IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ーそれぞれの愛情ー
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学園一の問題児
次の日、早朝掃除という拷問を終えた大和は教室にいた。
HR((ホームルーム))が始まるまでの間、ザワザワと声がする教室で机に顔を伏せながらぐーすかと貴重な睡眠を取っているようだ。登校する生徒が大和におはようと朝の挨拶を掛けても大和は顔を上げることなく手を振るだけだ。
学園一の問題児。
それが教員のみならず学校中の生徒達の大和の印象だ。入学式初日に豪快な朝寝坊をかまし、初の授業では鬼の千冬の前で睡眠授業、超が付くほどの短気な性格で教員に噛み付いたことだって何度あるかわからない。真面目とは真逆を地に行く大和だが問題児と思えないほど教員の評価は高い。まだ大きなテストらしいものは何一つ行ってはないが授業に行われる少テストでは常にクラストップを記録、体育でも運動神経の良さをこれ以上ないぐらいアピールし、クラス委員なども面倒臭いと文句を垂れながらも任されれば完璧にこなす。つまり簡単に言えばやる時はやる不良、それが大和の評価だ。素行の悪さは決して褒められたものではないが貢献度の高さはかなり高い。
そしてもう一つ特徴的なのは、
「神鬼くーん、寝てるところ悪いんだけどちょっといいかな?」
大和はゆっくりと顔を上げると声を掛けてきた少女を見る。
「何だよ……」
「ごめんね。これ、隣のクラスの友達から預かってきたんだけどよかったら食べてあげてくれないかな?」
そう言って少女は可愛らしい袋に入れられたクッキーを渡す。赤いリボンで括られたところは如何にも女の子らしさを感じさせた。
「あァ、いいぜ」
大和はクッキーを鞄に仕舞うとまた睡眠に入る。
大和の特徴、それはこのモテ度の高さである。
本来女性にしか扱えない兵器であるISを扱える男性の大和は一名を除けば全員女子生徒である学園では嫌でも注目を集める。それに加え非常に端正な顔立ちの大和は同じくISを扱える男性の天田空同様に非常によくモテる。学園内では空のファンならぬ天党、そして大和のファンならぬ大党という派閥らしきものまで出来ているらしいぐらいだ。
大和は伏せていた顔を横に向けると自分の隣の席を眺める。
(まだシャルは来てねェのか……。じゃあもうひと眠りすっかなァ…)
そう心の中で呟いて、大和は暫しの睡眠へと戻るのであった。
IS学園の屋上に、大和や空の担任である織斑千冬はいた。携帯電話を片手に誰かと通話しているようだ。
『そう。じゃあやっくんは無事に学園生活をエンジョイしてるんだね』
「あぁ。素行にはかなり問題はあるがそれ以外に関してはお前の期待通り模範生として過ごしている」
『当然! この天才束さんが手塩に掛けて育てた最高傑作なんだから。まぁ箒ちゃんには敵わないけどね♪』
千冬は一呼吸置き、次の言葉を紡ぎ出す。
「しかし最初は驚いたぞ。まさかお前があいつを自ら手元から離すとはな。随分と可愛がっていたのだろ? 他人には興味のない筈のお前が」
『束さんとしてはずっと手元に置いときたかったんだけどね。ただやっくんコミュ障だったから社会見学のつもりで送ったの』
「コミュ障か…。確かに入学時は大変だったぞ。いきなり生徒を3人程泣かしたからな」
『流石はやっくんね! ちーちゃんも彼のこと可愛がっているんでしょ? だってちーちゃんの好きな問題児だしね』
「あぁ、教育のしがいのあるやつだ。あいつの叱っていると自分が教師だと実感できる」
『まぁやっくんはちーちゃんぐらいしか止められないしね。それじゃあまた連絡するわ。じゃーね!』
そう言い残し、束は一方的に電話を切ってしまった。
(さて、私も教室に行くか。そろそろHR((ホームルーム))の時間だな…)
腕時計で現在時を確認し、千冬は自分の教室に戻るのであった。
「席に着け。HR((ホームルーム))を始めるぞ」
いつもと変わらぬ台詞を言いながら千冬は教室の扉を開く。先程までお喋りの声で賑わっていた教室はこの一言で一気に静まり返る。
「よし。全員揃っているな。ではHR((ホームルーム))を始める……いやその前にやることができたな」
そう言って千冬はある生徒の名前を呼ぶ。
「デュノア、お前の隣で爆睡している馬鹿を起こせ。手段は問わん」
クラスの一番後ろの席で絶賛夢の中にいる大和の隣の金髪の少女、シャルロット・デュノアにそう命じた。
「大和、起きて。先生が来たよ」
「zzzzzzz……」
「大和、HR((ホームルーム))始まるよ。起きて」
「んぅ……後三年………」
訳のわからない寝言を叩きながら一向に目覚めない大和に音もなく千冬が接近する。
バシィィイイイインッ!!、と聞いているこっちが痛くなるほどの強烈な拳が大和の脳天にヒットした。
「ッ!? 痛ェェええええええッ!!」
「それではHR((ホームルーム))を始める」
涙目でこちらを睨み付ける大和に目を向けようともせず、千冬は教壇の前で淡々と出席を取っていく。
「さて、何人かは知っているかと思うが来週の頭からクラス対抗戦が始まる」
千冬の言葉に教室が少しざわめき立った。
「ISの実戦的な授業が始まる前に君たちの実力を見るのが目的だ。だがしかし、私はそれ以上にこれはクラス間との交流、そしてクラスの団結を目指し行事だと思っている」
いまさら団結もクソもねェよ、と大和は思ったがここは何も言わず千冬の言葉に耳を傾ける。
「本来ならクラス代表である天田が出場するのが普通なのだがな、生憎このクラスは他のクラスとは違ってイレギュラーが多い。そこでこのクラスだけは特別に出場者決定戦が行われることになった」
先程以上に教室はざわめき立つ。おそらくイレギュラーの代表は空と大和のことだろう。
「では今からクラス代表決定戦のメンバーを発表する。名前を呼ばれたら返事をしろ。なお天田はシードだ。決勝まで待機してろ」
「わ、わかりました…」
ぶっちゃけ空からすればあまり出場したくはないのだが辞退を申し出れば千冬にどんな鉄拳を貰うかわからないのでここは素直に返事する。
「出場選手は……」
放課後、大和はシャル、空、モモの四人と学校内のカフェにいた。
大和は甘党である彼特製の超激甘ミルクティを片手にぶつくさと文句を言っている。
「ハァ…面倒臭ェ………。出たくねェのに…」
「まぁまぁ大和。そう文句言わないで」
「ありがとよシャル。けどやっぱり面倒臭ェよ。空にやらせればいいじゃねェかよォ……」
「そうもいかないわよお兄ちゃん。だってお兄ちゃんは世界で二人目の男性操縦者なんだもん。誰だってお兄ちゃんの姿見たくなるわよ」
「そォかい……。わざと負けよォかな…」
「そんなことした今度こそ首が飛ぶよ? 大和君…」
大和はもう一度深い溜息を吐くと、千冬からもらった組み合わせ表を見る。
「しかも相手はセシリアかよ。幼馴染潰すってのはなァ……」
「あら? 私はそう簡単に潰されるつもりはございませんよ」
後ろから声がしたので振り返ってみると縦ロールの長い金髪の少女、今回の大和の対戦相手であるセシリア・オルコットがキッと睨みを効かせて立っていた。
「相変わらずの神出鬼没だなァ。まさか丁寧にご挨拶でもしに来たのかァ?」
「笑えない冗談ですわね。今回は宣戦布告をしに参りましたの」
そう言ってセシリアはビシッと大和に指を向ける。
「大和さん、貴方とは幼馴染ですが相手になったからには容赦しません。全身全霊をもって、貴方を倒します」
「…ハハッ! そいつは面白ェ。そォいえばお前とISでヤり合うのは今回が始めてだったなァ…」
大和はセシリアの肩に手を置き冷たく言う。
「さっきはわざと負けるとか言ったがあれは取り消すわ。オレもヤるからには一切容赦しねェよ…」
明らかな大和の雰囲気の変化をその場にいる全員が感じ取った。その触れれば切てしまうナイフのように鋭く、そして目の前の獲物に食らい付く猛獣の如く鋭い雰囲気にセシリアは思わず冷汗をかく。
「オレをがっかりさせるなよ? セシリア」
そう言い残し、大和は一足先に学生寮へと帰って行った。
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