歳を取って
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第二章
恰好よさやダンディズムとは無縁の生活になっていた、だがそんな中でだった。
羊三は街を歩く自分より年上の八十位と思われる男性が英吉利の上等のスーツとコートそれにボルサリーノとステッキまで備えて立派な靴で街を闊歩しているのを見て驚いた。それで思わず彼に声ォかけた。
「あの」
「何か」
「その服装は」
「好きでしてまして」
老人は羊三ににこりと笑って答えた。
「それで、です」
「そうなのですか」
「おかしいでしょうか」
「いえ、かなり見事なので」
それでとだ、羊三は老人に素直に自分の気持ちを述べた。
「驚いた次第です」
「左様ですか」
「そこまで洒落ていると若い時は」
「いえ、若い時は」
その時はどうかとだ、老人は羊三に笑顔で話した。
「別にです」
「お洒落もですか」
「していませんでした、ですが」
「今はですね」
「この通りです」
「何故お洒落をはじめられたのでしょうか」
羊三は老人に怪訝な顔で尋ねた。
「それは」
「実はサプールを見まして」
「サプール?」
「コンゴという国をご存知でしょうか」
「アフリカの」
コンゴと聞いてだ、羊三はすぐにこう言った。
「西の方にある」
「はい、あの国ではこうしてです」
「お洒落をする人がいるんですか」
「そうです、首都のキンシャサ等で」
「貴方の様にですか」
「スーツを着て街を歩いています」
「そうした人達がいるのですか」
羊三は老人に話に考える顔で述べた。
「アフリカに」
「はい、コンゴに」
「アフリカでスーツは」
「イメージが湧かないですか」
「どうも。政治家の人は別にして」
それでもというのだ。
「アフリカでスーツはイメージになかったです」
「そうですね、ですが」
「そうした人がいて」
「はい、それでです」
「貴方はそのサプールの人達を見てですか」
「恰好いい、お洒落だと思い」
「それでなのですね」
「今の様にしています」
スーツと帽子、靴と全て決めているというのだ。
「それで毎日街を歩いています」
「サプールの様に」
「サプールには思想もありますし」
「どうした思想ですか」
「平和主義です」
それがサプールの思想だというのだ。
「コンゴは内戦が続いていましたが」
「そこから平和を求めてですか」
「武器を棄てて優雅に振る舞う」
「そうした平和主義ですか」
「それがサプールの考えなのです」
「そうでしたか」
「喧嘩も絶対にしない」
サプール、彼等はというのだ。
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