| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

遊戯王BV~摩天楼の四方山話~

作者:久本誠一
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

File2-精霊のカード
  ターン9 破滅導く魔性の微笑み

 
前書き
第2章スタート!章タイトルがすでにネタバレなのは気にしない。

前回のあらすじ:裏デュエルコロシアム、完結。 

 
「はあ?幽霊が出るだあ?」

 あの目まぐるしい一夜から、一か月ほど過ぎたある日の朝。最初に糸巻の元へその話を持ってきたのは、彼女の小さな協力者だった。

「はい、お姉様!私はまだ見たことがないのですが、最近学校では噂になっているんですよ。女の子の幽霊が出るって」

 そう尊敬に満ちたキラキラした瞳で元気いっぱいに、もし尻尾があればぶんぶんとちぎれんばかりに振り回しているだろうことは想像に難くない様子で話すのは、八卦九々乃……元プロデュエリストの中でも屈指の実力者である七宝寺の姪であり、彼のデュエルセンスを最も受け継いだ少女である。
 以前相手してやってからというもの彼女の何がそんなに気に入ったのか、あれからほぼ毎日学校帰りに煙草の匂いが染みついた彼女たちの事務所に通い詰めては嫌な顔ひとつせず彼女が溜まりに溜まった書類と大格闘する様をじっと観察しており、3日目にして音を上げた糸巻が見られてばかりだと調子が狂うということでお茶くみや資料整理をやらせはじめ、本人の飲み込みの早さもあって今では軽い雑用程度ならてきぱきとよく手伝ってくれる事実上のスタッフとなっていた。
 そしてその仕事ぶり自体には彼女も文句はない。だが、そんな糸巻を唯一閉口させているのがこの、お姉様なる自分に対する呼称である。他のことならば糸巻の言葉は何でも素直に言うことを聞く彼女だが、この一点に関してのみは頑として譲ろうとしない。その頑固さにはさすがの彼女も歯が立たず、若干自分が折れかかっていることを自覚しながらも、もはや何の重みもないいつもの言葉を返す。

「そのお姉様ってのはやめてくれって言ってるだろ、八卦ちゃん。なんかこう、背中がぞわぞわするんだ」
「駄目……ですか……?」

 かすかにうつむき、やや目元を潤ませる少女。その後ろで明らかに面白がっている表情で「事案ですか?」と言いたげな視線を向けて事の成り行きを見ていた鳥居をきっと睨みつけると、その効果はてきめんでこれ見よがしに身震いして助け舟を出した。よりによって八卦の方へ。

「気にすることはないよ、八卦ちゃん。この人も単に照れてるだけなんだから、何ならもっともっと言ってあげれば」
「テメエ!」
「そうだったんですか、お姉様!」

 またしても喜色満面でがばっと身を乗り出す少女に対しあまり強気に出ることもできず狼狽する糸巻と、それを後ろから眺めつつ声を出さないように腹を抱えて笑う鳥居。彼の目には、糸巻が会話のペースを握られるこの光景がよほど物珍しいものに映ったようだ。

「そ……それで、だ。話を戻すと、幽霊ってのはなんなんだい?」

 強引な話題逸らし。しかしどこまでも純真な少女はその誘導にころっと引っ掛かり、彼女の差し出した餌にすぐさま食いつく。

「はい!実は私、もう調べてきたんです!これを見てください、お姉様!」

 横に置いてあったバッグを開き、教科書やノートの中から1枚の紙を引っ張り出して机の上に広げる八卦。そこに描かれた手書きと思しき家紋町の地図には、東端のあたりにいくつもの赤い点と小さな文字で日付が書きこまれていた。後ろからどれどれと覗き込んだ鳥居が日付に目を通し、ふむと小さく唸る。

「日時はここ一か月前から、場所もおおむね同じあたり……でも、なんで幽霊?ソリッドビジョンの線は?」
「はい、鳥居さん。私も最初はそう思ったんですけど。でもなんでもこの幽霊さん、物に触ることができるらしいんです!怖がって投げつけられた石がぶつかったと思ったら飛んで逃げていったとか、そういう話が多いんですよ」
「実体があって……」
「飛んで逃げた……?」

 ここで、糸巻と鳥居の表情が変わる。2人のデュエルポリスは、全く同じことを考えていた。これは、自分たちの仕事案件ではないかと。
 まだ幼く実際に「BV」を見たことのない八卦の思考回路は、このぐらいの年ごろの子供にはさぞ魅力的であろう幽霊という言葉にすっかり心奪われておりまだその可能性には至っていない。興奮したままにまくしたてる少女がそれに気が付かなかったのは、果たして不幸か幸いか。ともあれ、やや姿勢を正して糸巻が問う。

「……なあ、八卦ちゃん。その幽霊、どんな格好だったかとかは聞いてきたかい?女の子ってこと以外にさ」
「はい、お姉様!空に浮かんでいたとか足を動かさずに動いていたとか体全体がほんの少し光っていたとか……とにかく、小さな女の子らしいですよ」
「要するにあれか、恰好まではわからないってか。わかった、ありがとな。それはそうとそろそろ家に帰らないと、七宝寺の爺さんも心配するんじゃないか?」
「そうそう。幽霊騒ぎはこっちでも調べてみるけど、今日はもう帰った方がいいよ」

 時計を振り返りながらさりげなく発した糸巻の言葉に、鳥居が素早く真意を察して同意する。しぶしぶ時計を見てそうですね、とうなずいた少女が、座っていた椅子から立ち上がる。

「あ、ちょい待ち。この地図、置いてってもらっても構わないか?」
「はいお姉様、実はもうコピーもとってあるので大丈夫ですよ。では、今日もお邪魔しました!」

 別れの言葉と共に少女が退出してからたっぷり1分間、何かの拍子に戻ってくるようなことがないか時間を置く。改めてこの場に残された手書きの地図を見下ろした2人の顔は、すっかり真剣そのものだった。

「糸巻さん、この辺って何がありましたっけ」

 最初に口火を切った鳥居が、件の幽霊の目撃情報が特に集中している箇所に指を置く。現在地である彼らの事務所は町の東に広がる海に近く、大量の赤い点が配置された西の一角とはあまり縁がない。

「図書館だな。半年ぐらい前に廃業して、今残ってるのは外側(ガワ)だけだったはずだ。そのうち取り壊すとは言ってたが、今はまだ次の施設も決まってないから残ってる。アタシも行ったことあるけど、あの辺は人も少ないんだよな……おいちょっと待て、なんでそこで目ぇ剥いてんだ」
「いや、糸巻さん本とか読むんすね」
「どーいう意味だコラ。読んでたのは大体漫画だけどな」

 じろりと睨みつけるも、まあいいと首を横に振る。

「それより、女の子ってのが最高に面倒だな。どう頑張っても気が滅入る話にしかならなさそうだし、八卦ちゃんには悪いが聞かせられないなこりゃ」
「え、どういう……?」
「なんだお前、デュエルポリス(ここ)入るときに研修受けてこなかったのか?じゃあヒントだ。13年前と今を比べた時に一番衰退したのはデュエル産業だが、その次に落ちぶれた産業はなーんだ?」
「え?あー、ああ……」

 やりきれないといった表情を隠そうともせず煙草に火をつける糸巻に、遅ればせながら得心のいった鳥居が同じようなしかめっ面でゆっくりとうなずいた。
 あえてどちらも明言を避けた今のクイズの答えは、性産業……それはまさに、人間の業の深さを全面に表したような話だ。異形のモンスターや無機物も数多く存在するデュエルモンスターズだが、少し視線を横に向ければいわゆる美少女モンスターも数多く存在する。そしてそれが「BV」を使えば、質量を持った存在として実体化する。
 肉体こそ実体化しているものの物言わぬ彼女たち、あるいは彼らは「その手」の病気感染やそういった施設を利用したとの話を漏らされるリスクとも無縁であり、それは「BV」黎明期におけるテロリストたちの有力な資金源であった。かつてのプロリーグトップともなれば政界や財界へのパイプも当然持ち合わせており、腐りきった欲望はそのパイプをとめどなく汚い金と共に流れていく。
 だからデュエルポリスの間では現在でも、その産業へ真っ先に目をつけて最優先で踏み込んだからこそ今日に至るまでのテロ活動が少なくとも資金面ではスムーズに行われているのだとまことしやかに語られているのだ。

「アタシらの目が届きにくい、しかも人気のない場所……つまりは、そういうことだろうな。ったく、気が滅入る話だ」
「……なんつーかこれ、心底やってらんない話っすね」
「ああ、同感だ。だからアタシは、この仕事は嫌いなんだ。どう頑張っても、ただデュエルして勝てばいいスカッと終わる話にはならない。そんな事案から目を逸らせないからな」
「俺も、後味悪い悲劇よかハッピーエンドの方が好きなんすよ。特にこーいう生々しいのは趣味に合わないです。一部に熱狂的なファンはつくんですけど、やっぱ一般受け悪いんすよね」

 うんざりしたようなため息を2人同時につき、諦めたように立ち上がってそれぞれが動き出す。糸巻は現場近くで過去にしょっ引いたチンピラの情報から今回の件のバックにいる者のあぶり出しにかかり、鳥居は土地の権利移転の流れや現在の登記者の洗い出しに着手する。
 性に合わない書類仕事と格闘しながら、糸巻はふと昔のことを思い出していた。あれは、彼女がまだデュエルポリスになって日が浅かったころ。今回の件と同じような流れから経営元を追い詰めた彼女は、やぶれかぶれになって最後の抵抗に打って出たそのトップと「BV」付きのデュエルをすることになったものだ。おそらく、今回も最後はそうなるだろう。それが彼女自身なのか、それとも隣にいる鳥居がその役を担うか程度の違いだけだ。あの時のデュエルで、彼女は後攻だった。その閃きをきっかけに、もう長いこと思い出すこともなかった記憶が彼女の脳内に蘇る。確かあの時も、こんな夕暮れ時だった。





「糸巻、お前がデュエルポリスに魂売ったという話は俺も聞いていた。だが、それで俺を逮捕とはな。この裏切りは高くつくぞ」
「おうおう、風営法違反のご立派な犯罪者殿は言うことが違うねえ。ごたごたうだうだ抜かしてないで、男ならさっさとかかって来いってんだ」
「なるほど、それもそうだ。では、その言葉に甘えるとしよう」

「「デュエル!」」

 誰も見る者のいない、誰が楽しむわけでもない。ただ戦いの道具となったデュエルモンスターズに抵抗を感じなくなったのはおそらくこのあたりからだったのだろう、そう今の彼女は自己分析している。それはひどく寂しい考えだったし、ひどくつまらない考えでもあった。

「俺が先攻だ。少し手が悪いな、カードを3枚伏せてカードカー・Dを召喚」

 カードカー・D 攻800

「こいつを召喚するターンに俺は特殊召喚ができないが、それを補って余りある効果がある。召喚されたこのカードをリリースすることでカードを2枚ドロー、直後にエンドフェイズとなる。ターンエンドだ」
「アタシのターン。まあこんなもんか、馬頭鬼を召喚だ」

 馬頭鬼 攻1700

 男……無論彼にもれっきとした名前はあるのだが、どうしてもそこだけは思い出すことができなかった。ともあれそのがら空きになった場に一撃を叩きこむべく彼女が召喚したのが、馬頭鬼。
 しかし、その地獄の番人が手にした斧を叩きつける機会は、ついに巡ってはこなかった。

「トラップ発動、奈落の落とし穴。攻撃力1500以上のモンスターは破壊したうえで、さらに除外させてもらう」
「ちっ……」

 馬の頭を持つ地獄の番人の蹄を、地中から延びた手が掴む。地獄よりもなお深い奈落の底へとその魂が引き込まれ、消滅する様を彼女は見ていることしかできなかった。彼女のデッキは当時から除外と縁が深く、そこからの帰還手段も通常のデッキに比べはるかに多い。だがそれらはいずれも即効性を欠き、このターン格好の攻撃チャンスを逃したという事実に変わりはない。

「……なら、カードを3枚伏せる。アタシもこれでターンエンドだ」
「俺のターン。カズーラの蟲惑魔を召喚」

 カズーラの蟲惑魔 攻800

 地面にぽっかりと穴が開き、その内部が水のような液体で満たされていく。よく見るとその穴に見えたものはあきれるほどに巨大な植物によって作り出された縦長の空洞であり、いつの間にかその縁にはポツンと腰かけて涼む少女が1人現れていた。ふわりと腰まで伸びた豊かな金髪はキラキラと輝き、肩を丸出しにした大胆な服装は女性である糸巻から見ても人目を惹くであろうことは容易に想像できる。
 だがそれはすべて疑似餌、仮初の姿でしかない。少女がその小さな両足を突っ込んで気持ちよさげに揺らす液体は断じて水などではなく、目を凝らせばその奥底にはほんのわずかにだが前回の犠牲者である哀れな獲物の白骨がまだ消化されきらずに残っている。金髪にしてもその輝きは人間の頭髪というよりもむしろ丁寧に編み込まれた植物の繊維のそれに近く、無邪気そうな瞳の奥底には冷たい理性の色が垣間見えるはずだ。

「【蟲惑魔】か。アンタの商売にゃピッタリだな、ええ?」
「最高の皮肉だろう?カズーラの蟲惑魔1体を、真下のリンクマーカーにセット。誘われ誘われ欲望渦巻く森の奥、食肉の宴は開かれる。リンク召喚、リンク1。セラの蟲惑魔」

 セラの蟲惑魔 攻800

 新たに召喚された蟲惑魔は、素材となったカズーラと比べてもその攻撃力は同じ。カズーラの作り出した植物の穴が消え、先ほどまでぽっかりと開いていた地面からはその代わりに無数の細かい、まるで絨毯のような毛が草原のように周りへと広がった。そのすべてが先端に水滴のような雫をつけており、さながらタンポポの綿毛のように風になびいてそよそよと揺れるさまはいかにも手を伸ばしてその水滴を触ってみたい衝動を刺激する。いったい、どこに危険があるだろうか?現にこの草原の中央では、小さな少女が楽しそうに手を伸ばしては水滴ごと摘み取っているではないか。
 そんな思考が頭をかすめていたことに気づき、彼女はすぐさま頭を振って妄言を打ち消した。無論、あれもまた罠でしかない。水滴はすべて極めて高い粘性を誇り、わずかでも触れたが最後彼女を離しはしないだろう。パニックになって暴れるほどに余計な水滴に触れてしまい、ようやく気が付いたころには指1本まともに動かせない高カロリーな栄養の塊が出来上がるばかりとなる。これがただのデュエルであれば、それもまたお笑いで済んだだろう。だがこのソリッドビジョンはすでにソリッドビジョンにあらず、実体と質量を持つ「BV」だ。実際に人を食うまでは至らずとも、逃れられない粘性までは間違いなく備えているはずだ。

「ではここで通常トラップ、強欲な瓶を発動。デッキからカードを1枚ドローする……が、この瞬間にセラの蟲惑魔、その最初の効果が発動。通常トラップが発動したことにより、デッキから同名モンスターの存在しない蟲惑魔1体を特殊召喚する。トリオンの蟲惑魔を特殊召喚」

 トリオンの蟲惑魔 攻1600

 沸き立つ砂ぼこりとともに、短髪に頭の上の二本角が特徴的な次なる蟲惑魔が呼び出された。それまでの2体とは違い全体的に茶色のカラーリングのファッションに身を包む少女は、一見すると罠の要素などないようにも思える。
 しかしそれは、彼女がほかの蟲惑魔とは罠を張る場所が違うというだけの話でしかない。トリオンの本体は地中に潜む捕食者の昆虫であり、その足元では極力目立たないように隠されてはいるものの常に流砂が渦を巻く。さらにその足元を観察し続けていれば、地中から外を窺う本体の瞳に光が反射して不気味な光が断続的に点滅している様子さえも見ることができるはずだ。

「トリオンが特殊召喚に成功した際、相手フィールドの魔法、または罠1枚を破壊できる。右のカードを選択しよう」

 糸巻の伏せた右端のカードの下に突如として流砂が発生し、すり鉢状に崩れ落ちる砂の中に伏せカードがずぶずぶと沈んでいく。

「勘のいいヤローだ、ただ破壊されるよりかはマシか。チェーンして速攻魔法、逢華妖麗譚(おうかようれいたん)不知火語(しらぬいがたり)を発動!相手フィールドにモンスターが存在する場合、アタシの手札からアンデット族1体を捨てることでデッキか墓地から捨てたモンスターとは名前が違う不知火1体を特殊召喚するぜ。アタシが選ぶのはデッキの……」
「手札から灰流うららを捨てて効果発動、デッキからモンスターを特殊召喚する効果を含むそのカードは無効となる。言うまでもないが手札コストは返ってこない……いや、むしろそれが狙いの一つ、というわけか。さすがに抜け目がない」

 手札コスト付きのカードを無効にしたことでアドバンテージ面で優位に立った男はしかし油断ない動きで素早く墓地に目を通し、呆れ半分称賛半分といった口調で苦笑いする。言うまでもなく、彼女がコストに落としたモンスターを見てのことだ。

「さて、なんのことだかな。おかげでこっちは大損だ」
「白々しいな。前々から思っていたが、そこで否定することに何か意味があるのか?」
「アタシが楽しい」

 きっぱりと言い切った当時の彼女に、男は呆れたように首を振り……そして、再び彼女を見据える。

「だろうな。では、そろそろ本題に戻るとしよう。セラの蟲惑魔の更なる効果を発動。自身以外の蟲惑魔、この場合トリオンの効果が発動したことにより、デッキからホールまたは落とし穴トラップを1枚フィールドにセットできる。では……そうだな、2枚目の奈落の落とし穴をセット。バトルフェイズ、セラにトリオンの蟲惑魔で攻撃」

 セラの蟲惑魔 攻800→糸巻(直接攻撃)
 糸巻 LP4000→3200

「こんのっ……!」

 中和されているとはいえ、確実にその体を苛む鈍い痛み。当時の彼女は当然ながら今よりも「BV」経験も浅く、わずか800のダメージであってもあからさまに怯んでいた。若かったものだと振り返る。

 トリオンの蟲惑魔 攻1600→糸巻(直接攻撃)
 糸巻 LP3200→1600

「ターンエンド。ずいぶんと、哀れな姿だな。俺はお前に対し特別悪い印象は持っていなかったが、このまま邪魔を続けるとあらば攻撃を容赦する気はない……これは、俺たちデュエリストの世間に対する復讐なんだ。この店も、その資金稼ぎのための一環に過ぎない。お前にも俺たちの気持ちはわかるだろう、なのになぜそちら側にいる?どうしてこちらに来ない?」
「アタシは……」

 ああそうか、とそこまで振り返ったところで思い出した。この一戦は、彼女にとって今に繋がるある種の転機。どこぞの馬鹿狐のような憎しみ主体の皮肉ではなく、純粋な疑問として彼女がデュエルポリスとしての道を選んだ理由を正面から問われた初めての戦いだった。確かあの時、自分はこう答えたはずだ。

「……理屈なんざないよ。理由はどうあれ、プロデュエリストの求められる時代はあそこで1回終わったんだ。老兵のくせに大人しく消え去れないアンタらみたいな老害どもに引導叩きこんでやる、それがアタシの今の存在意義さ」
「なんのために?かつての同胞とそうやって敵対して、その先に何を見る?」
「そんなもんアタシに聞くなよなー。それこそ鼓のやつとか、もっと口達者なのだっていっぱいいるだろ?ただまあ、確実にこれだけは言ってやれる。アンタらがそうやって怒り任せにテロリストやってる以上、デュエルモンスターズはいつまでたっても戦争の道具から抜け出せない。小難しい話は他所でやって欲しいもんだが、あえて答えるとすりゃ……未来だよ。アンタらに尻尾振ってついていったところで、娯楽としてのデュエルモンスターズが帰ってくることは絶対になさそうだからな。どうせ犬だってんなら、狂犬病撒き散らす野良犬よりかは御上に尻尾振る飼い犬の方がまだマシさ」
「そうか、わかった。どうあっても、相容れることはできなさそうだな」
「残念な話だな。さ、お喋りはもう終わりさ。エンドフェイズにトラップ発動、バージェストマ・レアンコイリア。このカードはアタシの除外された馬頭鬼を、改めて1度墓地に送り込む」

 ここで答えた内容は、あれから何年も経った今でもほぼ変わらない。もっとも今同じことを問われたとして、この時ほど素直な気持ちで答えるだろうか。良くも悪くも、当時の彼女は今よりも擦れていなかった。

「アタシのターン。不知火の宮司(みやづかさ)を召喚、この召喚時に効果で手札か墓地の不知火1体を特殊召喚できる」

 不知火の宮司 攻1500

「ここで……いや、奈落の落とし穴は発動しない。不知火の宮司、除外された際にカード1枚を道ずれとして破壊するカードだったか」
「さすがに引っかからないか。さあ来な、不知火の陰者(かげもの)

 不知火の陰者 攻500

 オレンジ色の衣をまとう神主が炎を前に祈祷を行い、その炎から揺らめく人影が現れる。これでモンスターが2体、だが彼女はまだ止まらない。

「永続トラップ発動、闇の増産工場。まずはトラップが発動したことで、アタシの墓地のレアンコイリアをモンスターとして蘇生させる。おっと、これは永続だからセラの蟲惑魔のトリガーにはならないな」

 バージェストマ・レアンコイリア 攻1200

「んじゃ改めて、増産工場の効果を発動。アタシの手札かフィールドのモンスター1体を墓地に送り、カードを1枚ドローする。アタシが選ぶのは不知火の宮司だ」
「つくづく抜け目がないな。もし俺が最初の召喚時に奈落の落とし穴を発動してたとしても、そのケアは万全だったということか」
「ああ、何しろアタシは強いからな。その証拠に、ほれ。今引いた魔法カード、強欲で貪欲な壺を発動。デッキトップ10枚をコストとして裏側で除外し、カードを2枚ドローする」

 ピンポイントで引いてみせたドローソースで、それ1枚だった手札を2枚に増やしてみせる。だが彼女の展開に、それは単なる副産物に過ぎない。

「墓地にさっき送り込んだ妖刀-不知火の効果発動、このカードと墓地のアンデット1体を素材として除外することで、疑似的にシンクロ召喚を行う。戦場(いくさば)切り込む妖の太刀よ、一刀の下に悪鬼を下せ!逢魔シンクロ、刀神(かたながみ)-不知火!」

 ☆4+☆2=☆6
 刀神-不知火 攻2500

 突如弾けた爆炎と共にフィールドへ現れたのは、燃え盛る炎をかたどった刀を手にする和装の剣士。意志持つ邪悪な植物を、悪意に満ちる捕食者を、全て焼き払わんと燃え盛る炎に照らされて、2体の蟲惑魔がはっきりと戸惑う様子を見せた。

「ここで使えと言わんばかりだが……いや、もう少しだけ奈落は温存しておこう」
「これでもスルーか?しゃーないな、除外された宮司の効果だ。相手フィールドの表側表示のカード、トリオンの蟲惑魔を破壊する」
「なんだ、トリオンでいいのか?ならば好都合だ、チェーンして地霊術-(くろがね)を発動。地属性モンスターのトリオンをリリースし、レベル4以下の地属性モンスターを墓地から特殊召喚する。カズーラを蘇生し、さらに通常トラップが発動したことでセラの効果を発動。アトラの蟲惑魔をデッキから特殊召喚」

 そして現れた第4の蟲惑魔は、蟲惑魔の中でも最大級の攻撃力を持つ暗い髪色の少女。その足元でわずかに胎動するその捕食者は、冷徹に網を張る大蜘蛛だ。少女の足元を中心としてさりげなく、ゆっくりと、だが確実に、その粘度の高い網が徐々に広がっていく。地面の暗がりにまぎれ、鋭い爪の付いたその8本もの足が地中からその間合いを示すかのようにわずかに地上にその先端を覗かせる。

 カズーラの蟲惑魔 守2000
 アトラの蟲惑魔 攻1800

「こいつも躱されたか……面倒くさい奴だな、ホントに」
「お互い様だ」

 宮司の効果は対象を取るものであり、今のリリース・エスケープによってその発動は実質不発となった。しかも通常トラップを使わせたため、セラの効果まで通してしまうというなんともありがたくないおまけ付きだ。

「なら、これならどうだ?炎属性の不知火の陰者、そして刀神をそれぞれ右下、及び左下のリンクマーカーにセット。戦場燃え盛る妖の霊術よ、燃え尽きた魂に今一度生命の火を灯せ!リンク召喚、灼熱の火霊使いヒータ!」

 灼熱の火霊使いヒータ 攻1850

 2体のモンスターを惜しげもなく使い呼び出されたのは、ある意味では蟲惑魔以上に肌を露出させた赤い髪の少女。大胆にほぼすべてのボタンが外された白いシャツは上から胸当てで固定することでどうにか維持され、魔法使いらしい茶色のローブは本人の嗜好ゆえかその肩があらわになるまでずり下げられている。

「この瞬間、宮司の効果によって特殊召喚された陰者はゲームから除外される。だがこの瞬間、除外された陰者の効果発動!同じく除外された不知火を1体選択し、アタシの場に特殊召喚するぜ。甦りな、妖刀」

 妖刀-不知火 攻800

「なるほど、一見すると数は同じ。しかしリンク2が1体、か。当然打開策もあるんだろうが、かといって使わない手もないな。トラップ発動、奈落の落とし穴!」
「ま、通すわけないだろ?速攻魔法、禁じられた聖槍。ヒータの攻撃力を800ダウンさせ、このターン魔法と罠に対する完全耐性を与える。もっとも攻撃力の下がった時点で奈落の適用範囲からは外れたから、そこまで意味はないけどな」

 灼熱の火霊使いヒータ 攻1850→1050

「だろうな。だが落とし穴が発動したことに変わりはない、カズーラの効果を発動。デッキから別の蟲惑魔1体を選択して手札に加える、あるいは特殊召喚することができる。この効果でランカの蟲惑魔を手札に加え、カズーラの効果をトリガーにセラの効果を発動。デッキから……そうだな、特に今のタイミングで欲しいものもない。絶縁の落とし穴でもセットしておくか。さて、次は何を出す?」

 見えていたとはいえ強力な除去をあっさりと回避されたというにもかかわらず別段驚いた様子もなく、それどころかまたしても別の落とし穴を用意しつつ次の一手を催促する男。その問いかけに、彼女はすぐに答えてみせた。

「こうするのさ。レベル2の妖刀、そしてレアンコイリアでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!戦場呼び込む妖の魔猫よ、百鬼呼び寄せその目に見染めた戦乱を打ち破れ!No.(ナンバーズ)29、マネキンキャット!」

 2体のモンスターが渦を巻くように飛び上がり、地面に落下して爆発を起こす。妖刀の効果、ヒータのリンク召喚、その全てはこの1枚のカードをどうにかして呼び出すために使われた壮大な布石だった。球体関節の目立つ猫娘の人形が、ウインクしつつ左手を数度折り曲げて手招きの姿勢をとる。

 No.29 マネキンキャット 攻2000

「マネキンキャットの効果発動!オーバーレイ・ユニットを1つ消費することで相手の墓地からモンスター1体を強制的に蘇らせる、千客万来の小判振る舞い!」
「墓地のモンスターを?だが……いや、そうか。そういえばあれがあったな」
「なんだ、今頃気が付いたのか?灼熱のヒータには1ターンに1度、相手の墓地から炎属性モンスターを奪い取る効果がある。おかしいと思わなかったのか、だってのにアタシがそのモンスターを放置してたことによ!アタシが選ぶモンスターは灰流うらら、攻撃表示だ!」

 猫娘が髪飾りに付けていた小判を取り外して放り投げると、フィールドにじゃらじゃらと黄金色の小判の雨が景気よく降り注ぐ。落ちては消えていく黄金の輝きに誘われて、白装束の少女が地面からひょっこり顔を出した。

 No.29 マネキンキャット(2)→(1)
 灰流うらら 攻0

「そして当然、ただのプレゼントじゃ終わらないからな。マネキンキャットの更なる効果発動、百鬼夜行の小判振る舞い!相手フィールドにモンスターが特殊召喚された際、相手フィールドのモンスター1体を選択することでそれと種族、または属性の等しいモンスター1体を手札、デッキ、墓地のいずれかから特殊召喚できる。アンデット族の灰流うららを選択し、アタシのデッキに眠るアンデット族。死霊を統べる夜の王、死霊王 ドーハスーラを特殊召喚するぜ!」

 黄金の輝きに誘われたのは、亡霊の少女だけではなかった。大蛇の体に人の上半身を持つ死霊の中の死霊、アンデットワールドにおけるもうひとりの主たるドーハスーラでさえもその例外ではない。

 死霊王 ドーハスーラ 攻2800

「さあ、形勢逆転だな」
「使いどころは……さすがにこれ以上の出し惜しみは意味がない、か。ドーハスーラの特殊召喚時、俺はアトラの蟲惑魔の効果を適用して手札から落とし穴及びホールを発動できる。電網の落とし穴を発動、デッキから特殊召喚されたドーハスーラは裏側で除外される」
「ドーハスーラ……だがアンタがトラップを発動したことで、たった今マネキンキャットのオーバーレイ・ユニットとして墓地に送られたレアンコイリアはもう1度特殊召喚が可能になるぜ。等価でもなんでもねえ、随分と損する交換だがな」

 完全に不意を突く形で0と1の世界のはざまに追いやられたドーハスーラだが、それと入れ替わるようにしてレアンコイリアがまたしてもその歩脚をわさわさとうごめかせながらフィールドに舞い戻る。もっともその攻撃力は本来そこにいるはずだったドーハスーラの半分以下、彼女の言う通りモンスターの総数こそ変わらないとはいえかなりそんな取引であることは間違いない。
 それでもこうやって後になって思い出す分には、あの時はうまくしてやられたと素直に相手のプレイングを褒める気分にもなるというものだ。

 バージェストマ・レアンコイリア 攻1200

「とはいえ、やられたもんは仕方ないな。バトルだ、マネキンキャットで灰流うららに攻撃!」

 No.29 マネキンキャット 攻2000→灰流うらら 攻0(破壊)
 男 LP4000→2000

「ぐ……」
「追撃だ。次に攻撃力の高いのは……ヒータは禁じられた聖槍受けてるもんな、んじゃお前かよ。レアンコイリア、セラの蟲惑魔に攻撃!」

 バージェストマ・レアンコイリア 攻1200→セラの蟲惑魔 攻800(破壊)
 男 LP2000→1600

「さあ、これでライフが並んだわけだが。感想あるなら聞いてやるぜ?」
「ようやく振出しに戻っただけだ、ノーコメントで頼む」
「ああそうかよ、ならメイン2だ。つってもやることは少ないな、とりあえず今度こそヒータの効果を発動、アンタの墓地から炎属性の灰流うららをリンク先に蘇生する。さらにカードを伏せて、ターンエンドだ」

 灰流うらら 守1800

「俺のターン。今のままだと、どうにもな」

 彼の場に存在するのは、先ほどセットした絶縁の落とし穴。その効果はリンクモンスターのリンク召喚時にリンク状態以外のモンスター全てを破壊するという豪快なものであり、ホール及び落とし穴の効果を受け付けない蟲惑魔にとっては相手モンスターを一方的に破壊できる心強い除去カードとなる。だがそれは、相手のリンク状態がまだ整っていないことが前提。糸巻は絶縁を見た瞬間にリンクモンスターであるヒータを絡めた盤面づくりに心を砕いており、今の状態でカズーラ、あるいはアトラを素材としてセラを召喚したとしても破壊できるのは単体では弱小モンスターに過ぎないレアンコイリアと破壊された時にサーチを行うヒータの2体しか存在しない。しかもその手を使おうものならセラのリンク召喚に反応し、マネキンキャットにもう1度モンスターを呼び込む隙を与えてしまう。

「とりあえず、だ。ランカの蟲惑魔を召喚し、効果発動。デッキから更なる蟲惑魔、ティオの蟲惑魔を手札に加える」

 地響きと共に人間さえもすっぽりと包み込めるほどに巨大な花弁が現れ、その固く閉じられた蕾がゆっくりと開き内部に腰かける少女の姿を白日の下にさらす。しかし、その花びらは開ききってなおも呼吸するかのようにかすかに揺れている。どこかが光に反射して、硬質の輝きを放ったようにも見えたのは彼女の目の錯覚だろうか。少女の部分とはまた違う、その周辺から刺すような視線を感じるのは気のせいなのだろうか。ただその身を疑似餌のそばに隠すのではなく、自らも花に擬態し、動きを絶ち、獲物を待つ……たとえばそう、少女が腰かける花のような何かのように。

 ランカの蟲惑魔 攻1500

「あの伏せカードがどうにも気になるところだが、今の手札でトリオンを特殊召喚する手段はない。ならば、次善の策で満足するほかないか。万一を考えるとさすがにこのライフでセラをもう1度召喚する気にはならないな、レベル4のカズーラとトリオンでオーバーレイ」

 先ほど糸巻が行ったように、2体の蟲惑魔が光となって絡み合う。その爆発の中からフィールドに降り立ったのは、これまでで最大のサイズを誇る超巨大な花弁。そしてその中央ではたおやかに寝転がって糸巻を見下ろす、なまめかしい肢体とあどけない顔つきには不釣り合いなほどの色香を放つ少女。すべての蟲惑魔を統べる、リーダー的存在がついにこの場を制するためにその蕾を開いたのだ。

「その身に余る欲望に、払えぬ対価の清算の時は来た。エクシーズ召喚、フレシアの蟲惑魔!」

 フレシアの蟲惑魔 守2500

「またか?なら、相手フィールドにモンスターが特殊召喚されたことでマネキンキャットの効果発動。フレシア……確か自分以外の蟲惑魔に完全破壊耐性と対象耐性の付与だったか?ならフレシア自身を選択して同じ属性、つまり地属性モンスターを特殊召喚する。百鬼夜行の小判振る舞い!」

 再びマネキンキャットが髪飾りの小判を取り外し、空中に放り投げようとする。しかし男は、それを興味なさげに見つめるのみだ。

「愚かな。なぜセラではなくフレシアの召喚を最優先したのか、考えてはみなかったのか?確かに残りライフの問題もある、だが同時に、このカードの使用条件を満たすためでもあった。カウンタートラップ、エクシーズ・ブロックを発動!自軍に存在するオーバーレイ・ユニット1つをコストに、相手モンスターの効果の発動を無効にし破壊する」
「そんなもん初手からずっと伏せてやがったのか……!」
「驚くことはないだろう。落とし穴の攪乱にでもなるかと思ったが、そのまま発動の機会が来た、ただそれだけのことだ。速攻魔法、ハーフ・シャットを発動。場のモンスター1体の攻撃力はこのターン半減し、さらに戦闘破壊されない。そして装備魔法、やりすぎた埋葬を発動。手札からレベル6のギガプラントを捨て、それよりもレベルが低いモンスター1体を効果を無効として特殊召喚してこのカードを装備する。トリオンよ、今一度甦れ」

 息をのむ糸巻の前で、レアンコイリアの体が縮んでいく。弱った獲物を前にした蟲惑魔たちの瞳が一斉に妖しく輝き、獲物の気配に誘われた地中の蠱惑魔が再びそのショートカットをひょっこりと覗かせる。

 バージェストマ・レアンコイリア 攻1200→600
 トリオンの蟲惑魔 攻1600

「バトル。アトラの蟲惑魔でバージェストマ・レアンコイリアに攻撃」

 アトラとトリオン、2体の蟲惑魔の攻撃力はそれでもわずかに彼女のライフを削るには足りないが、破壊耐性を盾にサンドバックとするならば話は別だ。まして今現在その2体は、フレシアの効果により強固な耐性を付与されている。今更、何を恐れることがあるだろうか。
 大方そう考えていたんだろう、そう彼女は回想する。実際に、その見立ては正しい。バージェストマは対象を取るカードばかりであり、対象耐性を持つ相手は天敵に等しい。これで勝ったと思ったとしても、それは無理のないことだろう、と。
 そしてだからこそあの時の彼女は笑い、その瞬間を思い出した現実の彼女もまた会心の笑みを浮かべる。

「残念だったな、この勝負アタシの勝ちだ!ダメージ計算時にトラップ発動、バイバイダメージ!」
「バイバイダメージ、だと!?」
「そうさ、こいつはアタシのモンスターが攻撃されて戦闘を行うダメージ計算時、モンスターを対象を取ることなく効力を発揮するカード!その効果によりレアンコイリアは戦闘で破壊されず……まあ、それは元からだがな!」

 アトラの蟲惑魔 攻1800→バージェストマ・レアンコイリア 攻600
 糸巻 LP1600→400

 突然のカードに何かを察したのか、慌てて身を引き攻撃を止めようとしたアトラ。しかし身軽な疑似餌部分はいざ知らず、本体である大蜘蛛はすでに勢いに乗ってしまっているその体を急に止めきることはできない。先端に鋭い爪の生えた8本の足が躍りかかり、古生代生物の硬い表皮を無残に切り裂いた。

「痛つつ……そしてこの戦闘でアタシの受けるダメージ、その倍の数値の効果ダメージをアンタにも受けてもらう。これで、終いだ!」
「……!」

 男 LP1600→0





「……巻さん、糸巻さん!ヤバいっすよこれ、流石に洒落になんないです!」

 ようやく糸巻が目を開けた時には、あたりはすでに暗くなっていた。昔の記憶に思いをはせる最中、いつの間にやら居眠りしていたらしい。とりあえずいつも通り口先だけでも謝罪の言葉を述べようとして、すぐにやめた。あの鳥居が普段の態度はどこへやら、血相変えて彼女の体を揺り動かしている。それはつまり、それだけのことが起きたということだ。寝起きで半覚醒状態の頭に無理に活を入れ、無理な姿勢での睡眠がたたり固くなった体を伸ばしてどうにか立ち上がる。

「起きたぞ。で、どうした一体」
「今、カードショップ七宝って店の店主のじーさんから電話がありまして。八卦ちゃん、あれからまだ帰って来てないそうです!」
「何!?」

 今度こそ、完全に目が覚めた。 
 

 
後書き
今回はAパートの話がいつものノリより重いうえにデュエルパートも小さなアドと妨害札を積み重ねていくタイプの派手さが一切ない堅実なデュエルという異色回(自称)でした。
……はい、このレベルでシリアスなんです察してください。
あ、今回で力を貯めたので次回はもっとはっちゃける、というか暑苦しいものを予定しています。やっぱクール&ハードなシリアスは私がやっても長続きしないですな。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧