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ある晴れた日に

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465部分:夕星の歌その五


夕星の歌その五

「牛乳か」
「それも濃縮だ」
 クラスでの会話そのままだった。
「まずはこれを飲め」
「幾らだ?」
「俺のおごりだ」
 こう言うだけだった。
「だから安心して飲め。いいな」
「御前のおごりか」
「それで飲めるか」
 おごりだと断ったうえでの再度の言葉だった。
「この牛乳な」
「牛乳も嫌いじゃない」
 佐々の今の言葉に対する正道の返答はこうであった。
「飲ませてもらう」
「そう言ってもらって何よりだぜ」
 佐々は彼のその言葉を聞いて笑みになった。しかし目は完全に笑ってはいない。何処か彼を見ている、そうした笑いであった。
「じゃあ飲め」
「ああ、わかった」
 言われるままその牛乳を飲む。一気に飲みそれからまた佐々に対して言うのだった。彼は最初と同じく正道の真正面に立ち続けている。
「じゃあ焼酎を頼む」
「ああ、わかった」
 言われるままその焼酎を一本出すのであった。つまみは冷奴だった。
「飲め」
「悪いな」
「つまみは豆腐でいいよな」
「いい。飲めれば何でもいい」
 ここでもこう言う正道だった。
「今はな」
「飲みたければ飲めばいい。しかしな」
「しかし。何だ?」
「これからうちに来る時は酒を飲む前に牛乳を飲め」
「何でだ?」
「飲み過ぎると御前自身によくないからだよ」
 自分を目だけで見上げてきた正道に対しての言葉だった。
「だからだ。俺はな」
「そうか。それでか」
「牛乳を飲むとその中の脂が膜になって胃の壁を覆うんだ」
 竹山に言われたことをそのまま正道に告げてみせた。
「だからそれでアルコールの過剰摂取を防ぐんだ。だから今日からは飲む前にまずだ」
「それで牛乳か」
「わかったな」
 半ば強制の言葉だった。
「それでな」
「わかった。じゃあな」
「ほら、わかったら飲め」
 自分で焼酎をコップに入れてそのうえで正道に差し出してみせた。
「飲みたい時に飲めばいい。それで御前の気が晴れるんならな」
「そうか」
「今日も好きなだけ飲め。サービスしておいてやる」
「悪いな」
「しかしな。身体には気をつけろ」
 そのことは強調する佐々なのだった。
「御前の身体のことだからな」
「身体より先にだな」
 ここでこんなことを言う正道だった。佐々が注いでくれたその焼酎を己の中に流し込みながら。そうして今も言う彼なのだった。
「俺の」
「俺の。何だ?」
「いや、いい」
 自分が言おうとしたのに気付いて止めたのだった。
「何でもない」
「そうかよ。じゃあいいさ」
「美味いものだな」
 今度は自分で注いでそのうえで飲むのだった。
「酒はな」
「そうは見えないんだがな」
 正道の目を覗くようにして見ながらの言葉だった。
「俺はそうはな」
「そう思うのなら勝手に思えばいい」
 今はこう返すだけだった。
 
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