魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第7話 皆の評価と、事務員達
――side響――
地球への出張任務という名のプチ旅行から、早数日。のらりくらりと、訓練を続けてる。今は隊員オフィスで仕事中。資料整理やFW陣で使用したカートリッジの使用等、要は備品の報告書類作成。
他には、万が一があったら面倒なのでエリオとキャロの元へ行くであろう仕事を一部貰い受け、それの処理をすすめる。その脇で、ここ最近の訓練……エリオ達4人の映像を流している。まだまだ合流して日が浅いし動きの癖とか知らない事が多いし、作戦の幅も広がるし。
ふと、ここ最近の訓練の内容を思い返す。スバル達が形になってる事に比例して、相変わらず俺ら4人は、いや正確には流を加えた場合のチームの形はあまりよろしくない。形にこそなっては居るけれど、スバル達と比較するとどうしてもまだまだ連携が足りない。
現在の各ポジションは、流をフロントアタッカー、震離をガードウィング。奏をセンターガード、そして、俺をウィングバックに変更した。
理由は色々あるけれど、俺の実力じゃ満足に戦線維持出来ないということと、もう一つ。一応指揮権をもらっているということもあって、後ろに下がって指示を出し、且つ不安定な二人の戦術補助。奏の射線確保をメインに動いてる。
一応ライトニングとして動く場合もこのまま行く。あくまでスターズがメイン……というわけではないけど、自然と突破力のある人が集められているように感じる。なのはさん然り、ヴィータさん然り。
逆にライトニングは、機動力重視な人が多い、フェイトさんは言わずもがな、シグナム副隊長も、正面から戦うタイプだろうけど、機動性重視っぽいし。
まぁ、それはさておき。皆の実力を鑑みて、この編成になったわけだけど。いまいち、流の実力の底がわからない。
正確に言えば、わからないわけではないんだが。細かく言えば、なんか変。まぁ、おかしな点を上げればキリがないんだけど。
第一に流の戦闘術。剣に銃、そして、おそらく体術も使えるだろうが、それは置いといて。まずは剣術について。流自身はなんて事ないように戦っているが、あれはベルカ騎士。それもかなりいい所の剣術だ。実際強いし、ガジェットの戦闘に置いては文句なしだ。だけど、あくまでガジェットとの戦闘にだ。だけど、対人でもそれなりに取り回しが利いてるが、体の大きさに対して全く合ってない。
エリオと同じように将来的に体が大きくなるだろうから、それを持たせているならまだわからなくない。が、流の場合、小さい頃から訓練してたであろう動きだ。小さい頃から大剣術を練習してたなら体に何かしら影響を及ぼしそうだが特に何もなさそうだ。
まぁ、剣の腕が良い奴なんて探せばたくさんいる。ディメンジョン・スポーツ・アクティビティ・アソシエイションに出ている子で居合術を使う子がいるくらいだ。居ても不思議じゃない。
第二に銃術。射撃、砲撃をうまい具合に使いこなしている。収束砲の練度も中々。だけど、戦闘スタイルを見ていると、接近戦では突き出すように、それこそ槍の様に使っている。
長い砲身を使った良い活用方法だけれど、接近戦に特化し過ぎている点だ。見覚えがあるとしたら、前に聖王教会の騎士が槍術を使っていた気がする。ただ、あくまで戦闘じゃなく演舞でやっていたということを除けば。
そして、何よりも……銃技と剣技を同時に使った戦闘はどうにも噛み合ってないようにも見える。
どうも練度の割に歳が釣り合ってない。疑い過ぎ……かも知れないが、あの子の持っている技術を見ると疑問が残る。英才教育を受けました。と言われれば納得できなくもないが。
その割に非武装時の左右の偏り無いとか、地味に遠距離戦苦手だよねとかいろいろ思うところはあるけどなぁ。
「――。――」
何にせよ、本気の流の動きを見てみたいもんだ。14歳であの実力って何をどう考えても凄いもんな。DSAAで優勝狙えそうなもんだけど、管理局の仕事していると日程が噛み合わなくて出づらいというのと、負けたときのガッカリ感が凄まじい。
過去に武装隊の奴が何人か出場したらしいけど、結果はベスト8とかで止まったらしい。酷い時は優勝候補と当たって一回戦負け、そして観客から言われるのが、こんなのが武装隊なんてって言われたらしいし。そのせいか知らないけれど、本局も地上も本当に腕に自身あるやつしか出ちゃいけないって空気が出来た。まぁ当然っちゃ当然だよな。
「――き。響!」
「え、あ、はい!?」
いきなり大声で名前を呼ばれて慌てて立ち上がるも思わず声が裏返った。他に仕事をしていた面子から小さく笑い声が聞こえてきて、恥ずかしくなる。気がつくと俺の隣になのはさんが立っていて、俺の仕事ぶりを見ていた。
「もー、声が聞こえないくらい集中していたんだね」
「……申し訳ないです。それで何かありましたでしょうか?」
クスクスと笑うなのはさんを見て、更に恥ずかしくなる。隣に立っていることに気づかないくらい集中してたなんて。なんか遠くで、ニヤニヤ笑ってる奴が居るけど、それは置いておこう。後でしばくし。
――sideなのは――
無表情で資料を片せながら、偶に眉をひそめたかと思ったら、心配事が晴れたようにため息を吐いたり。少しの間隣で見ていたけれどコロコロと表情が変わって面白かった。
本題を切り出そうと声を掛けるけど、全く聞こえてない。イヤホンとかしているわけではないから、単純に集中しているだけみたい。もう一度声をかけようと思って顔を近づけると、響のデスクの脇にここ最近の皆の訓練の映像が流れてた。流のシーンでもう一度深い溜息。
なるほど、これを見てため息を吐いてたのかな。
けど、こうしてみると、正直まだわからない。はやてちゃん――いや、正確にはアヤ三佐の話を聞く限りだと、六課の情報を流そうとしているその中心人物。
何か粗を探しているから訓練の映像をと思ったけど、様子を見ている限りでは、単に関心しているような、扱いに困るようなそういった様子だ。さて、私の要件も済ませようかな。
「響、響!」
「え、あ、はい!?」
声を裏返しながら、立って返事をする姿を見て失礼だけど、思わず笑ってしまう。
「もー、声が聞こえないくらい集中していたんだね」
「……申し訳ないです。それで何かありましたでしょうか?」
気恥ずかしそうに頬を掻きながら頭を下げる。席に座るように手で制した後、近くの椅子を持ってきて私も座る。
響も今までしていた仕事を保存した後、私に体を向ける。
「さて、じゃあ。質問なんだけど、響からみてスバル達四人はどう見える?」
「どう見える……と、言いますと?」
「私自身、特定の子を一年間ミッチリ教導するのは初めてだからね。どういう風に育ってるようにみえるかなって」
管理局に本格的に所属して、早4年。その前の経験も含めたら10年目になるけれど、私以外の評価の目が欲しくて響に聞いてみる。口元に手を当て、視線を私から違う場所を見た後。
「……割とガッツリいいますよ?」
「全然良いよ。言って」
変な育て方するつもりは毛頭無いから、自信を持って言う。私の言葉を受けてから、周りを確認して、小さくため息。そして、改めて私の方を見て。
「わかりました。では――」
と、それぞれの説明が始まった。
「まずはスバルから。フロントアタッカーとしては理想的な機動力とそれに突破力。だからなのか、防御と回避が全然駄目。突っ込まないと駄目。即ち加速にものを言わせた攻撃しか出来てない印象。
シューティング・アーツの特性なんだろうけど、それに甘えて……というより、止まったときの戦闘とゼロ距離に難あり。火力は問題なしなので見切りといった回避択の強化。止まったときの戦闘の強化が必要かと」
ふむふむ、中々。
「で、次にティアナ。質量を持った幻術を使えて尚且つ、多重弾殻射撃を使えると言うのは同世代と比べても素直に凄まじいです。アレがあるだけで、フィールド防御は抜けますし、対人戦においても下手な防御は抜けますし。
後は、射撃と合わせて幻術を組み合わせる事が出来ればなお良し。欠点といえば、接近されると弱いということ。これは本人もわかっていることなので解決する問題でしょう。ティアナは焦って自滅するタイプではないと思いますので、問題はないかと……。いざというときにはスイッチで前に出る度胸も素直に凄いかと。
強いて言えば俺が株を取られないかと、ヒヤヒヤしそうです」
フフフと、影を落としながら笑う響を見てちょっとだけ引いちゃう。コホンとしてから、
「エリオはまだまだ成長期、間違いなく一級品のポテンシャルを秘てるんですが、まだまだ体ができてないので槍術の感覚、体捌きを覚えさせていくしか無いかと。
流もそうですが、体が小さいのに背丈ほどの武装をもたせるのはどうかと思います。特に槍なんて振り回してなんぼの武器。体が小さいうちはスバルと同じように突撃しか出来ません。ただ、あのスピードは目を見張る物があります。広域攻撃も練習してるみたいなので、将来を見据えていろんな可能性を見せてあげるのが良いかと」
ほうほう、なるほど。
「一番問題というかわからないのがキャロですね。召還士の話自体は聞いたことあるんですが、いかんせん組んだことなくて。何とも言えないです。
ただ、フルバックはポジションの関係で指揮官だと思われることが多いので、まずは回避術や防御、身の守り方と、前衛が帰ってくるまでの時間稼ぎ。それが叶わないなら撤退の即時判断。そのあたりを鍛えることしか出来ないかと……ごめんなさい、こういう事しか分からなくて」
「なるほど」
うーん、黙って聞いてたんだけど。正直冷や汗が凄い。何が凄いってまだ出会ってそんなに経ってないとは言え、こんなにあの子達を分析してることに舌を巻く。
「総じて言えるのは間違いなくランクA……いや、それ以上、AAAなんかも狙えるんじゃないでしょうか? 既に攻撃力では俺はスバルとエリオには敵わないですし、ティアナにはおそらく接近されないよう対策打たれるでしょう。キャロだって、フリードの火力と、もう一騎とやらを出されたらとても敵いません
若い子は強いねーと肩を竦めて呟く響を見て。ちょっと思う。
「なのはさんとしては、その発言は頂けないかなー」
実際、敵わないと言いつつ、この前の模擬戦ではスバルとエリオを同時に相手取って余力を残して勝利している。映像を見たときには素直に驚いたっけ。
「頂いて下さい。魔力量はギリギリCに届く位なんですよー。あいつらと正面切ってかち合いなんかした日にゃトリプルスコアで負けますよ」
「いやいや、それは魔力負荷トレーニングで総量を増やすと良いんだよ」
「現在進行形で行なってますけど、この容量はともかく数年総量上がったこと無いです」
あっけらんと言う響を見てガクッとなる。そう言えば
「響ってシールド張ったりはしないけど、何か理由でもあるの? あと射撃は?」
今朝の訓練時もそうだったけれど、響がシールドやバリアを使っているのはまだ見たことがない。何か特別な理由でもあるのかなって思って聞いてみる。
「え、いや特に。張れるっちゃ張れますけど、保有量の関係でそんなに長く持たないし、何より効率が悪いので滅多に使わないだけです。射撃も出来なくはないですけど、俺の魔力じゃしょっぱい物しか撃てません。
それならいっそ目くらましとか、踏み込み時の足場として使う方向で使用してます」
思ってた以上に普通の理由でこれまたコケそうになる。
なのはさんとしては、一番もったいないと思う人材なんだけどね。今の所、FW組を相手取ったポテンシャル。見込みは十二分にある、けど。
言葉の端々から伝わる「限界」。これ以上は出せないという「諦め」。その2つが見えて、ちょっぴり悲しくなった。実際に響を鍛えようと思っても、正直難しい。強いて言えば空戦時の機動を教える程度。戦術も響の経歴を見れば色んな経験を積んでるし、本人も指揮を取る方に変わろうとしてるのがわかる。だから戦闘面は教えるというよりも、少し間違えたところを修正する程度だ。それほどまでに完成に近い状態。
シグナムさんからの依頼を、響と模擬戦をしたいっていうのも許可しても良い気がするけど……血戦になりそうだからなー怖いんだ-。
……まぁうん。だからこそ、出来る事、出来ない事を冷静に見極めてその上で修練を積んでるみたい。おそらくA-という評価も、その辺を加味されてのことだと思う。さらに言えば魔力が少ないという点、これも間違いなく入ってる。
うーん、考えれば考えるほど惜しいなぁ。当面は鍛えることよりも、4人で組んだ時の連携や、8人で組んだときの戦闘の仕方を考えるしか無いのかなぁ。
あ、そうだ。響を鍛えることは難しくても、響の力を底上げすることは可能。なら。
「うん、分かった。ありがとね響」
「いえ、こちらこそ参考になると良いのですが」
響が言った内容を纏めて席を立つ。立ち上がろうとする響を手で制す。そして、そのままオフィスを出て、向かうのは――
――side煌――
はいどうも皆さん。影の薄い事務員C辺りの煌です。とりあえず、一言言わせろ。失礼、言わせてください。それがダメなら思わせてください。
――なんてことしてくれたんだ、このやろう。
はい、少し気が紛れました。とにかくこれだけでは分からないと思うので、少し前に戻します。事の発端と、問題発生の二つに分かれるけどね! では、どうぞ。
――少し前。
「へぇー、響達三人用のデバイスか、いいんじゃないですか?」
「なのはさんからの指示なんだけど、やっぱり煌君もそう思う!? だから、一つお願いしてもいいかな?」
「あぁ、大体分かったので了解です。この資料の素材とか受注しとくんで、午後には来るかと」
「ありがとー、じゃあ私リイン曹長のメンテがあるからっ」
「はいはい」
事務室で仕事をしながら、シャーリーとの話をしてる……いや、してたになるな。もう行ったし。さて、いきなりデバイス云々の話が出たんだけども、これにはちょっと訳があって。
なのはさんからの要請。こっちはついさっきの話らしくてどういった話があったのかは知らない。多分、響となのはさんで話をしてたからその時に何かあったんだろ、多分。
それよりも……。
「……煌、奏達ってデバイスなんて受け取らないと思うんだけど?」
「あぁ、俺もそう思うけど、既に作成しとけば問題ないよ。あいつら用って言えばいやでも納得するだろうし」
「……そうかな?」
「あぁ、さすがにそこまでされて、逆に受け取らないほうが失礼だろう」
「……まぁ、そうだね」
隣で紗雪がそう言うけど、実際その通りだ。あいつらに言ってから作ると、絶対に拒否するだろうしな。要らないって言ったのにとかいろいろ難癖付けて、でも黙って作って、そしてあげると、問題なく受け取るだろう。
好意なんだからって付け加えたら尚よし。
「おっしゃ、受注完了、十分経費で落ちるな」
「うん、良かった」
でもさ、今月ってか近いうちに、ホテルの警護するらしいんだよなーうちの部隊。俺らには関係ないけども……戦えないからね。さてさて。
「紗雪、飯でも食いに行かないか?」
「ごめん、今日はちょっと時雨達と食べる約束したんだ」
「ありゃ、それは残念だ、じゃあまた今度なー」
「ん、指きりげんまんでもする?」
「ん~、それはさすがに恥ずいから遠慮しとく、じゃな」
「はい、またね」
で、なんだかんだで、皆にふられて一人で飯食ってたんだけどね。ちなみに響は最近フェイトさんに拉致られてる。何でもFWのちびっ子二人に「お兄ちゃん」って呼ばれてるかららしいが、正直わからん。
未だにFWの四人としっかり挨拶したこと無いしね。だから外見はしってる、だけどどんな人達かは知らん。
あー、それよかご飯まで暇だな。外のベンチで寝るかな。
……で、ここまでは良かったんだ。今日は楽な一日だって。
そして、問題がこれ! 起きて事務室に戻って、仕事に取り掛かったらさ!
なんか、普段こっちに来ないレアな人が来たんだよ。で、開口一番ふざけたこと抜かすし。
「隊長三人分のドレス代を経費で落として♪」
「え、無理に決まってんでしょ何言ってんスか?」
――そこから言い争って。
「ねぇ、煌君?」
「駄目です。他の隊員に示しがつかない」
短く切り捨てる。しかし、それでも相手は――シャマル先生は食い下がる。
「頼めるのはあなただけなの」
「だから無理ですって。出来ないことは出来ません」
さらに近づかれるけど、俺は動じない。並の人なら動じるんだろうけど俺は問題ない。
だけど、そんなことはお構いなしと言わんばかりに、シャマル先生は空いた手から一枚の紙をそっと差し出されるが、書いてる内容、金額を見て眉間に皺が寄るのがわかる。
「経費で落して、今月ピンチなの!」
「知りませんよ!」
階級なんて、もう気にしない、だってさぁ!? これだぜもう!?
「えー、だってだってお仕事で使うんですよ~」
「だってだってで、何処の世界に警備でドレス代払う組織があんですか!!」
そりゃさぁ、それを……警護を本職としてる人達ならば、仕方ないよ必要なんだろうけども。でも、俺らの場合……いや、うちみたいな部隊の場合話は違う。うちの場合は警備で、要するに見せ札だ。だから、敵に警備してますよって見せつける程度しかできない。
「オークション会場なのよ、こう、スーツにドレスで、優雅に入る所なんだから」
「……知りませんよ、大体階級とかボロボロ付いてるうちの隊長陣の制服のほうがハッタリには向いてると思いますよ? しかも執務官の黒服に、教導隊の白服。これ以上何を求めるんですか?」
大体なんで三着も買うんだよ、内部から怪盗でもでるってんなら、話は別だけども。意味がわからなすぎて頭が痛くなってくる。
「はやてちゃん達はこういう時に役に立つのよ?」
「うわ、それダメなやつ」
「そんなことないわよ? はやてちゃん達強いんだから」
「あくまでそれは戦闘で、という意味ででしょう? あの人達の実力は折り紙つきですけれど、今回は警備。もっと言えば戦闘よりも隊長陣の顔という点で今回声がかかったんでしょうが」
包囲網の構築、経路の先読み、それに合わせた人員配置に、不意に備える予備人員の待機とかさ。うちの部隊とはいろいろ相性悪いだろうよ? 響達が居るとは言え、カバーできる範囲も限られてんのに。
「うぅ、それに私達も行くんだから大丈夫よ。せっかく綺麗な三人なんだから」
「綺麗も何も。それでドレス買って抑止力になると思いですか? ただでさえこの部隊色々不味いところがあるのに、自分から見せびらかしてどうするんですか?
……極端に言えば他の部隊からこう思われますよ。あそこの新設部隊はトライアングルエースが居るからお金がもらえるんだって」
そこまで言って、ようやく申し訳なさそうに肩を落とすシャマル先生。別にこの部隊が設立何年とかならいいと思う。だけど、まだ新設な上、オークション警備に古代遺物管理部機動六課を呼び出したってことの意味を考えてほしい。確かにその名の通りロストロギアをメインに取り扱うとは言え。ホテル・アグスタの地域を管轄としてる部隊が居るにも関わらずウチを呼び出すということは経歴云々じゃなく、単になめられているのに。
まぁ、深く考え過ぎかもしれないけどな。もう一度手元に視線を落として、領収書を見る。
「そもそも何で俺に話すんですか、補佐官が会計でしょう?」
「グリフィス君が、優夜君か煌君に通してくださいって」
……はぁ? 思わず、視線を補佐官もといグリフィスさんに持ってく。こちらの視線に気づいたのか、俺にニッコリと笑みを見せてから、なんか涙がこぼれた。
うん、了解。大体分かった。だって、見渡すかぎり、事務室全員の視線が俺に向いてるもん。わかったよ、大体話し聞いてから検討するよ……更に頭痛くなってきた。
「で、何でまたこんなもん買ったんですか」
しょうもない理由ならそれで跳ねればいいんだ。うう、と呻くシャマルさん、うん設定年齢自称20前半に見えねえ。だけど、今の俺にはなんとも思わんがな! 大体色仕掛けでどうにかしようとか思ってる時点で駄目なんだよ。
「実は、はやてちゃんから要請があって」
「……うん? 今度の警備にドレスが欲しいって?」
「はい!!」
「あっはっはっはっは、なるほど。それは必要ですね……なんて言うかぁああああ!!」
思わず咆哮、それに対してキャーって乗ってきたシャマル先生。なんかもう、いろいろ疲れてきたな。それよりも気になる点が一つ。領収書を見て頭を抱える。と言うか頭が痛い。痛すぎて涙が出そう。
落とせなくは無くはないけど、ぶっちゃけそれしたら……間違いなく良い印象は持たれなくなるんだよなぁ。
いや、まて。この部隊で睨まれてるだろうと自覚してるはやてさんが?
「……他に何か伺ってます? これこれこうだから必要だって」
キョトンとして、考え込むシャマル先生を横目に、ホテル・アグスタで行われるオークションの参加者リストを参照する。が、データ上は特に問題はない。強いて言えば鑑定士の人が欠席、代わりの代理人がまだ不明という事と……。
いやこれは……無限書庫の司書長が代理で出席。
これは要るなというのが分かって頭痛が更に酷くなる。
改めて領収書の紙を見て、自然とデカイため息が漏れる。領収書の金額は結構な額に達していたけど、なんかこの金額どっかで見たんだよな、それもついさっき。はて、どこで見たんだっけか? あ、アイツラのデバイスの材料費と重なってんだ。
デバイスは落としやすいんだよね。新しいシステムを組み込むためのテストも兼ねてるって言えば大体通るし。
「あ、思い出したわ。確か教会から人が来るからって、後は……カレドヴルフ・テクニクスや、ヴァンデイン・コーポレーションからも来るって」
……マジか。
その意味と、わざわざうちの隊長陣を出すということの理由を知って冷や汗が流れおちるのがわかる。
「……教会から来るとしたら、下手すりゃ管理局に出資してるかも知れない大物で、その2社は管理局の車両やデバイスを制作してくれてる贔屓してる会社……なるほど。上層部糞だな」
「……あの、煌……君?」
……よし。
端末を叩いて、ある場所に繋げる。そろそろ付いてる頃だし、ドレス代を経費で落とすとなると、これしか残ってない。
「シャーリーさん、それ返品!」
『……えぇ!?』
「文句はこの人に!」
「え、私!?」
『え、ちょ、何が!?』
「では!」
即効で通信を切って、クーリングオフする手続きを取って、業者さんに持って帰らせる。だって、ドレス代の金額って、昼前に俺があいつらのデバイスの素材頼んだ金額と同じだって気づいたもんよ。
ちなみにあの後血相を変えたシャーリーさんが、突っ込んできて俺に文句言ったけど、事情を説明して無理やり納得させた。
うん、俺は悪くない。シャーリーさん泣いてたけど、それは仕方ない。
あの後、シャマル先生にシャーリーさんが詰めたらしい。
で、らしいって言うのは何故かというと。
「……フン」
「……悪かったって、だから機嫌直してくれって」
「……別に気にしてないし」
「……うぅ、本当にごめんって」
シャマル先生に寄られた時一瞬嬉しそうにしたように見えたらしく、それが原因で紗雪としばらく口を聞いてもらえなくなった。クソゥ、死ぬほど悲しい。
後々知った話だけど、なんかなのはさんがデバイスの件が無くなった経緯を聞いた時、もうカンカンに怒ったらしい。らしいっていうのは、なんというか訓練の質がいつもの倍以上きつかったから、何か機嫌悪いことでもあったんじゃないかっていう周りの話。
ちなみにシャーリーさんも、新しいデバイスの開発に気合入れた直後だったらしく、リイン曹長に慰められてたとのこと。FW陣にゃ悪いけど、間違いなくそれシャマル先生の件なんだよなぁ。
――side響――
なのはさんと別れてから、書類仕事をとっとと締めて休憩に入る。特に疲れたわけでもないけれど、なんとなく屋上へと向かう。
ドアを空けて、まず目に入ったのは青空が目に見えた。不思議―――ってほどじゃないけれど、六課の隊舎は海沿いにあるせいなのか、この前出張に行った海鳴を思い出す。
更に、世界は違えど見える空は似たようなもので、地球のように見えるこの場所を、割と気に入っている。
やっぱりここは良いリフレッシュが出来る場所だな――なんて、背伸びをする。うん、いい場所だよここは。うん。
俺の後をうちの分隊長が着けてこなければ。
ちなみに、扉は開けっ放しにした。理由は着いてきてることに気づいてたから。いやだって二度目だよ? 今度は何さ?
なんて考えてると、ドアの前を行ったり来たり、今まで散々人しばき倒しておいて未だにそれかー、悲しいわぁ。
何かを伝えたいのか、何を考えているのか正直な所、そこはわからない。大事な話だから悩んでるかもしれないし、この前と同じで実はそうでもないかもしれない、本当の所はどうかわからないけどね。
そんなことを考えていると、いつの間にかフェイトさんは居なくなっていた。なんというか、仕方ないというか、少しだけ疲れたなぁって。
――――
――side優夜――
――事務員とは部隊の運営に関する雑務をこなす役職の人間である。日々の部隊費の算出や部隊内の掃除や破損箇所の補修等々、前線で戦う隊員を影から支える黒子の様な存在である。
何処かで聞いたこの言葉を割と気に入っている。事務員なんて、と言われることは多い。特にここ、魔法世界においては事務員とかwwww なんて笑われることもままある。
実際、黙々とデスクに向かって一日が終わる。前線の人達は現場に出れば何かしら感謝の言葉だったりを受けてモチベを高められたりするが、事務員についてはそれはない。もちろん後方部隊というわけじゃないから派手さもない。だけど。
派手じゃなくても、地味であっても、笑われても。俺たちには役割がある。
そういう意味では、ここ機動六課は居心地が良い場所だと思う。確かに隊長陣、ロングアーチ、新人、追加組って感じで派閥はできてる。でも、それは仕方ない。だけど、派閥と言ってもどこもかしこも交友は全然出来てる。
強いて言えば、事務先輩組である、俺達4人のほうが中々交流出来てないくらいだ。いつだったか煌や時雨が言っていたが、FW陣から色々話を聞いてみたいと言ってた。別に深い意味はない。管理外世界――いや、日本出身だとわからないことがあったり、どんな事を考えて戦ったり、なんでこの道を選ぼうとしたのかとか、色々聞いてみたい。
まぁ、暇そうってわけじゃないけど、現時点じゃまだ平和そうだからいいんだ。だけど、FW陣にはもう少し加減を覚えてもらいたい。ここ最近ずっと出番が無かったというか、俺自体機動六課に居なかった。ここの所、とある保険会社に脚を運んで直に交渉をしていた。
なんでこんな事になっているかというと、響達が来る前。FW陣の初出動の際に破壊された山岳リニアレールの車両の件。その時破壊された車両、保険で払うことは出来ないなんて言ってきやがった。正直山岳リニアレールの車両なんて……普通に考えても高額で、とてもじゃないがどうこう出来ることじゃない。機動六課の資金から出すことを向こうは希望しているんだろうが、そんなことしたら借金部隊になってしまう。そんなことしたら新設で実績も無いこの部隊は即終了。みんな露頭に迷うかもね。
……冗談ですよ、もちろん。
この世界、まっとうな仕事をしている所ももちろんある。だけど、どんな会社でも叩けば少しなりともホコリは出るし、ホコリの種類によっては色々と不味い展開になり得ることもある。
本来ならば、ロングアーチか、隊長の誰かが言って交渉しなきゃいけないが、生憎うちの部隊って、見た目以上に忙しいんですよね。そういうこともあって、俺が単騎で出向くことに。もちろんグリフィスさんから許可を得た。時雨も着いてこようとしてたけど、別に問題ないしと思って連れてこなかった。
結果的に居たほうが早くすんだのかもしれないけれど。さて、とある筋から色々情報を収集、すると出るわ出るわ、不正だったり、ギリギリだったりする情報が。それを交渉の場に手札として用意。はじめは渋ってたけれど、情報の展開と、ここに情報がある意味を考えさせてアドを取る。
そうこうしてたら軽く3日掛かった。かなり粘られた。まぁ、車両にレールの補修、レリックを運んでた事実とかで大変なんだろうなぁ。知・ら・ん・け・ど!
「なんて思ってたら、やっと戻ったーぁ……はぁ」
気がつけば六課の隊舎前。問題は解決したと連絡入れた時点で、本日は休んで良い。なんて言われたけれど、自然と……というか、俺のデスクの上に仕事が溜まってないか心配になってつい戻ってきた。
なんか3日前にドレスを買うために一悶着有りましたとか言われりゃそりゃ帰るよ……何があったんだよ。
我ながら思う。大人しく家に帰りゃー良い物。それに一人で帰ってもつまらん。何より朝だし。面白くもねぇし。さぁて、暇つぶしに仕事でもやるかね。
なんて考えたら、海沿いから轟音が鳴り響いた。
突然の音に柄にもなく体がビクリと反応してしまい、誰かに見られてないかと周囲を見渡す。誰も見てなくて一安心。さて、この時間帯は――あぁ、そういうことか。
ふむ、少し悩む。仕事があると後々面倒。だけど、流石に居ないやつに仕事を回すとは思えないし、正直面倒。それこそ暇つぶしって思う程度に今暇。かと言って向こうにとって見ず知らず……ではないけど、事務員の俺が行っていいものか。よし、決めた。迷うってことは興味があるってことだ。様子見て響達にちょっかいだそう。
そうと決めたら善は急げ。さぁ、行こう。
―――――――――
海上訓練施設まで移動した後。暫く様子を伺う。響達が来るまでしっかり見たこと無いけど、思ってたよりレベルが高くて驚いた。六課来るまで戦闘したことも無いちびっ子二人の動きも中々出来てるし、一番前を走るナカジマさんのスピードも中々、あれで破壊力もあるんだよな。そして、その三人に指示を出すランスターさんの指示も中々的確。唯一惜しいなぁと思うのはもう少し一歩下がる程度の気配りでいいと思う。あんまりにも一撃必倒を目指してるというか突撃思考と言うか、なんというかまぁ、凄い。
それに対して、響達四人は形こそ出来ているが、何ていうかまだまだチグハグ気味、まぁ、まだ出会ってそんなに経っていないんだ。仕方ないけど。
「そこに居るのは、有栖か?」
「シグナムさん。お疲れ様です」
不意に後ろから声を掛けられる。振り返ると、シグナム副隊長がそこにいた。敬礼しようとした所、視線で制止たので、頭だけ下げて、そのまま視線を戻す。
「有栖、この前のリニアレールの件で外に行っていたと聞いてたが本当か?」
「えぇ、まぁ。ちょっと手続きに時間かかりましたけど、無事円満解決致しましたよー」
「そうか、苦労をかけた」
「いえいえ、とんでもないです」
労いの言葉をかけられる。中々こういうこと評価してくれる人がいないから、素直に嬉しい。大体の上の階級の人って、管理局の名前を出せば黙ると思ってる節があるから、時間がかかると文句つけてくるところが多いからな。
いや、いかんいかん、暗いことを考えてもよろしくねぇ。視線を訓練へと戻す。
「出会って間もないのに、メキメキと成長してますね」
「あぁ、皆才能にあふれている者達だ。最近はわかりやすい目標が出来たからな、もっと成長するぞ」
「それは楽しみですね」
いつか、この面子が――ナカジマさん達が中心となって動く事も案外近いんだろうなと思う。前もすごかったのに最近はもっと一生懸命訓練に励んでいるのがよく分かる。ふと、隣に立つシグナム副隊長を見て思う。
「シグナム副隊長は訓練に参加しないんですか?」
「私は古い騎士だからな。それに、人にものを教えるのは柄ではない。負けて覚えろとしか言えないさ」
「そうですか」
苦笑しながらも納得してしまう。個人的にはそれが一番だと思うしな。基礎が固まった上でこういう人と戦うと、自然と体の運び方から、回避の選択肢等など色んな経験が積めるからね。何より何度も挑んで一本取れたらそれだけでモチベも上がるし、何より自信へつながるからだ。たかが自信と侮るなかれ、いざ強敵や、プレッシャーに負けそうになった時、俺はあの人から一本取れたんだという明確な事実が自信へとつながり、成功へとつながる道ができるからだ。
まぁ、実際は脳筋というか、古い体制だなぁとは思ったが。
「……有栖。なんか失礼なことを考えなかったか?」
「……まさか」
さっきとは打って変わって、鋭い眼光でこちらをにらみ付けて言う。
「まぁ、私自身脳筋だという自負があるからな、怒らんさ」
「脳筋なんてそんな、古いなぁって……ぁ」
苦笑を浮かべながら言うシグナムさんに思わず言ってしまう。同時に墓穴を掘った。
「……そろそろ仕事に戻りますね」
逃げようとして後ろを向いた途端に、シグナムさんの手が俺の襟を掴む。
「こんな時にここに居るんだ。なぁに、時間はあるさ」
「……いやぁ、事務員て忙しいもので」
「安心しろすぐ終わる」
そう言うがただでは終わらないことは確実だ。しかし、こんなことで怒る人ではないと思ったが、見極め甘かったかな。でも一つ疑問が、この人仕組んだ?
ズルズルと訓練場へ連れて行かれながら、考える。普通に考えれば、俺なんかと戦う理由なんて無いはず。特にここ最近は。
あれ? もしかして響と同期だからって理由で目付けられた? マジで?
―――――――――
――sideなのは――
「……これはいったいどういうことなんでしょう」
目の前の状況を見て、疑問しか浮かばない。人に教えるのは向いていないと訓練に参加しなかったシグナムさんが、事務員である優夜を引きずって現れたのだから。
FWの皆もいったい何が起きたんだろうと、ただ見つめるばかりだ。ただ一人響に関してはケラケラ笑ってるけれど。
「何。緋凰と同じ出身ならばある程度の技量を持っているだろうと思ってな。だから一度手合わせしてみたくてな」
それを聞いて思い出した。そう言えば、響達が来たあの日、優夜たちも見てたんだっけ。
でも、それだけで……。
「確かに、優夜も中々凄いよね」
「……やめーや」
震離の言葉に、がっくりと項垂れる優夜。
「ほう、昔からかなりの実力者だったというわけか。それは是非一度、手合わせしてみたいな」
案の定やぶ蛇で、もう戦いから逃れられないようだ。それを見た優夜は観念したみたいで、大きくため息を吐いた後。シグナムさんをまっすぐ見た後。
「結果はどうあれ、過剰な期待はされないように」
そう言うと、すっと腰を落として戦闘態勢を取る。シグナムさんもそれを見てレヴァンテインを手元に出す。理由はわからなくもないけど事務員だし、止めたほうがいいような気もするんだよねー。でも、私も気になるから黙っておこう。危なくなったら助けよう。
「行くぞっ!!」
叫びと共にシグナムさんが一気に間合いを詰め、レヴァンティンを振り下ろす。そう来ると読んでいたように優夜もそれを、全力で後ろに飛び回避。
初手をかわされたシグナムさんの追撃が始まる。もう一歩踏み込み、振り下ろした剣をもう一度振り上げるも、全身をバネにして、逆立ちにも似た不安定な体勢から真横に飛ぶ。正直、当たると思ってた、一、ニ撃を躱されて私もシグナムさんも驚く。その間も転がりながらできる限りその場から離れる優夜。そして、立ち止まった辺りで。
「震離、杖貸して」
静かにそれだけを告げると、待ってましたと言わんばかりに杖を投げ渡す。受け取ると同時に杖をしっかり両手で持ち構えたところだった
「デバイスは無いのか?」
「事務員がデバイスなんて持ってるわけ無いでしょう。だから今借りました」
「何? 護身用に持っていると思ったが……それに、言えば待ったぞ」
「いえいえお気遣いなく。それに勝負に待ったは無いでしょうよ?」
すっと、構える。
「なるほど槍術か。おもしろい」
そういうシグナムさんの目が燃えるように高ぶっているのを感じる。FWの皆も息を呑んでそれを見守る。ただ、響たちはなんかそこまでって感じなのが気になるけど。だけど、優夜の構えを見ると素直に感心する。ただ構えているだけなのに、隙が無い。どこから打込まれても即座に対応できる。
「有栖優夜。いざ」
静寂が重い、みんなこの戦いに飲まれて目を離すことができない。そして、一陣の風が吹いた瞬間、シグナムさんが動いた。
瞬間、刃と杖がぶつかり合う音と、飛び散る火花。杖がレヴァンテインの切っ先を真直、只真直撃ち抜く様に弾き流す。打ち合いは更に加速する。何度も何度も火花が飛び散り、気がつけばレヴァンテインに火が纏われていた。一瞬の打ち合いでお互いに何度も撃ち合う。斬るために、貫くために何度も何度も。ふと、シグナムさんを見ると自然と笑っていた。対する優夜はただ一点。シグナムさんを睨みつけながらも、その手は止めない。真直最短を撃ち抜く。
普通、槍使いが間合いに入り込まれたら負けると言うが、優夜の戦いは怒涛の攻め、それに尽きる。シグナムさんももちろん負けてないけど、それ以上に間合いに入り込まめない様だ。だけど、それを察したのか一歩下がり、カートリッジロード……って、不味い!
「行くぞ、紫電一閃!!!」
ストップと声を掛けるよりも先に、シグナムさんの本気の一撃が優夜に向けられた。すぐに遠隔防御魔法の用意をするけれど、それよりも先に。優夜も踏み込んだ。ここまで動かず、ただ攻撃の迎撃を行なっていた中で初めて動き、且つ真直切っ先をシグナムさんへ向け。そして――互いがすれ違い、風が舞った。
そして――互いに振り向く。シグナムさんはシュランゲフォルムに変え。連結刃を周囲に展開し、次の攻撃の用意を行う。対して優夜は。
「参りました」
「な!? 何を言う。まだ決着は」
「いえいえ無理ですって、ほら」
そう言って両手を上げる。手に持ってた杖は先端が溶け落ち、罅が広がって今にも砕けそう。だけど、おそらく。
「大体、シグナムさんずるいですよー。俺は魔力を使用した戦闘出来ないのに、カートリッジまで使用しだしたし。お陰で全部そらすだけで一杯一杯ですよ」
杖を脇に挟み、手をブラブラと振る。それに納得行かない様子のシグナムさんは
「紫電一閃も防いで見せたじゃないか。それ以前の打ち合いも」
「最後のあれは受け流したんです。まともに受けたら俺が2つに別れました。打ち合いに関しては、打点ずらしただけですよ」
何事も無いように言っているけど、冷静に考えれば凄まじい技術だ。身体強化も何もしてないのに、シグナムさんの攻撃をずらしただけとは。口で言うのは簡単だけれど、それを普通にやってのけたことに驚く。
「それに、シグナムさんの間合い、踏み込みは初手の二打で把握できたから上手くできたんですよ。完全初見ならもっと早く負けてました。一撃一撃が重いんでずらして逸して、迎撃だけしか出来ませんでしたし」
それを聞いて私もシグナムさんも絶句。たったの二打で間合いを図るということ。これって相当すごい技術だよ? まぁ、とにかく。
「お二人ともお疲れ様。ものすごい戦いだったね。見ているこっちもわくわくしちゃったよ」
二人の戦いに素直に賞賛言葉を送る。スバル達四人はまだ驚きっぱなし。まぁ、ムリもないよね。これで事務員だって言うんだもん。私もちょっとショック。
「シグナムさんどうでした。優夜の戦いは?」
レヴァンテインを鞘に収めようとしているシグナムさんへ声をかける。
「武装教官のほうが的確な分析ができるだろう。そちらから見た感じはどうだった」
むむ、戦技教導官としての頑張ってみよう。
「私の意見を言わせてもらうと、カウンター型の更に手数型。シグナムさんが攻撃している時は徹底的にそれを捌き、紙一重でズラしてそれを逸し、攻撃のスキを狙い、一気に攻撃するというやり方です。シグナムさんの攻撃を最短でずらし続けるのは正直驚きました。さらに、最後の攻防もあえて前に進み、隙を作り出そうとしていたのはかなりやりにくかったかなと思います」
FWの皆がこの評価に驚いてる。この評価にシグナムさんも深く頷いてくれる。けど。響達3人は微妙に違うらしく苦笑を浮かべてる。優夜に関してはなんか申し訳なさそうにしてる。なんだろ。
「優夜の実力を知ったシグナムさんにちょっと報告を。そいつまだ全力ってわけじゃないですよ」
「何?!」「え?!」
響の言葉に驚く。いやだって、あれで全力じゃないって。
「正確には魔力を使われた試合ならあれが限界値。ただ、魔力使用しない試合ならば優夜の手数は単純に二倍あります。優夜は二槍流なんですよ」
「あはは」
気恥ずかしそうに苦笑いを浮かべる優夜と、ケラケラ笑う響を見て、これまた絶句。
「……すさまじいな。有栖。二本に増えてた場合だと私に勝てたか?」
「や、無理でしょう。というか、魔力が入りだした辺りから多分一本に戻して戦闘します。断言できる」
これを聞いてちょっと……ううん、これは素直に凄い。同じ条件なら二槍を出せるという意味だ。魔力が入りだしたということは力で勝てないと言っている。つまり、同じ土俵ならそのまま続行できると。
「なるほど、なら。もう一度だ。今度はこちらも魔力は使わないが、持てる全てで相手しよう。緋凰もどうだ?」
「機会があれば。でも……」
二つ返事で了承する。けど、チラリと優夜を見ると、震離が優夜から杖を回収してるところで、こっちの視線に気づいて。
「あ、ゴメンナサイ。暫く無理です。だって、ほら」
両手の平をこちらに見せる。するとずっとブルブル震えていた。これが意味するのは……
「シグナムさんの撃ち込みが凄くて、ずらすだけでこれです。申し訳ないですが今日は……暫く震えが取れるまでは出来ないです」
あはは、と苦笑をしているけれど、おそらく制服の中の腕はもっと酷いことになっているだろう。よく考えなくても分かる。あれだけ攻撃を受け止める――迎撃していたら、その衝撃をもろに受けている。
おそらく相当痛いだろうけど、涼しい顔をしてる。うん、すっごおく。惜しい。響を育てるとしたらって考えたけど、優夜も十分惜しい。技術だけなら既に上位に食い込めるだろうに。でも、これだけ出来るならば――
「あ、そうだ。それなりに戦えるからって、任務とかに連れ出そうとか考えないでくださいね。事務員って一般人と同じ扱いになるんですから、危険なところに連れ出すと大問題になりますよ」
「ぁぅ」
優夜の言葉に思わず小さくうめき声が出る。誰かと組めば行けると思うと考えたのが直ぐにバレた。
「あ、そうだ。遅くなった。FWの皆さん。こちらから皆さんの事は知っていましたが、ちゃんと挨拶したこと無いので。有栖優夜一等空士。ロングアーチ……というか、事務員なので何かあったらご一報を。よろしくお願いします」
あ、そうか。私は優夜の事知っているのは単に日本出身、同郷だからって理由で名前だけ知ってた。他にも事務の残り三人も名前は知ってるけど、ちゃんと話しことは無いんだっけ。優夜が挨拶すると皆も挨拶を返す。
「まぁ、という事であまり役に立たないですが、しいて言えば両者合意の上の訓練のサポートぐらいです。それも仕事があるので出ずっぱりと言う訳にはいきません。なんですか、その手があったかという顔は」
「ふむ、その手があるのか」
「ありませんよ。マジ勘弁してください。なのはさんもやめて下さい」
苦笑を浮かべてるけど、どっちかわからないなー。後で響に聞いてみよう。というか、少し本腰を入れて聞いてみよう。この様子なら、もう一人の男の子も間違いなくなにかあるはず。というか、7人全員集めてみようかな。そして話を聞いてみよう。
「さて、それじゃあ。俺はこれで、仕事に戻りますね」
「うん、今回はありがとね」
「いえ、それでは」
一礼してから、駆け足で隊舎の方へ走っていく。それを見送りながら、
「しかし惜しいな。あれほどの腕を持っているのにそれを生かせないなんて」
「そうですね、腕はトップクラス。しかも正統派。間違いなく生粋の流派の元で学んでいたんだなと。現場にも出れないのは勿体無いです」
「だが、やつも言ったとおり」
「訓練は手伝えると」
シグナムさんと二人でニヤリと笑いが溢れる。何よりも優夜の出現は間違いなくプラスになる。特にエリオに関して。
実際シグナムとの打ち合いの時点で、驚愕以上に憧れと言った感情が現れていたのは誰の目でも明らかだった。うん、そうだよね。同じ槍使い。目の前であんなことされたら素直に憧れちゃうよ。しかもシグナムさんと正面から打ち合えるなんて中々いないし。さぁ。
「皆! 火はついたよね。ティアナ達はシグナム副隊長から一撃取ってみようか!」
さぁっと、ティアナ達が青くなるのを見て、ちょっぴり苦笑。響達もそれを見て笑ってる。けど。
「その後は響達だよ、私とシグナム副隊長と模擬戦やってみようか!」
そう言って、シグナムさんも微笑む。常々言ってましたし、響と戦いたいと。さぁ、今日はとことんいこうか!
「一対一を!」
「まだ駄目です!」
……シグナムさんったらもう……。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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