魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第1話 始まり
前書き
長いだけの物語になるかもしれません。ですが、少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
――side?――
木々の枝を飛び跳ねながら駆け回る。視界の端に映るモニターにはこの辺りの地図が展開され、敵と思われる赤いアイコンが蠢いている。
「……多いなぁ」
思わずというか、もう何度目になるのか分からない位同じ事が口から漏れた。森の枝を飛び跳ね、辺りを見渡す。両腰に差した俺の二本の刀の形をした物がベルトにつけた留め具にあたって鳴る。
ふと、通信ウィンドウが開いたと思えば。
『そちらに4機居ます!』
「はいはい。わかったよ……っと!」
同僚から通信を受け、地面へと飛び降りてもう一度周囲を見渡す。すると近くの茂みが大きく揺れ、丸っこい形をした無機質な大きな塊がまず2つ、その後を少し遅れてもう2つ、計4つが出て来る。
現れたとほぼ同時に、前衛二体がレーザーを撃つ為にその大きなレンズが光る。レーザーが着弾する前に、その動きを見切って一気に接近。
前の二機とすれ違う瞬間に刃を通し、その勢いのまま、丸っこい奴らの群れの背後を取ったと同時に後衛二機にも刀を通す。
同時に動きが止まったのを確認して、今しがた通した刀に目を向けて。
「んー、やっぱりまだ脆い……な」
刀に罅が入ってるのを見つけて軽いため息を吐く。諸事情とはいえ、一応見た目は刀だけど中身は刀とは呼べないほどの刀もどき。無理やり斬り通しているせいもあって直ぐに罅は入るわ、折れるはで何時も困る。幸い修復しやすいものだから融通は聞くが……まぁ、仕方ない事だと割り切って。
けど、それ以上に。
「……話は聞いてたけど、これがAMFか。面倒だなー……他の面子の場合、苦戦はないだろうけど、魔力少ねぇと余計に大変だわ」
大きくため息が漏れると共に、真っ二つに割れる。斬った対象、通称ガジェットドローンの残骸を眺めて、改めてこんなのが量産されているという現状が嫌になる。アンチ・マギリング・フィールドという発動する対魔術師向けのジャマー。魔力結合・魔力効果発生を無効にするAAAランク魔法防御。
その上、内蔵電源から殺傷能力のあるレーザーを発射する上に、他にも色々バリエーションが多いとか何とかで、並みの魔導師では相手にするのは厳しい、とのこと。
正直、俺も並の……というか平均行ってないんだけど。今ん所頑張って魔導師ランクA-になってはいるが、魔力保有量はCも無いから、射撃系等全くできないし。身体強化とその延長の飛行しか出来ないから、ただ近づいて斬るってことしか出来てないし。
今は少ないからなんとか身体強化の魔力を操作が効くが……大きいのが来たら面倒だなぁと。
『そちらから8時の方向にも幾つかの反応と、ロストロギアの反応があって、機動課の魔導師がそちらに向かいました』
通信が入って来て、その内容に耳を傾け、同時にモニターを複数展開し他の面子の様子も伺う。戦況は思わしくないけれど、皆上手くガジェットを捌いているようで、モニターの端々に残骸が写っている。
『なので、コチラではガジェットの各個撃破を続けますので、そちらに合流して下さい。くれぐれも無茶をしないよーに。奏さんと震離さんに念押しされているので』
「はいはい。分かった分かった。そっちも他の奴らのフォローを頼んだよ。じゃ」
最初の方は事務的な連絡だったけど、後半に行くにつれてどんどん砕けたような話し方に変わってきて、思わず吹き出しそうになる。理由は単純で、今ここが戦場で、そんなリラックスしたような会話を聞けるとは思えなかったからだ。特に、今オペレートしている子は、ついこの間入ってきた新人の子だから余計に笑っちゃいそうだ。
でも、吹き出しそうなのを抑えて、直ぐに移動を開始し、先程言っていたガジェットの反応と、ロスト・ロギアの反応が合った場所へと移動を開始する。
と言っても、割と近くにいたお陰で直ぐにその付近へと到着し、辺りを見渡す。
「とりあえず、色々音は聞こえてるから……って、何だ?」
突然、木々の隙間から、上空にいるはずの俺の直ぐ側までに青い道の様な物が何本も現れ、それと同時にエンジンを吹かすような音が聞こえて――
「ディバイン……バスター!!!」
突然、青い砲撃が茂みより現れる。
「危な」
慌てず冷静に少し横にずれて回避する。
加えて、現状落ち着いて来たとは言え、ロストロギアを回収した機動科の人達の事を考えれば、結構不味いのではないかと考える。
理由は単純。今襲ってきているガジェットドローンは、ロストロギアにつられて来ているのだから、それを確保した機動科を狙うのは当然で。
周りに人の有無を確認せずに砲撃したということは……。
「合流して、退避行動とらせないと」
直ぐに砲撃が飛んできた方向に移動を開始。遠目で確認出来たのは、オレンジ髪のツインテールに青の短髪の女性と、背が低いが赤髪の少年にピンクの髪の毛の女の子がガジェットと交戦してた。多分、青い道を走ってる子が、さっきの砲撃でガジェットを粉砕したんだろうな。現に青い道を作ってるし。
おそらく……いや、ほぼ確実だろうな。あれが『機動六課』の隊員だ。それを踏まえてよく観察してみると、ピンク色の女の子が何やらケースを守って戦ってるし、その子を守るように他の三人も動いてる。
良い連携で、中々統率も取れてて素直に感心する。
普通はあんなに上手くは出来ないと思う。全員個人所有っぽいデバイスみたいだし、スタイルも4者とも違う。それを上手く纏めてるのは……あぁ、オレンジの子か。すごいなほんと。
「いけね。見てるだけは良くないな……援護に回りますか」
身体強化をやりながら、更に両の手足を集中的に強化を施す。さっきの戦闘でコチラの手持ちの刀に罅が入ってるからというのもあるけど、AMFが展開されてる状態だと、少し面倒だというのが改めて理解出来たから。
それらを踏まえてきちんと魔力を練れば、一応飛べるし、身体強化も発動できるから、今の所は、まだ脅威にはならない。
さて、
「スティール8より管制へ。機動課の隊員を見つけた。合流して退かせるから退路の指示を」
『はい。退路図を送り致します。途中で問題が発生いたしましたら、独自の判断で動いてくださいね!』
「……いやいや、ダメだろ、それは」
『貴方だからいいんです。後、機動課の方が持っているロストロギアに反応してか、まだ交戦されていないガジェット群がそちらに向かいつつあります。早めに退いて下さい。では!』
そう言って通信が切れると同時に、目の前にモニターが開いて。今いる地点からの退路図と、周辺のガジェットの散布図が展開、更新された。周辺の戦線のガジェットは、少しずつ減ってきているけど、まだ交戦していないガジェットがこっちに……いや、正確には、あのロストロギア目掛けて、集まって来てる。
機動課の面子の様子を見ると、互いをカバーしあって上手く戦ってるけど、これも時間の問題だろう。徐々に押されつつ……や、なんか違うな。
赤い子を下げて、オレンジと青い子が前に出始めて……なんだ?
一度掃討して、封印処理を進めさせるのかな? でも、それは中々しんどいが……。
無理させる位なら。
「行くか」
呼吸を整え、一気に接近。
同時に、近くに居たガジェット数体に刀身を通して、そのまま、四人のいる場所へと移動。その勢いのまま、今にもレーザーを撃とうとしていたガジェットに、拳に魔力を込めて――
「捉え……たっ!」
回り込んで、一気に打ち込み、ガジェットを吹き飛ばし、近くに居たガジェットにぶつかって爆発する。それと同時に、四人とも俺に気づいたのか、一瞬だけ戦闘が止まる。
「こちら、スティール8。ここから退きながら援護するから、宜しく俺は―――」
そう言った瞬間、降りてきた時に切ったガジェットが爆発して、自分でも名前を聞き取れなかった。けど、まぁ、いいか。とりあえず撤退することが大切だし。
「支援に感謝します。撤退しますのでよろしくお願いします」
俺がそう言うと、止まっていた戦闘が、直ぐに再開された。同時に俺も動いて、子供二人のそばへと掛けより、寄ってくるガジェットを迎撃する。
「え……? あ、はい!」
「ありがとうございます!」
近くで戦闘してると、子供二人から御礼の言葉が飛んできた。
うん。なんというか、すっげぇ初々しいな。こっちも交戦しながら、近くにいるこの二人の子供を見てみると、女の子の方はブースト型のデバイスに、なんかちっこい龍を使役してるし、男の子の方は武器から見て多分近代ベルカ式のようだけど……、如何せんまだ子供って言う点で、少しずつ押されつつあるな。前で戦ってる二人も、慣れているっぽいけど、練度が高くて驚く。
「邪魔にならない程度、に!」
目の前に現れたガジェットに刀を通す。同時に、持っていた刀に更に罅が入るけど、それよりも先に、前にいる二人に声を掛ける。
「退路は確保出来てます! お先にどうぞ!」
「……はい!? ……了解しました!」
とりあえず、退いてくれと言っただけなのに、前にいるオレンジの髪の子の眉間にシワが寄ったのがわかった。いやまぁ、俺もちゃんと所属言ってないけど、それがここまで影響するものなのか、はたまた別の要因か。
「スバル、タイミングを言うから直ぐに下がる! エリオはキャロの防御に、キャロはそのまま処理を進めて。良いわね!」
「わかった!」
「「了解!」」
テキパキと指示を出す辺り。やっぱすげぇなこの子。あれよか年が下っぽいのに、指揮官適正あるのか。すげぇな。
(協力感謝です。一応この先にコチラの部隊がいるから、そこまで進んで下さい。君等四人が先行して、こちらが殿だ)
オレンジの子に念話で伝えると、コチラを向いて。
(了解しました。私達……私も殿をしたほうがいいと思いますよ? コチラのフロントとガードを遊撃に、フルバックが封印処理を行なってますし、加えて遠距離魔法の方がリスクも少ないですし、迅速にいけます)
……わぉ。すげぇありがたい。けど。
(普通ならそうですが。ロストロギアの確保してくれたお蔭で、ガジェットから集中的に狙われてて、申し訳ないというのが強いんですよ。それに元々こちらの不手際で、こんな事になって他所様の部隊の子を怪我させたとあっちゃ申し訳ないんですよ。
ただでさえ、確保して狙われて負担強いてるのに)
そう伝えると同時に、オレンジの子の顔を見ると。納得いかないって様子で、少し考えた後。
(……了解しました)
(ありがとう。それじゃあ、行くか!)
無事説得できて、正直ほっとする。ちゃんと聞いてくれて有難い。
「皆、行くわよ!」
オレンジの子の号令と共に前に居た、スバルと呼ばれてた青い子と、エリオという赤い髪の子が下がると同時に、前に出る。同時に向かってくるガジェットに、途中にあったガジェットの残骸を蹴り飛ばして、擬似的な壁を作る。あくまで殿という役目を背負っているから、コレ以上の攻撃はしない。ガジェットの方も急な撤退に対応しきれていないのか、動きが先程よりも雑になり始めた。
『管制から、スティール8へ』
「こちらスティール8。どうぞ」
突然俺のデバイスを通して、管制から通信が入って思わず身構えるけど、声を聞く限りかなり安心しているようだから、こっちも少し安心する。
『ほとんどのガジェットを殲滅し、各小隊をコレよりそちらの援護に向かいます!』
流石。だけど。
「いや、それよりも機動課の面子と合流を優先。封印処理さえすれば多分ガジェットも引くだろうし。何より他所様の部隊の人を怪我なんてさせたら元も子もないしな」
『あ、りょ、了解です。あ、はい。各小隊に通信を入れますね!』
「了解。宜しく」
こっちの思ってることを伝えると、急にどもり始めた。
と言っても、多分隊長からの指示を伝えたのに、俺が違うことを言ったからなんだろうな。で、通信を入れてくれるって言うことは、俺の意見というか頼みというか、まぁ、それが隊長に認められたんだろうな。というか、うちの隊長、自由だからなぁ。まぁ、俺の指示が通る段階で、信用してくれてるんだろう。
本当にありがたいよ全く。
「さ、というわけで。もうちょっと相手してもらうぞ」
絶えず動きながら、ガジェット相手に言葉を発して、再び戦闘を再開した。
――sideティアナ――
黒髪の長髪の男が指示したポイントまで、皆で移動して、やっと着いた。殿を務めるとか言ってたのに、全くついて来なかったけど、多分未だにガジェットと交戦しているんでしょうね。
あの男が付いてから追撃はなくなったわけだし。突然の指示だったから、従ったけど少し腹が立つというか、なんというか。正直嫌だった。
波状でガジェットが来るのは判ってたし、キャロの封印処理ももう少しだった。
その上、スバルもエリオもまだいけたし、私自身もまだ余裕はあった。だから、一旦掃討してからって考えてた。
元々、なのはさんたちからは、ガジェットになれてない人達のカバーをと言われてたんだし……それをこなしていたのに、あんな言い方されたら従うしか無い。
「ティア? 大丈夫? 他の戦線も戦闘が終わったみたいだよ」
そんな私に気づいたのか、スバルが近づきながら話しかけてきた。指定されたポイントまで下がったと同時に、キャロがロストロギアを封印して、私がその護衛。スバルとエリオが警戒して、どうやら封印されたと同じ頃、敵も撤退したらしい。
「そう、皆お疲れ様。キャロも封印ありがとうね」
「はい! でも、アレはレリックじゃありませんでした……どうして、ガジェット達はあれを狙ってきたのでしょうか?」
んー……そうなのよねぇ。ロストロギアの出土はわからないことよねぇ。
「……まーそれはシャーリーさん達がきっと調べてくれるし、ロストロギアには違いないし無事確保できてよかったぁ」
ふにゃっとするスバルの表情につられて、エリオとキャロの顔も少し綻んだ。
……まだ作戦中だって言うのにバカスバルは……だけど。
「そうね。取られていたら良いことには使われないだろうし、とにかく任務完了よ!」
「「「完了!」」」
私がそう言うと、スバル達も同じように言ったのが妙に気恥ずかしい。けど、それはすぐに忘れて、さっきまでいた黒髪の男の事を考える。
元はといえば、今回のこの任務は、本局第6武装隊の模擬戦中に出土したロストロギアの回収任務だ。もっと細かく言えば、ロストロギアが現れたと同時に、ガジェットも現れて、その反応を六課がキャッチして、そのまま正式に第6武装隊の隊長からの要請で、私達がここに来たというものだ。
だから、あの男もその部隊の一人なんだろうけど。なんというか、腹立つ。私たちの前に現れたと同時に、ガジェットを瞬殺して、私達に指示を飛ばした段階で、少なくとも普通の武装局員なわけがない。歳もそれほど離れてた様子もないけど、あの立ち振る舞いを見るとそこまで上の階級ってわけでもなさそうだし、何だろう。少し気になるわね。
「ティアナさん」
「え、あ、どうしたのエリオ?」
一人で考え込んでいると、エリオが声をかけてきて慌ててエリオの方を向くと、そのエリオも別の方を見ていて、その先を見てみると。遠くから誰かがこっちに向かって走ってきた。遠目から分かる位、小柄な白髮の子だ。そして、こっちに着くと。
「は……ゲホッゲホッ……! あ……その……私……本きょ……第……6……武そ……ゲホッゲホッ……隊……の」
「あぁあ、大丈夫ですよ。落ち着いて下さい」
隣に居たスバルがいたたまれなくなって、駆け寄って背中を摩る。しばらくそのままさすってもらって、ようやく落ち着いたらしく、しっかり私たちの方を向いて。
「申し遅れました、私は本局第6武装隊のオペレーターを担当しています、カナタ・イズミ一等陸士と申します。そして、今回の件。本当にありがとうございます」
自己紹介をしながら敬礼をして、直ぐにその手を下ろして、そのまま頭を下げてきた。正直戸惑ったけど、こっちも直ぐに敬礼を仕返す。
「コチラこそ援護をして頂きありがとうございます」
「いえ、本来ならば私達で片付けなければならない問題に、機動課の皆さんの力を借りてようやく事態の収集に当たることが出来ました。本当にありがとうございます」
なんか、何度も何度も頭を下げられると逆にこっちが申し訳なくなってくる。それよりも……
「あの、いいですか?」
「え、あ、はい。私に答えられる範囲ならいいですよ」
「どうして、こんな事になったんですか?」
とりあえず、一番気になっていることを質問する。初めの内は正直、なのはさんのもとで強くなったって思っていたけど、途中で現れたあの黒髪が自分達よりも強くて、判断能力も高いということに気づいてからは、正直疑問しか残らなかった。
「あ~……多分ある程度伝わっていると思いますけど、模擬戦やっていたんです……。その内容がうちの部隊に入ってきた新人の子達の対抗戦だったんですよ。それが安全が確保されたという知らせを受けての行動だったんですが……」
「……はぁ」
内容としては何となく理解できるけど、それでも腑に落ちない点がいくつかあるし、正直そんな理由だと思いたくない。
「本来ならうちの部隊の上の人達も付くはずだったですが、タイミングが悪く、殆ど他の部隊の要請で駆り出されていたんです。そして、今回たまたま残った人が数人にて、戦闘に参加してもらったんですが。ガジェットと初めてという方が多く。ぶっちゃけると対応できて、尚且つ指示を出せていたのが一人しかいなかったんです」
「あ、それがあの黒髪の人なんですか?」
そこまで聞いてようやく納得できた。なるほど、あの黒髪の男はそこそこ階級が高くて、強い人なんだと。だけど、帰ってきた答えは。
「はい。そうなんですが……あの人は、多分名乗ったと思いますけど。階級は空曹で、魔導師ランクはA-です。そして、今回動けた人たちの中で一番階級が低くて、一番ランクも低いんですよ。それでも指揮能力等が高くて、下手な尉官よりも遥かに頼りになるんですけどね。うちの部隊でも、彼より上なのに、指揮について教えてもらってる方もいますし」
……空曹? A-? 一番低い? ……は?
「え? えぇぇ!?」
予想していた答えと違う上に、ランクが一つ上だということを聞いて、本気で驚いた。スバルやエリオ達も同じようで同じように驚いてる。正直予想していた階級はあっていたけど、何より驚いたのがランクが私達より一つ上だという点だ。何でA-で、あんなに手慣れてたのよ?
その事について、質問しようとしたら、目の前にいたあの人――もとい、カナタさんの目の前にモニターが突然開いて、そして。
『すいません、カナタ一士。色々確認作業を取りたいので至急戻って下さい』
「あ、はい。了解です」
そう言うと、直ぐにモニターが閉じて、コッチを向いた。
「というわけなので、申し訳ありませんが、私はコレで戻りますね」
「あ、いえ、そんな」
「気になさらないで下さい。今回は本当に有難う御座いました。それでは、失礼します。近いうちにお礼の品でも送らせて頂きますね。では!」
そう言って、ペコリという音が聞こえそうな位頭を下げてから、元きた道を走っていった。そしてふと思う。結局あの黒髪の人の名前は分からずじまいだったという事に。
……それにしてもよくよく考えれば妙な点がある。
本局の部隊が、無人世界で模擬戦をする。それ自体はまま有ることだから問題はない。
でも、わざわざそれを機動六課に、もっと言えば本局がわざわざ地上に居る支部に要請を出したということ。
あまり深くは考えたくないけど……ちょっと分かんないことばかり。
――side?――
「あ~……だるい」
模擬戦監修の疲れというか何かがドバっと出てきたのか、凄くだるい。
機動六課の子達を送るためにガジェットと戦闘して、上手く捌いたけど。問題がその後に来たんだ。六課の子たちと合流して色々話とか聞きたかったのに、戦闘の結果とか、ガジェットの残骸集めるってだけなのに、うちの部隊の消耗が凄くて、結局ほとんど俺一人でやる羽目になった。
幸い、動ける人達が助っ人でやってきてくれたのはありがたい事だったが、やっぱりガジェットって中々脅威だな。
本当なら、お礼とかいいたかったし、無事に引けたとかそういうこと聞くことが出来なかった。
「……って、いかんいかん。これが終われば休みだ。こんな事で台無しにしちゃ勿体ない」
柄にも無く、イライラしてしまうけど直ぐに切り替える。
他の小隊の面子は、対ガジェット戦の演習に参加とのこと。なんでも機動六課に負担を掛けすぎたからって、そう考えるのは中々良い事だと思う半面。改めてあの子らのポテンシャルの高さに舌を巻く。あれでまだBランク帯だっていうんだから、先が明るいわ-って。
うちもそこまで弱くはないが、あまり交戦経験がないのが祟ったなーと。
俺も参加だったらアドバイスとかしたけど。やること有るし、明日休みだし……とりあえず目の前の仕事を終わらせましょうかね。
よし、そうと決まれば。
「さっさと報告終えて、仕事を片付けます……か~」
これからの予定を立てて、軽く背伸びをしながら呟いてみる。一人部屋だからいいけど、誰かいたら、絶対におかしな人とか思われそうだな。
さぁ、隊長室へ参りますか!
――――――
「は、異動? このタイミングでですか?」
目の前に隊長がいるにもかかわらず、思わず何言ってんのといった感じで、聞き返してしまった。
正直、この部屋に入ったと同時に、隊長が良い感じに笑ってたから何となく嫌な予感はしてた。うん。
そして、色々許可がほしいんですけどっていうよりも先に。一言。「……機動六課に異動なんだけど、いい?」なんて聞かれてしまった。いいも何も多分もう決まっていることなんだろうと、半分くらい諦めてるけどね。
そして、その隊長――もとい、元上司のティレット・ラートゥスさんはと言うと。
「……うん。ただ、いくつか理由を聞いてくれると有難いんだけど?」
「……えぇ、別に構いませんけど、いくつ理由があるんですか?」
苦笑いを浮かべながら、指を二本立てた。要するに2つ理由があるということだ。
「一つは俺の個人的な考えと。もう一つはすごく大真面目な理由。一応この部屋に盗聴器とか無いかちゃんと確認したほどだしね」
「へぇ……わかりました」
苦笑いを浮かべた顔から、一気に真面目な表情へと変わって、本当に大切な話なんだと理解する。
「俺の個人的な考えは一つ。機動六課が何かに対して警戒しているから、ちょっと行ってきてくれよって話だよ」
「何かって……何ですか?」
「さぁな。それはまだ分かっていない。けどお前の親友の一人から話というかメールが届いてたろ?」
そう言えば、昨日かその前に来てたなーと。隠し言葉でちょっと気になることが出来たって、書いてあったが。任務中には見れなかったなーと。
「はい。でも昨日任務中に来てたので、この後見ようと思っていました」
「そうか、だったらいま見てみろ」
そう言われ、デバイスを操作する。俺の目の前にモニタが、表れ、そこには例のメールの文面が表示されている。そして、しばらくその文面を読み進めると。
「……へぇ」
「気づいたか。中々面白いことが書かれているだろう?」
「えぇ、コレは凄いですね」
モニタを消して、隊長の顔を見ると。腕を組んで、不敵な笑みをうかべている隊長がそこに居た。そして、ゆっくり口を開いて、
「機動六課の設立には、かの伝説の三提督、管理局のトップも関わっているんだ、とさ。それを今朝見てな。それでお前と後二人を異動させようと決めたんだ」
……確かに、ただの部隊の設立に伝説の三提督が関わるとなると、なにか有るなこりゃ。
「では、もう一つの理由。隊長が大真面目と言ったほどの理由とは何ですか?」
「あぁ、それはな――」
――――
「そう……ですか」
「あぁ、本当ならば、最初の俺の案だったら、二人か一人の何方かだったが、今回は全員で行ってもらうことなんだ。お前と奏、その親友である震離はうちの部隊にとっちゃすごく大切な、エースの一角だ。
その三人を六課に送るということは、さっき話した「やばい事」が本当に起こりそうだから送るんだからな。それにもしそれがただの取越苦労だったら、それが一番いい事だしな」
隊長の話を聞いて、頭の中は納得出来た。隊長が言った『やばい事』が本当に起こった場合に備えて俺らを送る。その上何の偶然か、あの『四人』も機動六課にいるんだから。
だけど。
「……隊長。俺は……貴方達に買いかぶられる程の人間ではありません」
「違う。お前はそれほどの人間だ。少なくとも俺なんかよりももっと上にいける。俺は、お前の――いや、お前たちの事情は知っている。だから!」
「異動の件。了解しました」
隊長の言葉を遮る。隊長が気を回してくれていることも、『俺達』を気にかけていてくれることも知っている。だけど、だけど俺は。
「……隊長……前にも言ったと思いますが、俺は親友を見捨てて生き延びた屑ですよ、買い被らないでください。
基本的に黒いんですから、俺達は。
それでは、緋凰 響、そして他二名。機動六課へ異動します」
敬礼をしてから、隊長から逃げるように、扉へと向かって行った。そして、扉から出る時、隊長の方へ振り返って、もう一度敬礼した時に見えた隊長の顔は悲しそうな表情だった。
色眼鏡なしで、黒い噂も気にしないで、何なら俺たちの状況もある程度知ってて……それでも信じてくれた人。
申し訳ないですティレットさん。何も縛ってるものがなければ良かったんですけどね。
さ。最後のお仕事ちゃんとこなすかな。
それにしても。もしかしてわざとパイプ創るために、ロストロギア流したってことは……無いな。
接触したかっただろうけど、偶然にしては妙な作為が……深く考えるのやめようか。
――side?――
時空管理局・特殊鎮圧部隊
表だって行動することができないこと……また、管理局が直接、関わることができないことをする部隊。つまり、裏の仕事。
その部隊の……特殊鎮圧部隊の隊長室に、二人の人物がいた。それは一人の老婆と一人の女の子のような顔立ちをした少年が、そこで会話をしていた。
「……自分が異動、ですか?」
不思議そうな声で目の前に座る人物に声を掛け、目の前の人物もまた、その声に答える。
「……えぇ。そうよ」
「……一応聞いても良いでしょうか? 何故、今の時期に異動など……最近色々動いていますのに」
不思議そうに首を傾げる少年に、老婆……いや、隊長は微笑みを浮かべてながら手元のパネルを操作しながら、
「……先日、レリックを輸送中だったモノレールが、ガジェットに襲われたというのは、知っているわね?」
話を振られた少年は一瞬考え込み、思い出したのか視線を隊長へと戻す。
「はい。確か、その事態の収拾を行ったのは、新設部隊の……機動六課……でしたか? ロストロギアの回収を主にと伺っていますが」
「そう。そして、そこに現れたガジェットの……新型であるⅢ型の残骸調査を行ったところ、興味深いものが二つ発見されたの」
「……なんですか?」
ピクリと少年が反応した。それを確認して静かに語る。
「一つは、その動力源となっていたもの……ジュエルシードよ」
「……ジュエルシード? あぁ確かPT事件のロストロギア……管理局で保管されているはずですが?」
ため息混じりに話す隊長の言葉をただ、静かに耳にし、率直な疑問を投げかける。隊長も困ったように眉間に皺を寄せて、言葉を口にする。
「そう。本来ならば。外部からならまだしも、管理局内部の人物による、ロストロギアの不正持ち出しも考えられる……でも、もう一つの発見と繋がるとなると、厄介なことになるかもしれない」
「もう一つのは……いったい何なんですか?」
「ご丁寧に内部基盤に、そのガジェットの制作者の名前が付けられていたの。その名は……ジェイル・スカリエッティ」
先程からいじっていた手元のパネルを操作が完了し、少年の前にガジェットの内部の写真を写したものを少年に見せながら話を勧める。
「……ジェイル・スカリエッティ? あぁ……あのプロジェクトFの元を作った人で、造魔導師計画と戦闘機人計画の人。この部隊のターゲットの一人だったと思いますが?」
「そう、スカリエッティが動きが確認されたのと同時に、うちに子達にも、ナンバーズ達と遭遇したって言うのが出てきたの」
「ナンバーズ?」
「そう。彼女らが動き出した以上、管理局に何かしら手を回すと思うの……そのために、あなたは異動になったの。ナンバーズについては、この資料を確認しなさい」
再び手元のパネルを操作し、少年の前にモニターを展開する。
少年の前に映し出されたモニターには、青いスーツを身につけた銀髪の少女のような人物が映し出され、ソレを少年は見ながら、
「……了解しました。そして、その異動先というのは?」
「感づいてるとは思うけど。機動六課だから」
ニコリと笑みを浮かべながら、移動先を告げる老婆の……いや、隊長の言葉に、目の前の少年は一瞬固まったものの、直ぐに落ち着きを取り戻し、隊長の顔を見るが、その顔は少しだけ呆れてるようでもあった。
「……どうせ断れないんですよね?」
「えぇ、そうよ」
「……しかし、わた……自分はここ以外を知りません。それでもですか?」
「えぇ。だからあなたに行ってもらうの。
そして、表向きのあなたは武装隊出身で階級は空曹、そして魔力ランクは総合AAA、能力リミッターでAランクまで下げるから。
それに、あなたの憧れの人というか、あの教導映像の人達も居るわよ」
「……は?」
「えぇ……あと名前もそのままね」
ニコッと部隊長が笑うのに対し、少年の方は固まったまま動かない。
何かを言おうとするが、まだ固まっていないらしく小さく呻く。
「心配しなくても、武装隊にもあなたの名前が登録されていて、任務でほかの世界に行ってたって事になっているから」
「……え、い……や、あの……」
「そうね。後は六課でのあなたの任務は、ジェイル・スカリエッティの拘束ね。
前もって話して置くと、六課には『プロジェクトF』の遺産……フェイト・T・ハラオウン執務官に、エリオ・モンディアルの二名が居るし……あぁ、アルザス出身の竜巫女の女の子もいる。
まだ、あちらも掴んでないかも知れないけれど、戦闘機人だって居るわ。
それらも含めて。ある意味、最もスカリエッティが狙う部隊だと思うからね」
「……はぃ?」
部隊長の情報量についていけず、少年の視線が右往左往と泳ぐ。
「あなたの異動はもう決定事項なの……早く準備して行きなさい。
大丈夫よ。きっといい影響しかないだろうし、何より実力も申し分ない。」
だから行きなさい風鈴 流、機動六課へ」
泳いでいた視線が定まり、隊長へと向けられる。
一瞬嬉しそうな顔をするが、直ぐに視線は下がり。
「隊長……私を武装隊に登録してたってことは……いつか私を外に出すつもりだったのですか?」
隊長からは見えないが、今の少年――――いや、流の顔はどことなく、寂しそうな目をし、視線を落としている。
「……ただの保険よ、あなたが気にすることでではないわ」
「そうですか……自分が……私が行けば部隊の人たちは死ぬかも知れませんよ……?」
「だれも死なないわ……二度も起こることではないもの」
「……わかりませんよ……私が行けば、また、あの時のようになりかねません。
それでは、行ってきます。隊長、また……またここに来られることを願っております。」
寂しそうに。名残惜しそうにつぶやいて、流は部隊長室を出て行った。
―――
流が出て行ったその扉を眺めつつ。老婆はクスリと笑みを浮かべる。
手元のコンソールを操作すると、違う資料のデータが表示される。そこに表示された文面を見てさらに笑みが深くなった。
―――元・特殊部隊第13艦隊主力、起動六課に集結中。
ブツリ、と電源が切られた。
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