ある晴れた日に
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383部分:目を閉じてその十
目を閉じてその十
「それでもね。何ていうかね」
「飲めないとか?あと食べられないとか」
「ひょっとしてそれか?」
「そうよ。それがね」
困るというのであった。実際に明日夢は口をシャコガイのようにさせてしまっている。実に見事に波打っているのがはっきり見える。
「見てるだけだから」
「そういえばいつも店番している時に何食べてるの?」
桐生はこのことを彼女に尋ねた。
「何も食べてないわけじゃないよね、やっぱり」
「厨房にいる時に食べてるの」
こう桐生に答えて話すのだった。
「いつもね。その時に食べているのよ」
「そうだったんだ」
「大抵お客さんと同じものを作って食べるのよ」
そうしているというのである。
「その中で栄養が偏らないようにしてるのよ」
「成程ねえ」
「いつもそうやってたの」
「そのせいかどうかわからないけれど」
口の形が変わった。今度はひょっとこのようにとんがった。
「背は伸びなかったのよ」
「それは関係ないわよ」
「絶対にな」
しかしこれはすぐに皆に否定された。
「だって少年のお母さん見たけれど」
「見たの?」
「白鯨のおかみさんでしょ」
凛が言うのだった。
「あの人よね」
「そうだけれど」
「あの人も小さいじゃない」
彼女はそこを指摘するのだった。
「それも少年と同じ顔だし」
「つまり遺伝かよ」
「だから北乃って小さかったのか」
「成程ね」
皆今の凛の言葉で納得するのだった。
「遺伝ならちょっとやそっとじゃ覆せないしな」
「仕方ないわね。それは」
「仕方なくはないわよ」
言われた明日夢としては認めたくはないことだった。実際にそれを口に出す。
「私だってね。子供の頃から牛乳飲んであれこれ努力してたのよ」
「その努力の結果は?」
「骨が強くなったわ」
牛乳はカルシウムの塊である。それを飲んでいればどうなるかは自明の理であった。
「あと髪の毛が黒々として多くなったわ」
「背にはいかなかったの」
「そうよ。残念だけれど」
このことも自分から認める明日夢だった。
「伸びなかったわ。結局」
「あと胸もだよな」
坪本がそこを指摘した。
「全然大きくならなかったとかか?」
「胸は別にいいのよ」
そちらは殆ど気にしていないようであった。
「別にね。それはね」
「いいのかよ」
「胸はいいの」
明日夢は胸を張って言う。しかしその胸はエプロンのせいで見事に隠れてしまっている。エプロンはそうしたものも隠してしまうのだった。
「それはね」
「じゃあやっぱり背なんだ」
「そうよ。背よ」
このことを何度も言うのだった。
「伸びなかったのよ。どうしても」
「やっぱり遺伝って強いんだな」
「そうね」
皆今の明日夢の言葉からこのことを強く実感するのだった。
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