ある晴れた日に
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377部分:目を閉じてその四
目を閉じてその四
「つまりな。勝負は時の運なんだよ」
「時の運かよ」
「そうだよ」
かなり苦しい言い訳であった。
「あの時江夏を中日戦で使っていればよ」
「何であの時江夏を出さなかったの?」
これは恵美の問いだった。
「出せばよかったのに。何でよ」
「さてな」
「どうしてかしらね」
これについては阪神ファンの面々もどう言っていいかわからなかった。もっと言ってしまえば答えることのできない話であった。
「巨人キラーの江夏を最終戦に出さないで」
「中日に強かった上田を中日に出さないで」
「しかも。あの時って確か」
咲もホークス以外になると冷静に述べるのだった。
「星野さんのどう見ても打ってくれっていう真ん中へのボール全然打てなかったじゃない」
「だから勝利の女神に見放されていたのよ」
「そのせいなんだよ」
やはり非常に苦しい言い訳であった。
「そのせいでね。だから」
「それはできなかったんだよ」
「残念ながらな」
「おかげで憎むべき巨人は九連覇」
咲の言葉は殆どならず者国家のニュースキャスターになっている。いつもピンク色の服を着て絶叫にも似た言葉を出しているあの人である。
「阪神がしっかりしていれば九連覇なんてなかったのよ」
「ちっ、阪神だけ何でこんなに言われるんだよ」
「その時スワローズもドラゴンズもさっぱりだったのに」
「言われるのが阪神なのかな」
桐生はその中でぽつりと言った。
「やっぱり」
「ああ、滅茶苦茶言い易いよな」
「確かにね」
春華と茜がそれに頷いた。
「勝っても負けても何か絵になるしな」
「そうそう。どんな勝ち方でも負け方でもそうなるのよ」
二人も何だかんだで阪神に好意的であった。
「巨人なんて勝ったら頭にくるだけだけれどな」
「無様に負けることこそが似合ってるわよ」
やはり皆巨人が嫌いであった。このクラスにいないのは巨人ファンであった。
「もうね。とことんまでな」
「負けてくれるのが日本にとってもいいことなのよ」
巨人を叩くとなれば言葉がさらに進むのであった。
「負けて国民の元気が出るからね」
「そうだよね。日本経済にとってもいいよね、皆頑張って仕事できるから」
桐生や加山といった理知的な面々でさえこう言うのであった。
「本当に帝王トランザみたいになって欲しいけれど」
「いつもそうなって欲しいね」
そこまで言うのであった。なお帝王トランザとはジェットマンという特撮番組に出て来た悪役である。その無残な末路は筆舌に尽くし難い。
「是非ね」
「本当に」
「阪神が勝ったら宿題もはかどるんだけれどね」
静華は心にもないことを言うのだった。
「もうね。巨人に勝ったらそれこそ力百倍よ」
「それって少年も同じようなこと言ってたわよ」
凛もここで言うのであった。
「横浜が巨人に勝てばそれで勉強する気が出るって」
「じゃあ出ないな」
今はっきりと言い切ったのは坂上だった。
「今年巨人に何回勝ってるんだよ、横浜」
「今のところ二回だけ?」
つまり後は全部負けているのである。
「勝ったのって」
「二回かあ」
「どれだけ負けてるんだよ」
皆横浜ファンではないがそれでも呆れるに足るものであった。
「しかもボロ負け続きだしな」
「っていうかそればっかり」
さらに始末が悪いのであった。
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