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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第55話 凍てつく氷の世界!氷山を目指して突き進め!

 
前書き
 今回はゼノヴィアやイリナの過去にオリジナル要素が入りますので、そういうのが嫌いな方はご注意ください。 

 
side:イッセー


 ツンドラドラゴンを倒した俺達はリアスさん達と合流していた。彼女たちが戦っていたのは『アイスジャガー』の群れだったらしく、少し苦戦はしたようだが切り抜けることができたようだ。


「リアスさん達も強くなりましたね。捕獲レベル17のアイスジャガー……それも群れと戦って生き延びれたのなら大したものですよ」
「そのレベルが何倍もある猛獣を倒した貴方に言われても凄さが実感できないわ……」
「ルフェイ達の援護があってこその成果ですよ。一人だったらこんなものじゃすみませんでした」
「まあ私達も滝丸君やあの人達が援護してくれたから何とかなったんだけどね」


 リアスさんは近くにいた滝丸や傷の男性に視線を向けた。


「滝丸、リアスさん達をフォローしてくれたみたいだな。ありがとう、感謝するよ」
「いえ、彼女達はかなりの実力者でしたので正直ボクの方が足を引っ張ってしまったんじゃないかと思ってたくらいです」
「そんなことはないぞ、あの骨や関節を外す技は見事なものだったよ。私もあれくらいの技量を身に付けたいと思うほどにな」
「うんうん、もっと自信をもっていいと思うよ。滝丸君」
「きょ、恐縮です……」


 滝丸はゼノヴィアやイリナに褒められて少しテレていた。年の割には礼儀正しい青年だなと思ったがそういう所は年齢らしいなと思うよ。


「それにあなた方もありがとうございました」
「気にすることはねえよ。闇雲にこの大陸を行くよりもお前と一緒の方が生存率が上がると思った、だから手を貸したのさ」
「それでも仲間を助けてもらったので礼を言わせてください」
「意外と律儀なんだな、四天王っていうのは全員があの男みたいに危険な人物かと思っていたよ」
「……それってゼブラ兄の事ですか?」
「ああ。この顔の傷もそのゼブラっていう男に一撃でつけられたモノだからな」
「身内がすみません……」


 まさかゼブラ兄と戦ったことのある人と出会う事になるとはな。しかしゼブラ兄がトドメを刺さなかったって事はこの人を気に入ったっていう事か?『チョーシ』にのっていたら間違いなく殺すだろうからな。


「あのイッセー先輩、ゼブラって方の事は何回か聞いていますが一体どんな方なんですか?」
「一言で言うのなら『四天王一の暴れん坊』だな。とにかく気性が荒く手が早い、俺も小さい頃は何回も泣かされたものだ」


 俺の話を聞いた小猫ちゃん達は顔を青ざめていた。いつか出会う事になるだろうが、まあ皆なら直ぐに適応するだろう。


「俺はマッチだ、こいつらは部下のラム、シン、ルイ」
「よろしく」
「俺はイッセーです、よろしくお願いします」


 俺達はマッチさん達に自己紹介をして俺達美食連合軍、ティナ、滝丸と共に氷山を目指すことにした。因みに他の美食屋達はどうやらリアスさん達を囮にして先に進んでいったようだ。
 ゾンゲ達も一体のアイスジャガーに追われて逃げていったらしいが多分大丈夫だろう、悪運は相当強そうだったからな。


(そもそも美食屋は死と隣り合わせの職業だ。近くにいたなら協力もするが自分で判断したならあとはそいつ自身でどうにかしてもらうしかない)


 俺は思う事はあったが先を進むことに決めた。そもそもこの環境では俺も危険だからな、そんな悠長なことは言っていられない。


 猛吹雪が吹く中、俺達は敢えてその吹雪の中を突き進んでいた。一番危険ではあるが一刻も早く氷山に向かわなくてはアーシアやティナが危ないからな。


(しかし凄まじい強風だな。風速にして約30M/S、体感温度は-80℃って所か)


 吐いた息に含まれる水蒸気が一瞬にして凍り付く気温……アーシアとティナ、ルフェイにはフバーハをかけて祐斗に作ってもらった体を温める魔剣を持たせているが、長くは持たないだろう。


「ティナさん、辛くなったらいつでも言ってくださいね。背負いますから」
「ありがとう、祐斗君……」


 まあティナの事は祐斗に任せよう、俺も正直そちらを意識できるほど余裕はない。


「はぁ……はぁ……」
「はわぁ!?」
「どうした、アーシア!?」
「ラ、ラムさんの耳が……」


 どうやらこの寒さで耳が凍って取れてしまったようだ。


「ラム、お前耳が……」
「これぐらい……大丈夫ですよマッチさん……」
「今耳をくっつけますね」


 アーシアはラムさんの耳に癒しの光を当てる、すると取れてしまった耳が元通りに治った。


「おお、耳が元通りに……」
「船でも見ましたがアーシアさんは不思議な力を持っているんですね」
「も、もしかして怖がらせちゃいましたか?」
「いや、怖いどころか素晴らしい能力だと思います(アーシアさんのあの力……もしかするとあれなら愛丸さんの病気も……いや、まずはセンチュリースープを手に入れることが先だ!)」


 おや、滝丸が何かを考えこんでいるようだが……もしかすると俺達には言っていない事情があるのかもしれないな。


「ありがとうな、お嬢ちゃん」
「えへへ……」


 アーシアにお礼を言うラムさん、アーシアは能力を褒めてもらえたこともあって嬉しそうだ。


「ラム、耳はもう大丈夫か?」
「はい、通常通りに聞こえます」
「根性見せろよ、この旅もまだ始まったばかり……」


 その時だった、マッチさんの顔を横切って何かがラムさんとアーシアの方に飛んでいった。二人の顔に当たる瞬間、俺はそれを腕で受け止める。


「これはサスツルギか」


 飛んできた物の正体、それはサスツルギという物体だった。サスツルギは主に南極などで見られる雪の表面が強風で削られて出来た先の尖った造形模様だが、それがこの強風で折れて風に乗って飛んできたって訳か。


「皆、気をつけろ!折れたサスツルギが風上の強風に乗って矢のように飛んでくるぞ!」


 俺がみんなに忠告をすると、まるで待っていたかのように無数のサスツルギが飛んできた。全員が武器や拳、魔法でそれを対処していく。


「きゃあ!」
「アーシア!」


 アーシアに向かってきた5つのサスツルギをナイフで粉砕する。まだまだ先は長いっていうのにいきなり厳しい洗礼だぜ……!


「うおぉぉぉっ!!」


 俺達は飛んでくる無数のサスツルギを何とか回避して先を進んだ。



―――――――――

――――――

―――


「もうそろそろ日も暮れるな……」


 サスツルギを回避した俺達は、その後も先を目指して進み続けた。だが辺りは暗くなり始めてきたので今日はこの辺で野宿することにしよう。


「日が落ちれば気温は一気に下がる、今日はここいらで一休みしよう」


 俺は地面の氷をナイフで切り取って穴を開けた、これで風は凌げるだろう。その後俺達は穴の中にキャンプを作り食事を取ることにした。


「よし、ツンドラドラゴンとアイスジャガーの肉が焼けたぜ!」
「ツンドラドラゴンもアイスジャガー、どちらも肉は固くてあんまり美味しくないですね」
「元々ツンドラドラゴンやアイスジャガーは食用じゃねえからな。だがここでは貴重な栄養源だ、しっかりと食べておかないとな」


 ツンドラドラゴンとアイスジャガーは味はイマイチだった。捕獲レベルはあくまでもその猛獣の強さや発見の困難さなどで付けられるから捕獲レベルが高い=美味いって訳でもないんだよな、でもしっかりと残さず食べ切ったぜ。


 ツンドラドラゴンとアイスジャガーの肉を食べ終えた後、俺以外が就寝を取ることにした。そして俺は外に出て外の警戒をする。


(リアスさん達にはもう話したが、アイスヘルに美食會が来ているかもしれない。警戒は怠らないようにしないとな)


 前回、俺達がジュエルミートの捕獲を邪魔したことによって奴らは焦っているはずだ。奴らが本気でスープの奪取を狙っているのならば、今回はGTロボだけでなくヴァーリかグリンパーチが生身で来ている可能性もある。


「そうなったら俺もどうなるか分からねぇ、出来れば来ていてほしくないが……」


 俺がそう考えていると、穴の中から誰かが出てくるのを感じ取った。またイリナか?


「ふう、外は相も変わらず寒いな」
「ゼノヴィア……」


 出てきたのはゼノヴィアだった。


「どうしたんだ、眠れないのか?」
「いや、少し君と二人で話がしたかったんだ」
「俺と話を?まあ寒いだろうからこっちに来いよ」


 俺はさっき穴を開けるときに切り取った氷の塊の中身をくり抜いて即席のカマクラにした。これなら少しは寒さを凌げるだろう。


「それで話っていうのはなんだ?」
「コカビエルの件で世話になったお礼をまだ言えていなかったからな」
「態々そのためにこんな寒い時に出てきたのか?物好きだな」
「君ほどじゃないさ……改めてだがコカビエルの件の時は本当に世話になった。君がいなかったら私とイリナはコカビエルに殺されていたか慰み者にされていただろう」
「俺の方こそお前にはお礼を言いたかったんだ。イリナを支えてくれてありがとうな」


 イリナは俺を失ったことで深い絶望を受けてしまった、そんなときに支えになってくれた人間の一人がゼノヴィアだった。


「イリナはずっと俺のことを心配してくれていたんだ。でも俺はそんなことを気にもしないでこっちの世界で過ごしていた。ゼノヴィアからすれば俺は最低な男に見えるだろう?」
「仕方ないさ。異世界なんて誰が想像できる?まあイリナを悲しませていた君に対して正直良い感情は持っていなかったのは事実だ」


 ゼノヴィアは鋭い視線を俺に向けてきた。


「私は生まれも育ちも教会一色でな、私の師であり親代わりもしてくれたシスター・グリゼルダ以外にそこまで親しい人間はいなかった。そんな中、私は当時新人としてエクソシストになったイリナを紹介されたんだ。私は先輩としてイリナの面倒を見ることになり彼女とコンビを組んだんだが、最初は正直面倒なモノを押し付けられたなと思ったくらいさ。なにせ初めてあった頃のイリナはひどい状態でな、生きていながら死んでいるような状態だった。理由があれば何度も死ぬような特攻を繰り返したりもしたんだ、今思えばあの時のイリナは死にたがっていたんだな」
「……そんなことがあったのか」


 まさかそこまで思いつめさせてしまうなんて……俺はイリナの想いをあまりにも軽く考えていた。


「当時の私は主の為に生きて戦い抜くことが教徒の役目だと思っていた。それに対してイリナは死にたがるからもう大反発さ、喧嘩ばかりしてソリなんて一切合わなかった。正直シスター・グリゼルダの命じゃなきゃ何処かで見捨てていたかもしれなかったくらいの仲さ」
「……その、原因であった俺がこんなことを言うのはおかしいかもしれないがよく仲良くなれたな」


 それだけ仲が悪かったと彼女は言うが、今の二人の関係を見ていると正直信じられない。


「切っ掛けがあったんだ。ある時少し大きな討伐依頼が入ってな、私とイリナがその魔物の討伐に向かう事になったんだ。そいつは中位の吸血鬼で結構な強さを持っていた、何とか奴をあと一歩手前まで追い込んだが不意を突かれて致命傷を負いそうになった。でもそこを彼女に助けられたんだ」
「イリナがゼノヴィアを……」
「私は正直言ってその時のイリナのとった行動が信じられなかった。あれだけ喧嘩していたのに何故私を助けたんだ、と質問した。するとイリナはこう言ったんだ」



(貴方の事は嫌いだけど、もう私の目の前で誰かに死んでほしくないの……)


 ……イリナ。


「私はその言葉でイリナが本当は優しい子なのだと知った。それからはイリナに対する接し方を変えてしつこいくらいに付きまとったものだ。最初はうっとおしがっていたイリナもだんだん素の状態を見せるようになってきてな、それからはイリナの両親にも紹介してくれたし仲良くなれていったんだ」
「そうだったのか……」
「イリナは私にとってアーシアと同じくらい大切な親友だ。だからそんな彼女に想われていた君が嫌いだった、イリナには悪いが死んでいてくれればいいと思ったこともあったんだ」
「それは当然だろう。ゼノヴィアにとってイリナは大切な友達なんだ、そのイリナを苦しませていた俺に良い感情を持つわけがない。俺だってそう思うさ」
「……ふふっ、やっぱり君はおかしな奴だよ。面を向かって嫌いだと言う相手にそんな風に言えるんだからな」


 嫉妬するのは人間の性だ、ゼノヴィアは良い奴だからイリナを苦しめていた俺に悪感情を抱くのは当然の事……むしろその男が俺だと知って何もしてこないのは、理性でそれを抑え込んでいるからだろう。


「ゼノヴィアこそ俺に対して何もしないのか?正直罵倒や恨み言を言われるのは当然だと思っていたんだが……」
「君は悪意を持ってそうしていた訳ではないんだろう?理由を知れば納得のできるモノだった、あれは誰だってそうしただろう。それにイリナが愛している君を私が傷つける訳にはいかないしな」
「……ありがとう」
「気にするな。まあ君がそういう人間じゃなかったら月牙天衝をお見舞いしていたがな」
「それは怖いな」


 ゼノヴィアは俺を責めなかった、彼女にとってイリナが大事なパートナーだっていうのは二人の付き合いを見ていて良く分かる。それなのに俺を許してくれた。


「イッセー、もし君が私やイリナに対して罪悪感を感じているのなら一つ頼みごとをしてもいいか?」
「頼み事?分かった、俺に出来る事ならなんでもするよ」
「なら私と友達になってほしい」
「友達に?」


 ゼノヴィアが言った頼み事とは、俺と友達になってほしいという事だった。


「ああ、私はイリナやアーシア以外に友達がいないんだ。だから君に友達になってほしいんだ」
「そ、そんな事でいいのか……?」
「むっ、そんな事とはなんだ。友達とはかけがえのない存在だとシスター・グリゼルダは言っていたぞ」
「……そうだな、その通りだ。じゃあ今日から俺とお前はダチ公だ、よろしくなゼノヴィア」
「ああ、よろしく頼むぞイッセー」


 がっちりと握手を交わして俺とゼノヴィアは友達になった。それからは自分の趣味や特技などを話し合った。


「へー、ゼノヴィアもアニメとか見るんだな」
「イリナにはいろんな事を教わったよ、日本の文化や歴史……後美味しい食べ物やオタク文化なども教わったぞ」
「そういえばお前の使っている月牙天衝も日本の漫画に出てるキャラが使っているものだったな」
「分かるのか?」
「ああ、俺もオタクなんだ」


 それから俺達は長い間お互いの事について話し合っていた。


(……ふふっ、流石にここで俺が出ていくのは野暮か……)


 因みに側でマッチさんが俺達の様子を伺っていたが、気を使ってくれたのか穴の中に戻っていった。なんでマッチさんがいた事が分かったのかというと匂いがしたからだ。


 それから暫く話しているとゼノヴィアが眠くなったのか、うつらうつらと船を漕ぎだした。俺は穴の中に戻った方がいいんじゃないかと思ったが戻る前に限界が来たようで眠ってしまった。


 仕方ないので俺がゼノヴィアを連れて行こうとするが、寝ぼけた彼女によって組み付かれてしまった。引き離そうとしたが熟睡していたので動くことを諦めて赤龍帝の炎を使って彼女を温めながら見張りを続けた。


 朝になって小猫ちゃん達が穴から上がってきたが、ゼノヴィアに膝枕しながら眠っていた俺の姿を見て驚いていた。おかげでまた小猫ちゃんの機嫌が悪くなってしまった。


(だからといって皆の前でディープキスしてほしいなんて言わないでほしかったな。滝丸やマッチに白い目で見られたじゃねえか……)


 因みにマッチさんからは敬語やさん付けはいいと言われた。お前にさん付けされると変な気分になるからという理由だったので、俺は承諾して彼やその部下達に対してもタメ口になった。


(しかしより風が強くなってきたな、太陽が雲に隠れているせいで気温は昨日より低い)
「ここに来るまでに、俺達より先に向かったはずの美食屋達の凍った死体があちこちにあったぜ。まあこの寒さじゃああなるのも納得だがな」
「イッセーさん、これ以上はライタースーツでも持ちません。このままではボク達もあの死体の仲間入りですよ」


 マッチや滝丸の言う通り、ライタースーツを着ていても耐え切れないほどの凄まじい冷気が俺達を襲ってくる。一般人であるアーシアやティナが特に不味い状態だ。今は俺がアーシアを、祐斗がティナを背負っているがこのままでは二人がもたない。


「ブルル……」


 その時だった、俺達の目の前に青い毛皮をした牛の群れが現れた。


「しめた、こいつは『フリーザバイソン』だ!こいつの毛皮は防寒性に優れている、この寒さにも耐えられるはずだ」
「じゃあ全員分の毛皮が取れるくらいに仕留めればいいですね」


 俺の説明に小猫ちゃん達が臨戦態勢に入った、俺もアーシアを下ろして戦いの準備に入ろうとするがマッチに止められた。


「イッセー、祐斗。お前らはその嬢ちゃんたちを頼む。あいつらの相手は代わりに俺がやる」
「いいのか、マッチ?」
「お前やアーシアには部下を助けてもらった恩があるからな、それに動いた方が体も温まる」


 マッチはそういうと太刀を抜いて戦闘態勢に入った……がその姿は力の抜けきった状態ではたから見れば隙だらけだ。


「出た、マッチさんの『脱力』だ」
「脱力?」
「ああ、マッチさんは身体全体の力を抜くことによって居合のスピードと破壊力を増すことができるんだ」


 祐斗の疑問にシンたちが説明をしてくれた。


「居合……『腹開き』!!」


 マッチの姿が消え一頭のフリーザバイソンの腹を切り裂いた。なるほど、あれが脱力か。敢えて力を抜くことによって瞬発力を高めて一瞬の動きにフルの力を入れた一撃を放つとは……そんな戦い方もあるんだな。


「オジさんもやるね、だったらボクも……」


 滝丸は両方の拳を合わせると大きく息を吸った、そして交差させた腕をゆっくりと下ろしていき集中力を高めていく。


「イッセー先輩、滝丸さんのあの動きは一体何なんですか?」


 隣で一頭のフリーザバイソンを殴り倒していた小猫ちゃんが俺に質問をしてきた。


「あれは技を繰り出す前にある一定の動作を行うんだ、そうすることで集中力を高め技が成功するイメージを固める……この動きを『プリショットルーティーン』という」
「プリショットルーティーン……」
「小猫ちゃんも技を放つときに何か決まった動きをしないか?俺で例えるならフォークヤナイフを放つ際に両腕をこすったりするだろう?それがそうさ」
「確かに先輩は決まってあの動作をしていましたね」
「プリショットルーティーンは誰でも持っているものさ。その質が高ければ高いほどより高度な技を成功させることができる」


 俺の説明が終わると一頭のフリーザバイソンが滝丸に突っ込んでいった。


「分厚い毛皮だが、そんなものは関係ない!『栓抜きショット』!!」


 滝丸の一撃はフリーザバイソンの毛皮を貫通して見事骨を外した。今の技も凄かったがプリショットルーティーンの質をもっと上げれば更なる威力を発揮できるな、アイもいい後輩を持てたものだ。


「ブルル……」
「チッ、まだいやがったか」


 マッチは背後にいたフリーザバイソンの群れを見て戦闘態勢に入るが、俺が放った威嚇で恐怖を覚えたフリーザバイソンの群れは一目散に逃げだしていった。


「もう十分だ、毛皮も手に入ったしこれ以上殺す理由がねえ」
「……ふっ、命に優しい男なんだな。お前は」
「アンタもたいがいだと思うぜ、マッチ」


 互いに拳を合わせる俺とマッチ、その後はフリーザバイソンの毛皮をはぎ取って肉を食う事にした。


「はうぅ……ぬくぬくですぅ」
「ホント生き返るわ……」


 フリーザバイソンの毛皮を着たことによって、アーシアやティナも大分具合が良くなってきたようだ。俺は炎を吐いてフリーザバイソンの肉を焼くとそれにかぶりついた。


「美味い、クセがなくて淡泊だな!」
「火を通すと醤油のような風味も出て美味しいですね」
「肉汁もたっぷりね、噛めば噛むほど溢れてくるわ」
「す、すごい食欲ですね。皆さん……」
「ったく、昨日もそうだったがこんな状況で飯を食うどころか味わってやがるぜ」


 フリーザバイソンの肉を堪能する俺達美食連合軍を見て、滝丸は苦笑いをしてマッチは呆れた視線を俺達に送っていた。


「よし、完食だ!それじゃ氷山を目指して改めて行こうぜ!」


 肉を完食した俺達はその後も氷山を目指して突き進んでいく。そして長い道のりを超えてようやく俺達は目的地である氷山にたどり着くことができた。


「よ、ようやく着いたわね……」
「あやうく凍死しかけるところでしたわ」
「でも僕たちは生きてたどり着くことが出来ました!」
「はい、私達はやり遂げたんです!」


 オカルト研究部の皆は嬉しそうにハイタッチをしていた、皆も根性が付いたものだ。


「グルメ界の冒険がこんなにキツイものだとは思わなかったな。だがそれに勝る達成感だ」
「何だか清々しい気分ね」


 ゼノヴィアとイリナもここまで来れた事に喜びを感じていた。初めてのグルメ界の旅がいきなりこんな厳しい物だったにも関わらず、折れない心でここまで来た二人は本当に大したものだ。


「イッセーさん、着いたんですね……」
「ああ、着いたよ。よく頑張ったな、アーシア。本当に大した根性だ……」
「えへへ……」


 昔はあんなにもか弱かったアーシアが、この大陸を乗り越えられるほどの根性を身に着けるなんてな……俺は嬉しく思うよ。


「イッセーさん、少し休憩していきますか?」
「いや、美食會の存在もあるかもしれないし先を急ごう」
「流石イッセーさんですね、敵の襲来を予測して迅速に動けるなんて……」
「じゃあさっそくスープを飲みに行こうぜ!あー、超楽しみだ!」
「あたしもてんこ盛り楽しみー!」
「……えっと、もしかしてイッセーさんは唯センチュリースープが飲みたいだけなのかな?」
「ズバリその通りですよ、滝丸さん。イッセー先輩の第一目標はセンチュリースープを飲むことですからね」


 何故か唖然としていた滝丸に小猫ちゃんが何かを説明していた。センチュリースープを飲むのが目標だなんて今更な事だろうに何を驚いているんだ?ティナみたいにはしゃいでもいいと思うけどな。


「うわぁ……なんて綺麗な氷なのかしら」
「外の風景とは打って変わって綺麗な世界ですね、部長」


 リアスさんは氷山内部の氷の美しさに目を奪われていた。祐斗の言う通り外の光景とは別物の煌びやかな世界に見えるな。


「あれ?氷山の中なのに外よりも温かいね、イッセー君」
「そういえば風が止んでいますね」


 イリナと滝丸は氷山内部の方が外よりも温かい事に疑問を持っていた。


「恐らくあの異常な強風は、この大陸特有の局地風だったんだ。メタンハイドレードの影響で温まった氷山に寄せられた大気が一気に外に向かって噴出したものがあの強風の正体だったんだろう」
「じゃあいつもはもうちょっとマシな環境だったんだな」
「この時期にこの大陸に来ること自体が自殺行為でしたのね……」


 俺の説明を聞いてゼノヴィアと朱乃さんはこの時期にアイスヘルに来るのは自殺行為だと悟っていた。まあ間違いじゃないな、センチュリースープがなければ近寄ることはなかったからな。


「まあそれももう過去の話さ。あの風を乗り越えた今、もう危険な事は結構しかないはずさ」
「いや結構はあるんじゃない!?」
「そりゃ風が止んでも凶暴な猛獣はウヨウヨいますからね、さあ気合を入れて先を進みますよ!」


 まあ最も、猛獣以上に危険な存在も来ている可能性が高いんだけどな。


(あのメスのツンドラドラゴンの死体で感じた危険な気配……恐らくあれが美食會のメンバーだったんだろう。今はフリーザバイソンの肉を食ったから万全の状態だ。来るなら来やがれ、美食會!)

 
 

 
後書き
 マッチだ。イッセー達は今まで出会った美食屋の中でもかなりの変人たちだな、でもああいう奴らは嫌いじゃない。ようやくお目当ての氷山に付けたが、どうやらお呼びでない連中も来やがったみたいだ。
 

 次回第56話『氷点下の決戦、三つ巴の戦い!』で会おうぜ。 
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