ある晴れた日に
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495部分:冷たい墓石その三
冷たい墓石その三
「ひょっとしたら一人位いるかも知れないしさ」
「そうね。一人位ね」
「いるかもね、確かに」
彼女達はその凛の言葉を聞いてまずは頷いたのだった。
「じゃあとりあえずは」
「その相手探して」
「それにしても誰なのかしらね」
咲も首を傾げることしきりだった。その中での言葉だった。
「あいつがお見舞いする人って」
「大事なのは絶対よ」
今度は静華が言った。
「それは間違いないわよ」
「そうよねえ。問題はそれが誰かなんだけれど」
「親戚かお友達か」
「それか別か」
「何ていうか謎だらけになってきたけれど」
「何なんだろうな」
考えてもわからないことだった。それで朝からいい加減煮詰まってきた。その五人のところに千佳が来てそのうえで声をかけてきたのだった。
「あの、いいかな」
「あっ、千佳ぽん」
「どうしたの?」
「今日の日直だけれど」
彼女が言うことはこれだった。ある意味非常に学級委員らしいことだった。
「伊藤さんだったけれど」
「あっ、うちか」
「日誌取りに行ってくれた?」
「悪い、忘れてた」
言われてからやっと気付いたことだった。
「それだよな。今行くな」
「御願いね。それで男の子の方はね」
「おう。誰なんだ?」
「野茂君だから」
彼だというのである。
「仲良くやってね」
「野茂っちかよ」
彼のその仇名を言ったうえで唇を尖らす春華だった。するとただでさえ鳥に似ているその顔がまるで水鳥の様になってしまったのだった。
「あいつとだと言い争いばっかになりそうだな」
「だからそこを気をつけて」
こう言ってきた千佳だった。
「それで御願いね」
「わかったよ。委員長に言われちゃ仕方ねえな」
今ではあまり使われなくなった千佳のもう一つの仇名である。
「まあいいさ。それじゃあな」
「御願いするわね」
「どうせあいつ日誌なんて取りに行ってねえだろうし」
この辺りは実に簡単に推理できることだった。
「行くか。ぱっと行ってな」
「ぱっと帰る。これよね」
「仕事は早くしないとな」
バイク乗りらしい言葉であった。
「それで後でゆっくりってな」
「そうそう」
「じゃあ春華」
咲と凛が笑いながら彼女に言う。
「行ってらっしゃい」
「車に気をつけてね」
「校内には流石に車はないと思うけれど」
半分わかって突っ込みを入れる千佳だった。
「流石にそれは」
「まあそうだけれどね」
「注意ってことでね」
五人もわかって彼女のその突っ込みにさらに返すのだった。
そうしたやり取りの後で日誌を取りに行く春華だった。それで教室に戻ってみるともう正道が学校に来ていた。
彼は最近の彼の常で自分の席に暗く座っている。そうしてその手にしているギターを持ってそのうえで机の上に広げている楽譜を見ていた。
春華はその彼を見ながらメンバーのところに戻り。そのうえで彼女達に問うた。
「で、あいつは」
「いつも通りよ」
「何も変わりなしよ」
こう答える四人だった。
「いつもとね」
「全く同じよ」
「そっか」
皆の言葉を受けてまずは応える春華だった。そのうえであらためて正道を見る。丁度彼の右斜め後ろを見る形になった。
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