ある晴れた日に
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454部分:これが無の世界その三
これが無の世界その三
「真っ当な育成なんてとても」
「何か悪循環なんだな」
「そうね」
皆このことをよく実感することになった。
「今のベイスターズって」
「どうしようもないっていうか」
「昔はよかったわ」
そして遂にこの言葉が出された。
「全くね」
「九十八年か」
「もう遠いわね」
「短い春だったわ」
こんな言葉も出すのであった。
「あっという間だったわ」
「それが今では」
「あの状況ね」
「まああれよ。冬があるからこそ春がある」
今度はこんなことを言い出す明日夢だった。
「悲しみを怒りに変えてってね」
「まあ頑張れ」
「巨人じゃないから応援はするわ」
阪神ファンは巨人ファンには極めて優しい。彼等もであった。
「そういうことでね」
「まあ耐えなさいって」
クラスでずっとこんな話をしていた。中には学校でスポーツ新聞を読んでいたりする。紙面には堂々と阪神大勝利と書かれてさえいた。
その日は何事もなく終わった。正道は授業が終わるとまずは部活のメンバーのところに行って一言こう告げたのであった。
「今日は休ませてもらう」
「何だ?用事でもあるのか?」
「そうだ」
こう告げたのであった。
「だからだ。今日はな」
「そうか。じゃあ先生には伝えておくな」
「頼む」
これでこの日は部活を休むことになった。彼はその足である場所に向かった。その場所とは八条病院であった。この街にある最大の総合病院である。
八条の前にとてつもなく高く大きな建物があった。白いそのビルは奥行きもあり病院としては極めて大きなものであった。学校の校舎を思わせる建物だったがかなりの大きさだった。
その玄関を潜りそこから中に入った。そのうえでまずは病院の中を歩き回ることになった。
病院の中はクリーム色の廊下と白い壁でどの場所の均一化していた。もっと言えば個性がない。彼はその没個性の中を進んでいた。
「面会謝絶となると」
時折入院している患者の服の者と擦れ違う。その青っぽい服を見ていると確かにここが病院であると強くわかるのであった。
だが今は彼はそれには目をこれといってやらず先に進んだ。進む先は特別病棟であった。入り口の地図からそこが何処にあるかわかっていたのだ。
そのうえで先に進み遂にだった。その目の前にこう書かれている看板を見たのであった。隔離病棟、と。
「よし」
その赤と白の如何にも特別なものであることを指し示す看板を見てまずは頷く正道だった。そして意を決した顔になり今足を踏み出したのだった。
隔離病棟は確かに厳重なドアにより隔離されていた。先は見えない。しかし今その扉は開いていた。どうやら誰かが鍵を閉め忘れていたらしい。
それが幸運だったか不運だったかはわからない。しかし正道が今そのドアを開き中に入ったことは事実だった。そうしてそのまま先に進むのだった。
隔離病棟の中は暗く廊下であっても夜の如くだった。非常灯の他は何もなく扉さえも碌に見えはしない。しかしその部屋のそれぞれに人の名前や科を示す文字が書かれているのは見えた。
人もいない。いるのは彼だけだ。そこに強い孤独と周囲の不気味な静けさから恐怖も感じていた。だがそれでも彼は先に進むのだった。
「何処だ」
彼は薄暗い廊下を進みながら左右の部屋の患者の名前を見ていた。そこに未晴の名前があるのかどうか確かめているのだ。
今入った階にはなかった。階段を昇り別の階を調べる。それを何度か繰り返してだった。
未晴の名前が書かれていた部屋を見つけた。部屋の番号も確かめた。そこには確かに竹林未晴と書かれているのであった。
「ここだな」
部屋の扉の前に立つ。そこはクリーム色のプラスチックの扉だ。ドアも金属のものである。その扉の前で一旦頷き。そして扉を開けた。
そうして中を見る。だがここで彼は。言葉を失ってしまった。
「な・・・・・・」
言葉を出そうとして絶句してしまった。それ以上言うことは今の彼には。とてもできなかった。
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