魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第一部
第41話 自由?
このまま武器も何も無しでマフィアに突っ込んでもいいのだが、流石にそれは危険だ。それに、マフィアビルに行くには、若干だが街中を歩かなければならない。そうすると、変装する必要がある。
さぁて、どうしようか。
「そもそも、ここはどこだ……?」
「僕にも分からない。少し歩くしかないだろう」
「あー……じゃあ俺はここで待ってる」
「嗚呼。行ってくる」
行ってしまった……いや、行かせてしまった……。
畜生、暇だ。
「はぁ……脱走してからの計画考えんの忘れてた……」
「へー、脱走して来たんだ!」
「はぁっ⁉︎ え、あ、は、えっ⁉︎」
いきなり話し掛けられたと思って、咄嗟に周りを見回したが、人影は一つも無い。それはそうだ。こんな夜中に森の中に居る奴なんて、そうそう居ない。
だが、確かに俺は声を聞いた。幻聴では無い。……となると、上か?
「え、あ、え……⁉︎ 誰ッ⁉︎」
「面白い反応だね。僕は白雪真冬だよ。覚えてない? “蒼い炎を遣う看守”」
声の主は、木の枝に腰を掛けていた。良く見えないが、黒を基調とした服装に、対照的な白い髪。確か新年大会で見た気が……
「ああ! 要に負けた人‼︎」
「そそ。真逆、“琴葉ちゃん”の魔法をコピーするなんて、思っても居なかったよ」
なんだこの人は。仕事はどうした、仕事は。
はっ、真逆‼︎ 四舎のブラック企業さに逃げてきたのか! だとしても働けよ。
「“琴葉ちゃん”……? 琴葉はアンタの先輩じゃないのか? 主任看守だし」
「いやいや、僕と琴葉ちゃんは同じ立場だよ。マフィア幹部って言うね」
うん、知ってる。確か、黒華琴葉溺愛者の一人。
研究所にもよく顔を出していたから(琴葉と)覚えている(琴葉のついでに)。
「知ってる。“蒼炎遣いの白雪真冬”ってのは、一人の魔法師としても有名だからな。あと、グレースも幹部をやってるんだよな。で、双子メイドは琴葉の補佐。合ってるか?」
「正解。他にも幹部は居るけど、君が会った事があるのはそのくらいだよね。良く思い出したね」
「偶然だ。お前はどうするのか? 俺を殺すのか?」
シンが居なくて良かった。一緒に殺されるとなったら、絶対彼奴は自分を犠牲にして俺を逃す。
俺は馬鹿だから、彼奴等が居なければ正しい事が分からない。
なのに、俺の周りから彼奴等は去っていく。
全て、“親友”の為に。
「うーん、殺しはしないけど、捕まえる予定だよ。お友達さんと一緒にね」
「へぇ。やれるもんならやってみろよ。俺は弱いかもしれないけど、シンは強い。俺がお前の前に居るのは、全部彼奴のお陰だ。こうやって……上手い具合にマフィアビルに侵入出来そうな流れもな」
刹那、白雪を水の膜が覆う。水が銀色に輝いた後、白い鎖が現れ、水の膜を縛る。
「……マフィア幹部か。危なかったな」
水の膜を生成した後、鎖で縛って破壊不能のモノにする。そうすれば、例えマフィア幹部だとしても、水の膜は破れなくなる。
全部、シンの咄嗟の判断に因る、今の最適解の魔法だ。
とどめとして、水の膜を水で一杯に満たせば、忽ち息が持たなくなって、白雪は踠きながら溺死する。
「……恐ろしい手を使うな」
「そうでもないさ。この程度、序の口だよ」
怖っ。これからは逆らわないようにしないと。
「あと、レン。朗報だよ」
「え、なになに」
「実はここ、少し歩けばマフィアビルに行けるらしい。それも、マフィアの縄張りまで、一歩も森の外に出る必要も無さそうだ」
よっし、服買わなくて済む。いや、お金無いから、服盗まなくて済む!
それに、このまま夜潜入すれば、明日の夜まで待つ手間が省ける。
「早速行こう。マフィアの増援とか、看守が来る前に、さっさとここから逃げないとだし」
「それもそうだな。よし、急ごう」
永遠に広がっている様にも見えなくもない緑を掻き分けながら、俺達は森の中を走る。
———あれ……?
だが、走り始めて少し経った時、自分の中に疑問符が浮かび、俺は足を止めた。
なんで俺達は外に出たのに、少しも嬉しくないのだろう。
なんで俺達は脱獄しようとしていたのだろう。
なんで刑務所から出たのに、“自由”が無いのだろう。
俺達が脱獄する意味ってなんだ……?
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