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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第56話 氷点下の決戦、三つ巴の戦い!

side:イッセー


「こいつで終わりだ!」


 襲ってきた猛獣『白銀グリズリー』の胴体をナイフで切り裂いた。白銀グリズリーは雄たけびを上げながらゆっくりと地面に倒れこむ。


「よし、一丁上がりだぜ!」
「やりましたね、先輩!」


 白銀グリズリーを捕獲すると、小猫ちゃんが勢いよく飛びついてきた。可愛いなぁ。


「腹が減っては戦は出来ないからな。早速こいつを焼いて……」
「あっ、先輩待ってください。その白銀グリズリーを私に調理させてもらえないですか?」
「何を作るんだ?」
「ズバリ、角煮を作ってみようかと思います」
「おおっ!角煮か!」


 俺はそれを聞いて涎が出てきた。どんな角煮になるのか楽しみだぜ。


 そして小猫ちゃんが白銀グリズリーの調理に入った。丁寧に下ごしらえをしていき調味料を入れた鍋で白銀グリズリーの肉を煮込んでいく。


「ここにさっき見つけた氷柱のらっきょう『つららっきょう』を入れて……完成しました!白銀グリズリーの角煮です!」


 うおぉぉ!香ばしい匂いが辺りに広がってきたぜ!


「うわぁ……美味しそうですね!」
「へぇ、中々のもんだな」


 滝丸とマッチは初めて見る小猫ちゃんの料理の腕に驚いていた。最近かなり上達したもんな。


「それではいただきます。あむっ……美味い!白身魚のようにあっさりしていながらも歯ごたえがあってジューシィな味わい!白銀グリズリーの肉は最高だな!」


 夢中で白銀グリズリーの角煮を食べていく俺達、巨大な白銀グリズリーの身体はあっという間に骨のみになってしまった。


「ふぅー、食った食った」
「お腹いっぱいですぅ」


 アーシアも腹が減っていたのかいつもより多く食べていた。いやぁ、小猫ちゃんの作った角煮は最高だな!


「それにしても綺麗なオーロラね」
「僕はオーロラを初めて生で見ましたが、想像以上に美しいですね」


 リアスさんと祐斗は俺達の上で光を放つオーロラに見とれていた。


「あのオーロラはセンチュリースープが風に乗って出来る『美食のカーテン』とも呼ばれていて、まるで100年間閉ざされていたレストランのカーテンが開き客を招き入れるかのようにセンチュリースープの元に案内してくれる道しるべになるらしい……ってカーネルのおっさんが言っていたな」
「何だかロマンチックね、イッセー君にプロポーズしてもらうならこんなシチュエーションが良いなぁ……」
「わたくしもイッセー君からのプロポーズを待っていますからね♡」
「私はイッセーさんのお側にいられればそれで充分ですよ」
「最高のシチュエーションを期待していますよ、先輩♪」


 イリナははぁ~っ……と感傷に浸ったため息を出しながら俺の腕にくっ付いてきた。すると負けじと朱乃さんが反対の腕にくっ付いてきて、膝の上にいたアーシアがスリスリと甘えてきた。そして背中に小猫ちゃんが引っ付くと、俺の顔に頬すりをしてくる。


「ま、まあそれはいずれな……」


 結婚か……この年だとあまりそういう事は意識したことがないな。でも責任は取るつもりだしいつかは真剣に考えないといけないんだよな。


(後で祐斗にでも相談してみるか……)


 そんなことを考えていると、不意に背後から何かが近づいてくる気配を感じ取った。振り返ってみると小さなペンギンの子供がこっちに歩いてきていた。あれは……


「ユーン!」
「イッセー、この生き物は?」
「こいつは『ウォールペンギン』の子供だな。一匹だけでいるなんて珍しいな」


 ウォールペンギンの子供はこっちに来ると、嬉しそうに跳ねたりその場で回転したりとはしゃいでいた。


「うわぁ!すっごく可愛いわね!ほら、こっちにいらっしゃい」


 リアスさんが手を差し出すと、ウォールペンギンの子供はその手にお手をした。


「キャー!可愛い!!」
「部長、私にもその子を抱っこさせてください!」
「まあ……人間に慣れているのかしら?」


 リアスさんが触っても小猫ちゃんが抱き上げてもウォールペンギンの子供は逃げようとしない。そんな姿に朱乃さんが驚いた表情を見せる。


「ウォールペンギンの子供は警戒心が全く無いんです。南極に住むペンギンも人が近づいても逃げなかったりしますがウォールペンギンの子供は触っても逃げようとしません。寧ろ懐いてしまうくらいです」
「へー、普通のペンギンも逃げたりしないんだ」
「肉も不味いって聞くし人間がペンギンに危害を加えたりしないから、近づく位なら案外逃げないらしいぜ。まあちょっかい出そうとしたらビンタされることもあるらしいから気を付けないといけないぞ」
「どうしてだ?微笑ましい光景じゃないか」
「ペンギンのビンタは大人でも骨を折られるくらい協力だからな。ウォールペンギンの親も捕獲レベルが30はあるから殴られたりしたら昇天するぐらいにヤバいぜ」
「ふむ、可愛らしい見た目に侮ると痛い目を見るという訳か」


 俺の説明に感心していた祐斗、だが実際ペンギンの力は凄まじく骨も折れてしまうくらいなのでビンタされたらマジでヤバい。

 
 それをゼノヴィアに説明すると少し感心したような表情でうんうんと頷いていた。何を感心しているんだ?


「ユンユン!」
「あはは、くすぐったいですよー」
「小猫ちゃん!次は私に触らせて!」
「あたしも触りたいー!」


 小猫ちゃんの柔らかほっぺをつんつんと嘴でつっつくウォールペンギンの子供、そんな姿に心を奪われたのかイリナやティナもウォールペンギンの子供に触りたいとはしゃいでいた。


「あまり手荒な事はするなよ、ウォールペンギンは絶滅危惧種だからな」
「えぇ?そうなんですか?」
「ああ、見ての通りウォールペンギンの子供は警戒心が全く無い。だから人間じゃなくて肉食の猛獣にも寄っていってしまうんだ」
「可哀想です……」


 俺の説明にアーシアが悲しそうな表情を浮かべた。まあこればっかりはどうしようもないんだよな、そういう習性だから。


「ただそれは子供に限った話だ。親は逆に凶暴で一度暴れたら手が付けられない、おまけに子供連れた熊並みに神経質になっているから今頃必死で子供を探しているだろうな」
「えっ、じゃあ今この状況をウォールペンギンの親が見たら……」
「間違いなく襲ってくるな、なにせ俺達が誘拐したようにしか見えないし」


 それを聞いた小猫ちゃん達は顔を真っ青に変えていた。ウォールペンギンの子供だけは小猫ちゃんの腕の中で嬉しそうにはしゃいでいたが。


「まあすぐに逃がしてあげれば大丈夫さ」
「あはは……」
「ユンユーン!」


 小猫ちゃんは複雑そうな表情を浮かべていたが、まあ何とかなるだろう。


「親とはぐれた子ペンギンか……小猫、しっかりと面倒を見てやれよ」
「マッチさん……?」


 マッチは立ち上がって小猫ちゃんの頭を軽く撫でると、テントの方に向かっていった。


「もう寝るのか、マッチ?」
「ああ、少しばかり疲れちまったからな。悪いがオレぁ先に休ませてもらうぜ」
「分かった、見張りは任せてくれ」


 マッチは腕を振るとそのままテントの中に入っていった。


「マッチさん、そんなに疲れていたんですね」
「そうみたいだな……」


 顔には出さなかったが、マッチもかなり消耗していたな。マッチの居合は脱力から刀を抜く際の『瞬発力』が命……より力を抜いた状態からより緊張した状態へと瞬間的な力の落差が大きいほど破壊力は増す。しかしそれはそのまま気力体力の消耗に比例するはずだ。


(立っているだけで体力をどんどん奪われる極寒の大地、見た目以上にマッチは疲労しているんだろうな)


 俺はマッチの状態を考えていると、小猫ちゃんがルイ達に声をかけた。


「そういえば、マッチさんやルイさん達はどうしてこの旅に参加したんですか?やっぱりセンチュリースープが飲みたかったからなのでしょうか?」
「……どうしてそんなことを?」
「あっ、いえその……単純な好奇心です。もし不快にさせたのならすみませんでした……」
「ははっ、そんな顔をしなくてもいいさ。別に隠すことでもないしな」


 ルイ達はサングラスを外すと、自身達の生い立ちについて話し出した。


「俺達は『ネルグ街』という町の出身なんだ」
「ネルグ街……?初めて聞く場所ですね」
「ネルグ街はIGO非加盟のグルメ犯罪都市と呼ばれるスラム街の事だ」
「流通の禁止された食材が公然と出回る無法地帯ですね。グルメ刑務所に収監されている囚人の約一割はネルグ街出身という犯罪者生産工場ですよ」


 俺と滝丸がネルグ街について皆に話すと、小猫ちゃん達はちょっと怖そうな場所をイメージしたようで恐れの混じった表情を浮かべていた。


「……っあ!ごめんなさい。私達ってばつい顔に出してしまって……」
「気にするな、俺達はそのネルグ街の裏社会を統治する『グルメヤクザ』の一員だ。そんな表情をされるのは慣れている」
「むしろ忌み嫌われて当然の存在だしな」
「違いない」


 リアスさんはつい嫌そうな表情を浮かべてしまった事に謝罪をする。だがルイ達は気にするなと腕を振った。


「……マッチが金を目的にこんな旅に参加したとは思えないな。他に目的があるのか?」
「当然センチュリースープを手に入れるためさ。スラムで待つ子供たちの為にな」
「スラムの子供たち……?」


 俺はマッチ達が金目的でこの旅に参加したとは思えなかったので、質問をしてみるとシン達は自身の目的を話してくれた。子供と聞いたイリナは目を丸くしている。


「ネルグ街のスラムには身寄りをなくした子供も多くいるんだ。いわゆるストリートチルドレンって奴だな」
「俺達も元々はそのストリートチルドレンの一人だった。毎日一食を食うだけでも大変だったよ、そんな俺達に食べ物を恵んでくれたのが他ならぬマッチさんだったのさ」
「当時のマッチさんはグルメヤクザの若頭だった。普通ならガキなんかにかまったりしない立場にいる人だったのに、あの人は何の見返りもなく俺達に食べ物を恵んでくれたんだ。あの時見たご馳走の美味さときたら……言葉に出来ないくらいさ」


 ラム、シン、ルイは本当に嬉しそうな様子で当時の事を語ってくれた。なるほど、この三人にとってマッチは命の恩人って訳か。


「それで貴方方もグルメヤクザになったんですか?」
「ああ、少しでもマッチさんの力になりたくてな」
「俺達は救われたんだ。たった一度のご馳走で大げさかもしれない……でも俺達はハイエナから人間になれた……全部マッチさんのお蔭さ」
「あの人もかつては俺達と同じ立場だったらしい、それを救ってくれたのが組長だったんだ。組長はマッチさんにこう言ったそうだ。『恩なら自分ではなく、同じように苦しむ子供に分けてやれ』ってな」
「素晴らしい言葉ですわ……」


 朱乃さんの言う通り素晴らしい言葉だな、その組長って人に会ってみたくなったぜ。


「最大の悪は貧困だ。虎児はその犠牲者と言っていい……元々子供には何の罪もねえからな」
「俺達グルメヤクザはさっき言っていた違法な食材をさばいたりもするクズさ、忌み嫌われるのは当然の事。でもそれでネルグ街で生まれたからって子供たちまで同じ扱いを受けるのは納得できない……!」
「マッチさんはいつも言っているよ、『まずは食わせてからだ、善人も悪人もそれからだ』だと……」


 皆はラム達の言葉を聞いていろいろと考えさせられたようだ、勿論俺も考えさせられた。


 飢えに苦しむのに階級も年齢も関係ない、それは分かっていても貧富の差というものは必ず出てしまう。だから彼らみたいに悪事に手を染めないと生きていけない人間が存在する。


 恵まれた人間はそれを戯言だとか悪人に仕方なかったど無いと非難をする。だが実際にそういう人達の話を聞くと、やっぱり人間って難しい生き物だなと思ってしまうよ。


「……正直マッチさん達がヤクザと聞いて怖いと思ったわ。でも彼らは善人ではないけど悪人でもないわね。悪魔だってそう、裕福な暮らしをする貴族の陰で十分な教育を受けられない下級悪魔もいる。それを知っていながら私は何もしなかった。それに比べて子供たちの為に行動しようとする彼らの方がよっぽど輝いて見えるもの」


「ええ、僕達だって悪魔の家業をしていますしはぐれ悪魔の命を奪ったりしました。もしかしたらその中には仕方なくはぐれ悪魔になった者もいたはずです、僕たちはそれを平然と切り捨ててきた。でもそうしないと無関係の人に被害が出てしまう……マッチさん達も同じです、彼らの行いで苦しむ人もいるけど救われた人もいる。本当に正しい事なんて僕達には分からないから自分ができることをするんだね」


「堕天使だってそうですわ。元は高潔な天使だったけど欲に溺れて堕天してしまった身勝手な生き物……そんな欲望の塊に比べたらマッチさん達のしていることを責めたりできません」


「人間だって妖怪だってどうしようもない時はあります……そんな時に手をさし伸ばしてあげられる人を私は純粋に凄いと思いました」


「私の神器は人の傷は癒せます、でも飢えはどうあがいても癒してあげられません。主に祈りをささげてもそんな事でお腹が膨れる訳ない事は今ならわかります。それに教会にいた頃生きるために悪いことをしてしまったと懺悔してきた人を何人も見てきました。神官は平然と許されざる事をしたと言ってしまいましたが、その人たちの気持ちは実際にその経験をした人じゃないと分からないですよね」


「私には親はいないが、側にいてくれる人たちがいた。だからスラムの子供たちに比べればよっぽど裕福な生き方をしてきたと改めて知ったよ。違法な食材を流通させるのは間違っているが、そうしないと救えない命もあるか……難しい話だな」


「そうね、批判するのは簡単だけどそういう人達に限って何もしないからね。私もヤクザなんて悪い人達っていうイメージがあったけど、こういう話を聞くとそれも考えさせられるわね……」


「私も実家は裕福な方ですし魔法で何でもできちゃいますが、そういう苦しむ人達を助けてあげることは意外と出来ないんですよね……」


「あたしも貧困に苦しみ人を取材したりしたこともあったけど、その時は正直気にもしなかったわ。やっぱり豊かな人間って逆に心が貧しくなってしまうものなのね。必要悪って言い方はおかしいかもしれないけど、マッチさん達のような存在が必要な人たちもいるのは事実ね」


 上からリアスさん、祐斗、朱乃さん、小猫ちゃん、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、ルフェイ、ティナの感想だ。
 皆は彼らのしていることは間違っているが、ある意味正しい事を知った。時には正しさが人を殺すこともある、何が大事なのかは結局自分で考えるしかないな。


「……なんか済まないな。暗い話をしてしまったようだ」
「いえ、貴重なお話をさせてもらって嬉しかったです。他にマッチさんの武勇伝などはあるんですか?」
「応っ!勿論あるぜ!どれから話せばいいか分からないくらいあるが、やっぱり一番の武勇伝は不当に食材を牛耳っていたネルグ街の金持ちどもに単身挑んだあの決戦が……」


 マッチの活躍を話す三人の顔は、まるでトランペットを買ってもらった少年のように生き生きとしていた。


「……」
「滝丸?どうかしたのか?」


 小猫ちゃん達がマッチの武勇伝で盛り上がっているんだが、その中で滝丸だけが黙り込んでいたので俺は声をかけてみる。


「あ、いえ……ボクは正直ネルグ街の出身者を何処かで軽んじていました。犯罪者しか生まない街だって……」
「まあ事実だしな」
「でも皆さんの話を聞いて、自分はなんて浅はかな考えをしているんだって思い知らされました。グルメ騎士は断食をすることもありますが、それはあくまで自らを高めるためにするもの。スラムの子供たちは食べたくても食べられないのに……」
「滝丸だって俺達と一つしか違わないじゃないか、そんなに自分を思いつめるなよ。それにお前だって何か目的があってこの旅に参加したんだろう?」
「……えっ?」
「今回の仕事は他のグルメ騎士のメンバーは知っているのか?」
「そ、それは……」


 俺の質問に滝丸は何も話そうとしなかった。ってことはやはり……


「伝えていません。今回の事はリーダーすら知らないボクの独断なんです……」
「やはりそうか。グルメ騎士が信仰しているグルメ教には『素食』の教えもある、センチュリースープはその教えから大きく離れたもの……仮に理由があったとしても新人一人で行かせられるような仕事ではないからな」


 でもまさかアイにまで言っていないとは思わなかったぜ。


「どうして独断でこんな仕事をしようと思ったんだ?」
「お、お金がいるんです……それも大金が……」
「お金……ですか?」


 アーシアは滝丸の目的がお金だと聞いて首を傾げた、だが滝丸の様子を見るに並みならぬ理由がありそうだ。


「ええ、癒しの国『ライフ』に売っているいう薬を買うために……」
「薬?誰かが病気なのか?」
「はい、その病気を治せるかもしれないのがライフで売られている薬なんです……」
「ふっ、なんだ。お前だって人助けが目的じゃないか」
「ああ、立派な目的だ」


 滝丸の話を聞いていたルイ達も、彼の目的に理解を示していた。まあ自分たちと同じように危険を冒してここに来ているんだからな。


「でもグルメ教の教えでは確か薬の使用は禁止されていなかったか?」
「その通りです。グルメ教には自然のままに命を委ねるという教えがあります、だから人工的な薬品の投薬はその教えに背く行為です……だけど!」


 滝丸は目から涙を流して立ち上がった。


「でも癒しの国ライフなら……!天然の薬品や治癒食材が多く揃っています!天然物なら教えに背くこともない!だから……だから……!」


 滝丸は身体を震わせながら拳を強く握ってそう話した。


「滝丸さん……」


 小猫ちゃんはそんな滝丸の姿に彼がどんな思いでここに来たのかを感じ取っていた。他の皆も同じように……


「滝丸」
「イッセーさん……」


 俺は滝丸の肩に手を置いて彼に話しかけた。


「詳しい事は分からないが、お前のその誰かを想う涙はセンチュリースープに負けないくらいの価値がある!絶対にその人を助けられるさ。人は誰かの為に行動する時に最も強い力を発揮できるもんだ、ここにいる全員でセンチュリースープを必ず手に入れようぜ!」
「イッセー先輩……」


 俺の言葉に全員が頷いて手を合わせた。ここにいる全員が力を合わせれば、必ずセンチュリースープは手に入るさ。


「そういえば、イッセーさん達はどうしてセンチュリースープを?」
「決まってんだろ、飲みたいからさ」


 俺の問いにルイ達と滝丸は「へっ?」というような反応をして一瞬動きを止めたが、すぐに大きな笑い声を上げながら「らしいな」という言葉をかけてきた。


 その後俺達はリアスさん達が悪魔だという事、イリナやゼノヴィア達が宗教に入っているなど異世界に関係するような話せない内容以外の事を彼らに話した。


「まさか生きているうちに悪魔に会うなんてな、俺達も年貢の納め時か?」
「まあこんな別嬪さん達が悪魔って言うならいくらでも来てほしい物だな」
「あらあら、お上手ですわね」
「へぇ、ゼノヴィアさん達は同じ組織に入っているけど宗教はそれぞれ違うんですね」
「ああ、私はカトリックでイリナはプロテスタントというんだ」
「でもそんな宗教は聞いたことが無いですね」
「まあグルメ教と比べれば小さい組織だからな……」
「そ、そうよ!そういう事……!」
「?」


 ……一部危ない奴らがいるがな。とにかく俺達は立場や年齢という枠を外れて確かな友情が芽生えていた。


 ……だがそんな時にも平然と悪意というのはやってくるものだ。


 ドガアアアァァァァンッ!!


「な、なんですか!?」


 突然氷山にて大きな爆発音が響き渡った。俺はこの爆発が奴らの物だと本能的に気が付いて叫んだ。


「敵だ!おそらく美食會の奴らが来やがったんだ!」
「美食會……噂通りに過激な奴らだな」
「イッセーさん、奴らの狙いは……」
「無論スープだろうな、荷物は置いて先に進むぞ!」


 テントから出てきたマッチと滝丸に敵の存在を話しておいたが、やはり来たようだな。俺達は急いでセンチュリースープを探すことにした。


「せ、先輩。この子付いてきてしまうんですがどうしましょうか」


 小猫ちゃんは抱き着いてくるウォールペンギンの子供をどうしようか迷っていた。


「懐いてしまったのなら仕方ない、一緒に連れていこう。どのみち一匹では非力だし見捨てるもの気分が悪いだろう?」
「勿論です」
「じゃあその子供は小猫ちゃんに任せるよ、俺達は敵と戦うから」
「任せてください!」


 小猫ちゃんはウォールペンギンの子供を抱っこして走り出した、俺達もそれを追って先を目指していく。


「爆発が広がっていますね……」
「なりふり構わずって感じだな。急がないとグルメショーウインドーまでぶっ壊されちまう……!?」


 俺は何か迫る気配を感じ取って夜の空に視線を送った。すると何か小さな物体がこちらに向かって飛んで来るのが目に映った。


「皆、気をつけろ!何かがこっちに向かって飛んできているぞ!」


 こちらに飛んできていた生物はクワガタのような昆虫だった。凄まじい速度で動くその昆虫はアーシアに目掛けて飛んで来やがった。


「アーシア!」


 俺はアーシアをかばってそいつの鋭い顎を背中で受けた。がぁ……いてぇ!


「イッセーさん!?」


 背中から肩を突き破って昆虫が姿を現した、こいつは寄生昆虫か……!


「皆、こいつは寄生昆虫だ!体の中に潜り込まれないように注意しろ!」


 俺は素早く動く昆虫からアーシアを守りながら指示を出した。


「この!」
「やあぁぁ!」


 リアスさんとルフェイが滅びの魔力や炎で攻撃を仕掛けるが、昆虫はそれらをすべてかわして二人の腕や足を切り裂いた。


「きゃあ!?」
「部長!ルフェイちゃん!コイツ!」


 祐斗が聖魔刀で攻撃するが、それすらもかわしてしまった。


(バカな!?祐斗の攻撃を回避するとはどんな速度をしているんだ、あのクワガタ!)


 攻撃をかわした一体の昆虫が祐斗の右腕にくっついた、そして大きな顎で祐斗の右腕を切断してしまう。


「ぐわあぁぁぁ!?」
「祐斗ォォォ!!」



 俺はナイフで昆虫を攻撃するが、やはりかわされてしまう。昆虫は俺の腹に顎を突き立てるとそのまま体の中に侵入しようとする。


「捕まえたぜ……!」


 だが俺は逆にそれを利用して筋肉で昆虫を捕まえた。そして指で掴み昆虫を引きずり出してフォークで串刺しにする。


「バラバラになりやがれ!」


 俺はナイフを放ち昆虫を跡形も残さずにバラバラに切り裂いた。


「アーシア!」
「任せてください!」


 祐斗の腕を回復させるアーシア、だがこいつら中々に手ごわいな……!


「喰らえ、アイスガン!」


 ルイ達は冷気を弾にして発射する武器で昆虫を攻撃するが、硬い外殻に弾かれてしまい効果がない。


「こいつら……銃が効かないのか!?」
「どいていろ、シン!」


 マッチはシンに攻撃をしようとした昆虫を刀の鞘で弾き飛ばした。


「こいつらは外殻が硬い、関節部を狙うんだ」


 マッチはふらふらとよろめいていた昆虫の関節部に刀を突き刺した。


「目打ち『一輪刺し』……!」


 そして昆虫を突き刺したまま刀を一回転させると、見事昆虫を一刀両断していた。


「回転、『かぶと割り』!!」
「やった……!」


 だがマッチに斬られた昆虫は空中で体を動かすと再びシンに襲い掛かった。


「何だと!?」
「7連!釘パンチ!!」


 だがそこに俺が乱入して7連で昆虫を木っ端微塵にする。


「す、すまないイッセー。助かった……」
「マッチ、そいつら昆虫には神経節という小型の脳を体の各部に持っている。真っ二つにしたくらいじゃ平気で動いてくるぞ」
 

 しかしどうしてこんな極寒の地に昆虫がいるんだ?ツンドラドラゴンの頭にもいたが、もしかするとこの大陸の気候に適応した昆虫なのか?それにしては数が少ないが……


「虫の繁殖率はハンパじゃない、もしこの大陸に適応しているタイプならもっといるはずだ。そうなるとこいつらは外から誰かが持ち込んだ……ッ!?」


 俺はツンドラドラゴンのメスの死体で感じた得体のしれない気配を感じて振り返った。うっすらと夜の空に何か大きな物体がこちらに向かって飛んできているのが見える。


「あれは虫か?」
「ゼノヴィア、違うわ!あれは人よ!」


 イリナの言った通り、こちらに向かってきたのは三人の人間だった。グルメSPに巨体の男、そしてその真ん中にいたのは昆虫のような羽根が生えた男性だった。


「来たか、美食會……!」


 男たちは地面に降り立つと、辺りを一瞥して俺に声をかけてきた。


「やあ、こんにちは。君がイッセーかい?」
「……だったらなんだ?」
「サヨナラ♪」


 男は一瞬で俺に接近すると、腕を腹に突き刺してきた。


「アハハハハ!……あれ?」
「ありがたい、いきなり俺の間合いに接近してくれるとはな」


 俺はさっき昆虫にして見せたように、奴の腕を腹の筋肉で締め付けて固定した。


(抜けない……)
「歓迎するぜ、美食會。まずはあいさつ代わりだ……10連!釘パンチ!!」


 俺は必殺の一撃を男に当てようとした、だが男の口内から何か得体のしれない生物が顔を出しており俺の腕に何かを吹きかけてきた。


「これは……!?」
「ピギャアアアッ!!」


 だがそこに何か巨大な生物が高台から飛び降りてきた。その影響で俺達のいた地面が崩壊して下に落とされてしまう。


「ぐう……何が起きたんだ?」
「大きなペンギンが落ちてきました。多分ウォールペンギンの親です……」


 アーシアを抱えた小猫ちゃんが状況を説明してくれた。


「ぐあっ……!?」


 腕に鋭い痛みが走ったので確認をしてみると、なんと俺の腕が氷漬けになっていた。


「あの男の体の中に何かがいた、この氷はそいつの仕業か……」


 俺は痛む体を起こして辺りを見渡した。すると二頭のウォールペンギンが子供と一緒に嬉しそうに跳ねている光景が目に映った。


「良かったな、親が見つかって……」
「人間じゃなくても家族に会えたっていうのは嬉しい物なんですね」



 小猫ちゃんとアーシアも目に涙をためてその光景を見ていた。だがそこに巨大なムカデが現れてウォールペンギンの親の頭を食い破った。


「なっ……!?」
「ひ、ひどい……!」
「何て残酷なことを!?」


 突然のことに俺はどうすることもできなかった、ムカデはウォールペンギンの子供にも襲い掛かろうとするがそこに雷の矢が突き刺さって地面に縫い付けられた。


「雷神の裁き……」


 そして巨大な雷のエネルギーがムカデを消滅させた。


「あ、朱乃……?」


 朱乃さん……いや朱乃は怒っていた。静かだが凄まじい怒気を感じさせる朱乃に俺は思わず巣の状態で名前を呼んでしまった。


「……そこのあなた?あなたがこのムカデを放ちましたの?」


 朱乃の視線の先にはさっき俺に攻撃を仕掛けた男が立っていた。男の口からムカデの身体が出ていて、俺はさっきの昆虫たちはこいつが持ち込んだものだと判断した。


「答えなさい……!あなたがやりましたの?」
「そうだけど?」
「一体……なんのためにですの?食べるためかしら?」
「はぁ……?食うわけねーじゃん、こんなゴミ。うるさいから殺しただけだよ」


 こ、この腐れ外道が……!俺もいい加減プッツンしてしまいそうだぜ!


「……許せませんわ」
「うるさいな、お前みたいな雑魚に用はないよ」


 男は朱乃に昆虫を放つが、俺がそれを8連釘パンチで粉々に吹っ飛ばした。


「落ち着け朱乃。冷静になるんだ」
「イッセー君……」
「あの男は強い、お前じゃ勝てない事は分かっているだろう?ここは俺に任せるんだ」
「……ごめんなさい、イッセー君。今日だけはイッセー君の言う事を素直に聞くわけにはいきませんわ。あの男を見ていると目の前で殺された母様を思い浮かべてしまいますの……大事な家族を奪ったあいつらと同じ……!」


 そうか、朱乃の母親は彼女の目の前で殺されたんだ。親を奪われたという行為を目の前でされて、プッツンと切れてしまったんだな。


「副料理長、あれをご覧ください」
「あれが話にあったグルメショーウインドーですぜ」


 虫使いの男の背後から、巨体の男とグルメSPの恰好をした男が現れて虫使いの男を副料理長と呼んだ。


(副料理長だって?ヴァーリやグリンパーチと同じ副料理長……なるほど、このゾッとするような威圧感は確かにあの二人に匹敵するな……側にいるあの二人もかなり強い、恐らく幹部クラスか)


 俺は目の前の男達に強い警戒を示すが、不意に小猫ちゃんに声をかけられた。


「先輩、グルメショーウインドーの中にある食材が何だか細々としています。匂いも薄いし何だか食材そのものが死にかけているような……」
「なんだって?」


 俺は目の前の男達を警戒しながら背後にあったグルメショーウインドーを見る。


(なるほど、確かに豪華絢爛で煌びやかな美しい氷柱だ。だが小猫ちゃんの言う通り中にある食材がやせ細っている、これはどういうことだ?)


 もしかすると食材の中にあるダシがもうなくなりかけているという事なのか?食材である以上旨味成分だって有限だ、グルメショーウインドーはもう死にかけているのかもしれない。そうなるとこの下にあるはずのセンチュリースープも量はかなり少ないのかもしれない。


「なるほど、あの下にスープがあるんだね。じゃあこいつらをサクッと皆殺しにして回収しに向かおうか」
「了解です」


 ぐっ、スープが少ない可能性がある以上こいつらを先に行かせるわけにはいかないぞ!


「リアスさん、皆!グルメショーウインドーはもう死にかけている!一見綺麗なこの氷柱だが、中にある食材がやせ細っている。つまり十分なダシが出ていない可能性がある!」
「な、なんですって!?」
「スープが少量しかないのなら、こいつらに渡すわけにはいかない!俺がこいつらを押さえるから皆はスープを入手しに向かってくれ!」
「分かったわ、イッセー。皆、行くわよ!」


 リアスさん達は状況を理解して地下に向かおうとする。


「バリー、ボギー。あの小娘達を消しな」
「はっ!」
「させるかよ!」
「君の相手はボクだよ、美食屋イッセー」


 巨体の男達がリアスさん達の方に向かおうとしたので、俺はそれを食い止めようとする。だが虫使いの男が放った昆虫たちに阻まれてしまい奴らはリアスさん達の元に行こうとした。


「しまった……!」
「させません!」
「はあぁぁっ!」


 だがそこに小猫ちゃんが現れてグルメSPの男を蹴り飛ばし、祐斗が巨体の男に牙突を喰らわせて後退させた。


「なんだ?てめぇら?」
「お前たちの相手は僕達だ」
「皆は先に行ってください!」
「小猫、祐斗……!?」


 無茶だ、二人も強くなったがあの二人はかなりの強者だ。勝ち目は薄いぞ!だが俺は目の前の男に集中しなくちゃならないし二人のフォローは出来そうもない。どうすれば……


「ならボク達も参加させてもらおうかな」
「ああ、ゴミ掃除は得意なんでな」


 小猫ちゃんの隣に滝丸が、祐斗の隣にマッチが並んだ。


「滝丸!?マッチ!?どうして……?」
「お前らには色々と世話になったからな。それにこいつらにスープを渡すわけにはいかねぇ」
「ええ、ここは協力してこいつらを一掃しましょう」


 二人が参戦してくれた事で小猫ちゃん達も勝率は上がった。だがそれでもまだ低いくらいだ。


「じゃあ私達も……!」
「部長は先を進んでください。美食會の他のメンバーが来ていないと言う保証はないですからね」
「それに僕達が最悪全滅しても、部長たちが先に行っていれば時間は稼げます。まあ死ぬつもりはありませんよ。だから安心してください」
「祐斗、小猫……」


 二人はそこまでの覚悟を持ってここに来たのか……それに二人の言う事も一理ある。目の前にいる三人以外にもまだ美食會の連中がいる可能性はある、ここで戦えるメンバーが全員残ってしまったらいざという時何もできない。故に少数で別れるのが最善のやり方だ。


「副組長!俺達も……!」
「お前らはリアス達を援護しろ。ここは俺がやる」
「で、ですが……!」
「俺は自分ができることをする。だからお前らに一番大事な役目を任せたいんだ」
「副組長……了解しました!必ずセンチュリースープを手に入れてきます!」
「ああ、だが一番の目標は生きて帰ることだ。それを忘れるな」
「了解です!」


 ルイ達もリアスさん達についていってくれるそうだ。向こうは彼らに任せよう。


「……分かったわ、私達が必ずスープを手に入れて見せる。だから皆、絶対に生きて再会しましょう!」


 リアスさんはそう言うとアーシア、ゼノヴィア、イリナ、ルフェイ、ティナ、ルイ達を連れて地下に向かった。


「くそっ、ガキどもが!?」
「いいよ、もう放っておきな。どのみちこいつらは皆殺しにするから順番はどうでもいい。それにもう追手は向かわせたからね」


 くそっ、いつの間にか虫を放たれたか。今から追おうにもこいつに背中を見せたらその場で殺されてしまう。リアスさん達を信じるしかねえな。


「……朱乃、お前も行くんだ」
「ごめんなさい、イッセー君。それは出来ませんわ」
「死ぬことになるぞ?」
「それでもよ、ここで引いてしまったら母様を死なせてしまったあの時と同じ弱い自分のまま……たとえ死ぬことになってもここは引かないわ……」


 正直この戦いに朱乃は足手まといだ。だが、それでも人間絶対に引けない時が人生に一度は必ずやってくる。朱乃にとってそれが今なんだろう。俺も親父に酷く我儘を言ったことも多かった、だから今度は俺が朱乃の我儘を聞いてやる番だ。


「……死なせないさ。朱乃は俺が絶対に死なせない」
「イッセー……!」
「思い立ったが吉日、その日以降はすべて凶日ってな。前には出るなよ、その代わりフォローは任せた」
「……はい!」


 俺は朱乃を背後に立たせて目の前の男に対峙する。


「まだ自己紹介をしていなかったね。ボクはトミーロッド。美食會の副料理長だ」
「GTロボじゃなくて生身で来るとはな。前回のリーガル諸島で全機使い果たしちまったのか?茂さんやマンサム所長に回収を邪魔されたみたいだしな」
「GTロボ?それならもう来てるよ、まあボクには必要ない物だけどね。それよりもイッセー……そろそろ殺していい?」
「……ッ!!」


 この殺気……間違いなくこのトミーロッドという男はヴァーリクラスの実力者だ!


(ヴァーリはGTロボ、グリンパーチはほぼ遊びだった……つまりこの戦いは初めての美食會副料理長との生身での真剣勝負って事か。こいつは俺も腹を括らないといけないな)


 俺は深く息を吸って気合を入れる。


「小猫!祐斗!滝丸!マッチ!そいつらはお前たちに任せたぞ!」
「任せてください!」
「今までの厳しい環境を乗り越えてきた成果をここで発揮させて見せる!」
「グルメ騎士の実力を思い知らせてやる!」
「さて、ゴミ掃除の開始だ」


 祐斗とマッチ、小猫ちゃんと滝丸……全員がそれぞれの戦う相手とにらみ合う。俺と朱乃もトミーロッドと対峙した。


「……行くぞ!!」


 そしてここに、氷点下での三つ巴の戦いが始まった。 



 
 

 
後書き
 滝丸です。ボク達はスープを狙う敵『美食會』との戦いが始まりました、ボクは小猫ちゃんとタッグを組んでボギーと呼ばれる男と戦いをすることになりましたが、この男にはある秘密があったんです。
 正直勝てるかはわかりません、でもボクは何としてもあの人を助けたい!だから絶対に勝って見せます。
 次回第57話『小猫&滝丸!ボギーウッズを打倒せよ!』で会いましょう。 
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