ある晴れた日に
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276部分:空と海その九
空と海その九
「困ったことに」
「今度は御前もかよ」
従兄弟にまで言われるのだった。
「ったくよ、ビールがまずくなるぜ」
「って言いながら何本目?」
「五百を二本目だよね」
桐生と加山は野本の飲んでいるビールを見て言う。
「何か凄い飲み方だけれど」
「いつもながら」
「ビールは豪快に飲むもんなんだよ」
こう言って尚も平気な顔でビールを飲み続ける野本であった。
「飲む時にはよ」
「まあそれはね」
「僕達もだけれど」
見れば彼等もかなり飲んでいる。五百のビールを勢いよくやっている。それは皆そうだった。
「確かに海で飲むビールって美味しいんだよね」
「そうそう」
「泳ぐのよりこれだよ」
彼等はそちらの方なのだった。泳ぐのより酒なのだ。
「もうね。ビールが一番」
「あと一緒に食べるのは焼きそば」
当然皆それを食べながらだった。明るい顔でそれぞれ箸を動かしていた。
「けれどあれよね」
そして明日夢がここで言うのだった。
「夏の海にビールと焼きそばって物凄い合ってるのよね」
「そうでなくても夏はそれが売れるよな」
彼女と同じく料理を出す店が家の佐々も言った。
「ビールと焼きそばがな」
「そうなのよね。こっちも今それ爆発的に売れてるのよね」
これは佐々の家でも明日夢の家でも同じなのだった。
「ビールと焼きそばがね」
「かき氷は?」
「当然それも」
咲の問いに対して答える明日夢だった。
「売れてるわよ。っていうか夏はそれもあるしね」
「じゃあかきいれ時ってこと?」
「やっぱり?」
「まあビールと焼きそばとそれはね」
「もう集中的だな」
明日夢だけでなく佐々も視線を上にやって考える顔になって述べた。やはり夏には夏に売れるものがあるということなのである。
「夏はね。食べ物傷み易いし大変だけれど」
「特に豚肉な」
「豚か」
正道はここで自分の皿の焼きそばの中にある豚肉を見た。皿は手に取らず前に置いているだけだ。それを見て言うのであった。
「そういえばこれもだな」
「ああ、それな」
佐々が応えてきた。
「俺の店のやつだけれどな」
「大丈夫なんだろうな」
「大丈夫だ。安心しろって」
正道の心配する声にはすぐに返してきた。
「当たりはしねえよ」
「当たりはしないってそんなに古いのか?」
「まあ古いことは古いな」
しかもそれを隠さない佐々だった。平気な顔でビールを飲みながら語る。
「残ったやつだからな」
「そんなの持って来たのかよ」
「けれど大丈夫だからな」
こうは言っても随分と根拠のない言葉に聞こえるのが現実だった。実際売れ残りならそういうふうに思われるのが常識であった。佐々が常識を無視しているのである。
「まあ食えよ」
「それで食中毒になったらどうするんだ?」
「しかもこれ魚介類も一杯よね」
「そうね」
茜と恵美もここでその焼きそばを見るのだった。
「これも傷み易いけれど」
「大丈夫なのね」
「安心しろ、ついさっきまで強力に冷凍していたからな」
佐々は相変わらずビールを飲みながら平気な顔で述べた。
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