ある晴れた日に
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438部分:辺りは沈黙に閉ざされその五
辺りは沈黙に閉ざされその五
「飲むのはいいけれど虎になったら駄目よ」
「虎になったら好都合じゃない」
「ねえ」
クラスの面々の大半はその虎という言葉に反応してこう言うのだった。
「虎になればそれこそ」
「猛虎になれるから」
「猛虎と虎は違うのよ」
しかしその皆に今度は田淵先生が告げてきた。
「わかるかしら、この違いが」
「あれっ、違うんですか?」
「猛虎と虎って」
「違うわよ。猛虎はまさに甲子園で咆哮する永遠の猛者」
関西を中心にそうなっている。少なくともそれを応援する人間にとって阪神の選手とはそうあって欲しいものなのだ。現実は中々難しかったりするが。
「それに対して虎はね」
「ただの酔っ払い?」
「そうなるのかしら」
「そうよ」
まさにそれだというのだった。
「それよ。虎はただの虎よ」
「猛虎じゃないって」
「そういうことですか」
「わかったら猛虎になりなさい」
田淵先生はまた皆に告げてきた。
「ただの虎じゃなくてね」
「ちぇっ、猛虎なのによ、もう」
「そんなこと言われるなんて」
皆今の田淵先生の言葉にいささか口を尖らせてしまった。
「それに煙草もシンナーもやらないし」
「私達真面目よね」
「クスリなんかもっての外だしよ」
「物凄く真面目よ」
「全部論外よ」
「そういったのはね」
先生達はそういったものは全否定なのだった。何一つとして欠片も認めようとしない。酒はよくてもこうしたものは一切駄目だというのだ。
「煙草は百害あって一利なしよ」
「そこのところ気をつけてね」
「この町ってお酒はいいけれど」
しかも未成年である。今更であるが。
「煙草とかは一切駄目だからね」
「まああんなのしても何にもならないけれど」
「他にはパチンコもな」
とにかくそういったものは一切駄目だというのがこのクラスの面々だった。
「人間真面目にやらないとな」
「全く」
そのうえでこうも言うのだった。とにかく酒はいいがそうしたことは全くしないのが彼等のポリシーでありそれを忠実に守っていた。
その忠実に守る彼等が。今度は自分達から尋ねるのだった。
「それで先生」
「竹林は?」
「風邪大丈夫ですか?」
皆何気なく聞いた。しかし今の彼等の問いに先生達の顔は。急に曇ってしまいしどろもどろになった調子で返すようになってしまった。
「え、ええ」
「それはね」
二人共慌てた顔で皆に返す。
「ちょっとね。今は入院してるけれど」
「命に別状はないから」
「命にって」
「そんなにまずいの?ひょっとして」
特に五人が今の先生達の言葉に怪訝な顔になった。
「あの、未晴って肺炎ですよね」
「しかも入院するまでって」
「肺炎がこじれて一時肺膿になりかけたのよ」
「だから今はね」
何故かさらに慌てふためいた調子になっていた。そう、何故かである。
「絶対安静だから」
「ちょっと待ってて欲しいのよ」
「あのさ、先生」
春華が右手をあげて先生達に尋ねてきた。
「よかったら病院教えてくれません?」
「えっ」
「病院!?」
春華の今の問いに今度はぎょっとした顔になっていた。
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