魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第2話 異動と挨拶
機動六課の食堂にて、四人の男女が食事をとりながら話をしていた。
食堂ではモニタからニュースが流れているが、現在は政治経済の時間のようで、管理局の予算について放送されていた。ちなみに内容は一部局員の給料カットに関することだ。その内容に四人の表情が若干沈み、重苦しい雰囲気が立ち込める。
「あ、そういや、今日だっけか、あいつらが来るのは?」
少しだけ草臥れた茶色い陸士部隊の制服に身を包み、テーブルの上に盛られた、ベーコンや卵焼き、サラダを食べながら、煌は何の前触れもなく突然口を開き、食事を取りながら四人の前にモニタを展開し、今日来る予定の響達のデータを表示させた。
「今日だよ今日。ったく、少し調べて、色々情報を送った直後だったからビックリしたよ、まったく」
食事の手を止め、モニタを見ながら――青年の一人。煌の質問に返事をする少年、優夜はため息を混じりに言葉を返す。だが、その様子とは反対にその顔はどことなく嬉しそうであり、再び食事の手を進めた。
「そうだね。二つ返事で「三人とも送る! 待ってろ!」って帰ってきたときは思わず笑っちゃったもん。それにしても、久しぶりとはいえ、偶然で四人、からの皆が同じ職場に揃うんだねぇ~」
優夜の向かい側に座る少女が、苦笑いを浮かべながら相づちを打つが、少女の時雨の雰囲気は嬉しそうで、楽しそうである。
「そうだね、だけど八神部隊長は六課の監視だと思ってるかも。この部隊がいろんな所から睨まれてるって感じてるみたいだし、事実色々突っつかれてるし。なんか知らないけど中将から来てないのは不思議だけど」
煌の向かい側に座り、ため息混じりに話す紗雪の表情は、査察……という訳では無いが、地上部隊のお偉い様が来たときのことを思い出したのか、どことなく疲れたような表情である。しかし、今は食事の時だからと、暗いことを考えるのをやめ、煌達三人の会話に加わる。
四人はそれぞれ静かに食事を取りながら会話をしているものの、その様子はどことなく嬉しそうで、事実、時雨に至っては終始笑顔のままである。だが、その表情はすぐに暗くなった。
「……だけど、もしかすると給料が」
時雨の言葉に、先程のニュースの内容を思い出したのかその場で食事を取る四人の表情が一気に暗くなった。が、すぐに。
「……言うな……早くご飯を食べよ、今日も忙しいんだからさ」
「……フフ、了解」
腕を胸の前で組み、深いため息を吐く時雨に軽い注意を促す。そういう優夜も気難しい顔をしながら食事の手を動かした。
「だけど、向こうの隊長さんが響達を送ったのは純粋な善意? だとして、四人目はどうなの?」
逸早く食事を採り終えた紗雪が、口元を拭きながら一つの疑問を投げかける。
「さぁ、地上からの異動みたいだけど、ここ最近まで数年間、別の世界の地上支部で仕事をしてたらしいよ。詳しい事は分からないけど」
紗雪の疑問に優夜が答えるが、先程の暗い雰囲気から一瞬だけ、目付きが鋭くなったが、すぐに小さくため息を吐き、響達が此処に来ることとなった原因である、自身の調べた情報と、「四人目に関する」情報を言うのをやめ、そのまま食事の手を進めた。
他の三人も何か考えたのか一瞬だけ手が止まったものの、それぞれがまた手を動かし始めた。すると、隣で食べていた煌が食事を採り終えたのか、展開したモニタを閉じその場で立ち上がった。
「さてと紗雪、俺らは仕事に戻るか」
「ん、そうだね」
と紗雪も立ち上がりトレイを持って席を離れる。そして、二三歩進んだ後に何かを思い出したのか、小さく「あっ」とつぶやき、煌が振り向いた。
「っと、聞き忘れるところだった、優夜、時雨、夕方暇か?」
突然の煌の言葉に少し首を傾げながら、この後のスケジュールを思い返し、微妙な表情を浮かべながらゆっくりと首を横に振る。
「悪い、まだ他の面々が仕事に慣れてないせいで、その講習会をするんだ」
「ごめんね、煌、紗雪」
ため息を吐きながら話す優夜と、顔の前で手を合わせながら謝る時雨。
「そっか、一応要件はちょっと情報交換をしないかって話だったんだよ、最近俺もお前も業務が忙しくてしてなかったし」
「なるほど、だけど悪いな、また今度にしてくれ」
「うん、また今度ね、さ、仕事に戻ろう?」
優夜の断りの返事に、紗雪が軽く手を振りながら言った。優夜も時雨も軽く手を振ってそれに応え、食堂を後にしようとする二人を見送る。そして、残った二人もまた、ひと通り食事を採り終え、その場を後にした。
――――――――――――
――機動六課・部隊長室――
「はやて、今日例の子達が来るんだって?」
「そうなんよ。まったく、突然でビックリしたわぁ」
「そうだね。それも、本局の子達3人はともかく、もう一人の方が地上部隊からっていうのも、なんか怪しいし」
「大方、機動六課の監視やないかな。それでなくとも、私は多くの人に睨まれとるからなぁ。
その割に、同郷を当てて来るんわ嫌がらせにもほどがあるんやけど」
機動六課の隊長室にて、部隊長の八神はやてとライトニング分隊隊長のフェイト・T・ハラオウン、そして、スターズ分隊隊長の高町なのはは話していた。
問題は、今日来るという人員。そう、響達の事である。
三人の目の前には、四つのモニターが展開されており、その四つの画面の全てにそれぞれの情報が描き出されていた。
本局第6武装隊所属、緋凰響空曹。空戦A-で、能力リミッター無し。
同じく、天雅奏空曹。空戦AAAで、部隊保有制限により、能力リミッターでAランク。
同じく、叶望震離一等空士、空戦AAであり、制限によりAランク。
地上第12武装隊所属、風鈴流陸曹。総合AAAで、制限によりAランク。
本局や地上の陸曹、一等空士というのは別に珍しい訳ではない。ただ、この時期に別々の二つの部隊が同時に送り出したということが珍しいのだ。特に、機動六課の様な新設部隊に送ってくるとなると、その実態はだいたい、内部調査などであろう。と、3人は考えていた。
「四人とも結構な……や、そうでもないんかな? とりあえず、分けときたいんやけど……この響って子は、小隊指揮の経験があるみたいやし、この子はライトニングの方でええかな?」
「そうだね。なのは達に比べると、私もいつもいられるわけでは無いし、シグナムも聖王教会との間で忙しそうだから、いざというときには、この子に任せてみようかなって思ってる」
「……うん、私もそれには賛成だけど、それより先に、どの程度実力持ってるか判断してからじゃないとね」
「そうだね(そうやね)」
と、他の三人よりも先に響だけが、ライトニング分隊所属が決定したが、当の本人はまだ知る由もない。
――――――――――――
――side響――
「ん~、鼻がむずむずするな……くそ、くしゃみが出そうで出ない」
真新しい隊舎を遠目で見ながら鼻を擦り、荷物を下ろして隊舎を眺める。前の隊舎というより、ほんの1週間前までいた、本局の寮が妙に古く見える。ただ、正直今はそんなことどうでもいい。
もう六課の前だし、早い所、部隊長である八神はやて隊長に挨拶をして、この後のスケジュールや、自分の役割、部屋の割り振りと、荷物を片付けたい。片付けたいんだけど。
「何で、震離いないんだ?」
「さぁ、私はちゃーんと、時間教えたし、万が一に備えて、朝電話入れて今日異動だって確認したし」
「……そうか」
正直くしゃみが出そうで出ないから少しイライラする。加えて、震離が何でか遅れてることもあって、あいつの心配半分、この後、挨拶したら怒られるんだろうという気持ちが半分ずつある。
……と言うより、朝電入れたって、奏が? まぁ、そんな時もあるのかな。
まぁ、あいつがちゃんとした理由で遅れたんなら、少しはマシになるんだろうけど。それでも、正直異動初日から遅刻は嫌だし、失礼だ。なにより面倒だしな。だけど、本当……
「おっそいなー」
「ん、そうだね……なんかに巻き込まれたのかな?」
「さぁ、それだったら連絡いれるだろうし、それに」
って言いかけたところで奏の持ってるデバイスのアラームが鳴り、小さな声で「やっときたよ」と苦笑しながら奏が応答した。俺は話半分も聞かずに、ボーッとしてる。奏が話ししてるし、まぁ大丈夫だろうと思ってそのまま、空を見上げる。
あぁ、妙に綺麗だなぁ……優夜が余計な情報送らなきゃ異動しなくてすんだんだけどなぁ。あ、だけど、久しぶりに7人も揃うしなぁ、なかなかいつもの面子が揃わないから正直嬉しいんだよなぁ。それに抑止力になりえるかもしれないし。
「はぁ!?」
思考の海で漂っていた俺の意識を一瞬で引っ張り出された。隣で怒りながら話す奏をみる。まだ若いのに、そう眉間にシワを寄せるなよーって言ったら火に油を注ぐ様なものだから言わないで、普通に声をかける。
「どったの? そんな大声上げて?」
「え、あ、ちょっと待って震離。響と変わるから、はい」
「説明なしかよ……まぁ、いいけど……はい、変わったぞ」
明らかに面倒そうな様子の奏から、奏のデバイスを受け取り震離と話す。
『あ、もしもし……響?』
「おぉ、どうした?」
妙に他所他所しいな。何時もなら「もしもしー! 響ー?」とか言ってるんだが、今回に限っちゃどうも他人行儀だ。なんかあったなこりゃ。
『あのさ、ついさっき連絡があってね』
「あぁ」
『……ちょっと呼び出されちゃって』
……なるほど、それでお前が遅れたのか。
「そうか、それでお前はどこに居るんだ?」
『ついさっきまで、呼び出されて正式に、ね』
「そっか、その命令はあいつらにも?」
『うん、ただあの四人から内部の事が全く無いらしいから、多分、それで』
……前線に異動の俺らに、か……。なるほど、あいつのやりそうな事だ全く。だけど、あいつらのことだ。まぁ、問題が起こっても上手く誤魔化してんだろうな。
「そうか、それで?お前は今どこにいるんだ?」
『ん、レールウェイの駅で、後二駅くらい』
「おおよそ30分くらいだな、まぁ一応気をつけてくれ」
『あいよ、それじゃね』
そのまま通信をきり、奏にデバイスを返す。
「はぁ、命令出すなら直接私たちに言えばいいのに」
ため息を吐きながら文句をいう奏。まぁ、奏の気持ちも分からなくもないし、それに……
「そう言うなよ、あの人はあの人で上に行くことに躍起になってるんだ、誰かを蹴落とす事にな」
「でも、あいつは……」
あいつの顔を思い浮かべたんだろうな、奏の顔が暗くなる。まぁ、六課の不祥事を報告しろって言うのは、スパイをやってこいって事だからなぁ。それでも……
「まぁ、その場その場で判断してけばいいだろ?」
「そうだけど……」
「……大丈夫だ、なんかあったらどうにかするさ」
「……わかった」
奏が納得してくれたことだし、さて。
「震離が来るまで待ちますか」
「うん」
後は震離が来たら、八神部隊長に挨拶だ。さすがに俺と奏だけ先に挨拶するのはまずいからなぁ。ただ、ただ途中に茶髪の子供が中に入っていったんだけど、あれは六課のFWメンバーか? ただ、昨日はいなかったけどな。途中俺らと目があって、向こうから頭下げてきたし……。
「六課のFWの子かなぁ?」
考えていることと全く同じ事……では無いだろうけど、似たようなことを考えていたらしく奏の口からポロリと漏れた。
「……いや、知らんけど……やっぱりここの世界って」
「うん」
「……子どもでも前に出て戦うから凄いよなぁ」
「そうだよねぇ」
と奏と話しながら、しみじみ思う。地球とは違うことはよく分かるけど、さすがにどうも自分よりも年下の子が前に出て戦ってるって言うのは、ちょっとどころか、かなり抵抗がある。まぁ、俺らに抵抗があっても、本人が戦うって言ったら、俺らに止める権利は無いし、多分俺らも人のこと言えそうにないし。
何より、それは俺たちも通った道だったし。ま、普通に俺より強いだろう。
「……それにしても」
「遅いな震離は? って言いたいの響?」
「ん? ……さぁな」
隣でしてやったりって顔してる奏を見て、こちらも知らないふりをする。……別に言いたいことを先に言われて悔しいとか、そんな事じゃない。……本当に。というか、奏達は別にいいとして、個人的な問題が一つあって正直若干憂鬱気味だ。理由は単純で、先日の前の部隊の援護に六課が来た時のことだ。別にそれは構わない、うちの部隊がお礼したみたいだし。ただ、一つ文句を言いたいことがあるとすれば、人に仕事を押し付けて、結局六課のFWの人たちに会えてないということだ。
正直その時は別にいいかとか考えてたんだけど、異動となっては話が変わる。アレが原因でなんか言われるのは本当に勘弁願いたい。……まぁ、自意識過剰って言われても仕方ないけどねー。
さぁ、のんびりとアイツを待ってみますか、な。
――side震離――
「無理は言ってはいない、ただ六課に異動したのなら少し不祥事を、ね?」
「……」
本音を言えば、声を大にして言いたい「ふざけるな!」って、だけど。
「勿論、無理なら構わないよ、ただ、そのときは、ね?」
「……はい」
私が……いや、私たちが断れないことを知ってて言ってるから、余計にたちが悪い。だけど、命令だと不味いからお願いするような感じで言ってるのが、余計に腹がたつ。
「いやぁ、優夜君や、煌君達も六課に異動しているんだけど、なかなか起きないらしくてね、それでどうしたものか? なぁんて、考えてる最中に君たち三人も六課に異動って連絡が来たときは、正直驚いたんだ」
「……」
「これは神が……いや、聖王陛下が私に上に行きなさいという、導きだと思えて仕方ないんだ」
何が、導きなんだろう? ただ、他人を蹴落してでしか上がれないくせに。他人の粗を見つけることしか出来ないくせに。こいつに比べたら、響は……
「震離さん? 聞いてるの?」
「……はい。ただ、私たちが六課に言って情報を送るということになると、あまり表立ったことは出来ないと思います」
「ほぅ、それはどうして?」
「八神はやて二等陸佐は勘の鋭い人物と伺っております。それに自身が他の要人に睨まれているということを自覚して、新たに部隊を立てたのならば、おそらくこういうことには鋭いかと」
「……ふむ、たしかに」
そう言って顎に手を当てて考え始めた。正直見ててムカツクんだけど、それでも顔には出さない。顔に出して変な不信感とかもたれたら、後々絶対になんかしてくるだろうし。
それよりも、私自身驚いてるのは、八神はやてさんの事はあまり知らないから、響の言ってたことの受け売りをそのまま喋ったんだけど、案外覚えてるものだね。
けど……これで、「やらなくていい」なーんて、言われたら万々歳なんだけど、な。
「うん、よし、決めた。既に向こうに言った四人のデータと共に、定期的に送ってくれ」
「……はい。具体的にはどのペースで?」
「うん、二ヶ月に一回の、年6回だ。ただし、緊急の情報とかはすぐに送ること? まぁ、これは既に向こうにいる4人にも連絡を入れてることなんだけどね」
年6回で、緊急時の通信のみ、か……まぁ、これくらいなら問題ないな。……はぁ、響と奏になんて言おうかな。従ってくれるけど多分、本音じゃ納得しないだろうし。あぁ~あ、せっかくの皆が同じ部隊に揃うと思った矢先にこれだ。正直嫌になる。
「了解です。では、そろそろ失礼いたします」
「うん、では、よろしくね? そして……」
「……」
ニコリと笑みを浮かべて。
「私の「お願い」を聞いてくれて本当にありがとう。別に無理はしなくてもいいんだよ?」
「いえ、無理はしてませんよ。ただ、「好き」でやってるだけですから。では、さすがにそろそろ遅刻しそうなので、これで失礼します」
「はい。それではお願いしますね?」
「……」
敬礼をして、さっさと部屋から出る。一秒でもあいつの顔を見たくなかったから、少しでも早く。廊下に置いといた荷物を持って、すぐに響達に連絡を入れて、それで駅に行って、急がないと。
――――――――――――――――――
――side響――
「なるほど、「お願い」……ねぇ」
「うん、そう、それでコッチに来るのに遅れた」
「まぁ、そりゃ仕方ないさ、ありがと。そしてスマンなそんな役割させて?」
目の前でブスッとしてる震離に労いの言葉をかけるけど、正直それでも不満たらたらだ。
まぁ、無理も無いか。本当なら俺が行って、話聞かなきゃならんのにな。
「別にいいよ。ただ、響とか、奏が行ったらもっと無理な事言われてたかも知んないし」
「そんなこと無いって、言ってあげたいけど。正直否定仕切れないね。ってか本当にごめんね?」
シュンとする震離の頭にゆっくりと手を伸ばして
「え、ちょ、奏!?」
「ほらほら、いい子いい子ー」
ニコニコ笑いながら、震離の頭を撫でてる。ってか、奏もまんざらじゃねぇな。久しぶりに見たわ、こんなにニコニコ笑ってるところ。まぁ、最近任務続きだったもんな……。というか、震離よ。
「いやいや言ってる割には、嫌そうに見えないんだが? 俺の気のせいか?」
「え、あ、違っ!」
「フフフ、いい子いい子ー」
「ちょ、もう!」
まぁ、たまにはこんな日も悪くはないな。さて、と。
「いい加減戯れてないで、そろそろ挨拶にっ!?」
頭にガツンと入り体を突き抜ける衝撃。殴られたと判断がついたと同時に振り向く。陸士隊の制服を着た赤髪のヤツがそこに立ってて。
「何やってんだよ、お前らは?」
殺気も気配も何も感じなかったから、気付かなかったし。意識の外から打ち込まれたからすごく痛い。
頭を押さえて膝をついてたら、なんか話が進んだ。
「あ、煌じゃん。久しぶり」
「おぉ、お二方も前見た時よりも一段と綺麗になったじゃん」
「褒めても何も出ないよ? それより、そんなこと紗雪に聞かれたら不味いんじゃない?」
「その点はご心配なく。居ないから言ってるだけだし」
頭抑えながら顔を上げると。そこには腹がたつほど笑顔の煌が立ってた。というか。
「お前。俺だったらいい物の、俺とか優夜以外の人を、後ろから襲ったら間違いなくブチ切れるぞ?」
「あっはっはっは、一応事務員として、六課の玄関前に変な三人組が居るって言われて来てるからな。一応対策兼どうせお前らだろうなって予測を立ててここに来たんだ。お前じゃなかったら打ち込まねぇよ」
「……質悪いな」
「ほっとけ」
ケラケラと笑う煌を見て、怒る気力が一気に削がれる。多分普通の人だったら間違いなくブチ切れてんだろうけど、付き合いが長いからか、怒る気すら沸かない。まぁ、それ以前に怒っても聞かねぇからな。こいつは。
「で、これからお前らどうするんだ?」
「ここの部隊長に挨拶に行くんだよ。さっきまで震離を待ってたしな」
「あー、もしかして、もしかする?」
軽いため息を吐きながら話す煌の言葉に、俺の後ろで震離と奏が深い溜息を吐いた。まぁ、これで言いたいことはだいたい伝わったろ。
「……まぁ、あとで話すよ」
「そっか、挨拶に行くってんなら案内してやろうか?」
「あぁ、頼むよ」
「その前に一応受付で手続きしてからな」
……わかってたことだけど、めんどくさいと思っているのは内緒だ。
――side煌――
「……なぁ、煌よ?」
「あんだよ?」
受付でひと通り手続きをやらせた後、響達三人をはやてさんの所に連れて行く途中に隣を歩く響に声を掛けられた。というか響よ?
「……お前、道行く人をいちいち見てたら失礼だと思うんだが?」
「少し気になったから見てただけだ。というか、人の視線を追うな」
まぁ、いい加減気づくよなぁ、後ろの二人は普通に会話してるから気づいてないけど。
やっぱりお前は気づくか、この部隊の異常さに。
「まぁ、はやてさんや他の隊長に会って話を聞けなかったら、俺らに聞け、今説明すんの面倒だ」
「……了解」
ため息吐きながら返事をする響を見て、思わず苦笑いを浮かべる。
まぁ、普通に気づくし、明らかに面倒だって事が分かるから仕方がない。
でもさ。
「案外楽しいもんだと思うぜ?」
「……そうか? というか俺らの部隊編成が気になるんだけどな」
「何で?」
……珍しい事をって、まぁそうか。そりゃ気になるよね、一応震離と奏の二人を指揮してたから、この先の編成が気になるのか。まぁ、普通に考えて基本的には変動しないと思うけどな。FWの四人はまだまだって感じだし、響達と組ませても大して動けなさそうだしな。むしろ変にコンプレックスとか持ちそうなのが怖い。
「いや、さ、この前の事件で、たまたま会ったから見てたんだけど」
「あぁ」
「……確実に一人余るだろ?」
「……はぁ?」
一人余るって……あぁ、なるほど。響たちは知らないんだな。まぁ、とりあえず教えとくか。別に響と奏ちゃんの二人は驚いても顔には出さないけど。震離ちゃんは……すっげぇ驚くだろうし。それに簡単に伝えとかなきゃならんしな。
「……響」
「なんだ、改まって?」
「今回の異動さ、一つ「不安要素」が出来た」
「……」
その言葉に反応したのか、ついさっきまで、後ろで話しをしていた二人も俺の話に耳を向けた。
特に響に関しては、一瞬だけ目が据わったけど、すぐに戻した。多分、予想はしてたみたいだけど、本当にしてくるとか思ってなかったんだろう。実際優夜も本気で驚いてたし。
「まぁ、細かい事は後で話すけど、とりあえずその子は、地上からの異動で総合AAAのエリートだよ」
「……その子ってことは年下か?」
「さっすが響。その通りだ」
俺の言葉だけで、そこまで読むかね。それに別のことも感づいたらしいし、やっぱり感が鋭いよ全く。
「それで、その子は「あいつ」の回し者か?」
「さぁ、正直わからん、優夜も俺も調べてるんだが、如何せん納得の出来る部分が多すぎてな、逆にさ」
「……分からないのか」
「……あぁ」
実際、その子の事をいくら調べても、尻尾が掴めなくて正直白旗揚げそうなくらいだ。まぁ、これ以上調べようと思ったら行けるけど、ただでさえ危ないこの部隊を俺らのせいで危険に晒したら元も子もない。……最初は軽い気持ちで来たのにな。偶然がいくつも重なった結果がこれだけど。まぁ、それでも。
「……その子は悪い子じゃないかもな」
「何で?」
「根拠はないよ。でも、お前らに会う前にその子と会って目を見たけど、多分すごくいい奴だと思うしな」
「……そっか」
「あれ?」
一応ボケを込めて言ったのに、響が妙に納得して笑ってる……いや、そこは「適当だろ!」とか、なんとか言うべき所だろう!? なんか、怖いじゃねぇか!
「気にすんなよ、でそろそろ着くんじゃないのか?」
「え、あぁ、もうすぐそこだな」
とりあえず、気をとりなおして三人を部隊長室前に連れて行く。
その途中も、響が「やっぱり、お前らしいな」って呟いてたから、なんか気恥ずかしくなってきた。くそぅ、普段なら余裕を持って勝ってるのに、なんか負けた気がしてならん。
「とりあえず、適当に挨拶してこいよ」
「あぁ、悪いな案内させて」
「気にすんなよ、一応こう言うのも事務員の仕事の内だ」
響の前で笑って見せるけど、申し訳ないと思ってるのか、どうも暗い雰囲気だけど。すぐに何時もの顔に戻して口を開いた。
「そっか、優夜達に宜しく言っといてくれ」
「あい、わかったよ」
そう言って、ついさっきまで来た道を戻る。俺が角を曲がる頃には、三人とも中に入っていった。今頃、「四人目」と合ってる頃か。というかあの子……どっちなんだろうか、ガキの頃の響と優夜を見てるみたいで、妙に懐かしかったな。それに―――おっと」
途中から声に出てて、自分でも驚く。まぁ、話した感じ少し硬すぎるんだよな~、俺よりも階級上なのに敬語使って話してたし、まぁ、しばらく退屈せずに済みそうだなって、あ。
「いかん、震離に、伝ーえーてーなーいーけーどー……、まぁ、大丈夫だろう年上だし子供じゃないだろうし」
まぁ、その時は響なり奏なり、どっちかがフォローするだろうしな。さて、さっさと仕事終わらせて、優夜達の手伝いして、夜はあいつんとこに突撃かますか……麻雀もって。そうだな、負けた奴は……どれぐらい関係が進んだのか言わせるか、ね。
ん? 俺はどうなのって? さぁな。それは見て判断してください、ね?
――――――――――――
少し前に時間は遡る。響達が外で煌と再会し、はやてのいる部隊長室に向かうときに時間はさかのぼり、そして。
――sideはやて――
「ようこそ。私が機動六課課長、そしてこの本部隊舎の総部隊長。八神はやてです」
「風鈴流陸曹であります。ただ今をもちまして、機動六課へ出向となります。宜しくお願いします」
ふむ、この子が地上から異動してきた子なんや……見た限りじゃ、監視者っぽくあらへん。ほんなら、他の三人が監視者なんかな? だけど、本局からやし、第一監視って「誰が」するんやろうか?
んー、まぁ今決め付けることじゃないし……それよりも流の……。
「八神部隊長? どうかされましたか?」
「ん、あぁ、何でもあらへんよ。それより流は……その……」
「……?」
目の前で首を傾げる流に、恐る恐る思っている事を、
「……女の子なん?」
「……八神部隊長。自分は「男」ですよ」
「へ……? あ、あぁ……ゴ、ゴメンな?流?」
あ、あかん、空気が変わったというより、空気が凍った。無表情に近かった流の顔も少し微笑んでるけど……、完全にあの目は笑ってないし……これは……
「あは、ははは」
「……」
あかん、失敗した。もしかすると監視者かもしれん子なのに、失敗した。こう言うことははじめが肝心なのに、これがきっかけで私に対して不信感を持って、あることないことを報告されたら……。いや、まだ、挽回出来るかもしれん!
「八神部隊長?」
「え、あ、どうしたん?」
「いえ、自分はこの後どの小隊に入ればよろしいのでしょうか?」
「……それなんやけど」
そっか、流はまだ知らんないんやね。自分以外にも後3人異動してくる子が居ることを。
まぁ、自分が異動するのに他の人のことまで調べられる余裕はないし、仕方ない事や。
「流の他に……」
「失礼します」
「お?」
噂をしたらなんとやら、もう来たんやね。
さっき煌から連絡来たとおりやね、「すぐに連れて来ます」って言っとったし。
――side震離――
「そっか、優夜達に宜しく言っといてくれ」
「あい、わかったよ」
そう言って煌は来た道を戻っていった。別に事務員だし、中まで案内してくれたらいいのに、そしたら紹介とかいろいろ省け……ないか。
私が一番気にしてるのが「四人目」の性格とかどんな容姿とか教えてくれても良かったのに。でも、それよりも。ううん、何よりも気になるのが、私は――
「とりあえず、中に入って挨拶だけど……一応確認だ、大丈夫か?」
「私は問題ないよ。震離は?」
「……ん? え、あぁ。うん多分大丈夫」
「了解、それじゃあ、失礼します」
とりあえず本当のことを言っとく。まぁ、何時もの調子で話ししたら問題ないかな。だけど、新しい子と仲良く慣れたら、いや、それよりも上手くやっていけるのかな、私は。
なんて、そんなことを考えてたら、響が扉をノックして、扉を開ける。そして、まず最初に目に飛び込んできたのは。
「初めまして、私が機動六課課長、そしてこの本部隊舎の総部隊長。八神はやてです」
机に座って、優しそうに笑みを浮かべてる女の人―――ううん、八神はやてさんと、その前に立っている茶髪の子がいた。八神はやてさんは、良くメディアに顔を出してる有名人だから、顔はよく知ってるけど、実際見るとなんか感動する。実際優しそうだしね。もう一人の子は―――
「震離、挨拶」
「へ?」
そう言われて、隣の奏や少し前に立つ響を見ると敬礼して立ってる。ということは―――あっ!
「え、あ、えっと、本局第6武装隊から、い、異動してきました、叶望震離一等空ひひぇす!」
「……噛んでる」
隣にいる奏に指摘されて、顔が熱くなってくるのを感じる。正直な話。穴があったら隠れたい! 穴がなかったら掘ってでも隠れたい!
「あはは、別にそんなに緊張せんでもええのに」
「……申し訳ありません、八神部隊長」
「あはは、別に堅苦しく呼ばなくてもええよ、私のことは「はやて」でええで?その代わり私も名前で呼ぶし」
「……はい、はやてさん」
まだ顔の熱が引かなくて、はやてさんの顔を見れない。正直久しぶりだこんなに恥ずかしい思いをしたのは。奏はまだ苦笑いを浮かべてるのはまぁ、仕方ないけど……前で「ざまぁ」みたいな顔してる響を見るとすごく腹がたつ! というかムカつく。
「……挨拶が遅れました、自分は本日付けで機動六課に異動になりました風鈴流陸曹です」
「流か……こちらこそ、宜しく」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします」
深々と頭を下げる流を見て、ようやく熱の下がった顔を上げて流の顔を見る。それで気づく。鮮やかな蒼い瞳と明るい紅の瞳を。正直蒼い目とかは見たことあるから、珍しくもないけど、紅い瞳は見たことないから正直すごく綺麗だ。
「……あの叶望一等空士? どうかされましたか?」
「え、あ、ごめん、流の眼の色が綺麗だったから、ごめんね?」
「……いえ」
しまった、一瞬だけど暗い顔させちゃった。地雷を踏んだかな? いや、まだ踏みかけただけ、まだ挽回できる! よし、空気を変えよう!
「え、あぁ、そうだ、流?」
「はい」
「私のことは震離でいいよ、同じ女の子同士だし!」
「…ぁ」
ん、はやてさんから小さく声が聞こえたけど……気のせいかな? 何はともあれ、これで空気が変わればいいかな! だって流だって、私が声を掛けてから笑顔になったし! もーまんたい!
「叶望一等空士?」
「ん、やだなぁ、私のことは名前で……」
「申し訳ありません、自分は「男」です」
「え゛っ!?」
今はっきり空気が割れた音が聞こえた、ビシィ!って、え、何、私地雷踏んで、連鎖爆発させた?
え、え、えーーーー!お、お、落ち着け私!まだ、まだ、まだなんか手が!ほら、誰かが言ってたし、ラケット持って「諦めんなよ!!」って!
「あ、えっと、そうや、FWメンバーにまだ挨拶してへんよね?」
「え、あぁ、はい、まだしてませんよ、なぁ奏?」
「え、えぇ、まぁ、直接こちらに挨拶に来たので、まだですね」
「そ、そか、じゃあ私があんなにするから四人とも付いておいでー」
そう言って、はやてさんが上着を羽織って外に出て行った。その後を流も追って行ったけど、さっきと打って変わって、挨拶をした時みたいに無表情だったのが印象的だ。それよりも。
「……お前、何やってんの」
「……わかんない」
「……さすがにフォローしきれないよ」
「うん、ごめん」
ツーって、両目から温かいものが。あ、涙でた。
そして思う。思い込んだら駄目なんだっていうことを。というか、私の中での不安が大きくなった。私、ここでやっていけるのかなぁと。
――side煌――
「なるほど。響らしいな、それは」
「……いやいや、答えになってねぇし」
俺の隣で、事務の仕事をしながら苦笑を浮かべている優夜を見て、少しばかり……というか、普通に腹が立つ。
今説明したのは、ついさっき響たちを部隊長室まで案内した途中で笑われたということを教えて、帰ってきた答えがこれだ。
「まぁ、分かんなかったらいいさ。で、空曹殿は他になんか言ってた?」
「あぁ、これからよろしく。だとさ」
「あっはっは、別に仕事終わったら会えるのになぁ。嫌でも会いに行くし」
「そりゃ同感だ」
笑いながらも手元のスピードは落とさないで……と言うよりも、話す前よりも明らかに処理速度を上げて、自分の仕事を片付けていってる。
正直な所。それを見てっと、自分が事務員として役に立たない存在じゃないかと自己嫌悪になりそうなくらい、すごく早い。というか羨ましい。だって、俺の数倍の速度で片付けていってんだもん、普通にすげぇよ。
俺が一つのモニタとキーボードを叩いている間に、優夜の場合、2つのモニタ、2つのキーボードをそれぞれ片手で操作して、且つ俺と同等のスピードだ。それだけでも十二分にすげぇのに、俺と話して笑ってるし、余裕もあるしな。
「とりあえずまぁ、何だ。さっき部隊長から命令きたし、さっさと仕事を片付けないとな」
「……あ? なんかあったっけ?」
「ん? 何だ確認……はしてないな。響達を案内してたし……お前が帰ってくる前に八神部隊長から命令きたぞ。俺と時雨、お前と紗雪に」
「マジか。ちょっと待って確認する……場合によっちゃ手伝ってくれ」
「あぁ、いいぜ。飯一回な」
さり気なく要求する品が高くて、思わず舌打ちしちまった。けど、俺はあきらめない!
「……オカズ一品で」
……これが俺の限界でした。割かしマジで。現に優夜もそれを分かってんのか、それでいいぜって答えてくれて、マジでありがたい。慌ててメッセージボックスを確認すると、そこには八神部隊長からメッセージが届いていたから、開いて中身に目を通すと……。
「……マジで?」
「マジみたいだ。というわけで手伝おうか?」
「……いや、単純に仕事の量が増えるとかそういう事を予想してたから別にいいや。それよか、これ終わったら響達の所、見学に行かないか?」
「いいぜ。それじゃあ、俺は終わったから先に行くわ」
「早っ?!」
パタパタと、自分の手元の資料とかを片付け始める優夜を尻目に、俺も自分の限界と言わんばかりの速度で、手を動かす。正直久しぶりにテンション上がってるから、デスク系の仕事は基本的に嫌だけど、今のテンションは少し心地良い。
だけど、このテンションを作った原因の命令が、本当に楽しみだって言うのもあるけどね。
なんたってこの命令は――
――side響――
あれから数分。震離が見事に失敗してから数分経過したんだけども。
現在の状況はというと。
「……」
「……」
「……」
うん、言わなくても分かるくらい皆静かだ。
俺の少し前を歩く流は流でずっと無表情だし、後ろを歩く震離は軽く泣いてるし。それを奏が慰めてる。戦闘を歩くはやてさんは、気まずそうにチラチラと視線だけこちらに向けてるし。簡単にまとめたらカオスな状態。
まぁ、流の性別に関しては初見じゃ分からなくて、言葉遣いとかで適当に聞けばいいやと思ってた俺にも非はあるけど、まさかここまで冷えた空気になるなんて誰が予測したか……というか誰も予測しないよ。
「そ、そうや!」
気まずいこの空気に耐え切れなくなったのか、はやてさんが振り返って声を掛けてきた。
「グスッ、どうかしましたか?」
「いきなりで悪いんやけど、明日は別次元の世界にロストロギア回収にいかんといかんのよ。場所も場所やから、一緒に来て貰えるか?」
「はい、構いませんが、場所はどこになるんですか?」
正直な所、いきなり移動してきていきなり……というか初任務予定がいきなり出張か……大変だな。しかも機動六課はレリック専任なはずなのに別次元まで行くのか……大変だなおい。
まぁ、つい先日のことを考えると一概には言えないけども。
「フフフ、実はな? 第97管理外世界なんや」
「おぉ!」
「えっ?ほんとなんですか?」
第97管理外世界って、早い話が……
「久しぶりに地球にいける!」
「震離、静かに」
後ろで奏が震離に注意してるけど、様子を見るからにあまり聞いてないなこりゃ。
それにしても地球か、前に戻ったの三年前の盆の時か。去年とその前は行けなかったしな……そっか、もう二年たったんだ。
「……緋凰空曹、どうかしましたか?」
視線を下に落とすと、流がコッチを見ていた。相変わらずの無表情だ。……苗字と階級だと呼びにくくないのか? 一応注意を促してみるかね。
「なんでもないさ、それよか流よ?」
「はい、なんでしょうか?」
相変わらずの仏頂面に、隣にいた奏が苦笑いを浮かべてる。まぁ、後ろで舞い上がってる震離みたいに、「なんでしょうか?」なんて笑顔で言われたら逆に怖いがな。また地雷でも踏んだのかなって思うし。ま、それよりも。
「……俺らの事、名前で呼べとは言わないけど……せめて階級抜きの苗字で呼んでくれないか?」
「……いえ、しかし」
「これから同じ部隊で働くんだ。遠慮も無しで行こうぜ」
……これで、少しは砕けてくれると有難いんだけどな。
俺の言葉に少し困惑した表情を一瞬だけ見せた後、すぐに何時もの顔に戻して、俺の方を向く。んー、やっぱりまだまだ難しそうだなぁ。
「……はい、善処します」
「了解。そうしてくれると有難いよ」
小さく頷いた後、すぐに前を向いて、足を進めてはやてさんの後を追っかけてった……やべ、昔の震離を見てるみたいだな、あの頃のあいつは本当に。
「あ、流、私も苗字で」
「黙れ震離」
後ろで舞い上がったままのテンションで話す震離を、さっさと切り落とす。
「ひどぃ」
「……調子に乗ると直ぐそうなるから」
「奏も酷くない!?」
いや、どっちも悪くない。お前さっきの事もう忘れたか。それでさっきまで、空気が重くなってたんだろうが。
同郷あるあるというか、その鉄板ネタで話をして盛り上げようとか考えてたのが全部おしゃかだし。
「あはは、ほら四人とももうすぐやから付いてきてなー」
「了解です」
そう言ってはやてさんの後に続いて、俺らも後を付いていく。だけど、前線メンバーと会うって事は、以前会ったことを絶対突っ込まれるし。
「……メンドくせぇ」
「……どうかされましたか?」
「なんでもないよ」
隣で歩く流に聞かれたかと思って、一瞬焦るけど。まぁ、聞かれてても良いかね。……あぁ、面倒だ。模擬戦でもしてくれれば、空気変わるかもしれないけど。その場合、流の実力の程は知らんが、奏と震離は俺と同じくらいのランクに設定されてるから、余計に頑張らないといけないんだろうなぁ。
あぁ、面倒だ。
そんなこと思ってるうちに、なんか目の前で、シミュレータを起動している戦技教導隊の制服を着込んだ女性と訓練服を着た四人がいた。四人の方はこの前会ったから何となく知ってる。若干気まずいけどね。
それで、もう一人の方は有名すぎる人だから、俺でも名前を知っている。というか、同郷の人で、有名人で……それ以前に。
「おーい、なのはちゃーん」
「あ、はやてちゃん」
互いに呼び合ってるお陰で間違えそうにないや。
それで、はやてさんが俺らのことを高町なのはさんに話してるうちに、コッチはコッチで。
FW組の方に向かう。ちなみに流も連れてきた。けどね、それよりもね。あのオレンジの髪の子の視線が超痛い。何アレ超怖い。けど、ここはフレンドリーに!
「よっ、数日ぶり」
「……どうも」
近づいていって声を掛けると、オレンジの髪の子が、すっげぇ不機嫌な感じで返事をしてくれた。
「今日からここに異動になったんだ。宜しくな」
ちなみに名前は前回名乗った……っけ? いやまて、落ち着け。あの時爆音で聞き取れなかったけど、指示したポイントまで下がった後、オペレーターしてたカナタが挨拶に行ったから、多分そこで言ったかもしれない。だから大丈夫だと思う! 多分!
でもまぁ、ある程度フレンドリーっぽく話しかけたのは、オレンジの子と青い子はともかく、ちびっ子二人に、なんか敬語を使わせたくないからな。というか正直嫌だ。前回会ってるから、少しはマシかもしれないけど、長い付き合いになりそうだしね。
「……こちらこそ宜しくお願いします。私はティアナ・ランスター、年は16歳です」
「こちらこそ宜しく、私は天雅奏、年は17。で、こっちが響。あと基本的に敬語じゃなくてもいいよ、これから一緒にやっていくんだしね」
そう言ってティアナに笑いかける奏。正直さすがだと思う。俺が言わなくてもちゃんとわかってくれてるから、本当に助かる。階級云々の話だとどうしても硬くなるだろうし、特にちびっ子二人が。
「えと、エリオ・モンディアル三等陸士であります!!」
「同じくキャロ・ル・ルシエ三等陸士です!!」
二人の挨拶に思わずコケそうになる。となりで奏は苦笑いを浮かべてるし、震離は姿が見えんし。というか、奏とティアナの会話を聞いてなかったのかな?
……まぁいい、そっちがその手ならばコッチはこの手だ!
「えと、宜しくな、モンディアルとルシエ?」
「……うわぁ」
できるだけ笑顔で受け答える。後ろから奏がジト目で俺を見てる。ええぃ! そんな目で見るなよ、俺だってなんか、ねぇ? って状態なんだから!
「あの、できたら名前で呼んでもらえますか」
「あたしも、できれば名前で」
うん、予想通りの反応だ。やっぱり、コミュニケーションに飢えてるんだろうな、やっぱり。俺がこれ位の頃って優夜と煌と震離とで、裏山駆け巡ったり、試合したり……うん。
まぁ、年上ぶってみるのも悪くはないな。
「うん、タメ語で話したら名前で呼ぶよ」
そう言って少し間ができる。ちなみに後ろからの視線が一つから二つに増えて正直つらくなってきた。
「そんなこと出来ません」
とエリオが答えると、キャロも同じなようで首を縦に振る。
うん、俺のすべてを使って、絶対にタメ語で呼ばせて見せる!
「……燃えるとこ間違ってるよー」
言うな奏。
―――数分後。
数分の割には結構いろいろあったけど、結局タメ語で話させた。頑張った俺! 敬語は周囲に壁作るからね。こんなガキの頃から壁だらけの場所じゃいろんな意味で良くない。
……一人論外が後ろで待機してるけどね。俺だったら気まずくて、即効でタメ口でいいよとか、名前で読んでもいいよって言われたら従うんだけどな。まぁ、それよりも。
「じ、じゃあ…ひ、響さん」
「響……さん」
うん、やっぱり何処でも男女の差って出るもんだな。エリオはともかく、キャロの方が話しにくそうだ。
慣れれば問題ないけど、それまでは、まぁ、キャロの方は奏や震離達に任せといて。
「うん、改めて宜しくエリオ、キャロ」
名前を呼ばれたのが嬉しいらしく顔を見合わせて笑ってる。なんだろう、なんか逆に心配になってきたのは気のせいか? まぁ、いいや。というか。
「……もう一人の青い子は?」
「え、スバルはここに……って、あれ?」
とさっきまでスバルって言う子がいたであろう場所をティアナが見る。
なるほど、あの子はスバルって言うのか、なんて、考えながら辺りを見渡すと。
「へー! スバルとティアナって、主席で通ったんだ!」
「うん! と言うよりティアが凄いんだよ。私なんかよりもずっとずっと!」
……問題ないな。そう思って視線をティアナに持ってくと、目があった。
うん、考えてることは同じでした。でも、良かった、まだ不機嫌だと思ってた……と思ってたんだけど、そんな事無くなんかジト目で睨まれてんだけど……何?
そして、視線をティアナから外して、奏へ向けると。
……うん、なんて言えばいいんだろう。波長が合うんだろうな。なにか別なものが。
……多分ね。
と念話も何もしていないのに、長年の付き合いのお蔭で、アイコンタクトだけで意思疎通が出来ます。
ちなみに流はエリオとキャロに名前と階級とランクを言ってたけど。同じようにタメ口で良いみたいなこと言ってた。代わりに自分もできるだけ頑張るって意訳するとそんな事言ってた。
まぁ、それよりも。はやてさんとの話も終わったのか、なのはさんがコッチを見てたから奏と流を呼んでなのはさんの元に足を運ぶ。やっぱり怒ってるかな?
「高町隊長、挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」
「あ、ううん、別にいいよ。私もはやてちゃんとお話してたし」
笑いながら許してくれた。うん、階級云々気にしないタイプの人で何よりだ。たまにいるからなあ、挨拶に来なかったらふて腐れる奴とか……っと、そんなことよりも。
「ありがとうございます、自分は本日付けで、本局第6武装隊から、異動してきました、緋凰響空曹です」
「同じく天雅奏空曹です」
「自分は風鈴流陸曹です」
とりあえず、ひと通り挨拶を済ませる。ちなみに震離は未だにスバルとの話と夢中らしく、コッチに気づいてすら居ない。ていうかなんか、モニタ展開してスバルになんか教えてるし。まぁ、いいか。一応後で恥かくのあいつだし。
「うん、こちらこそよろしくね、それで早速なんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
あー、この流れだと、分隊発表か、模擬戦だよなぁ……誰とやるんだろうか? 個人的には、奏と震離と流の三人の現在の実力知りたいから、ガジェット辺りがいいんだけど。まぁ、その時は言えばいいか。
「響はライトニング分隊で、他の三人はこれからの模擬戦で決めるからね」
……はい? え? はい?
「……失礼ですが高町隊長?」
「うん、何かな? あ、私のことも下の名前でいいよ」
……それは後でもいいんですけども、それよりも。
「はい、なのはさん、なぜに俺だけ既に確定してるんですか?」
「うん、それは、はやてちゃんから」
「それはやね、ライトニング分隊で2人の新人指導をしてもらうって言うのが一つと、ライトニングの隊長のフェイトちゃんは執務官の仕事が忙しくて何時も居られるわけやあらへんし、副隊長のシグナムかて、あんまり居られるわけやないからね。
それで小隊指揮の経験のある響をライトニングに配備しとくって訳や」
「……はぁ、了解です」
……すっごく長い説明ありがとうございます。というかそれなら四人しか居ないんだし、一つの小隊にまとめればいいのに。なんて思ったけど口には出さない。だって、後ろでエリオとキャロが喜んでるんだもん。目なんかキラキラしてたし。そんな時に否定的なこと言いたくないし。
「何時もと変わらないんじゃないの?」
「……うっせ」
隣でニコニコ笑う奏が、若干疎ましく思ってしまった。だってねぇ? 早い話が上二人居ない事多いから、ライトニング任せた、って言ってるようなもんだぜ? いろいろ大変だから正直面倒だけど、まぁ、エリオとキャロが喜んでるし、まぁいいか。
ある程度の指揮権を渡されるのはありがたいし、そもそも使うかすらわからんけども。
「それで、響達四人にはこれから機動六課FWメンバーと模擬戦をしてもらいます」
「……あー、了解です」
ぶっちゃけガジェット戦がいいって言いたかったけど、俺らと模擬戦ってきた瞬間、ティアナがガッツポーズ取ったのが目に入ったし、エリオ達もやる気になっちまったし……これは、どうしようか?
まぁ、取り敢えず。
「ちなみに、どうしてまた?」
「うん、最初はガジェットがいいかなーって思ったんだけど、この前の任務中に響と会ったみたいだし。ガジェットの対策も出来てるみたいだしね。それなら一度ぶつけてみようかなって思っちゃって」
ニコニコ笑顔で話すなのはさんを見て、一つ思う。駄目だもう。今更ガジェット戦がいいなんて、口が裂けても言えねぇ。ちっくしょう。流は解らないから置いといて、奏と震離はAまで落とすの初めてのはずだから勝手とか分かってんのかな。そして、ティアナ達四人もそこそこ出来る。多分俺もヘタすると負けるレベルだし……ヤだなぁ、もう。
けどな。
「はぁ、了解です。ルールとかってありますか?」
「ルールは簡単だよ。響たちは十秒以上の飛行は禁止。基本的には地上戦で、それ以外はガチンコ勝負だけど」
「そうですか、了解です」
一瞬だけ、疑問が浮かんだけれど、直ぐに納得する。このルールはできる限りティアナ達陸戦と同等に戦えるようにするためなんだと。それなら、それでこっちにも考えがある。まぁ、それは後でやるとして、今は。
「そう、じゃ、みんな準備して!」
「了解!」
と、スバルと震離を除いた全員で返事をする。さぁ、頑張ろうかね。
ちなみに、震離は俺と奏が呼ぶまでスバルとの話で全く気づいてなかった。
それで、挨拶は終わったって伝えたら、敬礼しながら頭下げてなのはさんに謝ってた。
――――――
さて、林の中で四人で集まる。ちなみに制服のままで移動してきた。なんか明日出張だから今日は軽めの練習で終わる予定らしい。それで、終わるところで俺らがやってきたから模擬戦やってから終わるとのこと。
取り敢えず集まっているのは、情報交換のためだ。俺は二人のこと知ってるから問題ないが、流の為だし、ランク知ってたら作戦も立てやすいし。ただ五分しかないから少し急ぎ足だけどね。
「それで、作戦の前に、各々前の部隊のポジションと、リミット付きなら、元のランクと現在のランクを報告」
「はい、1番奏。私は基本的に、今はフルバックかセンターガードで元のランクは空戦AAA、Aに落としてる」
「あい、了解、次」
ん、やっぱり奏は、安定しているな。俺がどういって欲しいとかちゃんと分かってくれてるから、自分から率先していってくれるしホント助かる。さて、次は……。
「はい、2番流。自分はフロントアタッカーかガードウィングをやっていました、自分も元のランクは総合AAAで今はAです」
「……うん、次」
正直オレもビックリなランクが飛び出しましたが、とにかく続ける。聞きたいことは山ほどあれど、今は時間が足りないからまた後で聞くとするか。
つーか、陸で総合AAAって……やべぇなおい。
「ん、3番震離私も流と同じポジションで、ランクは空戦AAで、今はAだよ」
「あいわかった。4番響で、前衛職ならどこでも出来る、ランクは空戦A-でリミット無しだ。一番弱いからよろしく」
っと、これで全員のポジション現在のランクを確認できたけど……。うん、被ってないけど、正直めんどうだな。それにもしかすると……確認とっとこう。
「とりあえず、ランクは分かったけど俺はともかく他の三人はどんぐらい落ちたのか自覚はあるか?」
そう言って周囲を見渡すと皆一同に微妙な表情をしている。
「あんまない」
「……うーん、私も今のところはあまり無いかな」
「自分もです」
あー、なるほどなるほど、俺もリミットついてたら、まだなんか分かったかもしれんけど、俺自身ランク低いから付けられること無いしなぁ。……だけど、更にまずいな。仕方ない。
「とりあえず最初は全員ってか三人は自由に動け」
「え? いいの? 頑張るよ私?」
「おぉ頑張れよ震離、ただし一度エンカウントして、二、三回攻撃したら、その後全力で俺ん所に集合な。他の二人も遠距離から攻撃したり、接近戦してもだ。その後は作戦とかポジションとか弄るから全員集合な」
「はぁ?」
説明した側から、隣で震離が首を傾げる。……お前頭いいのに変なところで鈍いよなぁ。まぁ、いいさ。
「話はそんだけ。あぁ、後今回限定だけど、俺をアサ……いや、俺をスティール1で、流が2、震離が3、奏が4で、今回は進める。とりあえず三人は必ずティアナ達の誰かとエンカウントしろよ? それで逃がした場合は深追い禁止、逆に追撃してくるんなら急いで撤退、以上」
と俺の説明と同時に目の前にモニタが展開し、なのはさんの顔が映る。我ながらドンピシャだったから、なんとなく嬉しい。けど、思わず口走りかけて反射的に別のに変えちまって、少し焦る。ふと視線を外すと、奏が気にしないでって目で言っているようで少しだけ安心した。
『そろそろ始めるけど……って、奏と震離どうしたの?』
「あぁ、いえ大丈夫です」
「私も大丈夫ですよー」
なのはさんの質問に二人揃って苦笑いを浮かべる。まあ、俺の指示のせいでこうなったんだしなぁ。それで、相変わらず流は無表情だ。まぁ、まだ初日だし時間を掛けて距離を詰めるか。それよりも先に。
「うん、じゃあ、始めようか」
「了解です」
と三人の声が重なる。さっきまでの雰囲気とは違って、全員仕事モードだ。
「それじゃあ各々、移動したてでやりにくいかもしれないが、何時も通りに。な?」
「あいあい!」「了解です」「分かった」
話を聞きながら、それぞれ準備運動みたいなことしたり、デバイスの準備をしたりしている。それをなのはさん微笑みながら見てて、そして。
『それじゃあ……初め!』
「セットアップ!」
その場にいた全員がデバイスを展開し、バリアジャケットを身につける。うん。相変わらずの管理局カスタムだ。バリアジャケットと云えども、二年くらい使ってるとどことなくくたびれてるように見えるのは俺だけなのだろうか?
「さて、さっき説明したとおり……って、流のはインテリジェントか?」
「はい……あぁ、片方はアームドデバイスに分類されます」
「わぁ、剣とロングライフルかー、かっこいいなー」
身の丈ほどの杖を手にした震離が呟く。うん、やっぱり個人用のデバイスっていいよなぁ、としみじみ思うが、そう考えると、やっぱり思ってしまう「俺にはいらないな」って。
しかし、剣と銃か。近距離遠距離対応出来ると見ていいのかな? えー……なんというか何でも屋を始めてみた気がするわぁ。
「まぁ、とりあえず各々勝手に行って来い、それでやばいと感じたらすぐに退くこと、いいな?」
「了解」
俺の言葉に三人が返事をしてくれる。ただ、流は真面目だからいいけど。後の二人の顔が若干笑ってるのを見ると、少し恥ずかしいと思ってしまう。だって、前の部隊じゃ適当に指示してただけだしな、間違ってもこんなふうに指示は出してなかったし。
そんなことを考えてるうちに、三人ともさっさと林の中に突っ込んでった。細かく言えば、流がまっすぐどっかに行って、震離がそれに気づいて追跡。奏が微笑みながら小さく「行ってくるね」って言ってから追いかけてった。
「さて、と」
ゆっくりと歩きながら大きな木の所へ移動する。まぁ、序盤は俺は動かないしね。とりあえず、木の上に出て、3つモニタを展開して3人の様子を伺う。今のアイツらのお手並み拝見と、ティアナ達の動きでも見ておくか。
後書き
ここまでご覧いただき感謝いたします。
ページ上へ戻る