠居コースが見え始めてきた。実際最近やってる仕事ってなぁに? って聞かれれば、純事務員の書類の作成や提出に電話の応対ぐらいかな。後はクレーム処理とかその他諸々。ちなみに経理とかは引き続き私達が担当。まぁ、いつでも引き継げる用意というか、もう新人の皆に説明しなくても出来る様になってるだろうし。後はまぁ、変わった仕事とかだね。最近だと彼が担当した保険、保証の問題でちょっと外に行ったくらいだし、後は煌が対応したドレスの件とかかな。前者は問題なく片付いたって連絡を貰ったし、後者はなんとか経費で落としてたし。最近は、まぁ……割と暇。いやまぁ、暇ってわけじゃないけど最初の頃を思い出すと、どうしてもねぇ。

 なんてしていたら、少し前に彼から連絡が入ってた。はて、グリフィスさんから聞いてた話だと。今日は休みをもらってたはずだけど。はてさて、なんでかなーと思ってメッセージを確認。

 暇だから戻ってくる

 わーお、イッツ・ア・シャチク! と言うのは冗談で、彼の事を考えるとすぐに分かる。一人で休み貰ってもすること無いもんね。とりあえずグリフィスさんに報告して、苦笑いを浮かべてたけどあっさり受理。後は帰ってくるのを待つだけ。彼がいなかったこの3日の間。仕事は全部片付けておいた。戻ってきたら仕事で一杯なんて気分悪いからね。何より暇だったからね。片付けちゃったよ。さて、帰ってきたら一緒にFWの皆を見学にいこうかなー。
 なーんて、考えてたらそこから彼が帰ってきた。やー3日ぶりとは言え、なんか疲れた顔してんねー。

「おかーえりー。事務仕事にする? 経理にする? それとも……」

「それとも何だよ……いいよ普通に仕事する」

 あら釣れない。けど、なんだろう。両手が震えてるのはなんでかな? 私の視線に気づいたか彼は困ったように笑って。

「ついさっき、シグナムさんと打ち合って来たんだよ。それでこうなった」

「あらま。一人だけ抜け駆けー? ずるいなー」

「見学だけで済ます予定だったよ。色々あってな」

 そういう彼の顔を見ると嬉しそうな顔をしてた。最近はあんまり見れなかった顔だけど。やっぱり良いなぁ。

「そう。ならいいよ。今度デートね?」

「あぁ。仰せのままに」

 にっと笑う彼を見れ、私も自然と笑みが溢れる。あぁ、近いうちに休みを取らないとなー。手元の申請書類を確認してると。一つ気になる書類が出てきた。隣で仕事に取り掛かろうとしている彼に体を寄せて。

「これ……どう思う?」

「うん? ……なるほど、でもこれって――」

 こういう案件得意な人にお願いするのがベストだよねって。


――sideはやて――


 目の前の書類を見ながら少し頭を抱える。フェイトちゃんの調査を行う為の申請の書類。本来ならば1人でも行える任務なんやけど。とある工場へ出向いて任意で書類を見るためらしい。書類を裁く関係やし、誰か1人連れて行きたいって言っとったんだけど……。

「……相談できなかったって」

 涙目で書類を持ってきたときには頭を抱えそうになった。いつもだったらシャーリーがおるんやけど。生憎本局へ行ってて、連れて行くことが出来ない。かと言って普通の事務員に頼めることやない。あの四人ならーと思ったけど、流石にちょっと悩んで、今回はやめとこうとなった。最初から無理させっぱなしやし……思う所もあるし。で、結局1人で行くことに。後は私がサインしたらすぐにGOってわけやけど。
 大変なのは目に見えてわかってるから1人で行かせるのはちょっと心苦しい。しかもお昼から出るってことは下手したら夕方になっても帰ってこれない可能性もある。でも仕方ないと割り切るしかないんかなーもう。

「八神部隊長、今宜しいでしょうか?」

「はいどうぞ」

 ブザー音と共に、入室の許可を求める声が聞こえ、それに応答する。扉を空けて入ってきたのは事務員の時雨と優夜の2人。もしかして優夜の片してくれた案件の事かと思っていたら。

「八神部隊長。フェイトさんの調査の件でご相談が」

「お、なんかあったん? あ、休んでええよー」

 部隊長室に置かれているソファーに指を指し、2人を座らせる。ちょうど良い時間だし少し休憩にしよか。お茶を用意して2人にも出す。申し訳なさそうにする2人を制しておく。これくらい全然構わんし。

「では失礼して。この書類なんですけれど」

 と時雨が出した書類は、フェイトちゃんの調査申請の書類。日程が少し前の物やけど、内容は同じもの。おそらく事務の誰かに依頼を出そうと用意されてたものやね。

「うん、これがどうしたん?」

「や、これ同じ分隊から響連れてけばいいんじゃないですかと思いまして。なんだかんだで書類作業には強いやつなので」

「それに最近フェイト隊長、響の事ストーキングしてますし。いーんじゃないですか?」

 これを聞いて優夜と2人でお茶を吹き出しそうになる。フェイトちゃん一体全体なにしてるんや。

「……そんなことが。まぁ、何かあったんでしょうよ」

 口を拭きながら優夜が呆れたように話す。

「まぁ、フェイト隊長も割とあれやからな。けど、響なら大丈夫そうか」

 フェイトちゃんの事を思い出しながら、もう一度お茶を飲む。実際仕事ならいざしらず。割と響に対してはフェイトちゃんもオープン気味や。この前の出張の時といい、割と怒ったりしてるみたいやし。
 それにしても珍しいといえば珍しい。割と人見知りするフェイトちゃんが、嫉妬心オープンで接するのは珍しい。そう言えば初日にちょっとお話をしたって言うとったしそれでかな?
 ふむ、もしかして、もしかするかな……?

「個人的には親友を応援したいんですが……無くもないですよね」

 私の考えを読んだ……? 隣の優夜は不思議そうな顔をしてるから分かってないみたいやけど、時雨は間違いなく気づいてる。だって悪どい顔しとる……や、仲良くなれそうや。さてさて、色々用意を始めようか。
 無言で自分に指差してる時雨と考えの一致を確信。自然とハイタッチの流れになった。

 さぁ、面白くなってきたでぇ!


――side響――

 いやー、参った。午前の訓練は痺れたー。中後衛(ウィングバック)でこんなに疲れるってことは、フロントの流と、ガードの震離はもっとしんどかったろうよ。実際震離は何も話さないし。と言うかなんか目が死んでる。流は……わからん。相変わらず無表情だし。奏も割といつも通り。
 でも一番の問題なのが……向こうで屍みたいになってるスバル達。普段なのはさん相手に一撃与える訓練してるけど、今回はシグナムさんだったからか、いつもと勝手が違うのと、連結刃で徐々に追い込まれていく上に、向こうが必殺の一撃を構えながら突っ込んでくるから質が悪い。当たったら即アウトだもんなー。今は仕方ない。
 今はまだ出来ないけど、スバルには二打。エリオには連結刃で囲って撃墜。ティアナとキャロには高速移動からの一打と、各個人に合わせた攻め方をしてたし、捌き方を覚えたら凄いんだろうな-。

 今はちょっと休憩中。食事も終わって一息入れてる所だ。今日は既にというか珍しいこともあったし良かったよ。優夜とシグナムさんの打ち合い見たけど、やっぱアイツ強いというか上手いわ。本領発揮してないとは言え、本気のシグナムさんの連撃をあそこまで迎撃するのなんて俺じゃ無理だ。というか途中で別の手を打つし……何より途中で見切られて終わる。
 でも良いタイミングで来てくれたよ、本当に。あの手合わせ見た後のエリオ、完全に槍術を意識してた。間違いなく良い影響だ。ただエリオのスタイルを考えると、アイツの動きもいつか見せてやりたい。と言うか呼べば来そうなもんだけどなぁ。

『館内放送。緋凰空曹。至急正面玄関までお越し下さい。繰り返します――』

「あら?」

 呼び出しのアナウンスで名前を呼ばれて、少しゲンナリする。視線を横にずらすと頑張れって視線を送ってくれる奏と、どことなく心配そうに見てくる震離。自分の口から乾いた笑い声が漏らしながら、2人に向かってサムズアップする。
 なんだよ誰だよわざわざ俺なんかを呼び出すのは。
 
 我ながらネガティブな考えで頭いっぱいになりながら正面玄関まで行くと。フェイトさんとはやてさん。そして、すっごいニコニコ(・・・・)と笑顔を浮かべた時雨がそこにいた。
 で、事情を聞いて納得。そりゃ人手がほしいわけだ。そして、先日屋上に入るか入らないかしていたフェイトさんの行動に納得できた。この件で俺と話そうとしてたのかな? けど、出張でボコボコにした手前、言い出せなかった。そんなところかな?

 もちろん調査のお手伝いは了承。フェイトさんも気まずそうにだけど、了承してくれた。さて、仕事の内容はガジェットのパーツの素材を製造、販売してた疑いのある工場。普段は個人向け航空機やヘリの部品を製造しているけれど、ここで買われた素材を違う場所――即ち、ガジェットを製造している工場へ流されているかもしれない、と言うことだ。今回はあくまで任意で書類を見せてもらうとの事。了承しててなんだけど、武装隊員所属だった奴の仕事じゃないが……ま、投げ出す事はしないけど。

 とりあえず、フェイトさんに言われるがまま、車へ移動。その前に、時雨からあると便利だからってペンと手帳、ボイスレコーダーを受け取る。なのはさんの許可を得ている事を聞いて一安心。そのまま車へ搭乗し、いざ工場へ。

 結論から言うと、お互い気まずすぎてなんも話せなかった。いや、俺もフェイトさんも話そうと努力してたよ。ただ、タイミングがかぶって結果無言っていう事。

 さて、噂の工場は山の中。周囲は森林生い茂る森の中。見るからに怪しそうな見た目をしている工場の前へ車を止めて、真っ直ぐ責任者の元へ。執務官証と捜査依頼状を見せる時のフェイトさん、さっきまで車を運転してる人には見えないくらいクールだった。あれぐらいの落差があるからこの方色んな方面から人気なんだなーって改めて実感。

 改めて、今回の目的の再確認。今回はあくまで任意捜査であり、強制捜査で無いこと。そして書類を見せてもらっているという事。これを頭に入れて捜査をしないといけない。
 
 フェイトさんは責任者が居るオフィスを。俺は資料室もとい、倉庫へ向かう。そして、扉を開けてゲンナリしてしまった。目の前に広がるのは紙の山。場所によっては谷にまでなってる。見てるとめまいがするが、止まってても仕方ない。やりましょう。
 
 まさかと思うがこれって、捜査が入るから書類ひっくり返して投げ込んだわけじゃないだろうな?
 
 
――sideはやて――

 目の前の画面を見ながら絶句してしまう。量が多いとかそういう訳やなくて、私も気を抜いてサボったりしたらあんなになるんかなぁ。部隊長やってると気を抜いたりするとすぐ書類が溜まるからなー。これを教訓に私も頑張ろう。

 なんで、響の見ているものが分かるかというと、時雨が持ってた三点セット。アレがサーチャーとしての役割を果すという優れものなんや。二点だけだと、音だけ聞こえるらしいけど、三点そろうとそれぞれが連動してサーチャーを展開。映像を……受信機があるここまで届けてくれるっていう代物。なんで時雨が持ってたとかそういう事は一旦置いといて、仕事を片付けながら時雨と紗雪の3人で様子を見守る。ちなみに紗雪が居るのは優夜と交代したというか、飽きて出ていった所を時雨が代わりを呼んだからという事。

「これは……空振りですね」

 ポツリ、と時雨が苦そうな顔をしながら呟く。ここに居る3人は誰も口には出さへんけど、実際その通りやと思う。きっと現場に居るフェイトちゃんも響もそう思ってるかと思う。違法に流しているのに証拠を残す者は居ない。ましてや書類なんてもってのほかや。今回のこの作業はただ時間だけが流れていく作業。ただ、見てて気になったのが響の手際の良さだ。実際手元が見えるからよく分かる。短いスパンで書類を整理、何か情報が無いかしっかり確認してるようで驚いた。
 やけども、それでも動き無いなー。仕方ないこととは言え、これは見てる方も大変やな。

『響、大丈夫?』

 不意にフェイトちゃんの声が聞こえた。

『大丈夫ですよこれくらい』

 肩を竦めて苦笑してる。フェイトちゃんも心なしか疲れてる……というか、ちゃんと執務官モードのフェイトちゃんを見るのは珍しい気がするな。

『ごめんね、ここ最近着いたりして』

『いえ、何かあったのかなぁって。最初の時みたいな気迫は感じられなかったので、それにまだ危害加えられてないですし』

『うぅ』

 どこか遠くを見ながら言う響と、何かに恥ずかしくなったのか赤くなるフェイトちゃん。おや、私の知らない所で何かフラグだったんやろか? これは今度聞いてみないとな。

『よし、見つけた。これなら臭い所突けるんじゃないですか?』

 そう言って響は二枚の書類をフェイトちゃんへ。少し眺めた後。フッと笑顔になった。なんや? 何見せたんや?

『これなら、大丈夫。けどよく見つけたねこれ』

『物覚えは良いもので。全く同じ日に同じものを入荷。識別コードも同じもの。ここまでは問題ないですが、わざわざ二分してる上に、入荷時間が朝と夜の同じ時間、他のやつには印が無いのに、その片方には印がある。片方は正式に取引したものだけど、もう片方は人には言えない取引の為でしょう。俄仕込みの下手な推理ですけど』

『ありがとう。これでここから進展出来るかもしれない。前進した』

 グッと小さくガッツポーズを取るフェイトちゃん。うん、無自覚でこういうことするから、ファンが多いんよ? 実際絵になってるし、かわええもんね。証拠をデバイスで画像データに収めた後。帰り支度をしてる。フェイトちゃんは責任者の元へ、響はその前に纏めた書類を再び元あったように戻す。まぁ、片付ける理由も無いし、当然……? やね。

 しっかし、面白い事が起きるかと思ったのに結局何も無かったなー。さっきのフラグが何なのかわからないだけやったなー。帰る準備が終わった後、フェイトちゃんの車に乗って、後は六課に帰ってくるだけや。車に乗って数分。相変わらず気まずそうな2人。すると。

『響。ちょっとだけ付き合ってくれる?』

『はい、構いませんよ。何か用事でも?』

 お? フェイトちゃんが動いた。食い入る様に3人でモニターを見る。そして、車が向かう先は小さなパーキングエリア。車を降りて少し歩くと、ミッドが一望できる展望台へ。ふむふむこれはフェイトちゃん……

「脈アリ……かな。はやてちゃん(・・・)?」

 そう。脈アリの可能性……って。

「「なのはちゃん(さん)?!」」

「お疲れ様です、なのはさん」

「にゃはは」

 振り返るとそこには、管理局の白いm……いや、下手なことは思えへん。エース・オブ・エースのなのはちゃんがそこおった……終わった。
 紗雪も気づいてたんやったら、教えてくれても良かったのになー。

「もう、はやてちゃん? 盗撮はいけないんだよ?」

「ぅぅ、いや、良かれと思ってな、ほら。色々と、な?」

 我ながら苦しい言い訳。時雨達にはバレない……というか、変な動きをしないか監視する意図もあるにはあったんやけど、ぶっちゃけ色恋に発展しないかと期待してたというのが本音。なのはちゃんも本来の意図を知ってか知らずか、軽くため息を吐いた後。

「次はしちゃいけないよ?」

「うぅ、肝に銘じます……」

 冷や汗を流しながら、魔王さまから……あかん。睨まれた。エースから許可を得て、監視を続行。気がつくと場面は展望台のベンチにフェイトちゃんが座って、響はつかず離れずの距離で立ってた。んー、響ーここは隣に座るところやけどなー。

『ちょうどいい所があってよかったよ』

『そうですね。景色も良いですし、展望台まで近いし良い穴場かと』

 2人揃って景色を眺めてる。うん、ええ感じや時刻は夕方やし、綺麗に夕日も見えて最高や! これはナイスシチュエーション!

『響ごめんね。出張先での事とか、後つけてまわったりとか』

『いえいえ、ホント気になさらないで下さい』

 うんうん、これはいい流れ……って、なのはちゃん、なんでそんな神妙そうな顔しとるん? 時雨と紗雪もなんで微妙そうな顔しとるん? え、いい感じと思ったのは私だけ……?


――side響――

 さてさて、最後に会話してから5分程経過。凄く気まずいです。ここの景色がいいからごまかされてる感があるけど、実際まったくもって進んでない。
 後ろのベンチに座るフェイトさんも何かあるからここに連れてきたんだけど……一体何だろうか?

「……ねぇ、響?」

 返事をするため振り返ろうとするけど、途中で止まる。今この人の顔を見てはいけない。そう思ったから。
 
「今から話すこと。別に隠すことじゃない。なんなら誰かに言ってもいい」

「はい」

 顔は見えないけど、心なしか声が震えてる。でも、こんだけ震えるってことは大切な話だ。心を込めて、こちらも聞かないと。そう考えて、振り返る。

「……じゃあ言います。私とエリオは人造魔導師です」

――sideフェイト――

「……じゃあ言います。私とエリオは人造魔導師です」

 言った。言ってしまった。もう後戻りはできない。この質問をぶつけるという事は、彼を試すような事。もっと言えばなのはやはやて、ヴォルケンリッターの皆以外に初めて打ち明ける事だ。

 心が冷え始める。心臓が煩い。耳鳴りが煩い。呼吸が煩い。
 エリオとキャロが懐いてる。何より2人から話を聞いて悪い人だとは思えない。だからこれはある意味、炙り出しに近い事。疑っていると言っている様な事。
 酷いことをしている自覚はある。
 でも怖い。もし、この後の言葉が拒絶なら、私だけじゃなく。エリオとも距離を取るだろう。せっかく出来た「兄」と慕っている人物。そんな人に拒絶、否定されるのなら……その時は、私が。

 でも、なんで黙ってるの? どうして視線をこちらに向けないの? もしも、もしも。拒絶なら、私は――。

「……少し話をしましょうか。つっても端折り過ぎたお話を」

「……ぇ?」

 もう一度、振り返って展望台からの景色を見始めた。返事は? ねぇ、響。返事は?

「俺の周りは、いえ、とある親友は……酷い迫害を受けました。髪の色がおかしいと。白い髪なんて、と。でも、出会ってからは大人しく……なったんかな。大分常識を身に着けましたね」

「ぇ、ぁ」

「……ある親友は、幼少期に起きた事故が切っ掛けで名前以外のすべてを忘れました。だから俺達も詳しくは知りません。でも、出会ってからは感情表現がうまくなったみたいで、明るい様に見えます」

「……」

「ある親友は、出会った時点でとても有名でした。世界の記録をヒックリ返す程度に天才でした。それ故に、大好きな人から言われました。化物、と。ひどく落ち込んで、泣いて、一緒に居続けたら、なんとか元に戻りつつあります」

「……ぁ、の」

「ある男の子は、10歳になる直前。母親からこう言われました。本来ならアナタは生まれることはなかった。でも、私も父さんもアナタをずっと愛してる。望まれて生まれてきたんだと。そう伝えられ、母親と別れました」

「……それって」

 そこまで言いかけて、言葉が止まる。いつの間にか振り返って、私の顔をしっかりと見つめていた。凄く穏やかな顔で。

「フェイトさん。貴女がどういった意図でそれを告白したのか、俺にはわかりません」

 それは……あの子が告白しても辛い思いを……。

「誓いましょう。俺はその程度で人を見る目を変えません。ましてやこの事を俺から誰かに告げる事はありません。死んで墓に行くその時まで胸に仕舞いましょう」

「……」

「その上で、俺の回答は。ただ一つ。これまで通り受け入れましょう。あの告白で貴女が優しい人だとはっきり理解りました。深読みでなければ万が一にでも俺が拒否した日にはおそらく全力で糾弾したでしょう。貴女があの子達を大事にしているのはあの子達を見れば分かることです」

 あぁ……、あぁ……、心が暖かくなる。自然と涙が零れてくる。なんで、それを言うのにこんなに回りくどいんだろう。

「アナタの本気に返すには、こう返すしかなかった。安心……はまだ出来ないでしょうけど」

 気恥ずかしそうに笑顔を浮かべている響を見て、涙が止まらない。あぁ、この子は……ううん、この人は――


――sideはやて――

「「「「っ……はーーーーーーー」」」」

 四人揃って呼吸を再開する。あ、あかん。心臓に悪すぎや。

「こんなにドキドキするなんて……ほんと、フェイトちゃん……別の意味でドキドキさせ過ぎだよ」

「ホンマに」

 フェイトちゃんも考えがあったんやろうけど、正直心臓に悪い。あ、そうだ。

「時雨、紗雪、このことは……」

「あ、もちろん。大丈夫です。ね?」

「はい、胸に仕舞います」

 響と似たような言い回しだけど、多分きっと、大丈夫……だと思いたい。実際響があそこまで言ったんや。億が一でも漏らした日には、私もなのはちゃんも本気でいく。や、でも。

「響が言ってた子たちって……」

「えぇ。はやてさんが思ってるとおりです。ただ……」

 時雨に聞いてみるけど、その本人は少し考えるように紗雪の方を見る。
 
「3人の事情は……その、本人達から昔聞いてます」

「響のお母さんが10歳の頃になくなっていますけど、響がそれを……自分の事も含めて人に話すのは始めてみました」

 それぞれ小さく首を横に振る。そうなんや、奏が8年位の付き合いって言ってたけど、まだ知らないこともあるんやね。これ以上はフェイトちゃんも、響もあまり踏み込まれたくない事やろうし、サーチャーの電源を落として。

「大変な話になってもうたね」

「そうだねー、はやてちゃんも、これに懲りたら二度としないこと。今回は初犯だから見逃します」

 天使のような笑顔のなのはちゃんに言われて、罪の重さに気づく。なんてことしてしまったんや、私。いやでも、このギリギリの会話が……

「は・や・て・ちゃ・ん?」

「いえ。もうしません」

 白い魔王からロックオンされた……だめや、今日はもう、ご飯食べて休もう。そうしよう。

――――

 三人共それぞれ仕事に戻るのを見送って、思いっきり椅子にもたれ掛かる。
 
 思い返すのは……やっぱりフェイトちゃんの行動の事。
 ……なんで自分の……プロジェクトFの事を話したんや? そして、なんで話すというきっかけはなんや?
 
 フェイトちゃんを疑ってるわけじゃない。だけど、疑惑のある響になぜそれを話したのかが全く分からへん。
 
 もしかすると今も何かを話してるかもしれない。だけど、通信を切った上に、機材は時雨に返しておる。あちらが起動して見てる可能性も――
 
「……あかんわ」

 地球出身の七人に疑いがかかってるとは言え、決めつけてしまっているそんな私が嫌になる。
 確かに情報はもらった。確かに怪しい動きをしてきたという事も聞いた。
 
 だからといって。
 
「……フェイトちゃんがそれを確かめるために話すとは思えへんのよね」

 10年来の付き合いやし、性格もよくわかってるとはいえ……分からへんなぁ。
 
 あかんわーもー。最近面倒なことが増えたし。
 今度のホテル・アグスタのオークションに、ユーノくんが代理で来ることはええねん。むしろなのはちゃんと話が出来るかも知れへんからちょうどいい! ってなったし。
 だけど問題はここからや。教会の上層部からオークションに参加すると連絡があったという事。しかもそれがカリムの支援者の一人、管理局にも出資してる人物。しかも……機動六課を見てみたいと言っているとアヤさんから連絡をもらった事。
 それ以外にも、突然に管理局御用達のデバイスメーカー2社からも参加するって、完全に機動六課(私ら)は見世物扱いや。
 幸い……というか、シャマルにドレス代経費で落ちたらええなぁって愚痴ったら本当に経費で落とされてビックリしたし。煌達にはほんま頭上がらへんわ。
 
 ……何もなければそれでええ。せやけど、完全に狙われても仕方なのない条件が揃いすぎてる。
 オークションの出品されるロストロギアを調べても特に問題はない。
 
 無いんやけど……イレギュラーな参加者が増えた事で、裏取引が行われないと決まったわけじゃない。
 
 ……ほんまもー、タイミング悪いと言うか、お腹痛い……。
 
――sideなのは――

 ――スイッチで前に出る度胸も素直に凄い。
 
 響に今のティアナ達はどう見えるかと質問した時。そんな返答が帰ってきた。
 その場では、教育方針が間違ってないことに舞い上がって気にしなかったけど、よくよく考えたらその返答は妙な所。

 確かにちょっと熱くなりやすい。でも視野は広くて指示も正確……確かにいつかはそのスタイル、エリオを本当に独立遊撃にして、スバルとティアナ、そしてキャロのアシストというのも考えてはいる。
 
 だけどそれは先の先。個人スキルに入るか入らないかって状況だし。まだプランとして置いてあるだけの話なのに。まるで響はそれを見たように言っていた。
 私が知らない所でそれをしようとした? 
 ティアナとスバルが突撃思考とはいえ、訓練ではその様子は見受けられない。
 レールウェイの時は挟み撃ちという都合上、皆前に出たけど……その事を指してた? だけど、そうするとスイッチという単語を使うことはない。

「……駄目。考えが回り始めたー」

[Don't push yourself too much.(無理をなさらずに)]

「……ありがとレイジングハート。まだ大丈夫だよ」

 ……レイジングハートからも心配されちゃった。
 気がついたら、結構良い時間になっちゃってるし。
 
 今日はもー……驚くこともあったしなぁ。はやてちゃんってば、まだ疑いの段階なのに監視ツールなんて使ってるんだもん。まだ早いと思うんだけどなー。
 ただ、それでも……フェイトちゃんが自分のことを話したのは本当に驚いた。
 エリオとキャロが響をお兄ちゃんと慕ってるから、先手を打った? もっとずっと仲良くなった時エリオが話した時に拒絶されないかの確認?
 ……それとも、執務官として、響の炙り出しを行なった? もしかすると、はやてちゃんの側に時雨と紗雪の二人がいたのは、余計な事を言った時にフォローするため……?
 
 うぅーん……?
 
 駄目だ、戦術論ならともかく。探り合いは得意じゃないなぁ……。アヤさんからの言葉を聞いてから、疑り深くなっちゃったなぁ。


――side時雨――

「……どう取る?」

 ポツリと紗雪の質問が響く。もちろんその意味は。
 
「私達に、なら分からないでもない。実際に実行したのだから。でもあっちはまだだよ。指示はあれどまだ、ね」

 周囲に聞かれてないかコチラを見てないかということに注意を払いつつ、その質問に答える。
 そもそも、紗雪が質問した時点でそれは杞憂だというのはあるけど、注意をするのは大事だ。加えて、第三者には意味が伝わりにくくしておく。
 
 実を言うと、響達が来ると決まった時、正直交替部隊の方に行くと思っていた。
 というのも、シグナムさんがトップに居るけど練度で言えばあまり良くはない。一応メインがスターズ、ライトニングに分かれて、交替部隊にはクラウド()の名の通り、機動六課のあっちこっちに所属してる人が代わりに出るといった具合だし。
 でも実質響達を第二の交替部隊のように扱ってる様に見えなくもないが……よくよく考えれば、私達でさえもよく分かってない流を六課にほぼ常駐してるなのはさんと、次点に居ることの多いヴィータさんの手元に置いてるのは監視の意味を兼ねてるんだろう。
 響に関しては、指揮権を渡すかも知れないと伝えてた時点ではまだ疑ってなかった筈だけど……何かミスをした? 響達が?
 
「……少し叩いて見ないと分からないねぇ」

「……やろっか?」

 ニヤリと笑う紗雪を見て、ちょっと考える。確かにこの子ならなんで響を疑う様な事になってるか、その一端がわかるかもしれない……けど。
 
「……良いの? 煌がちょっと悲しむよ? それに割とノーヒントに近い状況だし」

「まぁ……それはそれ、これはこれで。こういうのは早めにしたほうが良いだろうし。まぁちょっと漁ってみるよ」

 ふふんと胸を張る姿にちょっと笑ってしまった。
 私も皆も付き合いの長さからわかるけど、煌はどういうわけかその見分けがつくのは本当に不思議だ。
 
 ならば。
 
「じゃあ、お願い。煌には私から謝っとくから」

「了解。じゃ」

 フッと紗雪が笑って、その目が据わったのを確認して。
 
「さ、紗雪。ちゃっちゃとお仕事片付けて、ご飯食べよ」

「あ、はい。わかりました」

 思い出したかのように、黙々と作業を再開する紗雪を見ながらちょっと思う。
 
 まーたレベル上げたんだ、と。 
 

 
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。  
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