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邪宗の尼僧

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第四章

 そうして姿を消す術に宙に浮かぶ術を使ってだった。本山の壁を乗り越えようとしたが結界が張られていた。それで壁からは忍び込めず。
 正門から忍び込むことにした、真夜中なので門は閉じられていたが。
 鍵師である彼の力を以てすれば門はすぐに開けられた、屈は門を開けてからその前に控えている茅に言った。
「門は閉じておくけどな」
「それでもやな」
「ああ、壁にめっちゃ強い結界を張ってる」
「誰も忍び込めん様にな」
「相当強い術者がおってな」
「それだけの用心もしてる」
「やっぱりこれはな」
 二人が話した通りにというのだ。
「普通の寺やないで」
「そやな」
「ほな門は閉じておくけどな」
 忍び込んだ形跡を消す為にだ。
「鍵はかけんからな」
「いざって時はやな」
「合図と共にな」
「ああ、寺に入るで」
 茅は自分の武器を手にして言った、そのうえで屈に健闘を祈ると言って行かせた。そして屈は寺の中を秘かに見て回ったが。
 怪し気な仏像、妙なものが描かれた曼荼羅、奇怪な寺院の中の配色と全ては尋常な中国の仏教のものではなかった。もっと言えばどの国の仏教のものでもなかった。
 それにだ、さらにだった。
 寺にいる者達、今は夜なので殆どの者が寝ているがどの者も恐怖に怯えうなされている感じだ。寺の中を見回っていたり要所の番をしている者達も顔に生気がなく常に何かに怯えきっているのが明らかだ。
 屈はこのことに奇怪極まるかつ不気味なものを感じていた、そしてだった。
 寺の最深部に行くとそこには風呂場があった、だがその風呂場にあるのは湯ではなく鮮血だった。そして。
 風呂場のすぐ近くに祭壇があった、その祭壇には十本の腕を持ちそれぞれの手に禍々しい剣を持ち三つの目と鋭い牙を持つ像があった。
 その像を見てだ、屈は言った。
「どう見ても普通の仏やないな」
「誰かしら」
 ここで後ろから声がした、屈はその声を聞いてだった。
 すぐに天井に跳び上がりそこで気姿だけでなく気配も消したうえでその声の主に対して問うた。
「元木宗の宗主か」
「そうだと言えば?」
 黒い髪の毛を長く伸ばしたホビットの女だった、切れ長の黒い目と白い面長の顔は美麗であり紫と金の僧衣と袈裟が艶やかさを見せている。女は屈の気配は感じられなかったがその声に対して問うた。
「一体」
「そうか、名前は何て言う」
「蓮法よ」
 女は悠然と名乗った。
「この元木宗の開祖でもあるわ」
「そやな、しかしな」
「この宗派のことね」
「血の風呂にこの像、そして寺全体がな」
「元木宗は生贄を御仏に捧げるの」
「この像の仏にか」
「そうよ、古くは神だったというわ」
 屈は開祖の言葉からその神が邪神だと察した、その姿と血、寺の者達の表情と寺全体の雰囲気からだ。
「その神が御仏になり」
「それでか」
「生贄から得た力で」
「どうするんや」
「この御仏を忘れた世を一度滅ぼして」
 そしてというのだ。
「新たな世界を築かれるのよ」
「それが元木宗の教えか」
「そうよ、だから私もね」
「生贄を捧げてるか」
「信者達から選んだ者を出家させて」 
 そうしてというのだ。
「その僧侶や尼僧達を次々とね」
「成程な、ほな話は聞いたし」
 それならとだ、屈は頷いてだった。 
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