ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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黒星団-ブラックスターズ-part3/お出掛け
翌日…
朝日を浴びて、テファは目を覚ました。
「朝…」
森にいた頃は、木陰に囲まれた場所で暮らしていたこともあり、朝日を窓から浴びるということはあまりなかった。でも今は木の葉のバリケードもなく、直接太陽の光がまばゆく差し込んでくる。
ぼんやりした頭が覚醒していき、テファは窓の外を見やる。
また、妙な夢を見ていた。高く、大きな石のような建物。煉瓦が敷き詰められたものではなく、暗い色の石のようなものが敷かれた地面。そんな街を行きかう、変わった服装の人々。その街には自分やシュウ、サイトたちもまた存在しているという夢。
今回は、シエスタと同じメイド服を着て働いていたところをシュウたちに見られた…といったものだ。現実だったら結構気まずい。夢でよかったものだ。
最近になってそんな夢を見るようになった。それも、ここしばらく毎日だ。
(なんだったのかな、あの夢…)
あの夢は不思議と心地よいものがあった。自分が森の中でひっそりと暮らしていたような静かで平穏だが…同時になんの変化もない鳥籠の中のような生活と違って刺激に溢れ、充実した楽しいものだ。
だがその一方で…不安を感じる要素もあった。その世界でもシュウがウルトラマンに変身して、怪獣たちを倒していたことだ。
(夢の中でも彼が戦っているところを見るなんて…)
これまでのシュウの…ウルトラマンネクサスの戦いを見てきたがゆえに、どうも心が休まる気がしないものだ。一つ不安をぬぐえる要素と言えば、最後には彼は何事もなく必ず勝っていたこと……現実の彼と違い、シュウにとって最悪な不幸が一度も起きていなかったことだ。
苦悩することはあるが、少なくとも彼にとって世界そのものが優しくなっている、と思えた。彼が必要上に背負うものがなく、精神的にも憑き物が何もない。現実の彼と比べると穏やかで心の余裕があり、平凡な幸せを享受していることが伺えた。一つはっきり覚えている……シュウが出会って以来一度も浮かべたことの無い、
(そういえば、あの夢の中……シュウ、
笑ってたわ…)
笑顔がその表れであろう。
戦いがあることは現実と同じでも、あれがもし現実だとしたら、これは恐ろしいことだ。でも、恐ろしいと言えば…夢が連続ドラマのごとく地続きになっていることかもしれない。一度ならず二度も、なんて普通の夢では早々ないのだから。
(…うぅん。結局夢だもの、考えても仕方ないよね)
それよりも今日は、現実でその平穏を楽しむ日だ。
「そう言えば、こうしてシュウとお出かけするのって、初めてよね」
彼が心の平穏をまだ取り戻し切れていないのなら、これからそれを一緒に取り戻したい。
平民に向けた舞踏会のための準備という名目はあるが、テファはシュウとの外出に胸を弾ませた。
(…シュウ、十分頑張ってきたんだもの。今日は…うぅん、これから頑張った分だけ、いっぱい楽しく過ごしてほしいな。
私も、何かシュウのためにできること考えておかないと)
この日、サイトはシエスタに連れられ、トリスタニアに来ていた。先日シエスタが出してきたお願いを叶えるため、舞踏会に向けてスカロンに協力を仰ぐためだ。
街は、怪獣災害の影響もあって荒れていたが、土系統魔法で土木作業を行うメイジや街の人たちによって修復が進んでいた。敵…レコンキスタを隠れ蓑としてこれまでトリステインを襲撃した宇宙人や怪獣の本拠地であるアルビオン大陸も、何かを仕掛ける前準備のつもりか、バリアを大陸全体に張ったことで、互いに戦いを挑める状態ではない。それもあってトリステインは復興する余裕が生まれていた。
回りを通りすぎる人々の顔に絶望が走らずに済んでいる。何度も街でウルトラマンと怪獣の戦いが起こり、その度に街が壊れてしまうことを気にしていたサイトに、幾何かの安堵が生まれた。
「ほらほらサイトさん!そんなところに立ってないで、早くこちらにいらしてくださいな!」
「あぁ、ごめん」
シエスタの呼び掛けを聞いて、サイトはすぐに駆け寄った。この日のシエスタは、メイド服ではなく白のフリルの着いた服ロングスカートという、ゆったりとしたものだ。いつもメイド服姿を見るから、シエスタの私服姿は結構珍しく思える。
「…あの、サイトさん。そ、そんなに見られると…」
サイトの視線を感じるあまり、シエスタは顔を赤らめる。ちょっと見すぎたか、とサイトも頬をポリポリ掻いて目を逸らした。
「あー、なんていうかさ、シエスタの私服姿って思ってみると結構新鮮だなって思ってさ」
「そう、ですね。サイトさんと会うときは、ほとんどメイドの格好ですから。…あの、それで…」
シエスタは顔を赤らめたまま、貴族の令嬢のようにスカートを軽く持ち上げ、上目遣いでサイトを見つめる。
その上目遣いはなんですかぁ!?サイトは喉からそんな間抜けな叫びを上げそうになった。
「どうですか?今日の私…」
「え、えっと……その……」
緊張のあまり気の利いた言葉を言うのが難しくなっていた。でもサイトは、言わなければと頭をひねって、その日のシエスタの外見についての感想を述べた。
「いつのもメイド服もいいけど、今日のシエスタも…かわいいよ」
それを聞いたシエスタは、よかった…と口にした。
「サイトさんと二人きりなんて、本当に久しぶりです。このころ、ミス・ヴァリエールとハルナさんだけじゃなくて、ミス・オクセンシェルナもサイトさんのそばにいて、もう私なんて入り込む隙さえないのかなって、不安でしたから…」
「シエスタ…」
「だからいつか、サイトさんが、サイトさんやおじいちゃんの住んでいた世界に戻られるとしても、思い出を一つでも多く残しておきたいって思って、今回はちょっと我儘を言わせて頂きました」
魔法学院がメンヌヴィルの襲撃を受け、その際はシエスタも怖い目に合ってしまった。サイトは当時アンリエッタから、炎の空賊団の墜落した船の捜索をギーシュらも連れて行っていたため、行こうにも行けなかった。なのに長くかまってやれる時間もないまま舞踏会の準備を、シエスタの協力を取り付けないまま行った。シエスタから見れば不満ばかりが募る展開である。
しかも、サイトを幾度か引き付けるきっかけになるであろう食事制限についてもだが、ルイズがサイト用に食事を用意させるようになったため、シエスタの手からサイトに料理を渡すという形で二人が会う回数もとれなくなっていた。これは嫉妬深く独占欲の強いルイズの思惑が絡んでいる。
これから先シエスタと言葉を交わすことも少なくなる…いや、もう話すこともなくなってしまうのではないか。
何て答えたらよいのだろうか。サイトが返答に困っている間に、二人は魅惑の妖精亭の前に到着していた。
「なるほどねぇん。貴族の子たちが平民をもてなす舞踏会を…」
サイトとシエスタは、まずはスカロンに会いに魅惑の妖精亭を訪れ、表の方はジェシカに任せ、店の空き部屋で舞踏会関連の事情を説明した。スカロンは腕を組んで、真摯にサイトたちの話に耳を傾けた。
「叔父さん、なんとかなりますか?」
「そうねん…私も暇というわけではないからねん。それに、平民と貴族が即座に協力し合うというのは、現実難しいのは間違いないわ」
魅惑の妖精亭は毎日繁盛している人気店だ。スカロンとジェシカ、そこで働く妖精さんたちも休みの日以外は多忙だ。それに、貴族と平民の間に古くからの大きな隔たりがあることも、スカロンもよく知っている。それだけに今魔法学院で、生徒たちによる平民向け舞踏会の準備が行われていると聞いた時は耳を疑うしかなかった。でも、サイトたちが冗談を言っているようなそぶりが全くなく、しかも舞踏会にて自分の力を借りたがっていると知り、それが本当であると悟る。
「でも、この案はとってもトレビア~ン♪よサイトちゃん!こんな大変なご時世だからね、平民だの貴族だの言ってもどうにもならないんだもの。その点ルイズちゃんたちはすごく立派よ!
それにブラックちゃんのコーヒーは本当に美味しいから味の保証はするわ。サイトちゃんとルイズちゃんが初めてうちに来る前、あの子たちの淹れるコーヒーは一時お客さんたちの間で流行ったくらいのものだからん。
このあたしもできうる限りの協力は惜しまないわよん」
「ありがとうございますスカロン店長!」
望んでいた返答に、サイト、シエスタ、テファは笑顔になった。すると、スカロンはサイトに息がかかるほど至近距離に迫り、ノンノン、と指と首を横に振ってた。
「違うでしょぉん。あたしのことはミ・マドモアゼルと呼びなさいと言ってたでしょぉん?」
「は、はい…ミ・マドモアゼル…」
「トレビアーン…」
以前と変わらず、見た目は化粧をした濃いオネェ中年男だから、強烈さは凄まじい。
「でも長年この店をやってるあたしとしては、おもてなしをするみんなのためにも、ルイズちゃんたちには改めて接客業のいろはというものを学ばないといけないと思うの。もちろん手を抜く気は無いから覚悟しててねん?」
その一方で、接客業のプロ故かその辺の意識も高く、口調こそいつも通りだがそう言った時のスカロンの言葉には妙に力強さを感じた。思った以上に手厳しくルイズたちを指導するつもりらしい。だがこれは同時に、スカロンが頼もしい存在なのだと思わされる。
「ところで、シエスタから聞いていたカフェのことなんですけど」
「カフェ?あぁ、『ブラック』ちゃんたちのね。そうねん…例のコーヒーっていう飲み物については問題ないのだけどん、あの子たちからの協力は直接得られないわよ」
「え?どう言うことですか?」
コーヒーの調達は大丈夫だが、カフェの方から直接の助力は得られないと言う矛盾してるような返答に、シエスタがどう言うことかと叔父に問う。
その訳は…
「閉業してた!?」
なんと、例のカフェは既に閉業していたというのだった。
「まずはブラックちゃんたちの身の上についてから話して行くわね」
詳しい話を、スカロンは語り出した。
「あの子達、元々どこからか迷い込んできてたみたいで、お金もなく路頭に迷ってたところを住み込みで働かせる条件でうちに置いていたのよ。そしたらいお礼にって、コーヒーをくれたの。
あの子の淹れるコーヒーっていう飲み物、新種の飲み物ですごくおいしいって評判なのはシエスタちゃんたちも知ってるでしょう?うちの商品としても出したら思った以上に売れたの。貴重な飲み物だから高値で売ってたにも関わらずにね。
それを聞きつけてこの国の貴族もぜひあやかりたいってうちの店にやってきたの。でもその貴族、あのチュレンヌにも負けないくらいに酷い男だったのよ」
「ひどいって、何をされたんですか?」
「金と権力を用いて、コーヒー豆を没収しようとしたのよ。栽培中のお豆ごとね」
「うわ、マジか…」
シエスタを愛人として引き取ろうとしたモット伯爵のこともあり、貴族が欲しいもののためなら権力でねじ伏せることもあると知っていたが、まさかコーヒーのためにもそこまでするのかと聞いてサイトはその貴族への怒りと共に呆れも覚えた。
「酷いものだったわよ。しつこい上に、妖精さんたちを人質にとろうとさえしたもの。
でもその子達はその貴族に反抗して追い払ったの」
「え、貴族を追い払ったんですか!?ブラックさん、貴族相手にそんな大胆な…」
シエスタは大げさとも取れそうなほどに驚いた。サイトはその顔に覚えがあった。初めて会ったばかりの頃に賄いを分けてもらいこの世界の貴族のことを聞かされた時、そしてギーシュから決闘を挑まれた時のことだ。魔法を扱えるメイジは平民にとって畏怖の対象なのだ。しかもメイジは家名を失っていない貴族が大半だから権力も盾にしてくる。だからそのブラックたちが貴族に反抗したと聞いてシエスタは驚いていた。
「あたしたち妖精亭は助かったけど、その一件で貴族に目をつけられて、それでブラックちゃんは責任を感じて、うちの店を辞めて独立して行っちゃったのよ。それからもその貴族が何度もしつこくブラックちゃんを追い回して、それで何度も店舗の場所を変えざるを得なくて、折角儲かった分のお金も引っ越し代金でぱぁになっちゃったってわけ」
コーヒーを独占しようとする悪どい貴族から逃げるために度々引っ越しを繰り返していた。それがシエスタの言っていた、幻のカフェと言われている所以なのだろう。だが今となっては本当に幻の存在となった
「そうこうしながらも元気にカフェをやってるって、会いに来て言ってくれてたんだけど、サイトちゃんたちが来るしばらく前に、帰るあてが見つかったからって引き払っちゃったのよ。今ではどこにいるのかわからないわ。寂しくなったわね…可愛くて面白い子達だったんだけどん」
スカロンは、例のカフェの面々…ブラックたちとの別れを名残惜しそうに語る。
しかしこれはこれでよくない状況だ。スカロンの協力が得られそうだが、舞踏会にて提供する予定のコーヒーが出せない事になってしまう。
そんなサイトとシエスタの心情を察し、スカロンは安心させるように笑みを浮かべる。
「でも安心なさい。あの子達ったら、お世話になったお礼にって、貴重なコーヒーを残してくれてたのよ。お店にしばらく出しても問題ないくらいの量がうちの保管庫に貯蔵してあるわん」
「本当ですか!?」
「ええ、かわいい姪とその将来の旦那様候補の頼みよん。うちの店の宣伝にもなるし、断る理由なんてないわ」
「やった!ありがとうございます叔父さん!」
「俺も、ありがとうございます!スカロ…いや、ミ・マドモアゼル!」
これぞ渡りに船、いや天の助けというべきか。危ういところではあったが、これで舞踏会への出し物の問題は解消された事になる。サイトとシエスタは飛び跳ねるよう喜んだ。
「それじゃ早速、学院に輸送する手配をしてくるわねん。それまでサイトちゃん、シエスタをデートに連れてってらっしゃいな」
「はい!?」
「はい!」
っと、ここまでは当初の予定通りだったのだが、突如としてスカロンが言い出した事にサイトは声が裏返った。一方でシエスタはこれを待っていたとばかりに二つ返事。即座にサイトの腕に自分の手を絡ませた。
「し、シエスタ…俺たちの用はもう済んだし、もう学院に戻った方が…」
「何言ってるんですか。私の用事はまだあります。サイトさんが私のお願いを聞くことです」
後は学院にいるルイズたちの元へ戻るだけ。それ以外に用があるとすれば、同じく今日トリスタニアに来たシュウたちと合流することくらいだ。でもシエスタはここで終わることを良しとしなかった。
「それともサイトさん、私と一緒はお嫌ですか?」
ぎゅっと、自分の胸が押し当たっていることを厭わずサイトにしがみ付くシエスタ。そんな二人を見て、スカロンはふむ…と腕を組んで考え込む。前々からジェシカも交えた手紙のやり取りでシエスタがサイトに好意を寄せていること自体は聞き及んでいるが、サイトの傍らにいる二人のライバルの存在もあって進展がないことも知っている。ここはひとつ、かわいい姪のために少しサイトに意地悪をしてみることにした。
「サイトちゃん、うちの姪のお願いをちゃんと聞いてくれないと、コーヒー豆はあげられないわよ?」
「えぇ!?」
さっきまで大いに協力的だったのに突如として条件を加えてきたスカロンに、サイトは声を上げた。
「なーによ、シエスタに何か不満でもあるわけ?それともサイトちゃん。あなた誰か想いを寄せてる子が他にもいるのかしら?それもシエスタが霞んじゃうくらいに」
「そ、それは…」
サイトはスカロンの問いかけに、息を詰まらせた。ふと脳裏に…なんとなくある二人の少女たちの顔が浮かんだものの、内ポケットに入れているウルトラゼロアイの固い感触を思い出し、
「その…」
はっきりそうだとは言えなかった。
「いないんだったら、別に構わないでしょ?ほら、据え膳食わぬは男の恥、というでしょう?」
「この世界でもそのことわざあるんすか…」
「ほら、経験を積むことも将来素敵な女性と出会うためにも必要なことよん。尤も、シエスタを泣かすようなことしたら許さないから、しっかりエスコートすることねん!」
ほら、こんなところでまごついてないで早くデートに行けと、スカロンは遠巻きに言いながら、サイトにシエスタを連れて出かけるように言う。
「ありがとうございます叔父さん!それではサイトさん、善は急げです!早速二人きりのデートに出かけましょう!」
「ちょ、シエスタそんな引っ張らなくてもおおおお!」
背中を押してくれた叔父への深い感謝を述べると、一秒でも時間が惜しいとばかりにシエスタはサイトを見せの外へと引っ張り出すのだった。
そんな二人を、草葉の陰から覗くように、何者かがじっと見つめていた…
同時刻、シュウとテファはマチルダとウエストウッド村の子供たちのいるトリスタニアの修道院を訪ねていた。
「子供たち、あれから元気にしているかしら」
テファは修道院の外観を見上げながらそう呟く。
シュウも、ウエストウッド村で暮らしはじめてからアルビオンの空で離別するまでの間のことを思い返しながら、子供たちを思う。守っているつもりが、随分と迷惑と心配をかけたものだ。
「ところでシュウ、サイトとシエスタさんの様子を見なくて本当によかったの?」
テファはシュウに、ルイズからの頼みごとを実行していないことを指摘する。
「今はお前のためにもチビ達の様子を見に行く方がいいだろ?後で『魅惑の妖精亭』とやらへ行けば、約束を反故にしたことにはならないさ。それに、ヴァリエールのことだ。どうせ平賀を寝取られたりしないか気にしてのことだろ。わざわざそれを阻止してやる義理もない」
「い、いいのかしら…」
それはそれでルイズから『何でちゃんとサイトを見ておかないのよ!』と文句を言われそうだと、流石にテファも察していた。マチルダや子供たちの様子を見ることの方が彼女にとっても大事なことなので文句はないのだが、ちょっとルイズがかわいそうな気もする。
「…ここがしゅーどーいんなの?」
「ええ、そうよ。ここで村に住んでいた子とマチルダ姉さんがいるの。きっとリシュとも仲良くしてくれるわ」
「リシュ、お兄ちゃんがいてくれたらそれでいいんだけどな」
興味深そうにしつつも、初めて訪れる場所で、大勢の人を相手にすることになると思ってか緊張気味のリシュにテファは背中押しの言葉を掛ける。
3人が修道院の敷地内へ入ると、マチルダが出迎えてくれた。
「テファ、しばらくぶりだね!」
「マチルダ姉さん!」
マチルダは現在、修道院で子供たちの世話をするシスターの一人として働いている。今シュウたちと話している時も、学院でロングビルを名乗っていた時と違い、シスターの服装だ。
二人はお互いの再会を祝福し合うように、顔を合わせた途端に抱擁を交わし合う。
「学院での生活は大丈夫かい?エルフだってことはバレてないか、あのセクハラじじいや他の男子共に変なことされてたりなんてことは」
「だ、丈夫よ。シュウもいてくれるから」
シュウの名前を聞くと、テファとの再会でほころばせていた笑みに陰りが生じるマチルダ。後ろを見ると、テファの言う通りシュウがそこで無言のまま佇んでいた。
「よぉ、あんたも久しぶり」
「…御無沙汰してます、マチルダさん」
会釈するシュウを、マチルダは凝視する。
「ふーん、今のところ、きっちりテファのボディガードくらいはやってくれてるみたいで安心したよ。また以前みたいに、無茶してはテファを困らせてないか気が気でなかったからね。やっぱりあたしも覚悟決めて学院に戻ろうか、何度か考えてたんだけど」
「姉さん…もうシュウはあんなことしないわ。約束したんだもの、ね?」
どこかよそよそしく他人行儀感が強い挨拶をしたシュウと、それを受けとるマチルダの間の空気から息苦しさを感じ、テファはそのようにフォローを入れる。
マチルダは自分のことを本当の妹のように可愛がり面倒を見てきてくれた。それだけに、怪獣たちから人々を守るためとはいえ、必要以上に自分を痛め付けるような戦いを続け、それを見るテファの心すらも結果として傷付けたシュウを良く思えなくなっていた。
別に一時の無茶を否定する気はない。テファや孤児たちを養うためには、厳重に保管されたお宝を貴族の屋敷から盗むという、危険に身を投じることも必要だったから。
でも、シュウは違った。ナイトレイダーとして人命を守る。確かにその使命に忠実ではある。でもシュウの過去を知った今、実際はそんなものは建前に過ぎないのではとすら思えてくる。誰かを守ろうとする意思そのものは本心だろうが、彼は愛梨や、この世界で出会ったアスカも含め、大勢の人々を救えなかった過去に縛られるあまり、同じウルトラマンであるサイトの助力すら拒絶し、無茶を前提とした戦いを通して必要以上に自分を痛め付けるために、ウルトラマンとして怪獣と戦うという形で、結果として無為な自傷行為を繰り返してきたのだ。
テファがシュウに寄り添おうと言う意識を尊重したから、学院の滞在(と言う名の、王室のウルトラマンへの恩返し兼テファおよびシュウの庇護)を承諾したのだが、もし今でもこれまで通り自分を苛めぬく前提でシュウが戦いに赴くつもりだったら、強引にでも二人を引き離すことも考えていた。
でも、こうしてテファが未だに離れず傍にいるところから見て、今は関係の悪化とされるようなことはないようだ。それどころか、ここしばらくシュウと一緒にいるときと比較すると、今のテファの表情は元来の明るいものに戻っている。テファの言う通り、ようやく自殺まがいな戦いを止めたのだろうか。もしそうなら、ひとまずは安心だ。自殺衝動のまま戦う男の傍にいることが、かわいい妹のためになるはずもないのだから。
「んで、さっきから気になってたんだけど、その女の子は?」
マチルダは改めてシュウに目を向けると、彼の足にくっつき続けている青い髪の幼女に目を向ける。
「リシュ。挨拶しろ」
「リシュ、です…はじめまして」
シュウに背中を押されたリシュはマチルダを相手に緊張しているのか、ややびくびくしながらも失礼のないよう気を付けながらマチルダに自己紹介した。
「へぇ、リシュっていうんだね。あたしはマチルダ。テファの保護者…お姉さんってところさ。よろしくね」
リシュの目線に合わせ、彼女の前で身をかがめてきたマチルダは、自分に挨拶したリシュの今にも縮こまっている姿が逆にかわいらしく見え、くすっと微笑みながら自分も自己紹介した。
「リシュったら、緊張しちゃったみたいね」
「あぁ、エマを引き取ったばかりの頃を思い出すよ」
テファもまた、緊張しがちなリシュの様子をほほえまし気に見つめる。
「けど、いったいどこで拾ってきたんだい?あんたたち、女王陛下の計らいで学院に保護されてるってことになってるだろ」
ただ一方で、リシュと一体どこでどのように出会ってきたのかが、マチルダの中に疑問として浮かび上がる。保護対象がどこかの孤児を拾うというのは、立場上少々厚かましい印象も与えられるだろうし、二人のいる学院に孤児がふらっと近づいてくるとも思えない。何せ魔法学院はトリスタニアから、子供がたどり着くのはまず不可能なほど距離が離れているのだ。国の重要な教育機関だから当然部外者はメイジであっても門前払いである。
「それは…」
「あ!テファ姉ちゃんとシュウ兄だ!」
事情を説明しようとしたが、修道院の方から子供たちが。、二人を見て一斉に駆け出してくる姿が目に入った。
「ま、立ち話もなんだ。何か用もあってきたんだろうし、入りな。あ、いっておくけどテファ、帽子は取らないようにね」
「え、ええ。わかってる」
マチルダはシスターとしてシュウとテファ、リシュの三人を迎え入れると同時に、テファにはいつものことのように彼女が今被っている帽子を指さしながら忠告を入れる。そんなわずかな会話の間にも、シュウたちの周りはウエストウッド村で一緒だった子供たち……だけでなく、幾人かさらに数が多くなった子供たちであふれかえった。
「テファ姉ちゃんお帰り!」
「おいおい、そこはいらっしゃいっていうとこだろ。シュウ兄も久しぶり!!」
「ねえねえ、学院ってどんな場所だった?楽しい?」
「ねえ、あなたお名前は?なんていうの?どこからきたの?」
「この人たちがサム君たちの言っていた人たち?」
「すっげぇ美人…しかもでけえ」
「ちょっとあんた、どこ見てんのよ」
集まるや否や、シュウたちはほぼもみくちゃ状態であった。ウエストウッド村の子供たちからは再会を喜ばれ、リシュを見た一部の子供たちはさっそく彼女と友達になろうと質問攻め。村ではなく元からこの修道院にいた子、もしくは後からこの修道院に入った子供たちはウエストウッド村出身のサムたちから話を聞いていたこともあってシュウとテファに強い興味を示していた。特に男子は、テファの美貌やプロポーションに見とれていたりしたほどだ。無論、それを見た女子たちからはちょっと軽蔑のまなざしを向けられていたが。
子供たちの勢いにテファも村にいたころと違って子供たちを御しきれず大慌て、シュウもどのように応対すべきか困惑気味だ。
「ほらほらみんな!3人が困ってるだろ!」
そこについてはマチルダが両手を叩いて子供たちに呼びかけ、シュウたちは修道院へと招かれるのだった。
そして、学院に保護されてから今に至るまでの経緯をありのまま伝えるのだった…
「平民に向けた舞踏会!?またずいぶんと思い切ったことを思いつくもんだねぇ」
「それでね、姉さんやここの子供たちにもぜひ遊びに来てほしいの」
「そりゃ、あんたが来てほしいって言うなら、あたしも行ってみたいとは思うさ。けど、学院の連中がちゃんと相手してくれるのかい?あたしもかつては貴族だったし、あいつらのことだから…」
マチルダは、魔法学院で平民向け舞踏会が開催されると聞いて目を丸くした。彼女もかつては貴族であり、その名をなくして盗賊に身を窶したこともあって、貴族の平民に対する見下しの強さも知っている。まさか、こんな催しをするとは思いもしなかった。いくら学院長であるあのエロジジイが平民にも寛容であるとしても、周りの教師や生徒たちが許すとは思えないのに。きっと水面下では反対者が大勢いることだろう。
「それにテファ、あんたは学院の関係者ですらないんだし、それ以前に…」
女王の配慮で学院に保護されてるとはいえ、テファはそもそも始祖ブリミルの敵とされるエルフの血を引くハーフエルフ。その特徴たる長く尖った耳を見られてしまえば、一気に大騒ぎになるに違いない。
「さらにもっと言えば、あたしは学院にちょっかいを出したんだ。さすがに教員連中が黙っちゃいない」
以前、フーケとして『破壊の杖』を盗んだ前科もある。これが一番学院に足を運べない理由だろう。マチルダは、できればテファの誘いを受けたいところだが、ここに来てフーケとしての思わぬツケが出てしまった。いくら学院長のオスマンが平民への偏見もなく、それ以上に美女に目がなくとも、学院に実害を加えた前科者を付け入らせる隙を与えるほど甘くはない。本性を現すまでロングビルとして働いた際には教師全員に顔も知られている。
「じゃあ、姉さんは来ないの…?私は姉さんにも来てほしいのに…子供たちだってきっとそうよ」
「こればかりは自業自得と言うやつさ」
「でも、それについては間接的に私のせいなのに」
「あんたが気にやむことじゃないさ。心配しなくても、子供たちはきっと喜んでその舞踏会に足を運んでくるだろうさ」
自分は破壊の杖騒動の発端である以上、堂々と顔出しなどできるはずもない。自分へのもてなしは諦めるように言うのだった。
「お姉さん、学院に来ないの?」
「ごめんよリシュ、あたしはちと学院に顔を出し辛いんだ。今は修道院のシスターとして、真面目に働かせてもらうよ。学院には子供たちだけ行かせる。そっちでの面倒はシュウとテファに任せるよ。リシュ、その際はあの子達と仲良くしておくれ」
結局、マチルダはテファの誘いを断わる意向を示した。テファは望まぬ返答にかなり残念そうに俯く。マチルダとしては罪悪感この上なしだが、こればかりは仕方ない。テファがエルフの血を引いてることすら危ない綱渡りなのに、盗賊フーケとしての自分が顔を出してしまえば、大騒動だ。割りきるしかない。
「でも私、ずっと姉さんのお世話になってばかりだし、シュウにも何度も助けてもらった。今回だって、私たちのことを心配してくれてる陛下からご厚意をもらってる。だから、私からも何か返していけないかなって」
でもテファとしては、自分はずっとマチルダに苦労を掛けてきた身だ。舞踏会の狙いがクリスの歓迎と思い出作りとはいえ、せっかくだからこれまで養ってもらった恩を返したい意図がテファの中で芽生えていた。
「はぁぁ~…わが妹分ながら峻峭な心がけだね。貴族共に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ」
マチルダは可愛がってる妹代わりの心がけに、やはりわが自慢の妹分なのだと、親バカならぬ、姉バカと言うべき感情に胸一杯になる。
「その気持ちだけで十分さ。ありがとうねテファ。あたしの分も、あの子たちやそいつと一緒に楽しんできな。それだけで十分」
「姉さん…」
結局マチルダだけは誘うことが叶わなかったことに、テファは目を伏せるのだった。
シュウとしても、テファの願いは叶う方が望ましいと思う。
でもやはり、マチルダの過去のことも考慮すると尚更無理のあることだと悟らざるを得なかった。
「んな辛気臭い顔しないの。ほら、折角こっちに来たことだし、代わりと言っちゃなんだけど、今からお出かけでもしようじゃないか。ここにいるみんなでね。リシュの歓迎会としようさね」
マチルダがそう言って立ち上がり、シュウとテファ、リシュに外出を促すのだった。
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