ある晴れた日に
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295部分:空と海その二十八
空と海その二十八
「あの名前だけは駄目だよな」
「俺ナベツネなんて仇名だったら本気で嫌だぜ」
「全くだぜ」
当然ながら彼等もあの男のことは嫌いであった。良識のある将来有望な少年少女達であることがここからわかる。巨人はまさに悪そのものであるからだ。
「まあとにかくよ。結構遠いな」
「ああ。見た時は近くにあったのにな」
「これ何でかな」
桐生も歩きながら首を傾げた。
「何かまだ辿り着かないよ」
「ひょっとしてあれかしら」
千佳もまた首を傾げながら言うのだった。
「あの岩場って思ったよりも大きくて」
「それで近くに見えたってこと?」
「ひょっとして」
「そうじゃないかしら」
千佳の首は右に左に傾げられている。
「だからほら」
そして今度はその岩場を指差す。
「まだ辿り着かないじゃない。大きさも何かあまり変わらないし」
「それにこの砂浜長いよな」
「っていうか何、この横の広さ」
最初飲み食いしていた場所からかなり離れているがそれでもまだ続いているのだった。周りには海水浴をしている人がまだ大勢いる。
「変わった海水浴場ね」
「だよな。こんな広いなんてよ」
皆少しぶつぶつと言い出していた。予想外に長いうえに足元が焼けた砂のせいで熱くそれで少しずつ不満を溜めているのだった。
「どうする?まだ行く?」
「そうする?」
こんな話をしているうちにだった。気付けばもう。
「あれ、辿り着いた?」
「もう?」
気付けばもうであった。辿り着いていたのだった。岩場は確かにかなり大きくちょっとした山程度はあった。黒くゴツゴツとした姿をそこに見せている。下は当然砂場である。
「近いのか遠いのかわからねえな、こりゃ」
「そうね。変なの」
辿り着いてもまだ首を傾げる一同だった。しかし辿り着いたのは間違いなかった。
岩場の方から見える海の景色は砂浜から見るそれとはまた違っていた。何処までも青くそれが海とは違った青と果てで同じになっていた。皆それを見たのだ。
「まあそれでもな」
「そうね」
「ここに来たかいがあったわ」
皆その空と海を見て口々に言う。
「やっぱりあれか?竹林の言うことってよ」
「絶対いいってことか?」
「騙されたって思ってもよ」
「だから。未晴が騙したり変なこと言うわけじゃないでしょ」
「そうよ」
また五人が男組に対して言ってきた。
「いいと思ったことを言うし」
「それに間違えないんだから」
「かもな。とにかくここから見える景色な」
「いいぜ」
「ええ」
五人だけでなく皆微笑んでその景色を見続けている。見ながら未晴の提案に感謝しているのだった。
見終わってからまた苦労して元の場所に戻る。皆それだけで全身汗まみれだったがその中で正道のそれはとりわけ酷いものであった。
「大丈夫か?」
「汗かきすぎだろ」
「汗かくのは平気なんだよ」
しかし彼はこう皆に言うのだった。やはり全身汗だらけで脱水症状になりそうな程だ。
「それよりもな」
「またギターかよ」
「ああ、これな」
その背負っているギターである。何故彼が他の人間より汗をかいているかというとやはりそのギターを背負っているせいだ。だからである。
「これだけはな。放すことができないからな」
「けれど暑いでしょ」
竹山が彼に対して問うてきた。
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