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邪宗の尼僧

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第三章

「そんな宗派僕は知らんわ」
「おら様もや」
 茅もこう返した。
「聞いたことがないわ」
「そやな」
「新興の宗派か」
 この世界におけるそれではないかというのだ。
「これは」
「そやな、新興の宗教は全部やないが」
「どうしてもな」
「カルトっていうかな」
 屈は難しい顔で述べた。
「そうしたな」
「胡散臭い宗教があるな」
「そうした宗教はすぐに消えてく」
 興してもというのだ。
「次第に胡散臭さが人々にわかってな」
「そうなるな、それはな」
「自分の方がよおわかるな」
「おら様は僧侶や」
 この職業だからだとだ、茅は屈に答えた。
「それだけにな」
「そやな、ほなな」
「実際おら様の方がよおわかるわ」
「そやな」
「古い宗教にはそれなりの理由がある」
「要するに胡散臭くない」
「そうや、しっかりした教義でな」
 まずこれがありというのだ。
「ちゃんと人の心を救えて」
「銭に汚くない」
「そんな宗教やとな」
「残るな」
「そや、けれどカルトはな」
「教義とかがおかしくてな」
 宗教の根幹となるそれがだ、そもそもというのだ。
「しかもな」
「銭に汚いとかな」
「あと人の心も救わん」
「何か結滞な方向に話がいってる」
「そうした宗教は消えるな」
「そや、それでや」
「元木宗はどうか」
「おら様は胡散臭いって思う」
 茅は強い声で言った。
「もっと言えば確信してる」
「僕と一緒やな」
「自分もやな」
「生贄の噂出てるとかな」
「尋常やないな」
「そやからな」
 それでとだ、屈は茅に言った。
「明日にでも元木宗の本山に入る」
「自分だけでか」
「自分が一緒でもええが」
 屈は自分もと言う茅にはっきりとした声で返した。
「忍び込もうって思ったらな」
「自分一人の方がええか」
「僕一人の方が身軽に動けるからな」
「二人より一人か」
「この場合はな」
 そうなるというのだ。
「そやからな」
「一人で忍び込むか」
「ああ、けどな」
 忍び込むのは一人だが、というのだ。
「いざって時はな」
「おら様もか」
「動ける様にしてくれるか」
「わかった、ほな自分が忍び込んでる間な」
 どうするかとだ、茅は答えた。
「秘かに本山の正門前に忍んでおく」
「それでやな」
「自分が何か合図をしたらな」
 その時にというのだ。
「おら様は正門から本山に入り込むな」
「そうしてくれるか」
「この力でな」
 魚人の顔をきっとさせての言葉だった。
「そうしたるわ」
「ほな音を出す術か音自体か宙に向けて花火を放つか」
「そうするか」
「ああ、それを合図にしてくれるか」
「寺にそういうのを封じる結界が張られてるかも知れんしな」
「そうするわ」
 こう言ってだった、屈は今は茅と共に風呂に入り酒を抜いた、そうして真夜中に彼と共にその元木宗の本山に向かった。 
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